特集

働きやすい職場づくり


発想の転換で企業内保育所を自社運営-ワークスアプリケーションズ

2017.07.10

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働き方改革が叫ばれ、人事・総務担当者は生産性向上のための舵取り役を担う。社員が安定的に高いパフォーマンスを発揮するためには、安心して働ける職場づくりが欠かせない。その根幹となる、優れた人事制度・福利厚生の導入に成功している企業を紹介する特集の第3回。前回に引き続き、当事者へのインタビューによりその取り組みを紐解いていく。

目次
  1. 企業内保育所を自社運営~ワークスアプリケーションズの事例
  2. 高層オフィスビル、20階に企業内保育所
  3. 理想の保育施設を自社で作る
  4. 「ご飯作りからママを解放したい」
  5. 育休復帰で、年棒15%のボーナス支給
  6. コストをかけて採用育成した社員が退職するほうが損失

企業内保育所を自社運営~ワークスアプリケーションズの事例

都心の高層ビルの20階に保育施設。うそのような話だが、これを実現している企業がある。それは、ソフトウエア開発のワークスアプリケーションズ(東京・港区)だ。同社は企業内保育施設としては珍しく、保育施設の自社運営をしている。「WithKids」と呼ばれるこのスペースは、仕事に行き詰った社員のリフレッシュの場にもなっているという。果たしてWithKidsはどのようにして導入されたのだろうか? 同社経営企画の谷口裕香さん【写真】に話を聞いた。(記事最終更新:2017年7月11日14時)

谷口裕香(たにぐち・ゆか)

ワークスアプリケーションズ経営企画。5歳と2歳の2児を持つ。

ワークスアプリケーションズの「働きやすい職場づくり」のポイント

  • ワークスアプリケーションズが自ら保育施設を運営している。
  • 会社が一丸となって社員の子育てをしようという土壌がある。
  • 出産・育児からの復帰時にボーナスが支給されるなど、制度が充実している。

高層オフィスビル、20階に企業内保育所

ワークスアプリケーションズ(以下、ワークス)では2016年12月、自社内に託児スペース「WithKids」を開設。利用時間は、月決め、一時保育ともに平日の朝8時から夜20時半まで。”延長保育”の概念はなく、時間内であれば子どもの預け入れもお迎えも時間は問わない。フレックスを利用して朝は出勤ラッシュを避けた8時頃か、10時以降に来る人が多い。

WithKidsでは「手ぶら通勤」ができるように、おむつや着替え、シーツなどはすべて施設側で用意。さらに子どもの食事だけでなく、ママ社員やパパ社員も子どもと一緒に用意された食事を取ることができる。
利用料金はこれらのサービスをすべて合わせ月額3万円、一時保育は1日2,000円だ。事前にアレルギー情報などの登録をしておけば、一時保育の申し込みは、当日でも受け入れてくれる。

現在は、月決め利用が8人のほか、一時保育で毎日2、3人が利用している。受け入れる子どもは未就学児が対象で、生後57日から未就学児まで受け入れている。
運営にあたっては、一時保育の申し込みを想定して、認可保育園で規定されているスペースや保育士人数よりも、余裕を持たせている。保育施設があるのは、同社が入居する高層オフィスビルの20階。子どもたちが遊ぶ日当たりの良いスペースからは、六本木のオフィス街が一望できる。
執務スペースとはガラス一枚で区切られており、仕事中にふらりと子どもたちの様子を見に来ることもできる。

理想の保育施設を自社で作る

ワークスアプリケーションズのwithkids

企業内保育施設としては珍しく、WithKidsは外部委託ではなくワークスの自社運営だ。【上写真:仕事で行き詰ったときは、ふらりとWithKidsに立ち寄ることもできる】
保育士や常駐する看護師、調理を担当する管理栄養士などの専門職員もすべて自社で採用している。給与水準は、”業界相場”ではなく、あくまでも”ワークス基準”。保育士はスタッフで月額30万円以上、マネージャーでは月額60万円以上だ。

「手ぶら通勤や親子一緒の食事サービスなど、パパママ社員にとってうれしいサービスも、外部委託だとなかなか思うように実施できませんでした。もともと現場が主体的に問題の解決策を考えて行動する風土があるので、自分たちの手で保育施設を運営するという選択は、ある意味とても自然な流れでした」と話すのは、WithKids開設の中心メンバーである経営企画の谷口裕香さんだ。
谷口さんは現在、5歳と2歳の2児を持つ母。2016年3月、2回目の育児休暇の復帰間際に社内公募で見かけたWithKids立ち上げメンバーに手を挙げた。このとき、社内のさまざまな部署から、独身、既婚、子どもの有無に関わらず、 手を挙げた有志の社員は約50名。「自分たちにとって理想の保育施設とは何か」を部署や立場を超えて話し合った。

「現実可能な方法を探すのではなく、まずは自分たちにとっても理想を追求する。これも普段の仕事の進め方です」(谷口さん)
その後、プロジェクトマネージャーとなった谷口さんをはじめ、子育て中の社員4名がプロジェクトを推進してきた。

準備期間は9カ月。開設にあたっては、各関連法律や規定のチェックから、建設会社や東京都の担当者との交渉もすべてチームのメンバーが担当してきた。ビルオーナーである森ビルの担当者も、保育施設の担当は初めてのこと。東京都の保育サービスの担当者も、高層オフィスビルの20階に保育施設を開設するのは前例がないと、最初は戸惑った。
それでも、ワークスが企業内保育施設を作る目的や意義を説くと、すぐに協力的になり、一つひとつの基準をどうクリアしていくかを一緒に考えてくれるようになった。

