リクルートエージェント「転職市場の展望【2020年版】」より
2020年転職市場の展望 ③総合電機・エネルギー他…理系人材の動向
2020.01.22
全4回にわたり、2020年の転職市場の動向をひもとく「2020年転職市場の展望」。
今回は「総合電機・半導体・電子部品業界」「素材・エネルギー」「ベンチャー領域(大学発、医療、農業・環境、ロボ、宇宙)の業界について解説した内容を紹介する。いわゆる「理系人材」を取り巻く転職状況は、今年どのように変化するのだろうか。その潮流を掴み、自社の採用に役立てたい。
【「2020年転職市場の展望」シリーズ一覧】
①転職市場の概況と、採用成功企業の共通点
②IT通信・コンサルティング・インターネット業界の動向
③総合電機・エネルギー他…理系人材の動向
④建築・外食業界の動向
総合電機・半導体・電子部品業界の動向
【Point】高スキル人材ニーズの高まり、教育前提の第2新卒採用のスタートなどの動き。
業界・企業側の動き
2019年は、業界全体の採用が活発だったが、2020年は採用が進む分野と採用が落ち着く分野が二極化するだろう。半導体分野は5Gの本格的な導入により再度需要が高まる可能性がある。
一部の企業では、CTOクラスの高度な技術と経験をもつ人材の採用や、フロントエンドエンジニア、サービス企画などピンポイントなポジションの採用が続く見通し。2019年に引き続き、デジタル化に伴いIoT・AI分野の事業を加速させるためデータサイエンティストやAI関連のエンジニア、SaaS事業のエンジニア経験者はニーズが高い。
また、一部の企業では、定年退職者の数が新卒採用者の数を上回ったことを背景に第2新卒採用がスタートしている。2020年もこの動きは当面継続しそうである。このような動きも相まって、企業全体で採用プロセスを最適化するために今まで事業所単位で採用していた各社が本社でまとめて採用活動をしていく動きがある。採用難易度の高いポジションには現場社員の力も借りながら採用を進める企業が増えてきている。
求職者側の動き
各社が事業変革を進める中で、自分自身の将来にわたるキャリアアップのために、培ってきた経験を他業界で活かしたいと考える30代後半~40代前半の転職相談が増加傾向だ。半導体エンジニアは比較的売り手市場であり、異業界への転職例も多い。業界の垣根も低くなってきており、化学業界やIT業界への転職事例も出ている。
また、ミドル層の動きとして、大手企業からベンチャーへ、今までの経験を活かしてさらに成長すべく転職していく例も生まれている。変化の予想される業界だからこそ、定期的なキャリアの棚卸しをしていくことが重要だ。
素材・エネルギー業界の動向
【Point】ESG関連の人材を求める動きは継続。5G向け素材開発人材のニーズも増加。
業界・企業側の動き
2019年はESG※が企業価値を図る指標として注目を浴び、ESG関連の求人は伸びた。各社がESG推進の部署を立ち上げたことで今までに無かった化学物質管理関連の求人も登場し始めている。このポジションでは品質管理経験者の女性の採用も複数みられた。2020年もこの傾向は続きそうである。また、新たにカーボンリサイクル関連の求人も出てくるだろう。
自動車関連の求人は2020年も引き続き継続することが予想され、電池開発、エンジニアリングプラスチックなど先端素材開発のエンジニアの募集はさらに過熱することが見込まれる。5G向け素材開発のニーズも出てきている。エネルギー関連の求人は伸びている。
再生可能エネルギーへの転換が図られている中、経験者のピンポイント採用は勿論、異業界からの人材も求められている。ヘルスケアやバイオ医薬の求人も堅調で、これまで新卒至上主義であった化学メーカーも、新卒採用以上に中途採用を強化するなど、採用変革を進めている。
企業側の変化として、今までは人事中心で採用活動をしていた企業が、それだけでは採用が困難になってきたことで、現場社員まで巻き込んで採用要件定義などを始めた。市況感に合わせた採用活動ができるかどうかが、採用成功への重要な要素となるだろう。
※ESG…環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもの。
求職者側の動き
元来人材流動性が低い業界だったが、ここ数年で、大手日系企業の求人が増加したことから転職に踏み切る事例が増えてきている。やむを得ず、というよりは新たなチャレンジや成長を描く方が多い。
