特集

超急成長企業の採用戦略/株式会社ボルテージ編


「恋愛ゲーム」のボルテージが上場後10億の赤字から脱却するまで

2019.04.01

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女性向け恋愛ゲームで年商100億円以上を叩き出し、創業から12年で一気に東証一部に上場した「ボルテージ」(東京・渋谷)。ベンチャー企業からの上場、ゲームの連続ヒット、知名度アップ…と「いい事づくし」の先に待っていたのは、いくつもの人事課題と10億円の赤字だった。急成長中の企業になぜ「人事的なひずみ」が生まれ、どう乗り越えようとしているのか。企業の事業成長の過程とともに「人事の新たな挑戦」を追った。

目次
  1. 女性向け恋愛ゲームで年商100億円超え
  2. 一つ目のひずみ:人員激増、現場教育が間に合わない
  3. 二つ目のひずみ:コアなファン目線の社員が入社、「ビジネス」の視点が足りない
  4. 三つ目のひずみ:上場企業に安定性を求める「安定志向」社員が増加
  5. 四つ目のひずみ:人材流動が少なく、フォーマット習得後のキャリアパスが描けない
  6. 五つ目のひずみ:新規事業のフォーマットがない
  7. 事業回復に向けて新たな「勝ちパターン」を探る
  8. 採用は「成長」を押し出す
  9. ベンチャーマインドへの原点回帰

女性向け恋愛ゲームで年商100億円超え

ボルテージは1999年に創業し、モバイルコンテンツ事業を手掛けてきた。2006年リリースの女性向け恋愛ゲーム「恋人はNo.1ホスト」が大ヒット。以降は恋愛ゲームに事業を絞り、2014年の売上は100億円を超えた。

恋人はNo.1ホストイメージ

記録的なヒットを生んだ「恋人はNo.1ホスト」。恋ゲームの金字塔となった。

メインターゲットはいわゆるゲームに熱中し、没頭する「コア」な女性だけではない。同社の津谷祐司社長が米国UCLAで学んだハリウッド仕込みのストーリー展開が共感を呼び、ゲームへの好みにかかわらず多くの女性たちを「胸キュン」させた。

同社の成長を支えたのは、新卒社員でもヒット作品を生み出せる「フォーマット」が構築されていることだ。フォーマットにはユーザーの心をつかむ起承転結のタイミングと論理展開が網羅されている。

ボルテージはこのフォーマットを重視した独自の社内教育制度により、シナリオやコンテンツ作りの経験が少ない社員のアイデアとコンテンツ力を引き出す仕組みを構築。次々にヒット作を連発して売上は右肩上がりになった。2010年に東証マザーズ、2011年に東証一部に上場し、文字通り「急成長企業」となった。


しかし、2013年頃からその社内では大きなひずみが生まれ始めていた。

一つ目のひずみ:人員激増、現場教育が間に合わない

上場後も確実に成長を続けようと、ボルテージは2013年も次々と恋愛ゲームをリリースした。「(新作を)出せば売れる」状態で業績は上がり、社員の業務も増えた。

2013年の新卒社員は前年の倍以上の64人 を採用し、増加した業務量を人の数で補おうとした。しかし、強みのフォーマットでは補い切れない業務もあり、社員の現場教育は追いつかない。中途採用は、未経験でも意欲がある人材を積極的に採用していたため、すぐに指導者になれる人材は多くなかった。

二つ目のひずみ:コアなファン目線の社員が入社、「ビジネス」の視点が足りない

ボルテージは「アート&ビジネス」を企業理念とし、新卒採用ではコンテンツを生み出す発想力(アート)と、ビジネスとして連続的にヒットさせる論理的思考を兼ね備える人材を求めていた。

ゲームのヒットとともに新卒社員にも同社の熱心なファンが増えた。彼らのコアなファンの視点から新しい事業の提案もあり、ものづくりの範囲が広がった。一方、あくまでもボルテージの強みは幅広い女性の心をつかむ「カジュアル」な作品で、「ファンの視点」だけではビジネスモデルに対応しづらい。さらに、当時はコア層向けゲームのフォーマットがない上に、競合他社が強い分野でもあった。ファン目線から一歩引き、ビジネスとして利益を出すことに不満を持つ社員もいた。

voltage_022015年に同社が発行した、恋愛ゲームの徹底マニュアル『「胸キュン」で100億円』。
当然ながら、採用者はゲームファンというだけではなくビジネスの視点も必要。

三つ目のひずみ:上場企業に安定性を求める「安定志向」社員が増加

企業が上場すると社会からの信用や知名度が上がり、学生を含めて社外から「信頼性が高く安定した企業」と認識されやすい。ボルテージも安定性を求める学生が入社し始めた。 自ら新しい作品を生み出し、担当業務を超えて働くことを楽しめない人材は、ボルテージのコンテンツ事業とマッチングしにくかった。

