採用学4周年記念セミナー・杉浦二郎氏講演(前編)
母集団って本当に必要? 採用成功の鍵は、シンプルにそぎ落とすこと
2017.11.07
「なぜ、採用を行うのか?」。多くの企業が当たり前に行っている採用活動ですが、その「当たり前」を改めて問い直すことで、見えてくるものがあります。2017年10月25日、株式会社ビジネスリサーチラボが運営する「採用学4周年記念セミナー」が開催されました。
今回のイベントでは、採用学研究所を構成する伊達洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ)、神谷俊氏(株式会社ビジネスリサーチラボ)、杉浦二郎氏(株式会社モザイクワーク)、そして服部泰宏氏(横浜国立大学)が登壇し、採用環境に関する鋭い解説や、ユニークな事例紹介などを交えた講演を行いました。
今回はその中から、採用学研究所コンサルティングフェローで、株式会社モザイクワーク代表取締役社長である、杉浦二郎氏の講演をご紹介します。
杉浦 二郎(すぎうら・じろう)
株式会社モザイクワーク・代表取締役社長
2015年9月まで三幸製菓人事責任者を務め、同年10月より現職。株式会社モザイクワークを設立し、採用プランナーとしても活動中。また、外部アドバイザーとして三幸製菓の17年度採用にも関与。「カフェテリア採用」「日本一短いES」等々を生み出し、TV、新聞、ビジネス誌等、多くの媒体に取り上げられる。イベントでの講演多数。また、地元新潟において、産学連携キャリアイベントを立ち上げるなど、「地方」をテーマにしたキャリア・就職支援にも取り組んでいる。HP:http://mosaicwork.co.jp/
「採用」はあまりにも複雑になりすぎた
僕自身、実は反省があったんですね。というのは、採用をあまりにも複雑にしてしまったと思っていて、「採用ってもっとシンプルであるべきじゃないかな」と今は考えています。
例えば、採用に関する(応募者の)分析を、やれるところとやれないところがある。やるべき会社とやらなくても良い会社があるし、フェーズによっても違う。それぞれの会社でそれぞれの考え方があっていいと思っています。
採用学的に言うと「募集」「選抜」「組織社会化」のフェーズがある。この中で「募集」のフェーズに課題を抱えている会社は非常に多いんですが、「母集団って要ります?」というお話を僕はよくするんですね。
「母集団って、つまりは毎年出てくる60万人という卒業する子たちのことですよね?」「自社の母集団が、やれ1万人とか5千人とか、この発想って、要りますかね?」こうした問いかけを、僕は採用担当者にさせていただいてます。
莫大なコストをかけて選考を行う意味は何なのか
仮に「全く選考をせずにノーチェックで順番に入社した人物のパフォーマンス」と、「ものすごい人件費とものすごい期間をかけて、選考して入社した人物のパフォーマンス」のログ(記録)をずっと追い続けていったら、実はあんまり変わらないんじゃないかというふうに、僕は心の底では思っているんです。
となったときに、「莫大なコストをかけて選考をする価値というのは本来何なのか?」「僕らは選考を本当にやる必要があるのか?」このことを、自分自身にも常に問いかけています。そして今は、お客様にお声がけいただいた際にも、同じことを問いかけるところから話をスタートさせていただいています。
多くの企業の採用は、「HOW」の話が先行してしまっている
お客様に呼んでいただいた場合、僕は「採用って何なの?」ということをお客様と考えます。
この「採用って何なの?」という疑問への答えは、基本的に100社あったら100通りあっていいと思っているんです。ただ、僕らも忸怩たるところがあるんですが、最近、採用について「HOW」の議論が非常に多いなという気がしているんですね。
ちょっと前であれば「ダイレクトリクルーティング」であったりとか、今であれば「リファラル」という手法が注目されています。もちろん、ひとつひとつは大事な戦略です。ただ、今はそうした「HOW」の議論が先行してしまって、「いかにその手法を使うことがすごいか」みたいな話が、採用の話題の中心になってしまっているところがある。
「なぜ採用するのか」。その目標が定まった後に、「目標を達成するにはどういう人が必要なのか」ということを考え、その次に「じゃあ、自社採用はどうあるべきなのか」ということを考えなくてはいけない。その先にようやく「HOW」、どう採用するかというお話があるわけですよね。
それが最近は、この順序を逆から行くようなケースが極めて多い。なんとなく外側のベンダーサイドの言葉に振りまわされてしまって、自社採用がいつまで経っても定着していかない企業や、中の人(社内の人事)が変わった途端に機能しなくなる企業がある。これは、「自分たちが最終的に決めるんだ」という意思がすっぽり抜けているがために、結果として「HOW」に振り回されてしまっているからだと思うんです。
