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就活ルール廃止時代に求められる人材採用・育成・組織開発


就活ルール廃止を見据え、採用から研修を一気通貫で考える

2019.05.17

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就活ルール撤廃がいよいよ来年に迫ってきた。人事担当者は目の前の20年卒採用や、今春入社の新入社員研修に追われながらも、来年に向けた採用・育成計画も考えていかなければならない。

20代半ばから30歳手前ぐらいまでのヤングリーダーの創出を実現する取り組みを得意とし、国内最大規模の17,000人の新入社員研修(4月のみで)を手掛ける、ファーストキャリア社長の瀬戸口航氏に、就活ルール廃止時代を見据えた、採用・人材育成の対策を聞く。

瀬戸口 航(せとぐち・わたる)

ファーストキャリア代表・瀬戸口航氏

株式会社ファーストキャリア 代表取締役社長
株式会社セルム 執行役員
大手コンサルティング会社にて自動車業界を中心に新規事業開発支援・ビジネスプロセス構築などの各種コンサルティング業務に従事。事業会社を経て2010年にファーストキャリア入社。16年4月より現職。大手企業を中心に新人、若手人材の育成支援施策のコンサルティング、及び教育研修体系の構築を手がける。

関連記事:大手企業が優秀層をつなぎとめる3つの施策とは。研修設計からはじめる若手社員の離職防止

目次
  1. 情報感度が高い学生がスタンダートに。恣意的情報は見抜かれる
  2. 成長志向だからこそ、早期戦力化よりも早期のリーダー育成
  3. 採用軸のブルーオーシャンを見つける

情報感度が高い学生がスタンダートに。恣意的情報は見抜かれる

―ここ数年の新入社員・内定者の傾向をどう見ている。
まず、我々は例年4月の1カ月だけで、約17,000人の新入社員研修を実施しており、毎回、直後の5月くらいにレポートをまとめています。また、内定者については、内定式が終わったあとに30~40人くらいを集めて個別インタビューとグループディスカッションを通じてレポートをまとめており、その結果から見えた傾向を紹介しています。

ここ数年の新入社員の特徴は、一言でいえば、「真面目で素直」です。加えて、情報に対する感度が高く、業務遂行におけるポテンシャルが高いとも言えます。一方で、ガイドやルールがきちんと決められたものの中で、しっかりとこなす、またはやり遂げようとする中、前提条件が整っていないと、躊躇してしまう傾向も見受けられます。いずれも、周囲との協調性を重視している点は多くの新入社員から見受けられる傾向です。

強みは、理解吸収が早い点、弱みは自分で考えて、自分でより良い方向に進めるところが苦手である点です。100点の基準を自分で設定してしまい、そこを目指すために95点くらいで終わってしまう。120、140点にしようというところがなく、小さくまとまってしまう傾向があります。
ただ、これは2018年卒の新入社員に限ったことではなく、5年ほど前から共通した特徴としてありました。1つ言えるのは、この1、2年で強まってきているという印象はあります。

着目点を挙げるとすれば、2018年卒は初めて小1から高3までの全教育課程でゆとり教育を受けてきた世代。2019年卒は高2でゆとり教育が終わっています。今後はそこでの変化が少しずつ出てくるかもしれません。

次に、就活に関しての傾向は、デジタルネイティブ世代で情報収集の仕方も慣れており、情報に対しての感度が高まっている点が顕著に出てきています。企業側が思っているよりも学生は情報を調べており、情報格差のない学生をターゲットにしていくことを認識する必要があります。

特にこの1、2年で感じているのは、学生は自分たちが触れる情報は「恣意的なものか」「何かのバイアスが掛かっているものか」に気付いていることです。例えば、会社説明会で「我が社はフラットなコミュニケーションで」と人事担当者が言っていたとしても、「本当かな」と、説明会が終わった後に、その場にいる会社の関係者間同士でのコミュニケーションの実態を冷静に見極めようとしているような学生が増えてきています。

ただ、たくさんの情報を集め過ぎてもすべて処理しきることはできないため、基本は「二項対立」の考え方をしています。自分にとって価値があるかないか、必要か必要じゃないか、意味があるかないかで、取捨選択し、残ったものを「それらしい良いもの」と選択する傾向が見受けられます。

