中途採用の新潮流「就労支援✕人材紹介」
若年無業者の就労支援✕人材紹介がIT人材不足で悩む中小企業を救う
2020.04.13
新卒・中途を問わず、採用競争が激しいIT系人材市場は、新卒社員でも入社時から高額な年収を提示する大手企業の攻勢もあり、中小企業の苦戦が続いている。そんな中、ビジネスマナーと基本的なITスキル・知識を身に付けた若手人材を中小企業が獲得できる取り組みが脚光を浴びている。全国でおよそ160万人いると言われている、未就労や就労後に退職して仕事につかない若者。彼らを正社員として採用し、派遣先でキャリアを積ませ、一人前の転職人材として輩出する株式会社MAPの「WORX事業」(長期的転職支援事業)について取材した。事業開始の経緯や採用・育成スキーム、そして事業にかける思いを事業の立ち上げから関わった執行役員の高橋秀誓さんが語ってくれた。【2020年2月13日取材、編集部】
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WORX事業とは
20~30代の若者の就職・転職支援を行ってきた株式会社MAPが、就業経験やスキルの少ない若手人材の「ファーストキャリア構築」を支援する人材教育機関を目指し、2019年1月より活動を開始したプロジェクト。学歴に自信がない、アルバイト経験しかないなどが原因で、正社員就業が叶わない若手人材を正社員として雇用し、社内でのビジネス研修と、就業先での実務経験を並行し、2~3年かけて転職市場に強い「複合型キャリア人材」として育成・輩出する取り組み。
未就労者や退職後にひきこもる若者らを正社員として採用し、育成する
――事業を始めた経緯を教えてください。
2年程前にWORXのひとつ前の事業として、フリーターや若年層向けの就職・転職支援を行っていました。その際、結果としてマッチングできるのが、その人の能力値に合った企業にとどまってしまう。エージェントしての価値の限界を少し感じました。
そこで、本人の能力値を高めることによって、より希望に沿うような業界や職種への転職機会が広げられるのではと考えたんです。そこで、紹介事業を基軸としながら教育、育成、キャリアアップ、キャリア形成ができる仕組みを作りたいとWORX事業(長期的転職支援事業)を2019年1月に立ち上げました。
――現時点の事業の成果を教えてください。
2020年2月15日時点で、19~34歳のメンバー73名が所属していて、うち63名が35社で派遣社員の形で就業中です。残りの10名は就業前の研修段階です。
一番進んでいる方でもまだ就業先でのキャリア形成の段階にあるため、その先の、本人が望む企業への転職という形は実現していません。これから実績を積んでいく中で達成していきたいと考えていますし、IT人材を求めている企業様に新たな採用チャネルとして活用してもらえるようにしていきたいです。
――この事業の特徴の1つは、支援する方を一度「正社員として採用」している点です。育成コストは決して安くない中で、どのように運営しているのですか。
就労支援を受ける方は採用後、事業を利用するクライアント先に就業してもらいます。さまざまな契約形態があり、請負契約、派遣契約、その間の業務委託契約があります。
クライアント先での就業は、入社から1~2か月かけて行う研修後になります。この研修費用を就業先のクライアントが支払うことはありません。弊社負担です。研修費用も含め、支援対象者へ支払う給与は、会社の投資として捉えています。
教育にかかる費用は弊社が全額負担の形をとりますが、厚生労働省の「人材開発助成金」などを活用しており、一部は軽減されています。
自分の立ち位置を分かっていれば、成長し、活躍できる可能性がある
――現在、どのくらいのペースで採用を行っているのですか?
