介護・育児を圧迫する長時間労働をなくすには規制が必要!―「長時間労働撲滅キャンペーン」記者会見レポート
2016.11.24
NPO法人ファザーリング・ジャパン、株式会社HARES、株式会社ワーク・ライフバランスが合同主催する任意団体「長時間労働撲滅プロジェクト」は、2016年11月22日に厚生労働省(霞が関・中央合同庁舎)にて記者会見を行った。
同記者会見は、「労働時間の上限設定」「インターバル規制を義務化」を実現する法改正の必要性を訴えるために開催された。「長時間労働撲滅キャンペーン」の説明、2016年11月25日開催予定の「ファザーリングジャパン緊急フォーラム」開催告知、そして質疑応答の順で進行。この記事では、「長時間労働撲滅キャンペーン」の趣旨や目的についてレポートする。
「長時間労働撲滅プロジェクト」はインターネット上で署名賛同を集められるプラットフォーム「Change.org」にて2016年10月15日より開催されており、同年11月22日時点で4万人超の署名が集まっている。そのスピードは「Change.org」における過去のキャンペーンと比較しても異例の速さで、長時間労働に対する関心の高さがうかがえる。呼びかけ人として各界の著名人が参加しており、任意のコメント欄にも夫や子供の身を案ずる悲痛なコメントが並ぶ。
「働くために生きる」のは現代の病
最初に、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事・西村創一朗氏が「長時間労働撲滅キャンペーン」の要旨説明を行った。
同キャンペーンは、大手広告代理店社員の過労死をきっかけに立ち上げられた。三児の父である西村氏は、大学時代の友人を過労自殺で失った経験があり「『生きるために働く』のではなく『働くために生きる』ことが珍しくない現代の風潮を、次世代に繋げず断ち切りたい」と思いを述べた。
同キャンペーンは労働時間に上限を設定し、勤務と勤務の間にインターバルを置く「インターバル規制」の義務化を目的とする。西村氏は同日午前中、加藤働き方改革担当大臣に「長時間労働撲滅キャンペーン」に賛同する4万人超の署名を手渡し、法改正含め検討していくとのコメントを得た。また、この署名は呼びかけ人である「働き方改革実現会議」民間議員・白河桃子氏より安倍総理に渡される。
長時間労働が日常化する日本は異常
続いて、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長・小室淑恵氏が長時間労働のリスクについて説明した。
小室氏は、過労死のみならず、日常化する長時間労働に着目すべきだと主張した。日本は長時間労働をした場合1.25倍の支払いが生じるが、他国の平均値に比べて倍率が低く、労働者と時間外労働を認める特別条項(労使協定)を結べば1.25倍の支払いすら不要になる。こうした点から、長時間労働に対する罰則の甘さが根本的な問題であると指摘した。
さらに小室氏は、長時間労働を今是正すべき大きな理由として、日本の深刻な労働力不足と少子化問題を挙げた。長時間労働が続く限り、労働者は育児・介護・共働きの三重苦にあえぎ、日本の生産性と出生率が低下するという。
長時間労働は、介護と育児の重圧に
2017年に団塊世代が70代に突入し、団塊ジュニア世代は介護と仕事の両立という課題に直面する。厚生労働省のデータによれば、70代の要介護率は60代の倍に跳ね上がるが、現在でさえ介護離職者数は年間10万人、特別養護老人ホームの待機老人数は52万人にのぼる。これは2万5000人とされる待機児童数を大きく上回る人数であり、今後家庭での介護はほぼ避けられなくなるだろう。また、現在は出産期も遅くなっており、育児期に親の介護が始まる人も少なくない。こうした点から、小室氏はワークライフバランスを整えずして介護・育児・仕事の成立は不可能だ、と主張した。
そして、少子化対策としても長時間労働の撲滅が必要だという。厚生労働省のデータによると、第一子を持った夫婦が第二子・第三子を持つかどうかを決める判断軸は「第一子が生まれたときの夫の育児参画の時間」である。第一子を育てる過程で夫の育児協力を得られず、妻が孤独な育児を経験すると、第二子以降を望まない傾向があるのだ。小室氏は、日本が経済成長を続けるには出生率の向上が不可欠であり、その障害となる長時間労働を撲滅すべきだと繰り返し強調した。
そして、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事・安藤哲也氏は、同法人内での出生率は2.71であると述べた。これは、2015年の出生率1.46を大きく上回る数値だ。ファザーリング・ジャパンは日本初の父親支援を目的としたNPO法人であり、父親の育児休暇を推奨している。安藤氏は「育休を取らせるだけで出生率は大きく伸びる」と記者会見を締めくくった。
長時間労働は、短期的には会社の業績を上げるかもしれないが、将来個人の生活を、そして日本を脅かす可能性がある。今一度、自社の労働環境を見直してみてはどうだろうか。
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執筆者紹介
萩原かおり(はぎわら・かおり) フリーランスのライター・編集者。美容と心理が専門で、婚活パーティーの取材人数は200人を超える。三度の飯と執筆が同じくらい好き。求人・化粧品・社史制作を経て独立。現在は執筆業を中心に、取材記事から広告・LP・メルマガ作成まで幅広く活動中。休日はエステとジムに通い詰める美容オタク。 https://note.mu/hagitaro1010
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