“評価しない組織”の衝撃 ネットプロテクションズ編
マネジャー職を撤廃! 互いに成長促進する次世代の人事制度「Natura」とは
2019.03.05
ティール型組織を実現する企業として注目を集めるネットプロテクションズ。2018年4月には、「マネジャー役職の廃止」「ローテーション面談(ディベロップメント・サポート面談)」など、画期的な施策を含む新人事制度「Natura(ナチュラ)」をスタート。導入までの経緯や新制度の全体像、実践後の現状を、人事総務グループの河西遼氏に聞く。【2019年1月18日取材:文・玉寄麻衣】
【特集】“評価しない組織”の衝撃~ティール組織の解説、ホラクラシーやノーレイティング実践企業の事例紹介、人事評価のアップデートまで~
河西 遼(かさい・りょう)
株式会社ネットプロテクションズ 人事総務グループ 兼 ビジネスアーキテクトグループ
2013年、東大修士課程を卒業し新卒でネットプロテクションズに入社。入社後は新規事業として「NP後払いair」の立ち上げ、責任者を経て自ら異動希望を出し、現職の人事企画に至る。内に秘めた知的好奇心を追求し、「人の感情のメカニズムや、最大幸福のための社会設計」について日々考えを巡らしている。会社のミッションと個人の幸せの両立を模索しながら、会社組織の新しい「アタリマエ」の実現を目指す。
「1人で育てる」ではなく「お互いに成長促進し合う」組織へ
――ティール型組織を実現した新制度「Natura」の概要を教えてください。
河西:大きな特徴は、マネジャー職を廃止したことです。同時に、人材の育成体制や、評価制度、給与体系なども刷新しました。これまでは一般的な組織と同じように、1人のマネジャーが複数名の部下に対して、育成・評価の責任を負っていました。
ところが、当社の場合、仕事はチーム単位ではなく、ひとりが複数の部署にまたがってプロジェクトを兼任するスタイルが主流です。例えば、私だと人事総務グループとシステム開発を行うビジネスアーキテクストグループ、それに新規事業のCredit Tech推進室の3部署で、それぞれプロジェクトを兼任しています。直属の上司とほとんど関わらない部署横断型のプロジェクトも多いため、マネジャーが特定の部下に対して、育成・指導・評価の責任を負うのが難しいという側面がありました。
そこで、思い切ってマネジャー職を廃止し、「メンバー同士がお互いに成長支援を行う」としました。さらに、面談担当(同部署の上位職)が毎回ローテーションする「ディベロップメント・サポート面談」を導入。月に1度実施しています。
面談担当者をローテーションさせるのは、社員が相互に成長を支援しあう文化をより醸成するためです。面談のログは記録され、面談担当者の間で時系列の変遷が分かるようにしています。
導入時は、面談担当予定の社員だけでなく全社員に向け、関係構築の重要性を体験してもらう、コーチングやNVCの概念を取り入れた「リレーションシップビルディング研修」や「ディベロップメント・サポート研修」を実施。まだ新卒1年目で面談担当になったメンバーはいませんが、早ければ入社2年目で面談担当になります。
年功序列に近い給与体系で、ネガティブな競争意識を排除
また、評価制度は目的自体を大きく変更しました。従来の「目標達成度を測り、給与と密接に連動する」となっていたものから、「モチベーションアップと成長支援を促すためのもの」としました。
過度に成果主義に基づく精緻な報酬の分配を行おうと制度を設計すると、限られた人件費を社員同士で奪い合うような構図となってしまい、好ましくない競争意識を助長してしまう恐れがあります。それでは心理的安全性が阻害され、全体的なモチベーションの低下を招いてしまいます。
そこで、わずかな報酬の差異に気をもむことのないよう、給与は年功序列に近い5段階のバンド制(注1)を導入。長期の休職などがない限り、基本的に在籍年数に応じて、同一バンド内での給与はほぼ自動的に上がります。さらに、360度評価によるスコアが高ければ、飛び級的に昇格・昇給することも可能です。
注1:バンド(band)は「帯」の意味で、上限額から下限額まで幅をもたせた帯状の賃金構造。ディベロップメント・サポート面談では、バンド職が上位の者が下位の者に対して面談を担当する。
トップ、マネジャー、若手社員。意見は全方位から丁寧に聞く
――新制度導入に至った背景は?
