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特集

ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論vol.3


【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について

2023.11.15

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ChatGPTをはじめとする生成AIが一般化する社会の中で、人材戦略・人的資本経営のをどのように行うべきかを解説する特集。第3回は、前回に引き続き、経営人事の実務上の留意点を紹介する。
解説は前回に引き続き社会保険労務士でフォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表の松井勇策氏。【最終更新:2023年11月21日】

参考:
vol.1「【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略
vol.2「【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」へのインパクト

目次
    1. 生成AI導入と人事制度
    2. 流動性の把握・採用要件の変化・外部人材活用
    3. 生成AIの普及による人材要件の変化
    4. 生成AIと人事労務業務

おさらい(生成AIが雇用にもたらすインパクト)

欧米の動きとして「生成AIの影響で、数万人の人員削減を行う」等のニュースがインパクトを持って伝えられています。この背景には、生成AIの普及、特にChatGPTの台頭とそれが引き起こす広範な技術的変革があります。この情勢は雇用にも新しい変化を生み出しつつあります。

特にアメリカでは、人員削減の可能性がある場合はとにかく宣言を行ってから実際の計画に入るということが慣行になっています。日本で働く感覚からすると、「人員削減」という言葉が目立って大きなインパクトを感じますが、そこで言われているのは基本的には、「退職させる」、「首を切る」ということよりは、「雇用の構造が大きく変わり、現状の定義された仕事が入れ替わる」ということの宣言に近いものです。

そして、そういった意味であれば日本でも状況は全く同じであると思います。本特集では、ChatGPTが「働く場」に与える影響と対応を具体的に考えますが、生成AIによって今後、雇用に関するあり方がガラリと変わり、この技術進化の波が経営や人事の手法全体に大きな影響を及ぼすものと考えられます。そして、その対応方法で最も重要になってくるのが、人的資本経営の指標に基づく人材戦略であると言えます。

画像:生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について(@人事編集部)

生成AI導入と人事制度

前回に引き続いて、よりブレークダウンした各論の、生成AI活用の経営人事実務上の留意点について見ていきます。

筆者のWebサイトで一覧とさらに詳細まで記載した「生成AI活用 人的資本経営・人材戦略シート」(フォレストコンサルティング経営人事フォーラム)として配布を行っています。

制度体制
5 人材育成と人事制度 生成AIの影響を加味した人材育成の方針や、業務の変化を含めたリスキリング計画、マネジメントの方法論含めて方針が立てられているか。
6 流動性の把握と外部人材活用 生成AIの活用に伴う生産性や人件費効率・流動性に与える影響等が計測できているか。採用要件の変化を把握し反映できているか。

AIの活用に伴い、組織の制度や体制、育成や人事制度、採用の再検討が必要です。特に育成に関しては大きなテーマとなります。

まず、DXやAIに関連するコースやプログラムが人材育成の観点で行われている場合、内容の再検討が必要です。AIの導入によって生じる業務やスキルの変化を反映させる必要性があります。また、DX関係の人材育成に取り組んでいない企業であっても、これを機会に育成企画を始めることも考えられます。全般的なDX施策よりも生成AIについては活用がより個人個人の工夫によって深化でき、効果が大きくなり得るため、生成AI・DX育成を導入する良い機会だとも言えます。

また、人事制度においても生成AI活用に合わせた見直しが必要です。採用の要件や昇進基準などを再検討し、生成AIの活用能力自体や、活用することによって業務を変革した実績等に関するポリシーを持っておく必要性もあります。生成AI活用によって業務の創造性の度合いや変革度合いを測ることや、組織管理においてその基準を活かしていくことも重要です。従業員のモチベーション向上やキャリアパスの整備を図ることができます。

さらに、組織の体制や部門の役割分担についても再検討する必要があります。AI活用によって新たな業務プロセスやタスクの変化が生じる場合、組織内の役割や職務分担の見直しが必要になります。特にAI活用の専門的なサポートや管理が必要な場合には、AIチームや専門部署の設置を検討し、組織内のリソースを最適化する必要性が高いでしょう。