また、内定者に「就活を頑張ったか」と聞くと、皆、「頑張った」と答えますが、かつては頑張ったものが「自己分析」だったのが、今は「たくさん情報を集めた」ことを指していることが多く、ゆえに表面的に企業を選択してしまっている可能性は考えられます。

―表面的ゆえにどのようなリスクが生まれるのか?
たくさんの情報を集めるからこそ、就活もあくまで選択肢の1つとして見ているかもしれません。就活で入社する一社を選び出すことが、一生を決める選択として捉えず、(転職で)何回もやり直しが利くから「まずは飛び込んでみよう」と考えます。言わば、キャリア形成の仕方がアジャイルになっている。そんな印象が強くなってきています。

VUCAの時代と言われる中、ビジネス環境に適応し、生き残りに向けた正しい選択の1つかもしれません。ただ、懸案されるリスクの1つ目としては、最初に入社した会社で踏ん張ろうとせず、安易に離職を考えてしまうこと。2つ目は、可能性として、先輩社員から、腰掛け期間とみられてしまい、本来なら与えられるであろうやりがいのある仕事やプロジェクトを任せてもらえず、本人にとってキャリアを積む機会の損失にもつながりかねないことです。

―その他にも何か特徴として表れている点は?
この1年くらいで強く見えてきた傾向として企業選びの際に「社会的意義があるかどうかを重視している」ことが挙げられます。
いくつか要因はありますが、アルバイトをしない学生が増え、お金にあまり執着しないからかもしれません。どれだけ稼げるかよりも、その会社が社会にとってどれだけ存在意義があるのか、そこに入ることで自分も社会貢献できるのかを考えるような学生が出てきています。

今は身近にNPOや、地域創生、地域貢献を行う学生団体も増えています。そのような環境で育ってきているため、社会的意義や自分が貢献できるかにも目を向けながら就活をし、入社してきているのが最近の特徴だと考えています。

成長志向だからこそ、早期戦力化よりも早期のリーダー育成

ファーストキャリア代表・瀬戸口航氏インタビュー

―傾向に対して、いまの研修の在り方をどう見ているのか。
入ってくる人材の傾向は緩やかながらも変化はありますが、企業が研修に求めるものは、総じてあまり大きく変わっていません。まず、そこでの発生しているギャップがどんどん大きくなっていることに気付く必要があります。

人事の考え方として、毎年、採用した新卒社員が現場で活躍できるよう基本的な教育はする、というのは昔から大きくは変わっておりません。
ただし、入ってきた若手を「とにかく上手く現場で活躍できるように」という考え方にとらわれ過ぎると、入社後の配属先を想定した限定的な人材育成になってしまいます。会社の将来を引っ張るような、飛び抜けたリーダーは創出しにくくなり、いわゆる、「その会社っぽい人」だけが残っていく傾向が繰り返され、イノベーティブな人材は離れていってしまいます。
それゆえ、イノベーティブな人材を育成していこうと、新しい施策に着手している企業が増えてきています。

状況の打開策として、早期戦力化ではなく、早期からのリーダー候補人材育成という考え方が大事になってきます。内定者期間も含め、採用から育成までを連動させて設計していくことです。これは、就活ルールが廃止された場合も見据えて、今のうちから多くの企業が考えなければならないことだと考えています。

―なぜそう思うのか。
就活ルールが廃止になったとき、これまで行われていた早期の内定出しがさらに早期化します。その結果、内定出しから内定承諾までの期間、内定承諾から入社までの時間が長くなることが想定されます。この時、内定者が入社したときの期待値を考える時間や、ロールモデルの先輩と触れあって自分のより良いキャリアをイメージさせるような機会を提供できる会社であれば、内定辞退せずグリップすることができるでしょう。

逆に言えば、とりあえず内定を出し、入社までは特段何もフォローしない企業は、おそらく他社に学生が流れていってしまうリスクが想定されます。
そのため、採用と研修がセットというよりは、採用から内定者へのアプローチ、入社後の育成、研修までを一気通貫で考えていく必要があるということです。

