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特集

「令和時代に必須! ハラスメント対策最前線」


中小企業でもできるハラスメント対策は? 佐々木亮弁護士が徹底解説(下)

2019.08.09

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ハラスメント防止法が成立し、大企業が2020年6月、中小企業は2022年4月からパワハラを含むハラスメント防止の具体的な対策が必要となる。「すでに働き方改革への対応で手一杯!」という現場も多い中小企業はどんな対策をすればいいのか? 炎上したカネカのパタハラ問題も例に、パワハラ訴訟のスペシャリスト・佐々木亮弁護士に人事・経営者が取り組むべき具体策を聞いた。【2019年6月27日取材:@人事編集部・長谷川久美】

※これまでの記事はこちら
パワハラと指導の違いは? 6種類のパワハラを佐々木亮弁護士が徹底解説(中)
パワハラ防止法とは? 定義は? 佐々木亮弁護士が企業対策を徹底解説(上)

【特集】「令和時代に必須! ハラスメント対策最前線」(特集記事一覧)

目次
  1. パワハラの相談は年間8万件超、なぜハラスメントは減らないのか?
  2. パワハラにあたる言葉かどうか、アウトかセーフか線引きをしようとする時点で意識が低い
  3. カネカのパタハラ問題は法律以前の話、まともな人事なら解決できた
  4. 中小企業こそハラスメント対策の主役! 研修参加に社長の教育も人事のミッション

佐々木亮(ささき・りょう)

弁護士。日本労働弁護団常任幹事。労働事件・民事事件を中心に扱い、ハラスメントに関する事件を多く担当。2013年に、長時間労働やパワハラなどの労働状況を支援するブラック企業被害対策弁護団を結成、代表を務める。

パワハラの相談は年間8万件超、なぜハラスメントは減らないのか?

――パワハラは過去に比べてどれくらい増加しているのですか?

厚生労働省の発表によると「職場のいじめ・いやがらせ」に関する相談は年間8万件で、過去最多。相談件数は年々増加し、セクハラなどの他の相談と比べてもパワハラはうなぎのぼりの独走状態が続いています。

「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

――パワハラはなぜ増えているのでしょうか? 若い世代と団塊世代の意識の違いも原因のように思えますが…?

 まず、デジタル化される前の社会とは時間の進み方が違っているという背景があります。今では信じられませんが、電子メールもPCもまだ普及していなかった昭和の時代、宛名を書いて郵送する作業だけで一日が終わるといった働き方もあったのです。現代では業務内容もコミュニケーションも複雑化・過密化が進み、働く人の心に余裕がなくなっていることも大きな理由の一つではないでしょうか。

また、世代間ギャップだけがパワハラの理由とは言えません。パワハラは年齢差のある上司から部下だけではなく、若い世代同士の間でも起きています。年功序列の組織の形が変化し、成果が求められる仕事をする毎日。失敗をしたり、周囲と同じように仕事をできない者を同僚同士でいじめの対象にするといったパワハラが起きるケースもあります。

上の世代が引退したとしても、競争のストレスにさらされ、人間関係のあつれきが増えた現代社会でパワハラが起きる構造自体をなくすのは難しいと思います。

ストレス社会のイメージ図

情報化が進んだストレス社会がパワハラを生んでいる?

次に、パワハラが広く社会問題として認知されたこともパワハラ相談が増えた大きな理由の一つと言えます。

パワハラが認知される以前は、職場のいじめやいやがらせというのは「人間関係の問題」と見なされ、個人同士で解決すべきと考えられていました。法律の解釈も追いついていませんでした。しかしパワハラを不当だと訴えた多くの裁判の積み重ねがあり、報道でもパワハラ問題が大きくクローズアップされてきました。そうしたことで社会の側から「パワハラは許されない」という意識のアップデートが進んでいったと考えられます。

★パワハラ相談が増加する背景
・業務やコミュニケーションの過密化が進み、働く人の心に余裕がなくなった
・職場で人間関係のあつれきが増えている
「パワハラは許されない」という社会的な意識が広まった

――現在パワハラだと考えられていないことも、今後パワハラと見なされる可能性がある、ということでしょうか?

