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【特集】“評価しない組織”の衝撃 第2弾


組織に階層構造を設けない。ホラクラシー経営の企業が「管理しないマネジメント」を成功させた理由

2018.10.11

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給与は社員全員で話し合って決める。役職や肩書は廃止。給与、経費、財務情報は全て社内で公開する。不動産企業向けITシステムの開発を手掛ける「ダイヤモンドメディア」(東京都港区)は、創業当初から独自の人事制度を構築し、階層構造を設けない組織形態「ホラクラシー」を実践している。明確に「人事担当者」を設けず、給与を決める会議や人事制度の構築はその都度、有志の社員が対応する。
ダイヤモンドメディアで制度が形作られるまでの経緯や、各社員が主体的に組織改革に取り組む理由を、現場の社員3人に取材した。【取材:2018年8月23日】

【特集】“評価しない組織”の衝撃~ティール組織の解説、ホラクラシーやノーレイティング実践企業の事例紹介、人事評価のアップデートまで~

diamondmedia_01(左から篠崎礼さん、関戸翔太さん、田中慎生さん)

企業情報

ダイヤモンドメディア株式会社
設立年:2007年9月6日
事業内容:Centrl事業、不動産ソリューション事業、人材事業
所在地:東京都港区南青山4-9-1シンプル青山ビル1階
社員数:20人、業務委託人数12人(2018年9月現在)

ホラクラシーとは

階層型(ヒエラルキー)に代わる組織形態のこと。組織の中に上下関係はなく、透明性を重視する。メンバーは各自の主体性に基づき、役割と権限を柔軟に調整しながら自律的に行動する。米国のネット通販大手「ザッポス」がホラクラシーを実践していることで有名となった。

(参考:『会社からルールをなくして社長も投票で決める会社をやってみた。人を大事にするホラクラシー経営とは?』武井浩三著、WAVE出版)

ダイヤモンドメディアの人事制度の一例

  • 給与は社員全員で話し合って決める
  • 給与、経費、財務情報は全て社内に公開
  • 役職、肩書の廃止
  • 代表、役員は選挙と話し合いで決める
  • 働く時間、場所、休みは自分で決める
  • 起業、副業を推奨する

キーワードは「情報の透明性」「権力の放棄」「給与の分配システム」

ダイヤモンドメディアのホラクラシーは、3つの考え方が根幹となっている。

1つ目は「情報の透明性」だ。社員個人の成績や労働時間、会社の月次決算などの定量データを公開する。会社全体が情報でつながり、社員の認識が一致する。社内の情報格差をなくすと権力が弱まり、各自が自発的に行動するため、組織も秩序を持って稼働し始める。

2つ目は「権力の消失」だ。組織には階層がなく、社員に役職や肩書は設けない。各社員はチームや会社全体が必要とするものを嗅ぎ取り、行動することで会社に貢献する。チームの責任者はその都度自然発生する。

また、社員が自身の能力を最大限に発揮できる環境をつくろうと、社員が部署を越えてプロジェクトに参加したり、現場の仕事とマネジメント業を兼任したりできるようにしている。必要に応じて社外で副業、起業することも可能だ。

3つ目は「報酬の分配システム」だ。給与が開示されると不当な報酬や給与格差のゆがみが明らかになる。正当に成果を上げて顧客や会社、社員に貢献する人の報酬が上がれば、社内政治や個別交渉による駆け引きがなくなり、社内の風通しが良くなる。

顧客だけでなく、社員や家族、社会の全てに貢献する組織をつくる

ダイヤモンドメディアはなぜ、階層構造を設けない組織を目指したのか。その背景には、代表取締役の武井浩三氏の挫折経験がある。

武井氏は22歳の時、1社目となるファッション関係のメディア事業を手掛ける会社を起業した。友人たちが大学を中退したり、大手企業を退職したりして、借金を作りながらも協力してくれたが、キャッシュフローが回らず1年で倒産した。会社は武井さんが上位に立つ階層型の組織体制。「自分のやりたいことのために友人に手伝ってもらうばかりで、独りよがりのエゴだった」(武井氏)

武井氏は「顧客や社員など、会社に関わる全てに貢献する組織でないと意味がない」と決断。2社目となるダイヤモンドメディアでは、自由かつ自律的なワークスタイルを追求。社員各自に責任や高い能力を求めることで、社員と会社が成長していく組織を生み出した。

(参考:『会社からルールをなくして社長も投票で決める会社をやってみた。人を大事にするホラクラシー経営とは?』武井浩三著、WAVE出版)

