@人事 ドイツ支部通信
給料もコミュニケーションもオープンに。ドイツに学ぶ人手不足解消法
2018.12.26
2018年10月、有効求人倍率が1.62倍、新規求人倍率が2.40倍と高水準であったことが、厚生労働省によって明らかにされた。人手不足が取りざたされるなか「どうやって人を集めるか」はもちろん、「どうやって長く働いてもらうか」を考える必要がある。そこで、待遇とモチベーションという2つの大きな退職理由に対し、どんな対策が取れるのかを考えていきたい。
【参考】日本とドイツで就活をした私が考える、採用のミスマッチを防ぐ5つの方法
退職理由は「待遇」と「モチベーション」
厚生労働省による『平成28年雇用動向調査結果の概況』における「転職入職者が前職を辞めた理由別割合」を見てみると、男女ともに1番多いのは「定年・契約期間の満了」となっている。ではこれ以外には、どのような理由が挙げられるのか。
男性の場合「給料等収入が少なかった」が12.2%で、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」の9.5%、「会社の将来が不安だった」の8.4%が続く。女性だと結果は少し変わり、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が12.3%、「職業の人間関係が好ましくなかった」が12.1%、「給料等収入が少なかった」が9.9%で、この3つはほかの項目より圧倒的に多い。
この統計を踏まえると、退職の理由としては労働条件や給料など「待遇面の問題」と、会社の将来に期待がもてなかったり人間関係で疲れたりという「モチベーションの問題」に大きく分けられる。つまり、従業員に長く快適に働いてもらうためには、待遇面で従業員との認識をしっかり擦り合わせておくことと、モチベーションが保てる環境にしておくことが大切というわけだ。では、そのためにはどのような工夫ができるだろうか。
働き方の交渉を積極的に受け入れる
まず、退職理由の「定年・契約期間の満了」をのぞき、男女ともに「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」ことが上位になっていることに注目したい。
労働条件が主な退職理由になるのは、日本で『職場での交渉文化』が非一般的だからではないかと思う。不満があっても、「こうしてください」と交渉することに不慣れで気が引けてしまったり、相談のチャンスがなかったりして、「自分の希望にあった職場を探そう」という発想になりやいのではないだろうか。
企業は働きやすい環境づくりのためにさまざまな制度を設けているだろうが、それを知らないまま「ここでは望む働き方ができない」と思ってしまう可能性もある。職場としては対応可能なことでも、「きっと無理だろう」と相談なしで退職する人だっているだろう。
ドイツでは採用面接の際、労働条件に関して話し合い、交渉するのが一般的だ。その条件を変えたくば再び交渉し、契約しなおす。『交渉』自体はごくふつうのことで、それ自体がマイナスにとられることはまずない(あまりにもワガママなら断られるだけだ)。
「労働時間について相談が」と言えば上司は時間をとってくれるし、必要とあらば人事と面談する段取りをつける。「まずは交渉、ダメなら退職」だ。
しかし日本では、そういった交渉文化があまり発達していない。それならば、定期的に面談をしたりアンケートで希望を聞いたりして、従業員がどんな働き方を望んでいるか把握する必要があるだろう。そういった話し合いを通じ、「時短ワークやリモートワークの制度もあるが興味はあるか」「有給休暇の消化率が低いが、休暇を取りづらい空気だろうか」など、ふだん話さないことも話していくと、さらにいい。
給料への不満は「透明性」がカギ
男性はとくに、給料の額に納得がいかずに退職することが多いのも見逃せない。給料面での不満というのは、額面の問題だけでなく、評価基準が曖昧で「自分の仕事が評価されていない」という気持ちもあるだろう。この不満を解消するためには給料アップが手っ取り早いが、根本的には「評価の透明性」の問題である。
ドイツでは2018年1月、同じ仕事をしている異性の平均的な給料を知ることができる権利が法律で保証された。男女の賃金差の是正と賃金体系の透明性を高めることが目的だ。この法律には批判や問題点もあり、一般的に浸透しているとは言いづらい。しかしこの権利について注目したいのは、「同じ仕事をしている」という点だ。ただ同じ部署にいる、同期である、といったことではなく、「同じ仕事」をしている人に限っている(正確にいえば「同様の」「比較可能な」仕事という意味あい)。
この表現には、仕事内容を契約書でしっかり規定しているうえ、個人の担当が明確で裁量権の所在がはっきりしているドイツの働き方が背景にある。
日本の典型的な働き方では、個人の仕事があまり明確になっておらず、「だれがこの仕事の何%やってどれだけ結果を出したか」がわかりづらい。年次によってある程度給料が決まることもあるだろう。そうすると当然、「自分の仕事は評価されているのか」という不信感につながりやすくなる。
裁量権をはっきりさせ責任を明確にし、さらに裁量権を渡すことで仕事を明確化する。そうすれば「その成果によって給料が決まる」ため、不満につながりづらくなるのではないだろうか。いきなり体制を変えるのはむずかしくとも、個人がどんな仕事にどれだけ関わり、それが成果にどれほど貢献したかの把握は必要である。
適切なコミュニケーションで信頼関係を
モチベーションに関しては、コミュニケーションを通じて信頼関係を築き、相談しやすい雰囲気を作るのが、ありきたりではあるが一番の方法だろう。
ドイツ語では、「Alles gut?」(問題ない?)、「Alles in Ordnung?」(全部大丈夫?)、「Läuft es gut?」(うまくいってる?)といった、進行状況や出来を確認する表現が多く、これらはオフィスで日常的に使われる。そしてこういった表現は多くの場合、個人個人に対して使われる。全体ではなくあくまで個人に、その人の仕事がうまくいっているのかを確認するのだ。
さらに、職場の雰囲気をよくするのもマネジメントの一環という認識なので、トラブルメーカーを放置していると、上司の評価が下がる。そのため管理職は職場の雰囲気をよくするために積極的にコミュニケーションをとるし、人事もその能力を加味する。
もちろん、日本でも同様に積極的に声をかけている人も多いだろう。しかし人材マネジメントの知識が乏しく、適切なコミュニケーション方法や対処法などのテクニックを知らない人も多いのではないだろうか。「できるだけ平穏に」と、問題行動が多い従業員を放置してしまっていることもあるかもしれない。
そんな人のために、指導係や管理職になる人に対し、人材マネジメント研修などを受けてもらうのもいいかもしれない。人間関係のトラブルやモチベーション管理に関して、外部の専門家を招くのも、ひとつの手段である。
オープンな姿勢が離職を防ぐのでは
人手不足を受け、離職率をできるかぎり下げたい企業も多いだろう。多くの人に長く快適に働いてもらうためには、退職理由となりやすい待遇面の不満とモチベーション低下を事前に防ぐ必要がある。
もちろん、従業員が望む労働環境や給料、職場の雰囲気を常に用意できるわけではない。しかし、「交渉のテーブルにつく用意がある」「悩みや不満を解消するための努力を惜しまない」「困ったときや迷ったときは相談にのるつもりである」という姿勢を伝えることは大切だ。
互いに遠慮せず、小さな不満や心配事を共有することで、退職に至る前に解決できることが増やせるのではないだろうか。
「従業員満足度」に関する記事
執筆者紹介
雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
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