企画

欲しい理系・専門職人材の中途採用できていますか?


老舗の優良素材メーカーに学ぶ「本当に欲しい専門職人材を獲得する」ために必要なこと

2019.12.16

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企業が「人材を選ぶ」時代が終わりつつあり、高い技術力を誇る優良なものづくり産業の多くも「選ばれる企業」への脱皮が求められている。

1935年(昭和10年)創業で、光学ガラス業界で高いシェアを誇るの株式会社オハラ(神奈川県相模原市)もここ数年、新卒・中途ともに採用難に苦しんできた。特に中途採用では、専門職であるがゆえに求めるレベルとフィットする人材に出会うのは至難の業。ところが、今夏の知的財産課の人材募集において、ある人材紹介サービスに切り替えたところ、たった1カ月で理想的な人材に出会うことができたという。

今回は、老舗の素材メーカーと一人の中途採用者の出会いの裏側を取材。変革に動き出した組織で人材育成と向き合う担当者の熱い思いを聞いた。【2019年11月7日取材、@人事編集部・飯塚陽子】

目次
  1. 課題は、BtoBの素材・部品メーカーならではの知名度の低さ
  2. スキルが高い人材がいても、「本当に欲しい」人材には出会えない
  3. サービス利用の決め手は「専門分野への理解の深さ」
  4. 求職者の思いとフィット。「目指す未来」の言語化で相思相愛に
  5. どれだけ良い会社でも、「“良い”会社」だけでは伝わらない
  6. 創業以来初の社外に向けたスローガンを定義。採用ブランディングも強化し、活力のある人材の獲得へ

課題は、BtoBの素材・部品メーカーならではの知名度の低さ

デジタルカメラのレンズをはじめとした光学素材を開発・提供するオハラは、光学ガラスの老舗であるが、近年は光学ガラスだけでなく、いわゆる特殊ガラスにも注力しているメーカーだ。アポロ11号への搭載など宇宙事業の実績も豊富な優良企業だが、人事部人事課長の菊池一樹さんは「新卒採用は高卒を含めて年10人程度採用していますが、母集団が少なく、希望通りの人員が獲得できないことも増えてきました」と採用難の現状を打ち明ける。

一方、各部門に欠員が出た年に若干名募集するという中途採用においては、専門職のために求めるスキルが詳細になってしまい、理想的な求職者に出会える確率が低くなる。新卒・中途ともに、BtoBの素材・部品メーカーであるゆえんの「知名度の低さ」にも直面していた。

写真:OHARA(オハラ)の事業

オハラは、光及びエレクトロニクス事業機器向けガラス素材の製造・販売を行う

今回募集したのは、開発した技術や発明の特許出願から管理までの実務を担う知的財産課の人員。単に権利を蓄積するだけではなく、係争対応や知財活用など戦略的な思考も求められる特殊な職業と言っていいだろう。知財課課長の柳川慶一さんは「当初は20代の若手を希望していたため新卒採用も考えましたが、実際は難しかった。ならばと知財の経験もありつつ、柔軟に学ぶ姿勢のある中途採用に切り替えました」と振り返る。ところが、しばらくはなかなかフィットする人材に出会えなかったという。

スキルが高い人材がいても、「本当に欲しい」人材には出会えない

自身も中途採用で、企業と特許出願事務所での勤務経験がある柳川さんが今回求めた中途採用人材のポイントは明確にあった。

  • 理系の知識が偏っていないこと。無機化学がメーンだが、むしろ現在の課員に不足している機械、電気、物理にも対応できれば好ましい
  • 現時点では分野によって苦手意識があっても、将来的にはレベルが高い案件でも対応できうる、挑戦意欲がある人
  • 自分の意見を明確に伝えられる姿勢がある人。過度に自分流が前面に出過ぎない柔軟性がある人
  • 弁理士試験を目指す等、知財業界という視点で自分のスキルを高めようとする意欲がある人
写真:弁理士資格を持ち、特許事務所での勤務経験もあるOHARA(オハラ)の柳川慶一さん

弁理士資格を持ち、特許事務所での勤務経験もある柳川さん

専門職の中途採用となると「スキルの高さ」が優遇されると思いがちだが、求めたのは「柔軟性」や「適応力」だった。大手サイトや知財人材の専門サイトで募集したところ、一月あたりで3~4人応募が来たものの、若くて45歳前後。「経験はあっても職人気質の人ばかりで違和感しかありませんでした。中途採用ではこうなってしまうのか、と絶望的になりましたね」とミスマッチが続いた日々を振り返る。