以上の点を考慮しながら、制度や体制、育成や人事制度、採用に関する再検討を進めることで、生成AIの活用に適した組織環境を整備し、人材の育成と活用の促進を図ることができます。組織内の関係者との協力とコミュニケーションを重視しながら、AI活用に最適な制度と体制を築くことが重要です。

事例

ある製造業の企業が生成AIを導入した際、従業員のスキルや業務内容が大幅に変化しました。しかし、企業は人材育成やリスキリング計画に対する取り組みが不十分であったため、従業員のパフォーマンスが低下し、企業全体の生産性に悪影響を及ぼしました。企業は、この問題を解決するために、生成AIの導入に伴う業務変化を考慮した人材育成の方針を策定し、リスキリング計画やマネジメント方法を見直しました。これにより、従業員のスキルや業務適応能力が向上し、企業全体の生産性も回復することが期待されました。

流動性の把握・採用要件の変化・外部人材活用

生成AIの進化、特にChatGPTのような汎用的な生成AIの出現は、企業の生産性向上や人件費効率に大きな変革を引き起こしています。今までにも見てきたように、生成AIは組織のさまざまな業務を自動化または半自動化する能力を持っています。例えば、顧客サービスのチャットボット、資料の自動作成、データ分析レポートの生成など多くの業務について、生成AIの導入により大幅に時間を短縮し、精度を向上させることが可能となります。

このような変化は、生産性の大幅な向上をもたらし、人件費の大幅な削減を可能にします。時間と労力を大量に消費していた補助的・対応的な業務が自動化されることで、従業員はより創造的で高付加価値な業務に注力することが可能となります。前回の特集では、こうした場合に必要な、組織内の制度やマネジメントの変化について詳しく見てきました。

しかし、これらの内部的な視点だけでなく、企業全体の生産性や効率性という大きな視野から、生成AIの影響を理解し、対応策を練ることも重要です。生成AIが組織にもたらす全体的な変化を捉え、それに基づいた長期的かつ包括的な経営計画を立案する必要があるということです。

画像:生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について(@人事編集部)

これまでの経営計画や人材戦略をそういった考察を踏まえて見直す必要があるでしょうし、経営全体の戦略を見直し、生成AIの普及に対応した新たなビジョンを描くことが求められます。そのためには、どの業務を自動化し、どの業務を人間が行うべきかを再評価し、それに基づいた新たな人材戦略や教育訓練計画を立案することが重要です。

生成AIの普及による人材要件の変化

採用や人材要件の変化

前項の内容とも関係しますが、生成AIが採用戦略や人材要件に及ぼす影響も大きいものです。特に典型的な、プログラマーや制作・編集職などの職種についての影響は現時点でも取り上げられることが多いと言えます。たとえば、プログラマー職などのシステムに関係する職種への影響として、AIに関係するスキルセットが大きく求められるように変わったことが、2023年発表のスタンフォード大学での、アメリカの市場環境調査で示されています。AIに関係するプログラム言語のPythonの技術者のニーズは、2012年に比べて30倍以上に伸びてきています。

画像:生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について(@人事編集部)

引用元:スタンフォード大学”Artificial Intelligence Index Report 2023″(https://aiindex.stanford.edu/wp-content/uploads/2023/04/HAI_AI-Index-Report_2023.pdf)

こうした意味でのAIニーズの拡大による影響だけではありません。システム関係では、生成AIの導入が進むことでプログラムの作成そのものが大幅に効率化され、また一部自動化されていく流れとなるでしょう。これはプログラマーに求められるスキルの変化を意味し、単なるコード作成だけでなく、AIを利用した上流設計やアーキテクチャ設計が可能な人材が求められるでしょう。

同様に、制作・編集職なども典型的であり、生成AIの能力を活かすことで、例えば記事の草稿作成やレポートの初稿作成などがAIにより行われ、人間はその校正やブラッシュアップに注力するといった業務分担が考えられます。このため、AIと共に働く新たなスキルセットや視点が求められることになります。

