特集

働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編


「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?

2017.07.05

  • 人事制度
  • 福利厚生
  • 経営・人事戦略
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

生産性向上が叫ばれる昨今。社員が安定的に高いパフォーマンスを発揮するためには、安心して働ける職場づくりが欠かせない。その根幹となるのは、人事制度・福利厚生制度だ。ライフスタイルが多様化し、働き方改革も進む中で、従来の制度や施策が見直しを迫られている。今、人事・総務担当者は何を改善し、どんな制度を作り上げれば良いのか。今回からシリーズで、生産性向上や社員満足度を高めることに成功した制度を導入している企業を紹介していく。

社員が納得できる人事制度を~サイバーエージェントの事例

すべての社員が納得できる人事制度を作るのは難しい。例えば子育て支援・妊活支援を社内に取り入れようとすると、子どもを持つつもりのない社員や若手社員は「自分には関係のない制度」だと思ってしまう。自分に関係ないと考える社員が多くなれば、人事制度自体が形骸化してしまう。しかし、若手社員は将来、子育てをする可能性が十分にあり、彼らが安心して利用できる人事制度の導入が必要である。では、どのようにすれば、社員が納得できる人事制度を導入できるのか。まずはサイバーエージェントの人事制度を紹介する。人事本部の田村有樹子さん【写真】に話を聞いた。

田村有樹子(たむら・ゆきこ)

サイバーエージェント人事本部労務グループ所属。2005年中途入社。2010年に出産し、2011年4月に復帰した。

サイバーエージェントの「働きやすい職場づくり」のポイント!

  • 復帰率100%を目指すパパ・ママ支援を行っている。
  • 女性特有の体調不良の場合、休む内訳は上司にもわからないようになっている。
  • 「自分には関係ない」という社員が、限りなく少なくなるように取り組んでいる。

当日取得もOKの「エフ休」

ca_1_170705

「明日、エフ休取ってもいいですか?」

ネット総合サービス企業のサイバーエージェント(東京・渋谷)では、女性社員が会社を休むとき、すべてこの「エフ休」という言葉が使われる。通常の有給休暇だけでなく、もともと「エフ休」と呼ばれる生理など女性特有の体調不良による特別休暇や妊活のための治療・通院用の「妊活休暇」もすべて取得するときは〝エフ休〞として申請する。エフは、Female(女性の意)の「F」だ。

これらの特別休暇を含む「マカロンパッケージ」(図1)が制度化されたのは、2014年5月。女性社員だけが利用できるエフ休や妊活休暇だけでなく、男性社員も利用可能な制度もある。

専門医による「妊活コンシェル」、子どもの看護時に在宅勤務が利用できる「キッズ在宅」、子どもの学校行事や記念日に取得ができる半日休暇の「キッズデイ休暇」など、子育て中のママ・パパ社員を多角的に支援している。
マカロン(macalon)とは、「ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く」 という意味を込めた造語だ。生理痛による体調不良や、妊活のための通院は事前に予測できない場合もあるため、エフ休の申請は当日でもOK。しかし、当日申請を認めると、仕事をさぼるために〝悪用〞されるケースはないのだろうか?

「マカロンパッケージは妊活や子育てといったライフプランがありながらも、長く働きたいと考える社員を支援するための制度です。悪用する社員が出たり、もしくは上司が無理解だったりすると制度自体が立ち行かなくなる。制度のリリース前に、女性社員と上司を別に集め、それぞれへ制度の目的や意義をしっかりと説明しました」(人事本部 田村有樹子さん)

復職率100%を目指すママ・パパ支援

制度が導入されて以降、出産や育児を理由に退職する社員は減り、ママ社員の産休復職率は90%台後半で推移していた。
しかし、2016年4月、世間で「保育園落ちた日本死ね」と題したブログが注目を集める中、同社でも子どもが保育園に入園できず、やむを得ず退職せざるを得ない社員が複数名発生した。

それを機に、同年6月には①認可外保育園の利用補助、②育児情報交換・交流促進ランチ、③産休・育休中を含めたママ社員向けの社内報を制度に追加。その結果、2017年春には、産休・育休を取得し復帰期限を迎える30名のママ社員が全員復帰した。

同社では、約700名の女性社員のうち、子どもを持つ女性は170名。5人に1人、25%弱がママ社員だ。20代で子どもを持つ社員も増え、2人目、3人目を持つ社員も珍しくない。
「部署に1人は子育て中の社員がいる感じです。10時始業なので、朝は子どもを保育園にお見送りして出社するパパ社員も多いんですよ」(田村さん)