ホラクラシーのスタートは情報公開から

ダイヤモンドメディアが最初に取り組んだ体制づくりは、情報公開だった。全員の給与や月次決算をウェブ上で誰もが閲覧できるように変更。2008年から勤務するwebディレクターの関戸翔太さんは「当時から現在まで続く組織づくりのキーワードは、オープンとフェア。マインドを文字にして共有することは難しいため、オープンにしやすい数値から取り組んだ」と振り返る。

全員の給与を全員で決める「給与会議」

さまざまな人事制度の中でも特徴的なのが、給与制度だ。

社員の報酬は基本給+実力給に賞与や諸手当を加えて計算する。基本給は全員、一律18万円に固定。実力給(最低2万円)は給与会議で決め、半年に一度変動する。賞与は基本給と実力給の合計金額の0.5カ月分。手当は勤続年数やライフフェーズ(出産、育児など)に合わせて用意されている。

全員参加型の給与会議は年に2回、5月と11月に開かれる。

会議の開催前にはアンケートを実施。現時点の全員の実力給の金額一覧、各自に「成長したポイント」や「今の金額に違和感があるか」などを問う質問項目が設けられ、実力給が低い、高いと思う場合に意見を書き込む。他者だけでなく、自分の実力給に異議を唱えることも可能だ。本人、同じ部署、違う部署の3つのカテゴリーから自身に当てはまる属性を選び、妥当だと思う金額やその理由を記入する。

アンケートの集計結果を基に、全員が集まって対面による給与会議を開く。会議ではアンケートの結果を受け、変えるべき人の実力給を議題にする。個人やチームの成果、会社への貢献度を判断基準とし、未来に対する期待値は反映しない。11月には2回目の給与会議を実施する。

特徴は、アンケートと会議の2段階で給与を決める仕組みだ。当初は対面の会議のみで決定していたが、会議実施後の振り返りの中で、社員から「その場限りの印象で金額が決まってしまう」との意見が出た。アンケートを通じ、社員が互いの変化をじっくりと考えた末に算出されたデータが形に残るようにし、会議との組み合わせで社員の納得感を高めた。

こだわりは、アンケートの質問内容にも見られる。回答はほぼ匿名で行われるため、辛辣な意見が出ることもあるが、組織が貫く情報公開の原理で、そのまま全員に公開されてしまう。そこで、アンケートでは「実力給が高い(低い)と思う理由」と聞くのではなく、「成長したポイント」「違和感があるか」という表現にすることで、引き出したい答えを絞った。「情報が全て公開されることを意識して制度を整えた」(関戸さん)

また、半年に1度では評価期間が長過ぎるため、給与会議とは関係なく個人へのフィードバックも3カ月に1回行っている。

diamondmedia_02

ホラクラシーのメリット、デメリット

エンジニアの田中慎生さんは、ホラクラシー経営のメリットを「自分の部署以外の情報に触れられること」と語る。全ての情報が公開されているため、他部署の興味のある取り組みに参画することもできる。また、給与会議では自分の成果や行動に対する意見を他部署から聞くことができるため、「フィードバックの幅が広くなり参考になる」(田中さん)という。

デメリットは、情報公開のためにかかる労力の重さだ。全ての情報を公開するためには、営業成績や会社の決算など、公開されていなかったデータを整理する事務的な準備のほか、社員から引き出したい情報を得るために知恵を絞ることが必要だ。「給与や売上、評価の理由はいくらでもクローズドにできてしまう。努力して意識的に公開にするように心掛けなければならない」(田中さん)。

また、ホラクラシーに対応したツールがまだ少なく、一から自分たちの手で作り上げる時間もかかる。情報公開できる体制を創意工夫して自身で作り出さなければならない苦労がある。

自律的な組織を実現させるこつは「社員の意見を吸い上げる仕組みづくり」と「オープンな関係性」

ダイヤモンドメディアは気付きと改善を繰り返しながら、今の組織体制を築いてきた。組織に根付いているのは、新たな取り組みを行う度に社員の意見を聞き、反省点を見つけて改善する文化だ。給与会議では、毎回の振り返りを徹底して修正すべき部分を考える「小さな失敗と改善」を繰り返してきた。「失敗の影響が少ないうちに改善点を見つけ、誰かが自主的に改善するために行動する仕組みができている」(田中さん)

diamondmedia_03

なぜ、ダイヤモンドメディアでは社員一人ひとりが主体的に行動する雰囲気が形成されているのか。コーポレート担当の篠崎礼さんは「情報がオープンだと社内の人間関係もオープンになる。全員に自由な業務が与えられているからこそ、何かやりたくなる」と分析する。自由な環境が、本音で言い合える関係性と主体性を生み出している。

情報を公開し、意見を吸い上げることで自分の発見が組織の改善に役立つやりがいを生み出すこと。これが新たな組織づくりを成功させる鍵なのかもしれない。

【取材・執筆: @人事編集部】

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