以上は典型的な影響を受ける職種群ですが、これらの変化は広範な支援業務全般やその他多くの職種にも及びます。生成AIに対する知識を有するだけでなく、自身の職種が変わる可能性に対して柔軟な姿勢を持つことが求められます。企業は、これらの新たな要件を踏まえて採用戦略を見直しが必要になると思われます。本特集も生かして、どういった人材要件にどのような変化が及ぶのかを予測し、早めに変更を加えていく必要があります。

外部人材の活用

生成AIの影響が大きいことから、特に生成AIの導入・運用に関する専門知識を有する人材の需要が増大しています。それらの人材を内部に有することが難しい場合や、その必要が一時的なものである場合、外部の人材を活用することが有効でしょう。さらに、組織のAI対応力を高めるために、AI技術を利用した業務改善や新規事業開発などを推進するリーダーシップを持つ人材も必要とされます。これらの人材を適切に外部から確保し、組織内に取り込むことも重要な戦略の一部となります。

以上のように、生成AIの進展は業務のあり方だけでなく、人材の要件や採用戦略にまで影響を及ぼしますし、採用だけの考慮では判断ができない内容が多く、本特集で考慮した別の事項との総合的な考察が必要となります。

事例

あるIT企業が生成AIを導入した後、内部人材だけでは対応しきれない業務が増加しました。この問題に対処するため、企業は外部人材の活用を検討し、新た技術や知識を持つ外部人材を採用しました。また、企業は生成AIによる業務変化に伴い、採用要件や人材配置を見直し、従業員のスキルマッチングに注力しました。これにより、企業は人材の流動性を向上させ、業務に適した人材を確保することができました。結果として、企業全体の生産性と競争力が向上しました。

生成AIと人事労務業務

労務や人事制度

AIの活用によって、広い意味での人事制度のうち、特に人事労務部分での対応が広範囲にわたって求められると考えられます。また、健康安全管理についても考慮が重要だと思われます。

筆者のWebサイトで一覧とさらに詳細まで記載した「生成AI活用 人的資本経営・人材戦略シート」(フォレストコンサルティング経営人事フォーラム)を配布していますので、その項目を参照します。ツールには、さらに細かい項目まで記載しています。

労務安全
7 健康安全と衛生管理 生成AIの活用、業務やスキル習得に関する変化などが与える負荷や心理的影響について測定ができているか。業務上の安全性や健康の状態が把握できているか。
8 労働慣行とコンプライアンス AI活用に伴う雇用コンプライアンス上の対応が予測され対応ルールや体制も決まっているか。異動や評価制度の変更などに伴うコンプライアンス課題に対応できているか。

まず一般的に、ホワイトカラー業務(事務・企画・営業・組織管理その他)全般における雇用契約の柔軟性の向上が重要ではないかと思われます。AIの活用によって業務プロセスや役割が変化する場合、労働契約の柔軟性を高めることで、迅速な業務の適応や再配置が可能となります。フレキシブルな雇用形態や契約の見直し、プロジェクトベースの雇用などを検討し、業務の変化に柔軟に対応できる労働環境を整備しましょう。

また、補助業務などの特にAIの活用による影響が大きそうな職種に関しては、契約内容変更の可能性まで含めた契約の体系や職種体系にしていく必要性があります。キャリア開発上の要望や能力が高い従業員に対して、職種の転換や育成による支援する制度の必要性は一層高まるものと思います。こうしたことまで見越した契約内容や制度の整備が重要になってきます。キャリアアップやリスキリングは2023年現在、行政からも促進されており助成金等も多く出ている分野であるため、企業として制度の工夫が一層求められるでしょう。

事例:

ある製造業の企業が、生成AI ChatGPTを導入し、品質管理や生産管理の一部を自動化しました。しかし、企業は生成AI導入に伴う職務内容の変更や職種転換、キャリアパスについての制度を十分に整備していなかったため、一部の社員に混乱と不満が生じました。特に、AIによる業務自動化によって一部の社員の役割が大きく変化し、その影響で勤務条件や契約内容に不適合が発生し、またキャリアパスが不明瞭になりました。