ちょっと考えてみてください。例えばスポーツ界の指導の話。近年、日大ラグビー部の悪質タックルや、日本代表の体操コーチの暴力が「パワハラではないか」と大きな話題となりましたが、スポーツ界の暴力指導がパワハラであると10年前の社会では批判されていたでしょうか?

かつてなら「熱血指導」で片付けられていたことが「パワハラだ」と炎上するほど、社会の側の意識が変わってきたことが分かるでしょう。非常識な会長がトップにいた日本ボクシング界は長年ひどい状況が続いてきましたが、ああいったパワハラ体質の組織はもう許されなくなってきています。

何がパワハラに当たるのかという意識も、10年後はもっと変わっているかもしれない。どんどん社会の意識はアップデートされていっています。企業も、社員を指導する管理職の側も、常に社会のスピードに合わせて変化していくしかないのです。

パワハラにあたる言葉かどうか、アウトかセーフか線引きをしようとする時点で意識が低い

――職場での指導とパワハラの境界線についても基準は変わっていくのでしょうか?

基準は変わっていくでしょうが、正直に言うと、「これをやったらアウト」「これはセーフ」という線引きばかり考えているのは意識が低いのではないでしょうか。どうしても、「パワハラか業務指導の範囲なのか、明確な線引きがほしい」と思ってしまいがちです。でも「どこまでやったらパワハラ・セクハラか、アウトかセーフか」だけを考えるのは本質的なことではないと思います。

パワハラ問題を解説する佐々木亮弁護士

「絶対にハラスメントにならない」と断言できる言動はないと話す佐々木弁護士。

裁判では背景や動機を含めてハラスメントかどうか認定を行います。「ハラスメントのない健全な職場」を目指したいのなら、「これならハラスメントにならない」というギリギリの部分を攻めてもあまり意味はありません。

ギリギリセーフであってもハラスメントに類似するような言動をしている人が多いなら、その職場は働きやすい場所ではないからです。ギリギリパワハラ・セクハラでないけどイヤな発言の多い会社で働きたいとは思えませんよね? アウトかセーフかの探求に費やす情熱を、良い職場づくりに使ったほうがいいと思います。ハラスメントの境界線についてばかり考えるのではなく、指導のつもりでも「相手が嫌がることはしない」という意識の底上げをするほうがずっと大事です。

「自分はパワハラ・セクハラと思わなかった」という行動でも、部下の側は、異性の側は、未婚者の側は、とそれぞれの立場を変えて見れば、人によってはハラスメントだと受け取るケースもあります。「同じ言動でも、状況によってハラスメントの境界線は動く」と考えておいたほうがいいでしょう。

法律上の境界線ばかりに注目するのではなく、「相手にとって苦痛と感じること」を互いに認識しあうのが本質的な対応。ハラスメント防止のために人事担当者らが配慮できるのはこの点ではないでしょうか。

★ポイント
・ギリギリセーフでハラスメントにならなくても、そんな言動が多い職場は不健全
・法的にアウトかセーフばかり考えるのではなく、「相手の嫌なことはなにか」を知ろう

カネカのパタハラ問題は法律以前の話、まともな人事なら解決できた

――育休後の男性社員に転勤命令をしたカネカの問題では、パタハラにあたるか、違法かどうかが議論になりました

パタハラ告発のカネカから学ぶこと。人事や「時代遅れ上司」の問題点

転勤や降格、配置転換など人事権を利用したハラスメントというのは実は多い。ただ、企業の持っている人事権は強力であり、正当な人事権の行使か、ハラスメント目的のものか、というのは裁判でもかなり判断が難しい部分です。

カネカでは、育休明けの男性社員を転勤させようとした判断が「見せしめ・いやがらせ目的のパタハラだ」と炎上しました。これははっきり言って法的にアウトかセーフか以前の問題だと思いますよ。パタハラかどうか線引きを考える前に、「育休後すぐに転勤を言い渡される社員はどう感じるか」と考えるのが、まともな会社の対応だったのではないでしょうか。

佐々木弁護士

「カネカの対応はどうしようもないくらいひどかった」


カネカ社長がのちにホームページ上で「法的に問題はない」という声明を出していましたが、あれはひどかった。違法かどうか主張する前に、できることはたくさんあったと思います。

――人事はどういう対応をすればよかったのでしょうか?