四つ目のひずみ:人材流動が少なく、フォーマット習得後のキャリアパスが描けない

ゲームの種類によってユーザーの課金の仕組みやコンテンツの制作過程が異なるため、社員はゲームの部門ごとにノウハウを学ぶ。学んだノウハウを蓄積しさらにコンテンツを強化させるため、社員の異動は少なかった。その部署で一定の業務やフォーマットを覚えれば新しい経験に触れにくくなる。社員の中には自分のキャリアアップを想像できず、「ボルテージではやりきった」と思い込み離職する社員もいた。

五つ目のひずみ:新規事業のフォーマットがない

新規事業での苦戦も響いた。ボルテージは上場後から海外向けの英語版恋愛ゲーム、国内の男性向けゲーム、VRに乗り出した。しかし、新規事業にはフォーマットがなく、新しいビジネルモデルを見つけるのに苦戦。売れ行きには波があり、新規事業での活躍を期待していた社員は苦しい現実とのギャップを感じて会社を離れていくこともあった。

事業回復に向けて新たな「勝ちパターン」を探る

これらの人事課題に加え、業績の低迷もあり、離職率は2015年にピークの20%前後まで上がった(当時の社員数は500人弱)。事業面では国内のモバイルコンテンツ市場の成熟化、競合他社との競争激化を受けて、基幹事業の女性向けゲームも現状のままでは収益の維持が難しくなった。成長の鈍化や経費、人件費の負担が重なり、2018年には約10億円の赤字となった。

2014年に一度現場を離れて会長となった津谷氏は、2016年に社長に復帰。社内公募で社員の自由な発想を引き出す仕組みを作り、基幹、新規事業の全てで実験的な作品をリリースしている。強みのフォーマットは残しつつ、新しい「勝ちパターン」を探っている最中だ。売上も回復傾向にあり、2019年には固定費の一時的な調整から、黒字も間近となっている。

採用は「成長」を押し出す

会社が危機を迎え、人事的課題はどう解決していくのか。

赤字縮小の対応として、中途採用は一時的に縮小して人件費を抑制し、コンテンツ作りの経験が豊富か、新規事業の即戦力となる人材がいた場合のみ採用を検討した。人材の流動化と社員のキャリアアップを目的に、ローテーション制度や、部署の異動を希望できる公募制度も始めた。もともと、女性社員のための制度は充実していたが、それに加えテレワークや勤務時間選択などの働き方多様化にも対応。また、組織の壁を越えた「ナナメの交流」にも力を注いでいる。

新卒採用は2020年卒から体制を大きく変える。具体的には現場の社員も採用に関わるようなプロジェクトを立ち上げ、採用フォーマットの更新や、課題であったミスマッチ社員の採用を防ぐための採用基準の見直しを行った。長年の「アート&ビジネス」の企業理念はそのままに、求める人物像として改めて「成長意欲」を押し出す。

voltage_03取材に応じた人事部チームリーダー チーフ田口さん

上場後は採用活動で社長を前に出す回数を減らし、学生と若手社員との接点を増やした時期があったが、今後は会社説明会にも社長が積極的に参加。成長を求めること、自立していて、ユーザー視点とビジネス感覚により新しい作品を作れる人材を求めることを、トップメッセージで伝える。人事部チームリーダー チーフの田口怜さんは「今後はベンチャーマインドを忘れない採用活動に重点を置く」と語る。

ベンチャーマインドへの原点回帰

ボルテージの新たな採用戦略は「原点回帰」だ。

上場企業は短期的な利益追求が求められ、中長期的な事業戦略を立てづらい。ボルテージも上場後の確実な事業成長を重視し、長期的な採用活動の見通しが立てにくかった。

しかし、津谷氏は社長復帰後から事業や人事課題を見直し、社内の組織改革や従業員との対話促進、採用方針の見直し、新規アイデアが創出される仕組みづくり……と次々に改善策を打っている。分析力、判断力、行動力で新しい課題解決法を実践すること、企業が求める人材像を再確認すること、事業成長と社員の成長にまい進すること。これを着実に進めているボルテージは、課題を乗り越えて新しい組織体制を作り、斬新なコンテンツや事業を生み出すに違いない。

企業情報

株式会社ボルテージ
・事業内容:モバイルコンテンツ、VR・ARコンテンツの企画・制作・開発・運営、コンテンツIPを用いたイベントやグッズの企画・製作・販売
・設立:1999年9月
・従業員数:291人(2018年12月末時点)
・本社所在地:東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー28階

【シリーズ】超急成長企業の採用戦略

【編集部より】
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