特集

活力を生み出すダイバーシティ(障がい者雇用編【第1回】)


企業風土が働きやすい環境を守る ~ダイキンサンライズ摂津~

2016.03.02

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「障害者雇用促進法」の浸透により、民間企業の雇用障がい者数は平成27年も過去最高を記録した※1。民間企業の法定雇用率(2.0%)の算定基礎に、平成30年からは精神障がい者が加わるなど、法律・制度の改正も進んでいる。しかし、障がいのある社員の採用や定着に課題を抱える人事担当者も少なくない。そのような中、先進的に取り組み、成功している企業はどのような工夫を凝らしているのか。

親会社のダイキン工業をはじめ、大阪府などが共同出資する第3セクター重度障害者多数雇用事業所のダイキンサンライズ摂津(大阪府摂津市)は、「提案制度」で作業の効率化と、社員のやる気向上を狙う。「障がい者が主役の会社」という目標を体現する、同社の代表取締役社長の澁谷栄作氏、顧問の應武善郎氏にお話をうかがった。(2015年12月取材:松尾美里、構成:編集部)

プロフィール

澁谷栄作氏
1980年、ダイキン工業株式会社入社。大型空調・冷凍機の設計・開発に従事。2012年にダイキンサンライズ摂津の取締役に就任し、2013年から代表取締役社長。
應武善郎氏
1963年、ダイキン工業株式会社入社。大型空調・冷凍機の設計・開発に従事。1996年にダイキンサンライズ摂津の代表取締役社長に就任。2012年に内閣総理大臣表彰受賞。2013年から同社の顧問に就任。
目次
  1. 働く障がい者自身が主体的に職場環境の改善に参加
  2. 休職者の復帰をどうサポートしているのか
  3. 採用のポイントは意欲と支援機関との信頼関係
  4. 脚注

働く障がい者自身が主体的に職場環境の改善に参加

ダイキンサンライズ摂津代表取締役社長の澁谷栄作氏と顧問の應武義郎氏

同社の雇用の工夫を語る澁谷氏(写真左)と應武氏

社員133人のうち117人が障がい者という同社は、平成5年に設立され、油圧潤滑装置部品の加工・組立や、空調機部品、電気、電子部品組立などを行っている。障がい者の職場定着の仕組みの特徴は、障がいに応じた作業方法や職場環境の改善を徹底していることである。

ダイキンサンライズ摂津の作業場

障がい者によって改善が図られている作業場

例えば、メーカーならではの部分では、ラベルを瓶に貼る工程において、上肢障がい者や「シールをまっすぐ貼らなくては」と気負って手が震えてしまう人でも、まっすぐシールを貼れるような治具※2を用意することで、ミスを減らし作業を効率化させている。

一方で、部署ごとに作業改善の提案の数を毎月掲示板で「見える化」し、改善を競わせている(写真)。優れた提案をした社員には賞金が渡され、モチベーションアップにも一役買っている。働く障がい者自身が主体的に職場環境の改善に参加し、働きやすさと品質向上、コストカットを実現している好事例だ。

ダイキンサンライズ摂津の作業改善提案数グラフ

作業改善の提案数がグラフ化されている

その仕組みを支えるうえでの課題や対処策は何なのか。製造部製造課で職場長(監督職)を務める鈴木岳志氏はこう語った。「社員一人ひとりの性格や得意分野が異なるため、どこまで任せるかの見極めは難しいですが、できないことがあれば、その内容を細かく分解して、仕組みや器具で改善できる部分がないかを探します」

一人ひとりが多様であるだけに、指示や依頼の仕方も注意する。鈴木氏は、普段の会話の中で、障がい者が受け入れやすい話し方や距離のとり方を見つけることにも留意しているという。また、鈴木氏だけで常に現場すべてを見ることはできない。その時には企業風土が役に立つ。

2015年度社長賞を受賞した鈴木岳志氏

2015年度社長賞を受賞した鈴木岳志氏

例えば『最近なかなか寝付けない』と口にする社員がいれば、周囲のメンバーがリーダーに報告し、リーダーが声をかけることもあるという。不調の小さなSOSを見逃さず、仲間同士でもサポートし合う風土が現場に根づいているからこそ自然と生まれる行為だ。一般社員に限らず、障がい者雇用においても、企業風土を理解して働いてもらうことが大切なのだということを同社が教えてくれる。

障がい者が長く働ける環境を守るのは、障がい者のためだけに作られた制度や特別な配慮に限らないのだ。

休職者の復帰をどうサポートしているのか

もちろん、家庭や職場の人間関係などの事情からやむをえず休職する社員も年に数名はいる。休職者に対しては、どのような働きかけをしているのだろうか。

應武氏は次のように述べる。
「普段から仕事の相談は直属のリーダーや、工場長、社内カウンセラーに相談できるようにするなど、受け皿を複数用意しています。それでも休職になった場合は、どうすれば復帰できるかという視点に立ち、ご家族や支援機関の担当者との情報共有も密に行います。復帰の可否を見定めるためのポイントは、8:15~17:15のフルタイム出勤ができるかどうか。まずは移行支援事業所でハーフタイム勤務の期間を設け、毎日朝礼に来てもらって、生活リズムが整ってきたことを確認してから、フルタイム勤務へ移行します」
自社だけで解決しようとせず、外部の力も借りながら段階的に復帰を支援するのがポイントだ。

採用のポイントは意欲と支援機関との信頼関係

同社では、障がい者の採用時に重視しているのが本人の働く意欲と、就業・生活支援センター等の支援機関※3と信頼関係を築けているかどうかという点だ。「精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究(2010年3月)」によると、ハローワーク経由で就職した精神障がい者で、在職期間が6カ月以上というケースが49.1%であるのに対し、上記の支援機関を利用した場合は71.2%にまで定着状況が向上する。また、採用前に実習期間を設け、本人の適性や症状とその対処法を会社が把握するとともに、障がい者自身が様々な仕事を体験する中で会社の雰囲気に慣れることができるという。

こうした取り組みや働きやすい環境が醸成されていることで、ダイキンサンライズ摂津で1年以上在職している精神障がい者の数は雇用者の84%に及ぶ(2015年12月時点)。「会社の目的は、社員の幸福向上。6カ月や1年ではなく定年まで働いてもらいたいという思いで採用し、育てている」(澁谷氏)。
同社の育成方針が、障がい者の定着と会社の生産性向上に大きく寄与していることがうかがえる。

会社概要

株式会社ダイキンサンライズ摂津(大阪府摂津市)▼親会社のダイキン工業をはじめ、大阪府、摂津市、ダイキン関係会社が共同出資する第3セクター重度障害者多数雇用事業所。平成5年に設立され、油圧潤滑装置部品の加工・組立や、空調機部品、電気、電子部品組立などを行っている。

脚注

※1 雇用障がい者数は 45 万3133人(前年比5.1%増加)、実雇用率1.88%(前年比0.06ポイント増)でいずれも過去最高を記録。【平成27年障害者雇用状況の集計結果(2015年11月発表:厚生労働省)】

※2 (読み:じぐ)とは、機械工作の際に、工作物に取り付けて固定することにより、効率よく正確に加工や組立作業ができるようにするための補助器具の総称。

※3 厚生労働省の管轄で障がい者の身近な地域において、職場定着や職業訓練支援などの就業面と健康管理や金銭管理など生活面の一体的な相談・支援を行う。平成27年8月現在で全国に327センターが設置されている。

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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