同じ転勤という業務命令でも、状況によっては「いやがらせだ」と感じる社員と、「ただの業務命令」と受け取る社員はいますよね。カネカの場合、わざわざ育休を取っていた社員を家族と引き離して転勤させる必要性はあったのか、という点がポイントになってきます。

仮に、どうしてもその社員を転勤させる必要があったという場合でも、事情に即した対応はいくらでも考えられます。例えば、人事部は他の社員に最初の期間の転勤を頼み、該当社員には「子育てが少し落ち着いてから引き継いで転勤をしてもらう、そのときは責任を持って業務にあたって欲しい」と声をかけるといった個別の対応も可能だったはずです。

会社に配慮があれば人事権を利用したパタハラ問題に発展しなかった可能性もあります。そういう判断が、結果として炎上を招いた。背景をないがしろにし、法的にアウトかセーフかばかりを考えていては駄目だといういい例でしょう。

中小企業こそハラスメント対策の主役! 研修参加に社長の教育も人事のミッション

――有名企業のパワハラ・セクハラは連日話題になりますが、中小企業でのハラスメントの実態は?

中小企業のハラスメントでも深刻な例をいくつも見てきました。中小企業は従業員規模が少ないため、経営者や管理職が加害者の場合、被害を言い出しづらい弱い立場の社員にしわ寄せが行ってしまいます。

例えば、小さい会社では母子家庭の非正規職員といった転職しづらい社員がハラスメントのターゲットにされる傾向があります。私が知っている事例では営業社員が全員外回りに出ていってしまっている時間帯に、経営者と二人きりになったシングルマザーの女性が被害に遭っていました。こうなるとなかなか当事者の力だけでハラスメントを表面化させることは難しい。

セクハラを防止するための法律は成立してから20年経ちますが、セクハラ被害はなくなるどころか増加しています。新たに防止義務が法律で定められたパワハラに対しても同様です。人事や管理職の側が「自分の職場でも起きているかもしれない」と他人事にせず相談しやすい環境を作っていかなければ、実際にパワハラを減らすことはできないでしょう。

――中小企業の人事が具体的にできる対策は?

セクハラやパワハラについては自治体が無料でやっているセミナーもあります。人的・資金的に余裕がなく社員全員が研修を行うことが難しい中小企業が無料セミナーを活用しない手はないと思います。人事担当者が研修やセミナーに出向き、内容を社員や経営者と共有する、といった利用の仕方もあるでしょう。

私もパワハラ問題の講師として自治体のセミナーを行ったことがありますが、一般労働者向けのセミナーでも経営者や企業の社労士など多くの人が参加していました。ワンマン経営になりやすい中小企業では経営者の意識改革を行うのも、人事担当者の課題であると思います。参加しやすいセミナーに社長を誘ってみるのもいいかもしれませんね。

佐々木亮弁護士

――これからハラスメント対策に取り組む中小企業の担当者にメッセージはありますか?

「働き方改革による法改正の対応ばかり増えて、ハラスメント対策している暇なんてない」、というのが中小企業の実情だと思います。法改正ばかり続いて、現場は本当に大変でしょう。でも、今の時代は、ハラスメント対策は企業の健全な運営には不可欠なものとなっていますので、意固地にならずに対策を進めてほしいと思います。

 日本の大半の企業は中小企業です。大企業のように大きくハラスメント対策の実績をアピールすることがなくても、中小企業からハラスメントがなくなれば、日本からハラスメントはなくなっていきます。中小企業の意識が変わることで、日本全体の意識も変わります。中小企業が日本を良くしていく先陣になるんです。そして、社内の意識をアップデートさせていくのは、経営者だけではありません。社員と日頃から接している現場の担当者一人ひとりに期待される役割が本当に大きいと思っています。

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