仕事と育児の両立
障害児ママの常勤率わずか5% 保育所、極端に少なく「働きたくても働けない」
2017.12.15
(写真:認定NPO法人フローレンス提供)
障害児が入所できる保育所が極端に少ないことから、障害児をもつ母親が仕事を続けることを諦めるケースが多くなっている。障害児の母親の常勤率は、わずか5%。「仕事を続けたいのに続けられない」と苦しむ障害児ママの現状と、障害児保育の課題解決に取り組む先進的な保育園を取材した。
仕事を続けながら子育てを行う、障害児ママの苦悩
「認可の保育園に入れたかったんですけど、とうてい無理で、断られてしまって」
そう話すのは、難病を抱えるルイ君のお母さん。勤めていた会社の育児休暇取得中、仕事を続けながら子育てをするため保育所を探した。しかし、難病と闘うルイ君はチューブで経管栄養を行いながら生活している状態。 なかなか受け入れてもらう保育所が見つからなかった。「育休が切れたら、一回会社を辞めてください」と会社から促される中、不安は募った。
医療技術が進歩し救える命が増えたことにより、医療的ケアを必要とする障害児(医療的ケア児)が増加している。NICU・ICU等に入院した新生児のうち、退院後も引き続きたんの吸引や経管栄養を必要とする児童は約6割、人工呼吸器管理を必要とするなど高度な医療を必要としている児童は約2割になるという。
医療的ケアを受け入れられる保育所は全国的にとても少ない
一方で医療的ケアが必要な障害児は、通常の保育所への入所を断られるケースが未だに多い。厚生労働省の「平成27年度障害児保育実施状況」によると、東京都全体でみても、医療的ケア児の受け入れ保育所は18ヶ所、利用者は21名。地方だとなおさら少なく、例えば宮城県では、受け入れ先はわずか3ヶ所、利用者5名という状況だ。保育所に入りたくても入れない健常児がいるなら、障害児家族の目の前にはその何倍にも高い壁が立ちはだかっている。医療的ケア児においては尚更だ。
【参考】保育所における障害児の受け入れ状況について(厚生労働省:PDF)
障害児保育問題に取り組む、認定NPO法人フローレンスによれば、障害児の母親の常勤雇用率はわずか5%。これほど常勤雇用率が少ないことの理由には、障害のある子どもの保育の受け入れ先が極度に不足していることが挙げられるという。キャリアを持ちながらも、障害児の親になることで仕事を手放さなくてはいけない状況になるのは、大抵の場合、母親だ。重度障害児、医療的ケア児であっても、健常児と同じように保育所に子どもを預けることができれば、仕事を続けたいと願うママたちは少なくない。
日本で初めて医療的ケア児・重症心身障害児の長時間保育を実施
こうした状況から、認定NPO法人フローレンスは、2014年に東京都で「障害児保育園ヘレン」を開園した。同園は日本で初めて、医療的ケア児や重症心身障害児の長時間保育を実施する障害児通所施設で、「ヘレン・ケラー」がネーミングの由来だという。
現在、障害児保育園ヘレンは都内に5ヶ所あり、8時から18時30分までの長時間保育を行なっている。また、2015年には、自宅でのマンツーマン保育「障害児訪問保育アニー」を開始しており、こちらは最長8時間の利用が可能。障害児保育園ヘレンと障害児訪問保育アニーを利用した母親の常勤雇用率はなんと88%にも上るとのことだ。
冒頭に登場したルイ君のお母さんが頼ったのが、この「障害児保育園ヘレン」だった。「会社に事情を話して育休を延ばしてもらい、ちょうど1歳半になった頃、私の育休が切れる時にヘレンが開園したんです。すごい運が良かったです」
「喋れる子からはお喋りを学んでくるし、動ける子からは動きを学んでくるし、見て真似て子どもって育つんだなぁって。一番増えたのは、歌を歌ったりとか踊ったりとか、子どもらしい感じになってきたなとすごく思います。自分自身はあまりにも病気の方に集中しちゃっていたので、忘れていたんですけど、介護っぽかったのが、子育てっぽくなりました」
子どもは家庭とは別の世界で色んなものを見て学び育つ。そんな環境も、障害児ママたちの求めることのひとつだ。
「希望すれば、誰でも就労できる社会」を目指す
医療的ケア児を含む障害児保育への取り組みは、全国的にはまだ拡がっているとはいえない。今後、より多くの地域で障害児保育所が増えていくには、「(障害児を受け入れられる)保育士や看護師を配置した際の、制度や報酬の仕組みが必要」である。そして、当事者がもっと大きな声をあげて、世論にしていくことが必要だと、フローレンスの担当者は言う。
10月1日には、渋谷区にNPO法人フローレンスと医療法人社団ペルルの運営する「おやこ基地シブヤ」が開設された。建物内1階には重症心身障害児や医療的ケア児も利用可能な「障害児保育園ヘレン」、2階に認可保育園、3階に病児保育室と3つの保育施設があり、病児保育室には小児科が併設されている。健常児、障害児、病児を問わず全ての子どもを対象とした複合保育施設だ。
「子育てをしながら仕事ができることは当たり前のはずです。でも今の日本は、医療的ケアや障害のある子を持つと仕事をすることが難しい。希望すれば、誰でも就労できる社会にしていきたい」とは、フローレンスの担当者。そしてこの取り組みは、障害児の親のためだけではない。
「預け先がないことで、子どもはどこにも行くことができない。子どもは子どもの中で育つんです。同年代の友達と遊んだり、様々な経験をすることはどんな子でも必要で、その子どもの発達する機会を排除しない世の中であってほしいと思います」
障害児保育施設は、働きたい母親たちのためだけではない。何より、障害をもつ子どもたちのためでもあるのだ。
※この記事は合同会社イーストタイムズと協力して作成しています。@人事ONLINEでの公開後、同社が運営する「TOHOKU360」に記事が転載されます。
人事総務業務の基本や注意点がわかる「業務ガイド」
執筆者紹介
渡邊真子(わたなべ・まさこ) 合同会社イーストタイムズ/TOHOKU360編集部 コンテンツデザイン担当。TOHOKU360の通信員として、地元宮城のローカルニュースも執筆。重度知的障害を抱える一児の母。
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