「”シラケ”のイメトレ」で全方向の声を拾う

同社に対して、「子育て世代にやさしい会社」というよりも、「ハードワークの会社」をイメージする人のほうが多いかもしれない。実際2000年代までは、「出産したら復職しても同じような働き方はできない」と悩む女性社員も多かったという。

2014年、ママ社員が100人を超え、「働くママ社員へのサポート」を議論していた際、「導入するなら妊活支援ぐらい、大きなインパクトがあるものを」と切り出したのが藤田晋社長だった。そこには、いま子どもを持つ社員だけではなく、将来、子どもを持ちたいと願う社員も安心して働いて欲しいという強い経営メッセージが込められていた。しかし、いきなり”妊活支援”と言われても、妊娠どころか結婚の予定もない社員たちには受け入れられにくいだろう。では、制度構築をどのように進めたのか。

制度設計に深く関わった田村さんは、自身も双子の子どもを持つママ社員だ。しかし、当時ママ社員と同等以上に考慮したのは、独身社員や男性社員たちの声だった。
「“シラケ”のイメージトレーニングをしろ」。これは、田村さんが常に上司から言われている言葉だ。「妊活」のキーワードが一人歩きしては、子どもを持つつもりのない社員や、若い社員がシラケるかもしれない。妊活に取り組みたい女性社員も、妊活中であることが周囲に伝わってしまうことを嫌がるかもしれない。田村さんは、そんな思いつく限りの〝シラケ〞の声をエクセルシートに書き出した。

「すべての社員が100%満足する人事制度を作ることは難しい。でも新しい制度が『自分には関係ない』と思う社員が多いと、形だけの制度になってしまう。それでも事前に、どんな〝シラケ〞が出てくるかを可能な限り考えておくことで、制度自体を見直したり、運用方法を工夫したりできます」(田村さん)

「妊活で休むことを上司に知られたくない」という女性社員を想定し、勤怠システム上は承認者の上司にも「エフ休」の内訳が見えないように。有給、妊活、エフ休のいずれにあたるかは、日数管理を行う人事部だけが把握できるようにした。
そもそも制度を「パッケージ」にしたのも、より多方向から長期で働く社員をサポートするため。子どもを欲しいと望む社員、育児中のママ・パパ社員を手厚くサポートすることで、若い社員たちにも「子どもを持ってからも長く働ける」という安心感が醸成されていった。

後方部隊では「攻めを守る」

制度設計は相当丹念に事前準備をしているように見えるが、人事としては「事前にすべて作りこまない」感覚で進めたという。
「まずは走らせてみて、必要があれば適時変更・追加すればいい。意思決定の速さ、スピード感は事業部と同じ感覚です」(田村さん)

同社の人事、広報、法務、経理など、いわゆるバックオフィスで働く社員たちが共通して持っているのは、〝攻めを守る〞精神。最前線を走る事業部が、常に「攻め」の姿勢でいられるように後方を「守る」。走るスピードは事業部と同じでなければついていけないと考え、「挑戦」と「安心」の絶妙なバランスをキープしている。

サイバーエージェントでこのようなユニークな制度がスムーズに受け入れられたのはなぜか。

「導入時には、周知に力を入れました。イントラネット掲載や社内メールでの告知はもちろん、役員によるブログでの紹介、プレスリリース発表、メディア取材なども一気に行いました。それと『新しいものを楽しむ』『変化を楽しむ』という風土も影響したと思います。変化できなければ取り残される。そういう業界ですからね」(田村さん)

【2017年5月取材:聞き手、撮影・玉寄麻衣】

企業プロフィール

会社名:株式会社サイバーエージェント
インターネット産業に軸足を置き、メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業などを展開している。2014年、東証マザーズから東証1部に市場変更。
所在地:東京都渋谷区道玄坂一丁目12番1号
事業内容:メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業
設立:1998年3月18日
社員数(連結):4153人(2017年6月時点)
URL:https://www.cyberagent.co.jp/

【特集:働きやすい職場づくり】

執筆者紹介

玉寄麻衣(たまよせ・まい) 1979年生まれ。立命館大学政策科学部卒業。外資系大手人材派遣・人材紹介会社で、営業として主に中小企業の人材採用をサポート。その後フリーランスのライターとなり、人材採用、人材育成、大学教育、広報・PR、企業経営等に関する取材・執筆を行う。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

あわせて読みたい

あわせて読みたい