新しい採用のかたち
新卒採用市場の異端児「就活アウトロー採用」の全貌(前編)
2016.09.20
「みんな真っ黒なリクルートスーツで、どうやって個性を求めるの?」「志望動機? 業界1位の会社に落ちたから、2位3位と受けていますけど?」――。“シューカツ”に対する違和感は、学生・企業ともに多くの人が感じたことがあるだろう。そんな就職活動に真っ向から「NO」を突き付ける「就活アウトロー採用」とは? 新卒採用、そして人材ビジネス業界に、正面から突き付けた挑戦状の詳細を、キャリア解放区の納富順一氏が語る。(後編はこちら)
「弱者支援」ではない。集まるのは優秀で有能な“就活アウトロー”たち
――非常にインパクトのあるサイトですが、「就活アウトロー採用」とは、どのような内容なのでしょうか?
一見、ふざけているように見えるかもしれませんが、ビジネスとして真剣に取り組んでいる人材マッチングサービスです。現在の就職・採用活動(以下、就職活動)って、何かがおかしいと思いませんか? 解禁時期の議論、みんな同じ真っ黒なリクルートスーツ、同じような自己PRに、同じような会社PR。あげればキリがないほど、まともな神経を持つ人なら、学生側も企業側も、「何かがおかしい」と感じるポイントが多々あります。
どちら側の目線で見ても、ある程度こうすれば正解という「フォーマット」があると便利ですが、現在はそれが行きすぎてしまい、みんなが同じフォーマットに沿って、みんなが同じようなアピールをしている。
そこに、何かしらの違和感を持つのは、当然のことだと思います。
成長社会から成熟社会へと進む、これからの時代は「新たな価値を創造できる人間」が求められています。画一的な“就活フォーマット”にはなじまなくても、そんな価値創造ができる、大きな可能性を秘めている若者を「就活アウトロー」、既存の就活システムに限界を感じている企業を「採用アウトロー」として、その両者を結びつけるサービスが「就活アウトロー採用」です。
採用企業からは、成功報酬型の人材紹介料やイベント参加料を頂きますが、求職者側は交通費や合宿費(5000円程度)の自己負担のみです。2012年から試験的に始めたサービスですが、年々参加者・参加企業が増え、これまで約120名の就職をサポートしてきました。
――求職者側の「就活アウトロー」には、どのような参加者がいますか?
29歳までの就職経験がない若者です。高卒、中退、休学、大学卒、大学院卒、放浪、ひきこもりなど。高学歴の子も多く、第二新卒の子もいます。髪形や服装は自由としていますが、奇抜な格好をする参加者は非常に少ないです。
よく勘違いされますが、僕らがやろうとしていることは、決して就職できかった「弱者」を支援するサービスではありません。
現在の日本のように成熟した社会では、彼らのように遠回りをしてきた人材のほうが、新たなイノベーション、新しい発想を生み出しうる貴重で優秀な人材だと考えています。履歴書に一切のブランクがなく、ストレートに社会に出ている人間よりも、彼らは多くの試行錯誤をしていますから。ものの見方や考え方、行動力も際立っていて面白い。
一方で、働いていなかったり、「正社員」ではなかったり、自分が“アウトロー”であることも、ちゃんと分かっている。客観的に自分自身を把握するメタ認知能力は、高い子が多いです。
――具体的に、どのような「就活アウトロー」がいるのですか?