サービス利用の決め手は「専門分野への理解の深さ」

柳川さんが頭を抱えたのは、人材紹介サイトの担当者が「専門職の人材の特殊性を理解していなかったこと」だった。例えば、知財人材には企業の知財課で働く人と特許事務所で働く人で“気質”が大きく違うのだという。オハラが求めたのは特許事務所で磨かれた特許出願等のスキルよりも、企業の知財課で社内のさまざまな部署と渡り合いながら苦手分野に対しても学習意欲がある柔軟性だ。

写真はイメージ

写真はイメージ

行き詰まっていたときに出会ったのが、アスタミューゼ(東京・千代田)が運営するサービスの一つ「知財・弁理士お仕事ナビ」だった。昨年8月、担当者に採用の窮状と欲しい人物像を詳細に伝えたところ、業界の事情に詳しく「初めて伝わった、と感じました」。そして、その打ち合わせからすぐに、実際に採用に至った永島さん(20代後半、女性)の履歴書が届き、柳川さんは思わず心の中でガッツポーズした。これまでの人と全く違ったという。

「まず、履歴書の素直な文章が良かった。できること、できないことが明確に書かれていました。経験者の場合、自分の経歴や実績ばかりを誇張気味にズラーッと書いてある履歴書が多く、未経験者の場合、ガラス業界の事情もよく知らないはずなのに、取ってつけたように『〇〇にも興味がある』と書いているような少し白々しいものが多いのです。永島さんの場合、前職での知財の経験を有しつつも知財業界に染まっていない、内に秘めた挑戦意欲が伝わってくるという印象ですぐに会いたくなりました」

最初の打ち合わせから1カ月後の9月に初めて面接で永島さんと対面。「知財業務への興味と向上心、それを裏付ける経歴」「自分の意思を明確に伝える会話力」「弁理士(※)の資格取得への意欲がある」など、まさに柳川さんの理想通りの人柄で「ことごとく、私のポイントをクリアしてくれました」という。面接を重ねて今年1月、知財課のメンバーとして迎えることができた。

※特許・実用新案・意匠・商標について特許庁に対する申請・出願などの事柄を代理して行う士業

求職者の思いとフィット。「目指す未来」の言語化で相思相愛に

取材では、入社10カ月になる永島さんにも話を聞いた。理系の出身であり、前職でも企業での知財業務の経験があった永島さんは、子育て中ということもあって通勤時間の問題などから転職。ただ、一般の求人サイトで知財の求人はなかなか見つからず、エージェントに相談しても「相手に知財関連の知識がなく、自分の要望が伝わらず苦労した」ため、アスタミューゼが運営する知財専門転職サービス「知財・弁理士お仕事ナビ」に切り替えた。
永島さんが希望していたのは、

  • 今までの経験を活かせる、知財課での勤務
  • 実務経験は浅いため、即戦力ではなく意欲を認めてもらえるところ
  • ビジョンがしっかりしており、目指す方向を社員が共有している企業

という3点。「知財・弁理士お仕事ナビ」では、他サイトにはなかった「企業の知財部」という条件での求人抽出ができ、使い勝手が良かったという。

写真はイメージ

写真はイメージ

永島さんの応募の決め手は、オハラが出した「10年後の知財部門を牽引していただける方」というコピーだった。「即戦力ではハードルが高いけれど、10年後なら大丈夫かな、と。アスタミューゼのキャリアカウンセラーは技術分野や条件だけではなく、『企業が目指している姿』を分かりやすく伝えてくれ、私の将来を見据えて転職について真剣に対話をしてくれました。そのお陰で、自分自身も何を目指していくのか、この企業で何をしたいのかが明確になりました。最初は社名を知らなかったのですが、世界的なレベルを誇るメーカーの技術を支える一員になりたい、と思いました」。
成功のポイントは互いの思いを言語化できたこと。“相思相愛”の出会いが、サービス利用から面接まで1カ月という短期間で生まれることになった。

どれだけ良い会社でも、「“良い”会社」だけでは伝わらない

柳川さんは今回の中途採用において、「適応力」「柔軟性」に加えて「挑戦意欲」を求めていた。そこには、自身も中途採用からオハラに入って15年の間に感じてきた思いがあったという。「当社には歴史があるがゆえの保守的な体質もあると感じています。もちろん、それら歴史や蓄積のおかげでこの業界をリードしていける良い面もあるのですが、新人にはそれに満足せず、それを壊して生まれ変わらせていく気概を求め、私自身がその環境を作っていく役割があると思っていました」と力を込める。

