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採用学4周年記念セミナー・服部泰宏氏講演


「採用学」服部泰宏氏が語る、データ分析を活用するための2つの条件

2017.11.20

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「採用学研究所」を構成する伊達洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ)、神谷俊氏(株式会社ビジネスリサーチラボ)、杉浦二郎氏(株式会社モザイクワーク)、そして服部泰宏氏(横浜国立大学)が登壇し、採用環境に関する鋭い解説や、ユニークな事例紹介などを交えた講演を行った採用学4周年記念セミナー。

前回は株式会社モザイクワーク代表取締役・杉浦二郎氏の講演をご紹介し、採用を改めてシンプルに問い直した事例を見てきました。今回の記事では、「採用学」(新潮選書)の著者でもある、横浜国立大学准教授、服部泰宏氏が登場。杉浦氏のお話へのフィードバックとして、服部氏が語った内容をまとめました。「データ分析」「採用の作り方」について、非常に示唆に富んだ内容です。

服部 泰弘(はっとり・やすひろ)
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横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授

神奈川県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。滋賀大学経済学部専任講師、准教授を経て、現在にいたる。日本企業における組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2013年以降は特に「採用学」の確立に向けた研究・活動に力をそそぐ。採用学研究所では客員研究員を務める。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に第1回人材育成学会論文賞を受賞。

データ分析を行うには条件がある

まずデータ分析に関して、1つ私の方からお話をさせていただければと思います。

私は、データ分析が大事かどうかと言えば、総じて大事だと信じています。ただ、分析のためには実はいろいろな条件があって、杉浦さんのおっしゃった「分析を使える状況と使えない状況がある」ということは、全くその通りだと思っています。

というのも、統計を知っていれば知っているほど、データ分析やビックデータに対しては、慎重な方が多いんです。懐疑的ではないが、慎重ということです。

データ分析のための条件(1) 環境の安定性

まず、データ分析を行うための1つ目の条件は、環境の安定性です。環境が変わっていないかどうか。人材の「優秀さ」の定義が変わっていないかどうか。この安定性というものをまず考えないといけない。つまり、分析に使用するデータと同じような状況が今もあるのかどうか。これが1つ。

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データ分析のための条件(2) 大量にサンプルがあること

データ分析を行うための2つ目の要件は、大量にサンプルがあることです。

たとえば、Aさんは採用時にテストでとても良い成績を取ったが、入社後は全然パフォーマンスが上がらなかった。でもBさんは、採用時のテストの成績は悪かったが、入社後はパフォーマンスが非常に高かった。この2人だけを見れば「テストでは入社後のパフォーマンスは測れない」ということになりますが、この2人がたまたま例外的なケースなのかもしれない。そこで、2人ではなく、100人、200人、1000人、1万人と大量のデータを分析することで、偶発的な要素が相殺されていき、はじめて「テストという手法」に対して定量的な分析結果が出る。

「大量」といった場合に具体的に何人という数字があるわけではないんですけれども、サンプルが1000あればかなり安定します。100を超えていれば、ある程度の安定性はあると言えるんですけれども、それでもやっぱりノイズはある。データ分析をする場合は、この2つの条件を見極めなくてはいけません。

最も精度の高いデータ分析でも、希望の人材を採れる確率は50%

次です。仮にデータを分析できる状況があったとしましょう。

大量にデータがあって「優秀さ」の定義も自社においてはそんなに変わらないだろうという前提があったとします。では、データ分析でどのぐらい将来の優秀さを見抜けるかというと、最も高い精度の分析で50%です。

これはこれまでの研究結果にはっきりと出ている。「最も精度が高い場合」が何かというと、環境が全く変わっていない場合です。言い方を変えると、全く同じ条件でデータ分析を行い、全く同じ採用をやっても、50%は意図していない人材が入ってくるんです

データ分析で予測できるパーセンテージをどう考えるか

これをどう考えるか。「なんだ、データ分析ってその程度なのか」と考えるのも1つですが「ちゃんとやれば、50%くらい予測できるのか」と考えるのも1つです。ここも自社で考えて、選択しなくてはいけないんです。これは考え方の問題、価値観の問題、みなさんが選び取る問題です。

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私はちなみに、5%でも意味があると思っている。何も予測できないよりも、5%でも予測ができるというのはすごいことです。しかし、先ほどの話に立ち返ると、ある程度のサンプルがあるとか、環境に安定性があるということが条件だということは忘れてはいけない。

