令和時代に求められる人材育成と学びの姿勢
変わり続けるビジネス環境で生き残るために 個人と企業が目指すべき学び方と育て方
2019.12.13
11月26日に首相官邸で行われた就職氷河期世代支援の推進に向けた全国プラットフォームで、安倍晋三首相はかねてより推進するリカレント教育の重要性について言及した。政府が「学び直し」を推進するのは、雇用強化のみならず、社会人一人ひとりのキャリアアップや生産性向上につなげたいねらいがある。
いま、企業の人材育成は転換期を迎えている。従来の、教える側が責任を持って教えこむスタイルの人材育成は、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変わる時代に対応できない。刻々と状況が変わるなかで、自ら学ぶべきことを見出し、進んで学んでいく姿勢を持つ人材を育てていかなければならないだろう。では、そういった人材はどう育てれば良いのか。
20年以上にわたり、大手企業を中心に企業の人材開発を数多く手がけてきた株式会社セルムの加島禎二氏が、令和時代に有効な「個人と企業が目指すべき学び方と育て方」を提案する。
【関連記事】人材開発が行うべきことは、理想を持ち、夢中に仕事に取り組める人・組織をつくること
これからの学び方・育て方とは 自発的な動きを起こし、後押しすること
今、「社会人の学び直し」が、個人にとっても企業にとっても重要なキーワードとして挙げられています。「社会人の学び直し」とは、新しいビジネスへの対応や、ますます長くなっていく職業人生を支えるための新しい知識やスキルを学ぶこと、と捉えられているのが一般的です。しかし、知識やスキルだけでは、これからのビジネス環境に対応しきれないように思います。
今のビジネス環境は変化が常態化しています。刻々と局面が変わり、1つのビジネスの寿命もますます短命化していくはずです。そんな状況の中では、自分たちは何をしたいのか、どうすればいいのかを探りながら、どんどん既存のやり方を変化させていくことが唯一の成功条件となるはずです。
ですから私は、これから必要な学び方・育て方とは、目的や課題設定を自ら行い、進む道筋を探りながら進んでいく探索的な学びをおこし、いかにそれを持続させるかということだと考えています。
知識やスキルを学ぶのであれば、ある程度受け身でもいいのですが、探索的な学びとなると、個人が自発的にやりたいと思わない限り、何もスタートしません。ですから、個人は学ぶということを捉え直さなければいけません。一方で企業側も、ミドルマネジメントの変革を始め組織・人材開発マネジメントのあり方を変えていく必要があります。
【個人】自分を、変化を起こせる人材にする
まず、個人は自分の価値を高めるために行動すべきです。自分の価値を高めるとは、自ら学び、その結果として変化を起こしていける人材となることです。
既存の枠から少しはみだす
自発的な学びは、何かに夢中に取り組む中でしか起きないと言われています。何に、いつ夢中になるかは人それぞれです。ですが、人が夢中で取り組む状況には共通点があります。
例えば中高生の頃などに、それまでの自分の枠から少しはみだした行動を起こした時、ドキドキワクワクした記憶を持っている人は多いでしょう。少し不安だけどやってみたい!そんな気持ちで夢中で取り組んだのではないでしょうか。
つまり、自発的な学びが起きる共通の状況の一つは、今の業務からはみだして何かを企むような行動を起こすことです。組織側が用意した場だと、どうしても仕事として責任や成果を求められるようになり、ドキドキワクワクする気持ちが減ってしまいがちだからです。
とはいえ、自ら枠からはみでた行動を起こしさえすれば、必ず学びが起きるというわけではありません。例えば、外部の交流会にたくさん出席していても、ただ名刺が増えるだけという人も多くいます。それは、その人の中に、会った人に訴えるような軸となる想いがないためでしょう。
「自分はこんなことを考え、行動を起こしているが、こんなことに悩んでいる。」そんな、その人なりの軸や課題が相手に見えると、周囲は「この人はこんな人なんだ」という「タグ付け」をします。それがなければ、会った人からチャンスが巡ってくることはないでしょう。この点は、よく自覚しておく必要があります。
アウトプットをする
既存の枠をはみ出して活動する手段は、以前とは比較にならないほど多くなりました。 SNS で誰とでもつながることができますし、勉強会や交流会、組織を超えたコミュニティもあちらこちらにあります。
つまり人と人が繋がるコストや既存の枠をはみ出るコストは、以前とは比べものにならないくらいに下がっているのです。しかしそのために、ずっと何かを探し続けることもできてしまいます。ですから、どんどんアウトプットをしていくことが大切です。
アウトプットとは、自分の主張を表明し、目の前の相手に何らかの変化を起こすことです。相手を動かすためには、自分の考えを整理したり深めたりする必要があります。アウトプットをすることで、自ら気づき、学びが促進されます。
また、アウトプットによって相手を動かすには、期限をつけてコミットメントを表明することも重要です。それが、相手の信頼を生み、あなたの意見に賛同するための心理的ハードルを下げるからです。例えば、何社もの赤字会社の再建を果たしたある方は、「1年間だけ自分に委ねてほしい、などと必ず期限とセットで話をする」ということを自分のルールにしていると言っていました。
学びの最大の阻害要因は、失敗への恐怖心