柳川さん自身、新卒採用での自社の課題について痛感していたことがあったという。1年前にある地方の国立大学で、学生向けに会社説明会を担当したときのこと。技術力の高さや社員の満足度が高いこと、都心からのアクセスもよく労働環境や福利厚生もいいことなどを伝えたが、現場で学生の反応が全くなかった。「当社のことを知っている、興味がある学生がほとんどいないんです。これでは意欲のある人材が集まるわけがない」と、愕然とした。

写真:OHARA(オハラ)の人事部人事課長の菊池一樹さん

人事部人事課長の菊池さん

社内にいると「歴史がある」「技術でリードしている」といった環境にどうしても満足してしまう。ここで胡座をかいていてはイノベーションを興す人材は集まらないのではないか。柳川さんのそういった思いは、新卒採用で「希望の人員に満たない」という壁にぶつかっていた人事部も同じだった。それらも一部の理由となり、昨年から社を上げて一大プロジェクトを発足。「世の中にオハラの名前を広めるべく、創業以来初めて社外に向けてのスローガンを打ち出し、ブランド力を発信していくことになりました」と人事課長の菊池さんは説明する。

創業以来初の社外に向けたブランドスローガンを定義。採用ブランディングも強化し、活力のある人材の獲得へ

プロジェクトでは、スローガン「ひかる素材で、未来をひらく」を策定。今年12月にはコーポレートサイトを一新し、2020年は海外拠点も含めて「ALL OHARA」でブランド力を高めていくという。狙いの一つは知名度の向上、そして求める人材像の可視化だ。
菊池さんは「これからは、スローガンのようにポジティブな印象で社内外にブランド力を発信し、意欲や活力のある人材を採用して未来を切り開いていけたら」と話す。今回の知財課での永島さんの採用は、そういった社内改革を背景に「将来の会社を切り開く人材」として行われたものでもあった。

写真:OHARA(オハラ)のホームページ

2019年12月にリニューアル予定のオハラのコーポレートサイト

世界に誇る技術や素晴らしい労働環境があっても、PR力が足りなければ人材から見過ごされてしまう時代だ。「どんな未来のために」「どんな人材が必要か」のビジョンを的確に示さなければ、欲しい人材とは出会えない。アスタミューゼの事業部推進本部リーダーの大塚義光さんは、理系・専門スキルを持った求職者側の動きについて「『大企業だから、年収が高いから』だけではなく、企業がどういうビジョンを持ち、どういう価値を提供していくのか、そのなかで、自分の技術やスキルがしっかりと生かされ未来を少しでも良くできるのか、という自分の意思で企業を選んでいく傾向が徐々に高まっています」と話す。

理系・専門スキル人材では同業種から欲しい人材を採用することも難しくなってきており、異業種からの人材確保も今後の採用で重要になってくる。その際にもカギとなるのが、ビジョンであり、具体的な将来に向けてのメッセージだ。採用をエージェント任せになるのではなく、採用ブランディングをエージェント利用時でもしっかり生かすことが、生き残るための条件になっていきそうだ。

株式会社オハラ

・設立:1935年10月
・事業内容:光及びエレクトロニクス事業機器向けガラス素材の製造・販売
・従業員数:466人(19年11月現在)
・本社所在地:〒252-5286 神奈川県相模原市中央区小山1-15-30
・HP:http://www.ohara-inc.co.jp/jp/

エージェント紹介

写真:アスタミューゼ事業推進本部 リーダー大塚義光さん

大塚義光さん
事業推進本部 リーダー

前職は小売業にて、店長業務に従事。
2017年にアスタミューゼにジョイン。2018年からリーダーとして、戦略人事採用、キャリアカウンセリング、SCOPEの営業推進をリーダーとして行っている。特に企業の知財戦略部門、弁理士資格を持つ人材の採用で、日本全国の企業の知財部、弁理士事務所に対して、サービス提供を行っている。

サービス情報

「知財・弁理士お仕事ナビ」

・運営会社:アスタミューゼ株式会社
・サービス内容:業界未経験の若手研究者や知財業界での実務経験者を対象とした、知財専門の転職サイト
・HP:https://www.chizai-job.com/

写真:アスタミューゼの「知財・弁理士お仕事ナビ」HP


「SCOPE」

「実現したい未来」「解決したい社会課題」でつながる転職へ

写真:アスタミューゼの「SCOPE」HP

アスミューゼは2019年年5月に新たな採用プラットフォーム「SCOPE」をローンチ。これまでのような「年齢」「給与」「転職回数」といった条件ではなく、自身が取り組みたい「社会課題」と、キャリアで築いてきた「技術・スキル」を軸に、ヒトと企業が実現したい未来でつながる採用プラットフォームを提供している。
・HP:https://career-scope.jp/


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