成長する喜びを実感できる仕組み
社員の挑戦を生み出す人事評価制度~エストコーポレーション~
2016.06.06
医療情報の電子化サービスなど医療・福祉のITベンチャーであるエストコーポレーションは、2015年6月、人事評価制度の一環で「エストクエスト制度」を導入した。意欲の高い社員を対象に、やりたいミッションを自ら選択し、達成できれば報酬が得られるというユニークな制度で、社員のモチベーションアップに一役買っている。(取材:2016年3月、浜田有希子)
モチベーションアップとは主体的に取り組み成長を実感すること
制度の概要はこうだ。初めに事業部長や役員・経営陣が、社員に与える任務を記した「クエスト」と呼ばれる紙を社内の壁に張り出す。クエストの内容は「社内の水道・光熱費削減」「新卒採用の辞退人数を0に」「販売契約パートナー追加で5社」などさまざまだ。
社員が自由に閲覧し、挑戦したいクエストを見つければ受注印を押して任務に取り掛かる。記載された期限内に達成できれば、任務ごとに設定されたポイントが付与され、福利厚生プログラム内で80万点ある商品・サービスと交換できるほか、半期に一度は1ポイントを1円として換金することも可能。導入から1年以上が経つが、最高で一度に約8万円分、これまでに累積で20~30万円分の報酬を獲得した社員もいる。
エストクエスト制度を作った森脇部長(当時)
制度を作った管理部の森脇かほり部長(当時)は次のように話す。「私がこの会社で最も働きがいを感じモチベーションが上がるのは、主体的にミッションをおこなって成長を実感できたときです。会社のビジョンに共感し、会社にジョインすることで自らも目標が叶う、成長できると実感する人間で会社を構成したいんです」。
同社は次の目標を東証マザーズ上場としている。31歳の社長のもと、若い社員が中心となって会社の急成長を実現するため、社員の主体性や「本気度」を重視している。
人事評価制度の刷新で「初心」を思い出せるように
社員のモチベーションを高めようと、試行錯誤を重ねてきた。現在社員は約80人いるが、事業拡大に合わせ、1年間で新卒・中途を合わせて約40人も採用したときがあった。当時、採用業務を一手に引き受けていた森脇部長は「本気で主体的に取り組める人物なのかを見抜けなかったり、多忙のため入社後の社員のモチベーションダウンをケアしきれなかったりということがあった」と振り返るという。
人事評価制度にも課題があった。例えば、事務職の場合、業務量は多いが正確に素早く処理して残業しない社員と、業務量が半分でもミスが多く処理に時間がかかり残業してしまう社員がいた場合、報酬面では後者のほうが評価される(残業手当が出る)仕組みになっていたのだ。
そこで「エストクエスト制度」を導入し、人事評価制度の刷新を図った。まず基本評価として等級制度を設け、残業手当も一律で支給。プラスαの業績給としてエストクエスト制度の報酬を充てている。「役員・部長の業績給は所管する事業部の最終利益に比例しますが、一般の社員にも同じように当てはめるとモチベーションが下がります。
そこでエストクエスト制度で、やるかどうかは自分が決めるという醍醐味を持たせました。『事務マニュアル』を作ることが基本評価内の目標なら、他の部でも転用できるほど質の高いマニュアルを作ることをクエストとして出すと、モチベーションが上がります」(森脇部長)。エストクエスト制度は、部長にマネジメント力を問う側面もある。部の成果を最大にするには、部下一人ひとりに対し、基本評価の対象となる目標とクエストで課す任務を見極め、最適に配分する必要があるからだ。
全社員が閲覧できるクエスト
エストクエスト制度導入から9カ月で約200件ほどのクエストが出された。制度の導入によって社員の意識はどう変わったのか。「社員の意識のデトックスが進んでいきました。成長ありきの人を評価するという会社のカルチャーへの理解が深まり、そこへ共感した入社時の気持ちを思い出してもらえました」(森脇部長)と手ごたえを感じている。
また、クエストとして張り出された任務を全社員が閲覧できることによって、これまで課題だった事業部ごとの縦割り意識が解消され、他部署の業務への理解が広まったり、人脈の紹介などにもつながったりという副次的な効果もあげているという。今後は、より業績の向上に結び付けていくのが目標だ。
人事は会社の一番の理解者であるべき
組織の拡大に伴いモチベーションの下がった社員が現れた経験から、森脇部長は次のようにアドバイスする。「人事として一番必要なのは、忙しくても経営者をつかまえてインタビューし、描く将来像と現在の課題は何かを整理すること。そして差を埋めるためには社員がどう成長すべきかを考えて人事制度を設計していくことです。そのためには、人事が経営者の考え方、社員の思い、カルチャーを一番理解しているべきです」
その場しのぎのモチベーションアップ対策では会社の大きな成長に結びつかない。社員がビジョンに共感し、主体的に関わることで会社とともに成長し、その喜びを実感できる施策こそが、今の時代に求められる「モチベーションアップ」ではないだろうか。
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執筆者紹介
浜田有希子(はまだ・ゆきこ) フリーライター。大学卒業後、日本テレビ系列の地方民放テレビ局に入社。夕方のローカルニュース番組で7年間に渡り事件事故・行政・災害・地域ネタなどを幅広く取材。2015年、夫の転勤に伴い東京に転居しフリーランスに転身。ライターとして企業インタビューなどを行うほか、個人起業家を対象に動画制作術をレクチャーする講座を開催。
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