この事態に対し、企業は人事制度や契約内容の見直しを迅速に行い、法令遵守を確認しつつ、新たな職務内容や職種に対応する規則や契約を整備しました。さらに、生成AI導入によって変化する可能性のあるキャリアパスを示し、それに対応するためのキャリアアップ制度を設けました。これらの制度整備により、社員が将来のキャリアに対する不安を解消し、自分の役割を理解しやすくなりました。この結果、社員からの不満は大幅に減少し、生産性も向上しました。

健康安全やストレスと負荷の把握の重要性、まとめとしての生成AIがもたらし得る、企業の成長発展と働きがいや幸福の増大

本特集でも見てきたように、生成AIの活用が進む中で、企業の業務内容や働き方に大きな変化が起こることになると思われます。この変化は、従業員一人ひとりの業務のあり方全体に影響を与える可能性が高いことから、負荷の増大や心理的影響も大きくなるのではないかと思います。したがって、企業にとっては、生成AIの導入に伴う従業員のストレスや不安を軽減し、働きやすい環境を提供することが求められる重要な課題となります。

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働き方が全体的に変わると同時に、未知なる技術の導入によって不確定性が増す中で、企業としては業務改善において目的志向の取り組みが求められます。不確定性が増す中での目的志向というのは、自社のビジョンや使命に照らし合わせ、どのように業務を効率化し、生産性を上げるかを考えることです。だからこそ、従業員が感じる不安や困惑が生じる可能性があります。また、生成AIによる大量の生成物の確認業務が増える可能性もあるなど新たな雇用スキームが必要となり、その中でのストレス対策や心理的サポートも重要となります。特に、管理職の立場では、従業員を導きながら自らも新しい技術や働き方に適応しなければならないため、その負荷や心理的状態には一層の配慮が必要です。

特に、生成AIの効果は従業員のエンゲージメントの高低により大きく左右されるという要素も考慮が必要です。高いエンゲージメントを持つ従業員は、生成AIを最大限に活用し、業務改善に寄与する可能性が高いです。しかし、それは同時に、職場環境の健全性や安全性が一層重要になることを意味します。

事例

ある物流企業が生成AIを導入した際、業務プロセスの変化により従業員の負荷が増加し、ストレスや疲労が蓄積しました。 企業はこの問題に対処するため、従業員の健康管理や安全対策を強化し、業務上の安全性や健康状態を把握しました。また、心理的サポートや適切な休憩時間の確保などを通じて、従業員のストレスや不安を軽減しました。これにより、従業員の健康状態が改善され、企業全体の生産性も向上しました。

生成AIの導入について、本特集で詳細に考察をして参りました。新たな技術導入に伴う課題やリスクが山積みに見えるかもしれません。しかし、企業として重要なのは、この変化を受け身に見守るのではなく、従業員の幸福感を向上させつつ、業務効率化や生産性向上というプラスの効果を追求することです。

それは十分に可能であり、早ければ早いほど可能である余地が大きいと思います。現状は、生成AIなどの新技術が負荷の大きい仕事を支援し、改めて働きやすい環境を作り出すことが可能な大きなチャンスに直面していると言えると思います。こうした取り組みは、従業員のエンゲージメントを高め、結果的には企業全体の生産性を向上させます。

生成AIの導入は企業にとって、技術導入だけでも今回の特集で見たようなさまざまな課題をもたらしますが、それらの課題を解決することで新たな価値を創造することが可能だと言えます。この先進的な変化に対応するためには、企業のリーダーシップ、適切な制度整備、そして従業員一人ひとりの協力が不可欠です。それぞれが新たな技術に対する理解を深め、一緒に成長していくことで、この新時代を迎える準備が整います。このような組織の統合された努力こそが、生成AIの導入を成功に導き、企業の持続的な成長と従業員の幸福を実現する鍵となるでしょう。【おわり】

※情報は記事公開時点

ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org

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