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コンプラ、パワハラ、安月給……岡本社長の記者会見を斬る


吉本闇営業騒動。芸人を敵に回した社長会見に学ぶ企業崩壊の落とし穴

2019.07.22

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吉本興業(東京・新宿)の芸人の闇営業問題とその対応を巡る会社とのやりとりが、世間を騒がせている。 当初は反社会勢力との金銭授受が批判の的だったが、所属芸人による”告発会見”を境に、社長のパワハラ疑惑や吉本興業の組織論に発展。パワハラ疑惑を「冗談のつもり」と言い逃れ、「芸人ファースト」を繰り返しながら誠意が感じられない社長の姿に、ますます批判が集中しそうだ。

@人事では、この騒動を企業の経営者、人事担当者目線で考察。組織改革や人事改革で同じような失敗を犯していないか、他山の石としたい。【執筆:7月22日 @人事編集部 飯塚陽子】

参考:吉本社長発言はアウト!? パワハラ防止法を佐々木亮弁護士が徹底解説(上)

目次
  1. 落とし穴(1) 名ばかり制度や空っぽな組織改革をしていないか?
  2. 落とし穴(2) 圧力発言が当たり前になっていないか。パワハラ法施行後は「身内のつもり」の言い逃れは難しくなる
  3. 落とし穴(3) 人権侵害レベルの待遇は非難されるべき。SNSで告発可能な時代は雇用者を騙し続けることはできない
  4. トップを刷新せずに改革ができるのか

落とし穴(1) 名ばかり制度や空っぽな組織改革をしていないか?

7月22日、吉本興業の経営トップである岡本昭彦社長の会見は「彼らに心からお詫び」と所属タレントに断罪しながらも、自身の進退については「1年間の減俸50%」にとどめた。6月初旬に週刊誌によって闇営業が報道されてから1カ月半。20日に芸人が謝罪とともに経営トップを糾弾する内容で会見したことを受け、「コンプライアンス徹底と芸人・タレントファーストの取り組みを進めていく」と宣言したものの、棒読みの言葉からは覚悟は感じられなかった。2日前に退路を断って会見した芸人の説得力とは雲泥の差だ。

7月22日に行われた岡本社長 記者会見の様子
7月22日に行われた岡本社長 記者会見の様子
引用:YouTube/SankeiNews

 

「コンプライアンス徹底」という決まり文句の虚しさ

「コンプライアンスの徹底」は、闇営業問題が勃発した当初に吉本興業から「決意表明」として何度も繰り返して発信されてきた言葉だ。同社は2008年にコンプライアンス推進委員会を設置。2011年にタレントと暴力団関係者との交際が発覚して以降もコンプライアンス研修を徹底してきたという。結局は反社会勢力との関係を断つことはできず、これらの整備は全く機能していなかったということ。

昨年4月に働き方改革関連法が施行され、多くの企業で人事・組織改革が進んでいるが、あるコンサルタントの人が先日こんなことを言っていた。「大企業であればあるほど、コンプライアンスの遵守とか、目新しい制度の導入を率先してやっているように見せているが、中身が空っぽなことが多い。本当の意味で社員のためになっていない」。名ばかり改革の蔓延は吉本興業に限ったことではないのだ。

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落とし穴(2) 圧力発言が当たり前になっていないか。パワハラ法施行後は「身内のつもり」の言い逃れは難しくなる

今回の騒動は、誰もが知っている企業の経営トップの内情が所属タレントによって暴露されたことで、世間の潮目が変わった。これは決して芸能界独特の世界だから起こり得たことではなく、他人事とは思えない企業もあるはずだ。これをいい「教材」に、ぜひ自社のことを見つめ直してほしい。

吉本興業 闇営業記事イメージ
“芸人ファースト”を徹底すると話した岡本社長。 一般企業においても“従業員ファースト”は重要だ

 

