特集

活力を生み出すダイバーシティ(障がい者雇用編【第3回】)


障がい者雇用の現状や推進の意義とは~朝日雅也教授インタビュー

2016.03.16

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障がいのある社員の採用や定着に悩む人事担当者が少なくないなか、先進的に取り組み、成功している企業はどのような工夫を凝らしているのか。今回は、障がい者雇用の現状や課題解決策、受け入れ企業側にもたらすメリットなどについて、障がい者の職業リハビリテーション、就業支援等が専門の埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉子ども学科・朝日雅也教授にお話をうかがった。(2015年12月取材:松尾美里)

目次
  1. 精神障がい者の定着や戦力化の経験・ノウハウが不足
  2. 「自己完結型」ではなく、第三者の支援機関を巻き込んでいくこと
  3. 「合理的配慮の提供義務」とは? 人事担当者が心がけるべきこと
  4. チームの活性化や生産性向上、職場全体の精神障がいの予防にも効果が
  5. 脚注

精神障がい者の定着や戦力化の経験・ノウハウが不足

埼玉県立大・朝日雅也教授

まず、日本の障がい者雇用の現状について朝日教授はこう語る。

「この十数年で日本の障がい者雇用は大きく進展しています。精神障がい者の働く意欲の高まりも、雇用件数の増加に寄与しています。ただ、ハローワークでの就職希望者をまかなえるほどにまで、受け入れ先となる企業が増えていないのが実情です。企業側に精神障がい者の定着や戦力化の経験やノウハウが蓄積されておらず、採用に二の足を踏んでいるケースが多々見られます」

これまで精神障がい者の雇用管理の経験やノウハウが体系化されていない理由の一つとして、朝日教授は、「精神障がいが他の障がいと比べると一見わかりづらいこと、個々人が抱える問題としてしか捉えられてこなかったこと」などを挙げる。精神疾患を持つ当人も病気のことをオープンにしづらく、人前で薬を飲むことすら遠慮し、体調が優れないことすら言い出しにくいという問題もあるという。

「自己完結型」ではなく、第三者の支援機関を巻き込んでいくこと

そんな中、精神障がい者をはじめ障がい者の採用・定着で成果を出している先駆的な企業は、具体的にどんな工夫をしてきたのだろうか?

「成果を出している企業は、雇用管理の担当者がハローワークや『地域障害者職業センター』※1に所属するジョブコーチなどの就労支援機関を活用し、情報共有をしているところが多いです。本人と企業との対話や相互関係を基本としつつも、両者の立場を汲み取ったうえで客観的なアドバイスができる第三者機関の存在は、企業側の不安を取り除くだけでなく、障がい者本人に安心感を与え、離職を防ぐ効果もあります。例えば精神障がい者の病気が再発したときには、雇用管理の担当者が本人の了解を得たうえで、本人との信頼関係がある程度できている精神保健福祉士などの支援者に相談することで、本人が継続的に働くにはどうしたらいいかという視点で考えられるようになります。精神疾患とつき合いながら再就職や復帰というチャレンジをしている本人にとっては、同僚との関わり方や昼休みの過ごし方といったささいな問題でも、不安材料になりえます。本人の性格や状況によっては、他の同僚とワイワイ話しながら食べるよりも、一人でゆっくり食べるほうが休息しやすいこともあるなど、専門家ならではの知見を取り入れることが必要です。同時に、企業側は支援機関のノウハウを蓄積し、企業としての支援力を高めることも求められます」

また、支援機関を幅広く捉えることも重要である。朝日教授によると、特別支援学校は卒業生の就労支援を重点化しており、卒業後2、3年という期限の中で就職後のフォローアップを行っているという。職場不適応の離職を減らすためには、採用と定着支援の両方に取り組む必要があり、学校とのパイプを太くすることも重要な手段なのである。さらには、障がいのある学生の進路支援に本格的に取り組む大学も増えつつあり、高等教育機関との連携も今後の障がい者雇用促進の手立てといえる。

そして、助成金などの制度をうまく活用することもカギになる。法定雇用障害者数を下回る事業主からは納付金を徴収し、上回る事業主には調整金等が支給される『障害者雇用納付金制度』の対象となる事業主が平成28年から拡大される 。こうした公的な制度の動きにも目を向けていくことが重要だ。

「合理的配慮の提供義務」とは? 人事担当者が心がけるべきこと

平成28年度からの「障害者雇用促進法」の改正※2により、雇用分野における障がい者に対する「差別の禁止」と、障がい者が働く際に生じる支障を改善する「合理的配慮の提供義務」が生じる。朝日教授は、この2点目について企業側が心がけるべきポイントを、次のように述べている。

「合理的配慮の提供とは、障がいがある人もない人と同じ権利を行使できるような配慮や調整のことです。発達障がいの人が、採用面接で普段と変わらぬパフォーマンスを発揮するために、就労支援機関の人の同席を認めるのも、合理的配慮の一例といえます。企業側にとって過重な負担にならないことも併せて検討されますが、まずは日頃から障がいを持つ社員と定期面談を行うなどして、職場環境や仕事の進め方に改善すべき点がないかを一緒に探っていくことが重要です」

チームの活性化や生産性向上、職場全体の精神障がいの予防にも効果が

では、障がい者雇用がどのように会社全体の働きやすさや人事管理能力の改善につながるのだろうか。

「障がい者向けに仕事を切り出すことで、作業工程の見直しとなり、生産性がぐっと向上します。障がいの有無にかかわらず、一定レベルのパフォーマンスを維持するための工夫が、職場全体の作業改善につながるようです。また、障がい者への日々の配慮やコミュニケーションの工夫が、チーム全体の活性化に役立っています。サービス業では、コミュニケーション力の向上が、顧客対応の質の向上につながった事例もあります。また、精神障がい者の理解が自然と深まることで、他の社員の気分障がいなどの精神障がいを予防する職場環境づくりにつながっていくというのも、大事な効果です。法定雇用率の達成後も障がい者雇用をさらに推進している企業が少なくないのは、こうした効果やメリットを組織全体で実感しているからではないでしょうか」

障がい者雇用に取り組んだ結果、生産性向上や職場環境の改善につながるというメリットがある。法定雇用率という数字目標のみにこだわらず、会社全体の雇用環境を見直すきっかけにするという意味でも、障がい者雇用を推進させていく意義はあるといえるだろう。

朝日雅也氏(あさひ・まさや)
埼玉県立大学 教育開発センター長保健医療福祉学部社会福祉子ども学科教授。障害者職業カウンセラーとして現場で企業への就労を支援。平成11年埼玉県立大学社会福祉学科の教員を経て、現職。専門は障害者福祉、特に職業リハビリテーションを中心とした障害者の就労支援、社会福祉援助技術。

脚注

※1 全国に60箇所以上あり、障がい者に対する専門的な職業リハビリテーションサービスや、事業主に対する障がい者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施している。

※2 「雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、障害者の雇用に関する状況に鑑み、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加える等の措置を講ずる」(厚生労働省)

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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