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特集

特集「介護離職」第2弾


「社員が若いから介護離職防止策はしない」は大間違いだ

2019.03.12

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NEC(東京・港)は1990年から介護離職防止策を始め、他社に先駆けて介護と仕事の両立支援を進めてきた。柔軟な勤務体制の整備はもちろん、介護者の経済支援や介護者同士のコミュニティーづくりなど、社員のニーズの変化に合わせて支援の内容を充実させている。NECの歴史を追いながら、制度の詳細や「若い社員が多くても介護離職防止制度が必要な理由」について考えた。【取材:2018年12月4日】

【特集】介護離職(トップページ)

目次

柔軟な勤務体制の構築から、経済支援とコミュニティー形成へ

NECの取り組みの歴史は、2つのフェーズに分かれる。

第1フェーズは1990年、介護休職制度や介護短時間勤務制度などの柔軟な勤務体制の整備から始まった。同時期に政府が介護保険制度の導入に向けて法整備を進めていたこと、社員から「介護と仕事を両立させたい」との要望が上がっていたことを受け、両立支援の基本として勤務制度を見直した。NECの介護休職制度は休職可能な期間を1年と設定。国の育児・介護休業法では休職期間を対象家族1人につき93日までとしており、NECの社員は法制度よりも長期間休職することが可能だ。

2000年代に入り、NECの取り組みは第2フェーズに入る。社内では共働き世帯が増え、社員の介護への関わり方が多様化した。また、要介護者の容態によって、要介護度や介護期間も異なる。各社員の介護、仕事、経済、家族関係の状況に合わせて、多種多様な支援策が必要だった。そこで、2010年以降は、特に社員からの要望が強かった「経済援助」と「介護者コミュニティーの形成」について新たに支援を行うことになった。

介護ポータルサイトで社内の介護仲間と出会う

経済援助では3つの施策を用意。介護休職給付金制度では、1年間を限度に、介護休職中も休職開始前の賃金の月額80%を共済会から支給する仕組みを作った。介護が始まると、介護施設の利用や車椅子の貸し出しなどの介護サービスを利用する際に、自己負担分の料金を支払わなければならない。社員が介護で休職した際に経済面で困窮しないようにしている。
そのほか、社員が介護のため転居する際に上限50万円を補助する制度も設けている。

また、「介護支援コミュニティーの形成」では、2010年に介護をテーマとしたポータルサイト「NECファミリーケア」を開設した。

介護保険制度の解説コーナーや、介護中の社員同士の掲示板などがそろったNECの社内ポータルサイト「NECファミリーケア」のトップ画面

サイトは、介護保険制度の仕組みや手続きを解説するコーナー、介護開始時に利用する「地域包括支援センター」の案内ページ、ケアマネジャーによる無料介護相談の窓口案内で構成。社員が介護に直面してから最初に必要となる情報をまとめて確認することができる。

サイトの中でも特に注目すべきなのが、介護者が介護体験談を投稿できる掲示板「NECケアコミュニティ」だ。掲示板では社員が介護の悩みを投稿し、他の社員が「介護者の先輩」として実体験に基づいたアドバイスを書き込む。投稿は匿名・実名いずれでも可能で、プライバシーにも配慮している。

介護と仕事を両立している社員は、多忙でなかなか地域の介護者と交流する時間を設けられない。サイトを通じて社内で「介護仲間」を見つけられる環境を提供することで、介護者の精神的な支えとなることができる。同社人事部マネージャーの中本啓介さんは「日々の介護での不安や疑問の解消にもつながっているのでは」と語る。

サイトは、介護前の社員(介護予備軍)も閲覧できる。もし、社員が突然介護に直面しても、サイトにより会社が支援体制を整えていることを知っていれば、介護開始直後の混乱を最小限に抑えられる。介護中の社員の心の拠り所だけでなく、介護予備軍への情報提供の場にもなっているのだ。

年に1度の定期面談で介護者のニーズを把握

NECの強みは、介護者から要望を吸い上げ、制度に反映させることを徹底している点だ。16年度にはキャリアレビュー(社員が年に1度、今後のキャリアの方向性について上司と面談する機会)で全社員に介護状況を質問。「すでに介護を実施している」と回答した1,177人に追加でアンケートを行ったところ、「自宅だけでなく、介護中の親がいる実家でも在宅勤務できるようにしてほしい」「配偶者やその他の家族と連携して介護をするため、特定の曜日を休日にしたい」といったニーズが浮き彫りになった。