ありがちなパワハラ弁明「冗談」「身内のつもりで」

会見で最も注目された点はパワハラの有無だ。岡本社長が芸人らに対して「お前ら、テープ回していないやろな」「会見やってもええけど、全員連帯責任でクビにするからな」と発言したことについては、「身内の感覚的なところで『いい加減にせえ』というところで発言した」「場を和ませようと冗談のつもりで」などと弁明。それでも記者から追及を受けると「相手がそう感じたらそう(パワハラ)だ」「つらい思いをさせて申し訳ない」と事実上認め、謝罪した。

2020年4月にはパワハラ防止法が施行され、企業はパワハラ対策の整備が義務付けられるほか、経営者自身のパワハラへの理解が求められる。今後は法施行が後押しとなり、社員による社長の告発も増えてくるはずだ。パワハラ認定は言動の背景や普段からの人間関係が重要になるが、録音データがあればセーフかアウトか判明しやすいという。岡本社長が「全員がしゃべりやすい風土には至っていない」と言っていたように、吉本興業は常にパワハラまがいの言動が飛び交っていたと推測される。

関連記事:録音されたら終わり!? パワハラ上司にならないために大事なこと

落とし穴(3) 人権侵害レベルの待遇は非難されるべき。SNSで告発可能な時代は雇用者を騙し続けることはできない

闇営業の温床とも言われたのが、所属芸人の待遇面の悪さだ。一部で言われる「24時間ロケで7,500円」「最初の舞台のギャラは250円」などの過酷な給与体系は、思わず「外国人雇用の人権侵害レベルか」とツッコミを入れたくなるレベルだ。これは6,000人もの芸人とは雇用関係ではなく業務委託契約である吉本興業の独特の成り立ちにも関係し、これまでは「ハングリー精神を磨く」ための必要悪だったのかもしれない。ただ、「芸人は家族」と言うからには、SNSなどで芸人たちがあげている「移籍を認めるべき」「きちんとギャラを払ってほしい」などという声には耳を傾けるべきだろう。

吉本興業闇営業関連イメージ
吉本興業の低賃金はしばしば芸人の間でもネタにされていた。今後は改善されるのだろうか

 

「家族」なら人権侵害レベルの待遇は改善するべき

会見で岡本社長は今後について「収入も上げていけるようにしていければ」と改善する方向性を示した。ただ、「契約書を交わすか? 」の質問には「個々の考えもあるので」と濁したまま。内情がここまで分かってしまった以上、これから若い人たちは吉本興業の門を叩かなくなるかもしれない。今回の件をきっかけに、今後は芸人離れや移籍という動きも出てくる可能性がある。

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トップを刷新せずに改革ができるのか

今、多くの企業が組織の一体感を保つため、社員の組織エンゲージメントを高めることに注力している。エンゲージメントとは、企業の社員の結びつきを強めることや社員と企業が互いに愛着を持っている状態のこと。エンゲージメントが高い企業は離職率が低く、モチベーションも保たれるという。

今回の吉本興業の場合、ボタンの掛け違いから生まれた歪みだけではなく、パワハラ風土や劣悪な労働環境まで組織の膿が一気に吹き出した。会見後、所属の芸人たちは「情けない」「言い訳だ」とSNSで不満を表明。お笑いのトップランナーのお家騒動は、社員同然とも言える芸人たちのエンゲージメントを著しく低下させることになってしまった。一般の企業なら、即離職につながるパターンだ。

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個人的に今回の騒動で考えさせられたのは、先輩芸人が後輩芸人たちの窮状を見かねて救済の声をあげたり経営陣に改善策を迫るというアクションを起こした点だ。一般の企業で、部下が不祥事を起こしたときに、トップへ直談判してくれる上司がどれだけいるだろうか。岡本社長の会見を見るまでは、こういった芸人同士のつながりが組織分解を食い止めるきっかけになるのではと思っていた。

ただ、5時間半にも及んだ社長会見から見えたことは、これだけ時代遅れの組織の現状が露呈した以上、トップ据え置きは許さないという世間の評価だろう。果たして吉本興業に「明日はある」のだろうか。

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