これまでにない採用手法に成功する企業の共通点は何か

私は、これまでにない採用手法にチャレンジをして、そのチャレンジが、杉浦さんの言葉でいえば「本質的」で、成功する場合には1つの共通点があると思っています。それが何かというと「かなり早期の段階で、自社の採用を比喩のように表現する言葉が登場している」ということです。

たとえば、杉浦さんの関わった「カフェテリア採用」というのは、わりと早期にその言葉が出てきている。「カフェテリア」という単語は、さまざまな意味を含みますよね。自由に選べる感覚、押し付けていない感覚、「カフェテリアプラン」だとか、さまざまなものを想像する。

私の解釈では、この言葉が出てきたことが、議論を信頼のおけるものにしたと思っています。「このコンセプトをみんなが持っているんだ」という信頼感があったから、「じゃあそのコンセプトを詰めていこう」と具体的な議論をすることができた。だから実はこの「カフェテリア」というフレーズが出てきたということが、私はすごく大事な意味を持っていたと思うんです。

「形にならないもの」を想像できたから、人は進化した

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サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ (著)
柴田裕之 (翻訳)
単行本
2016/9/8発売(河出書房新社)

どうしてこんなことを思ったかと言うと、ちょっと突飛な着想のように思われるかもしれませんが、私は、ユヴァル・ハラリが書いた「サピエンス全史」という世界史の本を読んでこのことを着想したんです。

その本によれば、人類が新しいものを作ることができたのは、実は、採用のように「形のないもの」を人間が想像できたからなんです。

ここが人類の進化の一番重要なところで、例えば、縄文人はカルデラ湖を見て「こういう形のものがあったら水を貯蔵できるのでは」と思って土器を作った可能性があるそうなんですね。今はないものを、「こんなものがあったらな」と想像することで人類は進化してきた。

実は日本のものづくりが強いのは、この「こんなものがあったらいいな」という感覚をちゃんと、仕組み化してきたからなんですね。

試作品を粘土で作るとか、想像したものの「プロトタイプ」を作るという仕組みがあったからこそ、例えば、まだできていない「日本製の車」をみんなで作ることができた。ものづくりの世界は、こうしたことをやってきたんです。

翻って、人事はどうか。人事のように、採用プランとか、育成プランとか、キャリアプランとか、いろいろ無形のものをつくっていくときには、プロトタイプを粘土でつくるわけにはいかない。では、何が必要かというと、私の解釈では、言葉による表現が必要なんですね。

無形のプランを表現する場合「言葉」がプロトタイプになる

自社の採用とは何なのか、求職者と会社の関係はどうあるべきかということを、比喩でもジョークでもいいので、言葉として表現する。

杉浦さんはそれを「カフェテリア」という言葉で表し、私が今追いかけている企業さんでは「ヤジロベー」と表現している。

一見すると「なんだそれ」と思うかもしれませんが、実はそこに「自分たちはこういう採用をしていきたい」という、たとえば自動車会社で言う粘土の車の形、プロトタイプみたいなものがあって、それがあったから、肉付けする作業ができたのかなと思います。

採用を恋愛関係に例えることで見えてきた「おかしさ」

その考え方で、学生と会社との関係は何かと考えたときに、ある会社さんでは「恋愛関係」という答えがでてきた。就活を恋愛関係に例えることはありますが、その会社さんは「恋愛関係」という言葉をもとに自社の採用を考え直したときに、今の採用っておかしくないか、と気づいたんですね。

恋愛関係に例えた場合、今の採用では、出会った日に「なんで俺のこと好きなの?」って聞いているんですよね。これは採用学研究所の諏訪さんに教えられてなるほどなと思ったんですけれど、いきなり聞くんですよ。恋愛じゃありえないですよね。じゃあ「俺のこと好き?」っていつ聞くのかと言えば、わりと最後だよねと。
pfhattori04今のは1つのジョークですけれど、採用を作ろうと思ったときには、比喩やアナロジーで議論してみるというプロセスがあると、本質的に何が大事かということを考えるきっかけになる。杉浦さんの言葉を私なりに言うならば、「シンプルに物事を考える」ということの、1つの「やり方」になるのかな、というふうに考えています。人事の世界にも、こうしたものづくりの考え方が、これから出てきてもいいのかな、と思います。私からは以上です。

【編集部より】
服部泰宏氏による、寄稿記事はこちら。

「採用学」に関する、この他の記事はこちら。

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