人事部は2018年4月、在宅勤務制度を変更し、実家を勤務地に追加。10月には週の特定の1日(曜日)を不就労日とする介護短日勤務制度を新設した。そのほか、共済会や労働組合とも連携しながら、介護中の社員が利用しやすい制度へと改変を進めている。社員の要望を柔軟に制度に反映させる意識が浸透している。

社員と管理職が介護について話すきっかけづくり

介護者のために制度を整えることは大切だが、制度が存在するだけでは意味がない。社員が身近な上司に「介護をしている」「制度を利用したい」と相談できる職場環境は、どう整えれば良いのか。

その鍵となるのが、各職場の管理職の対応だ。NECでは、年に1度のキャリアレビューで全社員が介護状況を申告できるようにし、上司と介護について話すきっかけをつくっている。また、現時点では介護予備軍だが、今後介護が始まる可能性がある社員の様子も把握することができる。上司が事前に社内の支援制度を説明できるほか、社員の介護が始まる前に職場の業務内容を調整することも可能だ。

一方、管理職からは「介護者の相談に乗る時に何を伝えたらいいのか分からない」という不安も聞こえてきた。管理職を支えるのが、「仕事と介護の両立支援ハンドブック」だ。
ハンドブックは2017年3月からイントラネット上で全社員向けに配布。公的な介護サービスや社内制度の一覧、将来の介護リスクの把握や認知症の早期発見に役立つチェックリストがまとめられている。管理職はハンドブックを参考に、社員の介護状況を聞き取りながら介護サービスや社内制度の使い方を説明し、できる限り介護と仕事を両立できる方法を提案できる。

NEC人事部マネージャーの中本啓介さん

なぜ、若い社員が多くても介護離職防止策をするべきなのか

経営者が「今は若い世代の社員が多いから介護支援策は関係ない」と考えている会社もあるだろう。人事担当者が介護離職防止を推進するために、経営者をどう説得すればいいか。

中本さんは「自社の人員構成の変遷と10年後の姿をグラフ化して経営層に見せるとよい」と助言する。今は30歳前後の若手社員が多くても、10年後には彼らも40代に差し掛かり、介護が始まる可能性がある。勤務年数を重ねて経験や知識を蓄えた世代が、介護のために離職すれば経営への打撃にもなり得る。社内の人員構成の変遷をデータとして突きつけ、どれだけ会社全体に影響を課題なのかを訴えるべきだ。

介護は社員にとって生活、キャリアの一部になる。就業を継続しやすくする仕組みは「作った方がいい」ではなく「作るべきもの」という認識を持つべきだ。ただし、中本さんは「介護に関する施策の運用を全て内製化する必要はない」と考える。人事や総務担当者の負担を考えると、専門家にアウトソースした方が、よりきめ細かく従業員をサポートできる場合もある。自社の体制に合った方法で介護離職防止をどう推し進めるか、考えてみてほしい。

NECの介護と仕事の両立支援策一覧

柔軟な勤務体制

  • 介護休職制度:取得可能期間は1年、分割取得は3回まで。
  • 介護短時間勤務制度:所定就労時間のうち、最長2時間の短縮(30分単位)が可能。介護の実施理由がなくなるまで取得できる。
  • 介護短日勤務制度:週の1日(固定の曜日)を不就労日としてあらかじめ設定し、その曜日は勤務しないことを認める。
  • ファミリーフレンドリー休暇制度:多目的休暇(介護、出産など)。年次有給休暇とは別に年間5日を付与する。最大20日間の積立が可能。

経済的支援策

  • 介護休職給付金制度:1年間を限度に、共済会から介護休職開始前の賃金の月額80%を給付金として支給する。
  • 介護転居費用補助:被介護者との同居か、近距離での介護のために転居した場合、もしくは被介護者を呼び寄せた場合に上限50万円を実費補助。引っ越し代や礼金、仲介手数料の実費に充てられる。
  • 介護環境整備支援金:要介護度3以上の親もしくは子の介護について、介護方法の見直しにより多額の出費が生じる場合に一律で20万円を支給。

介護者のコミュニティーづくり

  • ポータルサイト「NECファミリーケア」を開設

企業情報

NEC(日本電気)
・設立年:1899年
・事業内容:ICT(情報通信技術)を活用し、社会インフラを高度化する社会ソリューション事業
・従業員数:21,010人(2018年3月末時点)
・東証一部上場
・売上高:2.8兆円(2017年度)
・本社所在地:東京都港区芝5丁目7番1号

【編集部より】
■介護離職に関する記事はこちら

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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