「デザイン経営」で採用力を強化する(後編)
鍵はバリュー設定や採用プロセスの改革。採用ブランディングの成功法
2019.07.19
企業が大切にしている価値を、企業活動を通じて一環して伝える「デザイン経営」の手法が、注目され始めている。6月に開かれたイベント「Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3 〜デザイン経営と採用ブランディング〜」(主催:Indeed Japan[東京・港])には、人事担当者や経営者ら約400人が集まった。
イベント取材を基に、前編「採用ブランディングに効果的な『デザイン経営』とは? 事例で解説」ではデザイン経営の仕組みや採用との関連性を紹介。後編ではデザイン経営を実践する企業のトップによるパネルディスカッションから、オウンドメディアの活用方法、自社の採用競争力を高める方法を考える。【取材:2019年6月18日 @人事編集部・大西里奈】
パネルディスカッション「デザイン経営における採用のあり方」
【登壇者】
・梅澤高明 A.T.カーニー 日本法人会長
経営コンサルタントとして日米で20年超の経験。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。
・林千晶 株式会社ロフトワーク 代表取締役
花王を経て、2000年にロフトワークを起業しWebデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなどを手掛ける。
・田川欣哉 株式会社Takram 代表
プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。経済産業省の「産業競争力とデザインを考える研究会」にも参画。
【モデレーター】
・高橋信太郎 Indeed Japan 代表取締役/ゼネラルマネジャー
1989年にリクルートに入社し、求人広告事業、新規事業開発に携わる。複数社を経て、16年4月よりIndeed Japan株式会社 代表取締役/営業本部長に就任。17年10月より現職。
カルチャーのフィット感が重要。企業はもう求職者に嘘をつけない
田川さん(以下、敬称略):今は「思っていたのと違う!」と思うと辞められるし、口コミもインターネットで拡散しますよね。インターネットによって権力がユーザー側にシフトして、企業は嘘をつけなくなった。
梅澤さん(以下、敬称略):会社のユニークな価値は社員と働いてみて初めて分かるもの。
インターンシップで社員と仕事を体験し、他社との違いも理解した上で入社した人は、自分で判断軸を持って会社を評価しているので簡単には辞めない。なんとなく入った人は期待と現実とのギャップがあり、リテンション(人材の保持)しにくいケースが多いです。
高橋さん(以下、敬称略):採用はカルチャーのフィット感が重要で、通常のマーケティングとは本質が違う。採用コミュニケーションに嘘はあってはならないし、たとえ嘘があってもバレてしまいます。
林さん(以下、敬称略):マーケティングでは市場や競合を分析し、デザイナーがコンセプトを作って人に届ける。これからの採用は、まず人や生活を観察し、デザイナーがコンセプトをつくり、どの市場に打っていくのかをマーケティングしていく。採用は「人寄り」のマーケティングになるんだと思います。
田川:今はネットがあり、コンテンツはいくらでも作れる。企業側の情報量が少ないと、待遇や条件などの数値的なマッチングばかりでカルチャーフィットがなく、「なんでこんな人取っちゃったの?」となる。「うちの会社はこういう会社だ!」と発信すれば、合わない人は応募してこないですよね。
林:一括の新卒採用はやめたほうがいいと思います。1,000人の応募から5人しか受からないとかで、学生も企業もすごく苦労する。
ロフトワークでは一括新卒採用はやめて、応募したい人がいつでも応募できるようにしたら、3~4人来てくれました。採用サイトは作っていませんが、自社のホームページでどんな社員がどんな仕事を、どんな思いでやっているのかを伝えています。営業のためのサイトではなく、自社の姿を出すサイトです。
田川:求職者のヒット率が上がり、採用する側のフィルタリングの時間も減ったんですね。