「ご飯作りからママを解放したい」

ワークスアプリケーションズ経営企画の谷口裕香氏①

仕事でくたくたに疲れて帰宅し、そこから子どもにせがまれながら食事を作る――。この大変さから働くママ(ときにはパパ)を解放したいと、親子で一緒に食事がとれるサービスの導入にこだわったのも谷口さんだ。
社内結婚をして子どもをWithKidsに預ける夫婦が、終業後、子どもと一緒に3人で食事をして帰ることもある。調理担当の社員は、みんなの「お母さん」のような存在として親しまれている。「子育てをしながら仕事する理想的な環境」を考えていた当初は、リモートワークやベビーシッターの費用サポートなどの話もあった。しかし、自宅にいて家事や子どもの面倒を見ながら仕事をするのはそう簡単なことではない。子どもが泣き止んでくれないこともあれば、寝静まったころに配達物が届くこともある。とても集中して仕事ができる環境ではない。

「とにかく会社に子どもを連れてきさえすれば、あとは会社で面倒を見る。授乳中の社員でも、授乳しながら仕事も子育てもできる環境を整えました。核家族化が進むいま、ママやパパだけで子育てをするのは、やはり負担が大きい。それであれば、もう会社一丸となって子育てをしよう、という感じですね」(谷口さん)

社員の中には、もしかしたら子どもが苦手な社員もいるかもしれない。それでも、実際に社内で子どもたちとすれ違うと、誰でも自然と表情が緩んでしまうのだという。
「子どもがいるいないに関わらず、仕事で行き詰まったときに、ふらりとWithKidsに立ち寄ってリフレッシュしていく社員も多いのです。健全なリフレッシュスポットになりつつありますね」(谷口さん)

今後は保育体験など、子どもがいない社員と子どもたちの交流イベントも企画し、育児に対する理解も深めていく予定だ。

育休復帰で、年棒15%のボーナス支給

ワークスミルククラブ

ワークスには出産・育児を行う女性社員を対象とした支援制度「ワークスミルククラブ」(右図)がある。
この制度によって、これまでも手厚い支援を行ってきた。谷口さんが育休中にWithKids設立メンバーの公募を知ることができたのも、この制度のおかげだ。

ワークスミルククラブは2004年に女性社員がはじめて出産と育児を経験するにあたって、新たに設けられた出産・育児支援制度。当時は、まだ女性活躍推進の呼び声もなく、出産後も働き続ける女性社員の中には、後ろめたい感情を持つ人も少なくなかったころだ。

ワークスミルククラブの制度を当事者となる女性社員たちで検討していた際、どこか遠慮した支援制度になっていることに対し、同社CEOの牧野正幸氏が「復帰時に年棒15%のボーナス支給」と言い出す。
ママ社員に対する「戻ってきて欲しい」という強力なメッセージであり、「ボーナスをもらうために復帰する」と周囲へも言いやすい。ママ社員への理解がある企業であることも強く印象付けた。制度導入後、ワークスミルククラブを利用するママ社員の復帰率は、ほぼ100%だ。

また、「夫の転勤で、一時的に仕事を離れざるをえない」などの社員が出れば、「カムバック・パス制度」を作り、3年間は退職前と同ポジション・同給与にて復職できるようにした。

コストをかけて採用育成した社員が退職するほうが損失

ワークスアプリケーションズ経営企画の谷口裕香氏②

ワークスは、Great Place to Work®(GPTW)※が実施する「働きがいのある会社」ランキングで10年連続ベストカンパニーに選出されている。その理由は何だろうか。

「ワークスが考えるのは『働きやすさ』よりも『働きがい』です。能力の高い社員たちが、最大限に能力を発揮できる環境を用意するのが会社の役目。育児休暇一つとっても、早く復帰したい人はWithKidsを利用できるし、じっくり子育てに取り組みたい人は、最大3年間は休める。その選択肢があることがとても大切だと思います」(谷口さん)

人材採用、評価基準ともに重視されているのは、「ロジカル・シンキング(論理的思考力)とクリエイティブ・シンキング(発想転換力)」だ。そんな同社だからこそ、「保育は自宅近くで」「満員電 車に子どもを乗せられない」などの〝一般常識〞を拭い去り、ゼロベースで発想の転換を行えたのだろう。

「ワークスでは〝人〞を何よりも大切にしていて採用や人材育成に対して積極的に投資しています。そこに男女の区別はもちろんありません。そんな中、女性社員だけが出産や育児を理由に不本意に退職したり、仕事をセーブしなければならない状態になったりするほうが、当社にとっては非常に大きな損失です。同じように企業内保育施設を持つ企業が増えれば、子育て世代だけでなく、子どもがいない社員たちも安心して働ける環境が広がっていくはず。広まっていくといいですね」(谷口さん)

【2017年4月取材:聞き手、撮影・玉寄麻衣】

企業プロフィール

会社名:株式会社ワークスアプリケーションズ
ERP(Enterprise Resources Planning)分野において国内シェアNo1。業種問わず1,200社以上の大手企業で利用されている。
所在地:東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル19階
事業内容:大手企業向けERPパッケージソフト「HUE」および「COMPANY」の開発・販売・サポート
設立:1996年7月
社員数(連結):5,631 名(2016年6月末時点)
URL:http://www.worksap.co.jp/

【特集:働きやすい職場づくり】


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執筆者紹介

玉寄麻衣(たまよせ・まい) 1979年生まれ。立命館大学政策科学部卒業。外資系大手人材派遣・人材紹介会社で、営業として主に中小企業の人材採用をサポート。その後フリーランスのライターとなり、人材採用、人材育成、大学教育、広報・PR、企業経営等に関する取材・執筆を行う。

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