枠を超えてアウトプットをすると、周囲に叩かれる場面も当然多くなります。「失敗を恐れるな」とは最近よく聞く言葉ですが、そうはいっても失敗は怖いのが人情でしょう。リスクや失敗をどう捉えるかは、学びを継続するためにとても大事なポイントとなります。
私は仕事柄、企業のリーダーのインタビューをすることが多いのですが、必ずといっていいほど、うまくいかないことに悩んだり苦しんだりしたエピソードを伺います。そしてそれは自分が一番成長した時期だったと、皆さんが口を揃えます。私はそれをリーダーとしての青春時代と呼んでいます。
よくいわれる例えですが、竹は節目があるから強いのです。うまくいかずに悩む時期は節目をつくっている時期です。必要なことなのです。悪い結果を予想して怖がるより、やるべきことに夢中に取り組むことの方が大切です。
そしてもし、うまくいかないことがあっても、隠すのではなく周囲と共有すべきです。必ず共感を示してくれる人がいるはずです。お互いに学びを得ることが出来ますし、それが同志を得ることに繋がるかもしれません。何よりひとりで抱え込むストレスを軽減させることができます。
【企業】個人を活躍させる組織をつくる
働く個人が夢中に仕事に取り組むことができれば、会社は強くなり、もっと個人や社会にも優しくなれるという関係があります。「人」が起点、スタートなのです。
権限移譲ではなく、「託す」マネジメントへ
まず鍵となるのは、職場の要であるミドルマネジメントです。彼らが、これまでの職責に真摯に向かい合ってきたということには疑いがありません。ですが、そのあり方をこれからバージョンアップする必要があります。
権限移譲という言葉がありますが、これは自分ができることをメンバーに移すということを意味しています。しかし、成果がすぐに求められる昨今、自分の方がうまくできると思っている限り、相手に任せることはできないでしょう。ですからこれからは、自分ではできないということを認めて、相手に「託す」ことが大切です。
「託す」といっても、関わることを止めるということではありません。経験や人脈が必要なことについては、もちろん今まで通りの支援が必要です。大切なのは、自分の成功体験は古いかもしれないという謙虚さを持って、自分が学ぶ姿勢でメンバーと相談し合い、その上で託すことです。託されたメンバーは、今までのような権限移譲よりたくさんのことを考え、学ぶはずです。職場の信頼感も、このようなミドルの姿勢から生まれるのではないかと思います。
組織の中に探索の場を多く作る
画期的なアイディアほど気軽な会話の中から生まれます。それは数多くの事例が証明しています。私が、「今日の打合せは実りも多かった」と思う打ち合わせは、大抵は気軽な会話が行われた時です。
気軽な会話とは、「自分はこんなことをやっている」「責任範囲はここ」「こんなことに悩んでいる」といったことを、オープンに語り合うことです。そして、お互いに質問し合ったり、共感したり、興味をかきたてられたり、アドバイスを伝え合う。これは個人的に親しいかどうかに左右されることではありません。
そんな会話が起こる環境を、組織の中に多く作っていくことが必要です。OJTとは違います。そもそも OJT は仕事のやり方を教え覚えるというものであり、メンバーの学びを深め、変化を起こせるような学びにはなりにくいものです。
ですから、事業開発などのようなディスカッションの場や、個人の関心や状況に寄りそう1on1ミーティングの場などを、意図的に設定していくことが必要でしょう。
個人を魅了する事業目的を明示する
今、多くの企業にとって優秀な個人を惹きつけ、力を発揮してもらうことが課題になっています。そのために、タレントマネジメントなどの整備が進められていますが、それよりも大事なのは、彼ら(彼女ら)を惹きつけ、魅了する事業目的を明示できているかどうかだと思います。
個人を魅了する事業目的とは、 拡大目標やナンバーワンといった類ではありません。例えば、トヨタに入社したAI界のタレントであるギル・プラット氏は、「死亡事故をゼロにする」ためにトヨタに入り、「高齢者がタイムマシンで20年前に戻ったかのように運転できる車を目指す」という開発コンセプトを打ち出して(※)います。そんな事業目的に魅了されて集まった人は、自発的に行動し、知恵を出し合い、試行錯誤も自然に起こるはずです。
個人と企業が目指すべきなのは、究極的にはそんな状態なのではないかと思っています。
※「INSIDE TOYOTA」(2019.8.21)https://toyotatimes.jp/insidetoyota/031.html
【編集部より】加島氏およびセルムグループの関連記事はこちら
執筆者紹介
加島 禎二(株式会社セルム / 代表取締役CEO) 神奈川県生まれ。1990年に上智大学文学部心理学科を卒業後、リクルート映像に入社。営業、コンサルティング、研修講師を経験。1998年セルムに入社。企画本部長、関西支社長を経て2010年代表取締役社長に就任(現職)。CELM ASIA 取締役、升励銘企業管理諮詢(上海)有限公司 総経理を歴任。一貫して「理念と戦略に同期した人材開発」を提唱し、20年間に亘って、次期経営リーダーの開発や人材開発体系の構築、グローバル人材育成、理念浸透、組織風土変革などに携わる。顧客のプロジェクトの最前線に立ちつつ、優れた経営と強い事業に貢献する人材開発のあり方について、積極的に発信を続けている。
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