2019年1月の事業スタート時は2、3人の採用でした。今は毎月平均7人ほどで、年間で80人前後の採用を予定しています。研修スペースの問題や講師1人あたりで教えられる人数のキャパシティなどの影響で採用人数の波はありますが、毎月必ず5人から10人を採用するようにしています。
2019年は70名採用したうち、家庭の事情や本人の健康状態などが原因で4名が退職しました。心身の状態に何らかの不安をお持ちの方でも、特段、業務に支障がないと判断できれば積極的に採用しています。とはいえ、就業する際は就業先の一定の理解が必要です。
――支援を行う若者の採用基準を教えてください。
まず募集については、2020年2月にNHKのニュース番組内でご紹介いただいた直後からホームページでの応募が急増しました。それまではNPOから紹介を受けるなどして採用していました。NPOとは業務提携ではなく、あくまで信頼関係で連携をしているので、「何人受け入れて何人を就労させる」といった条件もありません。紹介後に就職相談・転職相談をして、興味を持っていただいたら正式に選考に移るというフローです。
採用基準は、特に明確化されたものがあるわけではありません。強いて言えば、自身のこれまでを振り返り、現状を理解し、前進していきたいという熱意を持っているかという点を重視しています。心身の問題や長期間の就業ブランクなど、一般的に就業に不利だと思われる要素や、つまずいてしまった経験があったとしても、特に問題視しません。その事実を認識し、「変わりたい」「前進していきたい」という思いや決意を持たれている方であれば、必ず変われると信じていますし、現時点での能力値はほとんど問いません。
そういう方は、これから先の困難にも立ち向かい、乗り越え、成長できると思っていますので、我々がそのためのサポートをしたいと考えています。
――選考フローを教えてください。
ホームページやNPOを経由して応募した方を、就職相談・転職相談するアドバイザーが一度話をして、そのアドバイザーがWORX事業の採用担当者へ推薦という形で紹介します。同じ会社内ではあるものの、別の会社へ紹介する際と同じように見立てて選考を意識しています。また、IT初心者の方向けに簡単なコマンド入力などを体験していただく「エンジニア体験会」を毎週開催しており、同時にWORX事業の説明会も行なっています。
現時点ではIT技術者を目指す方を積極的に採用しています。一部では営業・セールス、人材系のアシスタント・人事アシスタントというようなお仕事もありますが、メインはIT技術職になります。
IT技術職が多くなるのは、市場ニーズの高まりと、経験の浅い若手人材がキャリアを構築する場として適していると見ているからです。
実際に就業する業務内容で言うと、主にシステムを運用する保守です。WEBやアプリなどの最新のシステムから、10年前20年前からあるような大手企業のシステム保守・運用業務もあり、能力値や本人の志向によって変わります。
ただ、キャリアのスタートが保守であっても、最終的にシステムを作っていく側に回りたいとか、仕組を作っていく側に回りたい、お客様先でコンサルティングをしていきたいといったメンバーの希望もありますので、資格取得の授業を別途するなどして能力開発の仕組み作り、支援できるような教育体制をいま作っています。
人材紹介会社が育成に本気で向き合う
――正社員として採用後、転職人材として送り出すまでの期間を3年としていますが、この3年の理由は?
ひとつはあまりに長すぎると成長スピードは鈍化していくと思っていて、逆に早くに到達しても成長し切らず中途半端のまま世の中に出てしまい、結局は未経験者と変わらない評価になると考えているためです。2年から3年が望ましいのではないかと思います。ただ、あくまでひとつの基準であってその人自身の成長スピードによっては、短くなったり長くなったりするケースは当然出てくると思います。
本人の成長が目に見えて分かるものは、資格だと思います。より多くの資格や高度な資格を取得することによって採用企業からの評価は高くなりやすい。また、取得資格によって、就業している業務内容がどれだけのレベルのものなのか、任される役職や役割というのも取得した資格に関係してくると思うんですね。
もちろん資格だけに限りませんが、いくつかの要素である程度の基準を満たしていれば、転職の機会は早くに訪れるでしょう。今のところは、最低でも1年はかかると思っています。
――研修費用も会社が負担してくれるとなると、どこまで本気で学ぶ姿勢になれるのかという懸念も出てくるのでは?
意外に本気になれていると思っています。証拠の1つが資格取得率に現れていて、8割の方が入社して約2週間で「ITパスポート試験」という国家資格を取得しています。講師にもメンバーの資格取得率をひとつの目標としてもらっていますが、同じタイミングで入社したメンバー同士が刺激し合ってモチベーションが上がるような指導の工夫はしています。
ITパスポート試験を受ける期間も含まれる座学研修は、入社して約1カ月から2カ月、それ以降に関しては人によって変わります。自社の業務、もしくは常駐先企業での業務を並行しながら、就業して2週間、1か月、3か月、半年というスパンで定期研修と面談を行っていきます。そして、アドバイザーと一対一で面談を行います。こうして業務、研修、面談を繰り返してPDCAを定期的に回していくのがWORX事業のスタイルです。
入社から1カ月はモチベーションが高められていた人でも、現場に行ってしまうと元に戻ってしまう人も少なくありません。長期的な目線でキャリアを考え、いま何をしなければいけないのか、どういう考え方を持たなければいけないのかなどを定期的に話し合う機会を設けています。こうしたフォローも、約1年間で、自ら成長するための行動を起こしていけるような自立した人材に育てていく計画に基づいています。
――派遣会社の場合、派遣後も継続的に派遣労働者のフォローを行うのはそう珍しくはないことでは?