河西:直接的なきっかけは、社内の歪(いびつ)な人員構成による不満の声が大きくなってきたことです。近年、新卒採用に力を入れたことで、当時約130名の正社員のうち、ほぼ半数が新卒1~3年目の社員となり、マネジャー層が薄くなってしまいました。
加えて、ひとりが複数のプロジェクトを掛け持ちすることから、若手の社員からは「マネジャーがメンバーの業務を十分に見ていないので、適正な評価ができていないと感じる」「評価に納得がいかない」などの不満の声が上がっていました。
実際に少ないマネジャー層だけで評価を行うことに、組織として限界を感じていたため、抜本的な改定を行うことになりました。
――制度を構築するうえで、気をつけたことは?
河西:当社の理念「つぎのアタリマエをつくる」について、誰よりも考え実践してきたのは、代表の柴田(紳)です。彼が考える理念実現までの道筋と、人事が作ろうとする制度にずれがないか。その認識のすり合わせには、かなり時間をかけ議論を重ねました。
それと並行し、制度設計の進捗に応じて、複数回にわたり全社員に向け説明会を実施しました。
「マネジャー職を廃止すると現場がカオスになり、結局は元・マネジャーに過度な負担がかかるのではないか」といった不満や不安、疑問の声があれば、可能な限り吸い上げ、最終的な制度に落とし込むなど、丁寧なコミュニケーションを心掛けました。
制度と文化に乖離があっては、社員は受け入れられない
――導入後、社員の皆さんからの評価はどうか。今後に向けての改善点があれば。
河西:大きな目標だった「心理的な安全性を醸成し、相互に成長支援を促進する」という点に関してはおおむね達成できたと思います。目の前にいる人の成長のため、率直な意見を言い合う光景も日常的に見られるようになりました。他責的な発言や雰囲気がなくなり、これまで暗黙的に「マネジャー担当」とされ、若手社員が回避していたような領域にも、各自が積極的に発言するようになっています。
ただし、実際の運用面では、まだまだ細かい改善点は山のようにあります。新しい評価制度では、「評価の基準が分かりにくい」「外部パートナーとの折衝が多いメンバーでは、正しい評価がされにくい」「高度な専門スキルを持つ人材の評価が正しくされない」など、まだまだ改善すべき点が多々あるので、そこは引き続き社員とのコミュニケーションを丁寧に行いながら、進めていきます。
若手が中心という人員構成自体に変化はないので、一部メンバーへの過度な負担の偏りは、まだ是正しきれていません。この点は、制度の変更では限界があるため、引き続き採用と若手の成長を支援していきたいです。人事制度と企業文化は表裏一体です。制度だけを大胆に刷新しても、それを受け入れる文化と乖離があれば、運営は難しくなる。制度と文化が交互に相乗効果を生みながら、一歩一歩理想に近づいていけるように、今後も地道な改善を重ねていきたいです
企業情報
株式会社ネットプロテクションズ
2000年1月設立。後払い決済のパイオニア企業として、2002年に日本初の未回収リスク保証型通販向け後払い決済サービス「NP後払い」の提供を開始し、2018年には年間利用ユーザー3,600万人を突破。「つぎのアタリマエをつくる」ことを理念に掲げ、BtoC向け会員制決済サービス「atone」の提供を開始したほか、海外オフィスの設立や人事制度の改善にも取り組む。
所在地:東京都千代田区麹町4丁目2-6 住友不動産麹町ファーストビル5階
従業員数:224名(2018年4月1日現在)
【編集部より】
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執筆者紹介
玉寄麻衣(たまよせ・まい) 1979年生まれ。立命館大学政策科学部卒業。外資系大手人材派遣・人材紹介会社で、営業として主に中小企業の人材採用をサポート。その後フリーランスのライターとなり、人材採用、人材育成、大学教育、広報・PR、企業経営等に関する取材・執筆を行う。
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