すでにいくつかの会社は、全ての新入社員に対して採用から研修までを一気通貫して実施しています。しかし、企業規模が大きいところは数百人、数千人と採用人数が多いのため全員には実施しきれていません。一部のリーダー候補人材のようなグループを対象に始めている企業はあります。この早期選抜の考え方は、「ファストトラック」と呼ばれて、外資系企業では昔からこの育成手法を実施しています。
ただ、日本企業の文化には馴染まない部分もあるので、自社の文化と調和させながら設計していく必要はあると考えています。

採用軸のブルーオーシャンを見つける

―中小企業ができることは何か。
採用については、これまで有効だった、人事担当者の魅力発信に加えて、やはり成長環境とロールモデル、この2つがカギを握ると思います。大企業にはない良さを打ち出すことが重要です。

大企業と比べて中小企業は、採用した人材に対して、より早期から求められる責任と与えられる裁量が大きいこと点が魅力の1つです。そういう成長環境がある点をしっかりと示していくことでしょう。あわせて、大企業と同じもしくはそれ以上に、同じ年齢の先輩が大きい仕事を任されている姿をロールモデルとして示すことが重要です。

人事担当者としては、入ってくる学生が少しでも長く働いてほしいため、ロールモデルとして登場させる社員の条件をどれだけ勤続年数が長いかで考えがちですが、それは止めた方が良いです。優先して考えるべきは、会社のビジョンを体現し、価値を発揮しているかどうかです。

ファーストキャリア代表・瀬戸口航氏インタビュー

学生の受け取り方として、個人の考え方と会社の方向性が合致したうえで、会社も個人もお互い影響しあいながらより高め合っている関係が見えた方が魅力的に感じます。学生には、個人のビジョンと会社のビジョン、それがうまく組み合わされて成長していけるようなイメージを持てるよう、ロールモデルの先輩を通じて意識させることが重要です。

もう1つ加えるとすれば、企業なりの強みとブランディングを明確にして、それを学生に伝えることです。
いまは働き方改革の影響か、多くの企業で「残業があるかどうか」「休みは年間どの程度とれるのか」の情報が前面に出ている印象があります。しかし、それよりも「会社名は知られていないが、誰もが知っている商品に使われている部品を作ることができる」とか、「本当に尖った技術者が必要なので新卒でもその技術開発プロジェクトに参画できる」のように、自社が欲しい人材に対して、他社にはない特徴をダイレクトに伝えていくことをまずやってみることです。

同じような考え方で、地方企業であれば、地場産業の強みを生かし、その地域で活躍したいという学生を惹きつけることはできるはずだと考えます。

中小企業は学生が企業選択をする際に生きる、何かしらの比較しやすい軸、自分たちが勝負できる比較軸を用意することが大事になります。要は、ブルーオーシャンで勝負することです。事業のブルーオーシャンではなく、採用軸のブルーオーシャンとして、「我々はこういう人材を採りたいんだという」という他社との違いを1つでも打ち出せれば、中小企業が採用力を高めるポイントになります。

とはいえ、客観的に自社の魅力やアピールポイントを見出すことは難しいかもしれません。ただ、そのアピールポイントは、何も事業や商品に限りません。例えば、「新入社員でも、週に1回は必ず社長と30分話せる」というメッセージは、経営感覚を若いうちから少しでも身につけたいと考える学生からすると、トップまで何階層とある会社よりも、自分の存在意義を示しやすいと捉えるかもしれません。
まずは、自社の魅力を客観的に分析し、表現してみることから始めることが重要だと思います。
(2019年2月13日取材)

【企画・取材:@人事編集部】

>>>就活ルール廃止時代に求められる人材採用・育成・組織開発
「就活ルール撤廃」は採用と組織をゼロベースで見直す絶好の機会

企業情報

株式会社ファーストキャリア
事業内容:ファーストキャリア構築期人材の成長支援、プロフェッショナル化支援
本社所在地:東京都渋谷区恵比寿1-19-19 恵比寿ビジネスタワー7F
設立:2006年8月
HP:http://www.firstcareer.co.jp

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