就業後、アドバイザーがコンタクトをとる機会以外に、毎月メンバーに集まってもらう「帰社日」があります【下写真】。そこで自分自身が業務を通じて学んだことや克服した課題などを20、30人ほどのメンバーを前にプレゼンしてもらっています。発表を通じて、自身が主体的に行動するきっかけを作るのがねらいです。
もう1つ、就業先の現場の上長にフィードバックをもらって毎月の業務報告で報告するという課題を課しています。これができると自分自身でPDCAを回す癖ができるのと、フィードバックをしてくれた先輩と本人の関係性は良くなり、本人には成長しようという前向きな気持ちが出てくるのではという期待ができます。普段感じているモヤモヤがあれば、現場に伝えられる機会にもなりますし、我々としても受け入れ先での状況をよりリアルに把握できます。
この2つの取り組みをしてもらった上で個人面談でのフォローをしていきます。
――人材紹介のノウハウはあったものの、経験のない「教育」についてはどのように対応しているのですか?
この事業は一般的な就労支援とも派遣事業とも違う新たな試みです。だから、こういったことをやれば成功するというものはない状態でスタートしています。
ただし、紹介事業を通じて、さまざまな企業の経営者、人事担当者の方と育成の課題や対策について話を聞いたり、取り組みを見たりしていたので、そこで学ばせていただいことがとても役立っています。そうした経験からヒントを得て、事業に必要な教育の制度や環境を組み立てていきました。
また、カウンセリングやマインド形成などのメンタル面でのフォローは、もともと我々が転職支援の中で大切にしていたことだったので、そのまま取り入れています。
先入観を捨て、人材獲得の機会を広げる
――IT未経験者を戦力化する研修をどのように構築していったのですか?
そもそも、働いたことがない方やキャリア形成に関する考え方があまりできていない方も多くいます。そういった方々に対して、「なぜ自分が働くのか」を考えられる軸の部分からしっかりとレクチャーする時間や、社会人として知らないといけない基礎的な知識を学んでもらうようなカリキュラムの作成に力を入れました。
同時に、彼らを教育する社員の育成計画やキャリア形成のアドバイザーの配置、入社から研修までのフロー構築などを試行錯誤しながら組み立てていきました。
また、育成やキャリアサポートに関しては、普段から転職アドバイザー向けの定期講習は実施していたので、その中でコーチングに必要なスキルやノウハウを身に付けている社員が多くいました。資格やノウハウを持っている者から社内の勉強会を通して学んだり、社外で勉強したりして、さらにノウハウをためています。
――この事業のサービスを利用して採用を検討したい企業の人事担当者や経営者は、どのような点に留意すればよいでしょうか?
採用の際に、先入観をなくしていただきたいです。過去の経歴がどのようなものであれ、その人の現状とその人がどう働くのかという点にフォーカスしていただきたいです。
我々はご紹介する方を、クライアントの業務を行える一人前の人材にするというのを一つの目標にしています。2年から3年の間、受け入れ先企業様の業務を遂行し続けられることを保証するサービスです。そういう取り組みであると理解していただき、受け入れや、その先の雇用を検討していただけると幸いです。
――ありがとうございました。
WORX事業を利用して人材を受け入れた企業の声
この事業を通じて、IT業界未経験者の若者を受け入れているあるIT企業の採用担当者は、教育コストをかけずに、人材不足解消につながる点をメリットに挙げていた。MAPが派遣後も現場で必要になってくるスキル習得のための勉強会やメンタルのフォローまでを行う点は、利用企業に安心感と負担軽減をもたらしている。
※情報は取材時点
企業情報
株式会社MAP
事業内容:人材材紹介事業、人材紹介会社のマーケティング支援事業、アプリ・システム開発事業、紹介予定派遣事業、長期転職支援事業
代表者:飯田健太郎
本社所在地:東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー5F
従業員数:129名(2020年3月時点)※グループ企業含む
HP:https://map-on.co.jp/
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