僕たちの会社も、エンジニアが好きなテーマで話すポッドキャストを、これまでに400回くらい配信しています。月間の再生回数が5万回を超え、応募者も聴き込んできてくれます。肉声から社員の人となりや会社の空気感が伝わるようで、採用効率がよくなりました。オウンドメディアをやってよかったなと思います。
★デザイン経営×採用ブランディングのポイント
・今は求職者側に権力があり、企業は嘘をつけない
・人を起点にしたマーケティングで、カルチャーをフィットできるような採用が大事
・オウンドメディアで社員の仕事や思い、声を届ける
経営者と共に、会社のミッションやビジョンを明確にできるか
田川:採用と経営理念は一番直結していないといけないですよね。
今はみんな、人生の意義を(報酬、やりがいなど)どこに交換していくべきなのか探しているのに、企業はそしゃくしきれていない。それがギャップになっています。
創業者ではない経営者にとっては、かなり突きつけられる問題です。「あなたは何のために生きているんですか」と。経営者が「私は」「私たちは」を主語にして答えを言い切り、社員全員が「そうだよね」と言える会社は、業績も採用も強いと思います。
デザイン経営はその会社のアイデンティティーやビジョンをくっきり作ることと同時にやると、効果が出ます。採用担当者が経営者と結託して「うちは何者なのか」という会社の根本まで触りに行けるのかで、取り組みが本格的に未来に向けて脱皮していけるかどうかが分かれます。
林:自分の良さは自分では分からない。経営者だけでなく、周りの人と議論して自社の良さを知り、常に作り上げていくのが大切なんじゃないかなと思います。
田川:企業にはデザイン経営の視点で採用プロセスを総ざらいで棚卸しして、おかしいところはないか考えてみてほしいです。今の「プランA」に対して「プランB」はないですか、と。
そして実際にAとBをやってみて、採用の質がどう変わるのかを検証してください。求職者の心がどこで動くのか考えることが、ビジョンやミッションにつながってきます。まずは経営者に「テストさせてください」と言ってみるといいです。
デザインとは、仮説を実施してやまびこみたいに返ってくる気付きから、再び仮説をブラッシュアップすることを繰り返す手法です。採用でも、思ってもみない発見がたくさん出てくきて、必ず「ミッション、ビジョンまで考え直さないとだめだよね」となります。そこに経営者がコミットできるかで、会社は値踏みされると思います。
梅澤:デザインとは、要素を細かく分解して解決するのではなく、物事を全体として見て、最も上手く調和する方法を探すアプローチです。採用の機能を最適化するのではなく、採用の先にある育成、職場環境、キャリアパス、経営などの全体を、目標に向けてどう変えるべきかトライしてほしい。
各職場の業務プロセス、キャリアパスや報酬体系などはセットで一気に変えていかないとできないんです。少しずつ変えると、せっかく採った優秀な人材はすぐモチベーションダウンして辞めてしまいます。全体を見て、組み立て直しを考えてほしいです。
★デザイン経営×採用ブランディングのポイント
・採用担当者が経営者と協力し、自社のビジョンやミッションを明確にできるかどうかにかかっている
・複数の仮説を試して、求職者の心がどこで動くのかを考える
・採用の先にある育成や職場環境、キャリアパスまで、全体を一気に変える。少しずつの変革では効果が出ない
【取材・編集:@人事編集部 大西里奈】
イベントデータ
Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3 〜デザイン経営と採用ブランディング〜
・主催:Indeed Japan株式会社
・実施日:2019年6月18日(火)15時30分~19時
・会場:神田明神ホール(東京都千代田区外神田2-16-2 神田明神文化交流館2F)
・参加者:約400人
【編集部より】
採用ブランディングや採用力強化、オウンドメディアリクルーティングに関する記事はこちら
- 競合に勝つための採用ブランディング〜はじめの一歩
- 【2020年卒版】現役学生が選んだ「新卒採用キャッチコピー30選」
- 「採用の教科書」著者が教える、採用で失敗しないために必要なこと
- Indeedがオウンドメディアで採用革新 新プロジェクトを始動
【編集部より】
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