ベンチャー領域 (大学発、医療、農業・環境、ロボ、宇宙)の動向
【Point】VCはネット企業だけでなくディープテック領域に投資をする流れが加速。不確実性の高い分野へも投資が進み、採用市場も拡大傾向。
大学発 ベンチャー
サービスの社会実装に向けて、新規事業開発責任者のポジション採用へ
大学の優れた研究力を背景に、近年大学発ベンチャーで脚光を浴びる企業が増えてきている。2019年まで技術に特化したエンジニア・研究者の求人が多かったが、技術の社会実装フェーズになったことで新規事業開発のポジションが出てきている。
背景には、いわゆるAIの社会実装については、顧客の事業課題の認識と、その解決方法としてのAIというステップが重要であり、それを顧客に導入できるための能力が、事業開発者個々のコンサルティング能力に頼るところが多くなってきているからと考えられる。
トップクラスのコンサルタントが入社するケースも少なくなく、社会課題解決に向けて大きなビジョンを掲げる企業へ期待が集まる。脱IT志向のエンジニアも明確なプロダクトがあるこの分野への転職は一定人気がある。
医療
社会貢献志向の求職者に人気。注目企業も多く、今後も大きな成長が見込まれる
ガンの自動診察やオンライン診察、難病治療、再生医療など、様々な分野で医療・バイオベンチャーの名前を目にする機会が増えている。VCだけでなく、事業会社も自社ではできない開発や新しいビジネスのチャンスとして、資金提供をする動きが強まった。医療領域も、技術をサービス化していくフェーズで新規事業開発のポジションのニーズがあり、社会貢献志向の求職者からの反応は良い。また、デジタル化の流れから、20年も引き続きITエンジニア・データサイエンティストの需要は高いままだろう。
農業・環境
農業ではソフトウェア領域だけでなく、ハードウェア領域の需要も高まる
【農業】業界・企業側の動き
世界的な人口増加により、食糧問題は大きな課題である。AgriTech(アグリテック)と呼ばれるこの領域では、農業にIoTを取り入れ効率化し生産力を上げる。ドローンなどのハードウェアプロダクト開発にも需要があるため、今までネット系を中心としたエンジニアが、リアルなプロダクト(ハードウェア)に関わりたいという意見が多くなってきている。
【環境】業界・企業側の動き
世界的に深刻な環境問題。化学業界でも触れたが、ESGへの意識向上も相まって、大手企業も持続可能な開発や環境への配慮には敏感だ。再生可能エネルギー関連企業では大手メーカーからベンチャーへ転職する例なども出てきている。
ロボット
労働人口の減少を自動化で解決
労働力不足を背景に、ほぼ全ての業界で自動化・ロボ導入のニーズは高い。特に製造・流通業は人手不足も深刻でニーズが高く、遠隔操作ロボや商品陳列ロボの開発などが進んでいる。この流れから、ソフト・ハード両面での人材ニーズがある。特に量産試作フェーズにおけるミドル・シニア層の採用が目立っており、大手企業で多種多様な経験を積んだエンジニアが、ベンチャーへ転職する事例も増加している。
宇宙
急拡大市場。民間企業参入も増加
2019年は宇宙ビジネスの市場規模は急拡大。日本でも民間ロケットとしては初めて宇宙空間に到達するなど、各企業の事業が加速している。また、宇宙ステーションでの作業用ロボット(アバター)や画像認識のAI導入も進んでおり、ロボティクスやAI人材など、異業界からの人材も求められている。日系の宇宙ベンチャーは、世界でみてもユニークな事業にチャレンジしている企業が多いため、ここ数年内で事業化できるかどうか、2020年は大変重要な一年になりそうだ。
※この記事は、株式会社リクルートキャリアが2020年1月16日に発表した「転職市場の展望【2020年版】(リクルートエージェント)」の内容から抜粋して紹介しています。
【編集部より】
理系人材の採用ノウハウに関する記事はこちら
【「2020年転職市場の展望」シリーズ一覧】
①転職市場の概況と、採用成功企業の共通点
②IT通信・コンサルティング・インターネット業界の動向
③総合電機・エネルギー他…理系人材の動向
④建築・外食業界の動向
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