「採用は常に極めてシンプルであるべき」
そんな中で、僕が常に考えていることは、「採用は常に極めてシンプルであるべきだ」ということです。特に最近は、そう強く思うんですね。
じゃあ「採用って何なの?」と聞かれれば、一言で言えば「入社したい人を採るだけ」ですと。それ以上のことではないし、それ以下のことでもない。
ただ、うまくいかないんですよね。それはなぜか。そもそも「入社したい」と思ってもらえていないんですよ。採用がうまくいかないということは、「この会社で働かせてもらいたいです」というところまで、応募者の気持ちが至っていないということなんです。
会社側が応募者に「ここで働かせてもらいたい」と思ってもらえていないという部分が一番の問題です。応募者がそう思えるだけの情報を提供していない、思えるほどにはやりとりをしていない。結局これに尽きると思うんですね。
いかに入社したい人を作って、その人を採るか
いかに入社したい人を作って、その人を採るか。これをひたすらにシンプルに考えていくというのが、今僕らが一生懸命考えていることです。
と考えると、大事なことは「シンプルにそぎ落とす」ということなんですよね。そして本質をしっかり突いていくということ。
とにかく「自社にとっての採用とは何なのか」「自社採用はどうあるべきなのか」。それ以外のことを徹底的にそぎ落としていくということが、僕はすごく大事なことだと思うんですね。
特に人事のみなさんというのは、いろんな知識も持っていて、さらにこうした時間も使って、一生懸命勉強されている方が多い。新しいものや新しい考えを取り込んで、なんとか自分たちの会社をより良いものにしていこうと思っている。ただ、そうして勉強していく中で、複雑に考えてしまいがちだし、どんどん「付け足し」の作業が多くなってしまうんですね。
核がしっかりしていないと、ハリボテになっていくだけ
書籍などで語られる理論というのは、完璧な状態でしっかりロジックが組まれて回せるんであれば、結果的に機能するんですよ。ただ、現実ではなかなかそうはいかない。
それともう一つ大事なことは、「核」がしっかりしていない状態でどんどん付けていっても、ただハリボテのようになっていくだけなんですね。ハリボテの状態では、一個が崩れたら途端に回らなくなるとか、自分が抜けた途端に機能しなくなるときがやってくる。
だから、とにかく最初にやらなくてはならないことは、「いかにそぎ落としていくか」。そして「自分たちの採用というのはどうあるべきか」ということをシンプルに考えること。これから紹介する「即、採用コース」の事例というのも、まさにそぎ落とすということをやってきた結果なんです。
答えは自分たちの中にある
同時に必要なのは、「経営者・経営部門の採用への理解を高める」ということですね。
よくいろんなご相談をいただいたり、こういう場でお話させていただいたりしても、「(採用)どうしたらいいですか?」というお話を聞くんですけれども、答えはやっぱり、自社の中にしかないですよ。
なので、一生懸命、社内の人と話してほしいし、何より経営部門と握れなければ、(採用に関する)権限は自分の方に手繰り寄せられない。
ただ、権限なんて、あるようでないわけです。僕が人事で採用やらせてもらっていたときには、もう、やりたいことを勝手にやってしまいましたね。
自分自身が、いかに覚悟をもって採用に臨めているか
重要なのは、その勝手にやったことに対して社長が「まぁしょうがないな」と言ってもらえるような関係性を、どれだけ築けているか、なんですね。もちろん喧嘩もしました。勝手にお金使って、勝手に社長に請求書回して怒られる、みたいなことは、しょっちゅうあったんです。
ただ、僕の中では「最悪、自分で払おう」と必ず決めてました。やっぱりその覚悟を持って仕事をしていたので、社長も、それだけ思っているんだったらいいよ、ということで納得してもらっていました。
自分自身がいかに「覚悟」を持ってできているか、そして経営側と握れているか。結局この2点に尽きるんじゃないかなという気がしているんですよね。
ただ、残念ながら、大きな組織になったり、人数の多いところになったりするとなかなか方針を確認する機会がなかったりとか、話す機会がそもそもないとか、時間がかかるという問題はあるかと思うんです。でも、そういった決定権者としっかりとアライアンス(合意)が取れないと、採用というのは、どうやってもうまくいかないのかなと思います。
【編集部より】
採用学4周年記念セミナー・杉浦二郎氏講演記事、後編はこちら。
「採用学」に関する、この他の記事はこちら。
- 「採用学」服部泰宏氏が語る、データ分析を活用するための2つの条件(横浜国立大学・服部准教授)
- 採用担当者に求めたい、「エピソード偏重」からの脱却(服部准教授による寄稿)
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