僕らがターゲットにしているのは、「ポジティブアウトロー」と「モヤモヤアウトロー」の大きく2グループです。「ポジティブアウトロー」とは、例えば、ハリウッド映画のスタントマンや、お笑い芸人、ミュージシャン、バックパッカー、俳優、小説家など、「就職活動よりもやりたいことがあった」ような若者たちです。
そして、「モヤモヤアウトロー」は、大学生のときに就職活動を始めたものの、そのやり方に違和感を覚えて、途中リタイアしていたり、そもそも働く意義を見出せずに、ニートになっていたりするようなタイプです。「モヤモヤ」は、有名大学の大学院卒など、高学歴な若者も多いのが特徴ですね。全体の約7割がモヤモヤタイプ、残り3割がポジティブタイプです。
モヤモヤタイプはさらに2グループに分かれますが、一つは、嘘のような志望動機を言ってまで働きたくないけれど、どうしていいかわからない不器用なタイプ。
もう一つは、頭がいいから、就職活動の仕組みのおかしなところが気になってやる気を持てないパターンです。いわゆる評論家タイプのような子です。
企業名は明かさず「人間 対 人間」で向き合う
――「ポジティブアウトロー」は、一度「働くこと」が目標になれば、行動力もあり、有能な人材になるイメージがつきやすい。一方で、「モヤモヤアウトロー」は、一般的には評価されにくそうです。納富さんは、彼らに対してどのようなサポートを行い、就職につなげていくのですか?
プログラムは、「ポジティブ」「モヤモヤ」どちらに対しても、すべて共通です。説明会、一泊二日の合宿、企業とのマッチングセッションへと進みます。まず、説明会では、間違ったイメージを持った人が参加しないように、必ず説明することがいくつかあります。
(1)「弱者支援のサービスではない」
(2)「自分が働きたいイメージが明確に決まっている人や、今すぐにでも働きたい人は、普通の就職活動のフローに乗ったほうが絶対楽」。例えば、「残業はしたくない」「週4で働きたい」のような企業探しは、既存の紹介サービスを利用したほうが早い
(3)「運営側は一切トレーニングを行わない」。大前提として、我々は「就活アウトロー」を優秀な若者だと考えています。そんな彼らに、外から考え方を押し付けたくありません。エントリーシートの書き方や面接対策などの、内定テクニックを教えることを一切しません
(4)「既存の就職活動でおかしいと感じるものは、我々が全部取り払う」。エントリーシートやリクルートスーツ、白々しい志望動機を語らせる面接など、それらがなくなったときに自分がどうありたいか真剣に考えてほしい
(5)「参加企業は、我々が信頼を置く企業のみ」。若者を搾取しようとする企業は、絶対に参加させません
(6)「参加するのは、いま、本気で働く覚悟を持った人だけでいい」。仕事以外で、やりたいことがある人は、まず思う存分そちらをやった後の参加で大丈夫
(7)「傍観者ではなく当事者になってほしい」。我々はアウトローたちをお客様扱いはしません。既存の就活システムが嫌だ、だけでは思考停止です。受け身の姿勢では何も変わらない。だからこそ、まずは積極的に「場」づくりに参加してほしい。説明会では椅子の設営も彼らにしてもらいます
(8)「第一印象で人を判断しないで」。自己開示は苦手だけれども、面白い経験や考え方を持つ人がたくさん参加しています
このような話をします。現役大学生で就職活動を頑張っている子が、藁(わら)にもすがるような思いでこちらに来ることがあるんです。もしくは、「リクルートスーツを着たくない」「エントリーシートを書きたくない」という理由だけで楽に内定が出そうだと勘違いして参加ししようとする学生もいます。
そこは、変な誤解を与えないよう、企画意図やターゲットイメージについて、説明会でしっかり話します。
――合宿での取り組みは?
まずは、グループに分かれ参加者同士の関係性を深めてもらいます。自己紹介だけでなく、「どう生きていきたいか」「どんな感情が行動のブロックになっているのか」などのテーマを本音で話し合ってもらいます。中には、コミュニケーションが苦手な参加者もいますが、無理強いはしません。
ある程度、参加者同士でお互いの人間性が分かったところで、企業の人事担当者も参加するセッションに進みます。「就活アウトロー採用」では、通常の合同説明会の逆パターンで、人事担当者が各グループを回ります。
ただし、企業名を名乗ってはいけません。あくまでも一個人として、就活アウトローたちと同じ目線に立ち、仕事とは全く関係のないことをテーマのディスカッションをしてもらいます。例えば、真剣に「愛とは」「欲とは」「死とは」など、哲学的なテーマを本気で話してもらうんです。
なぜかというと、実際に働いている社会人、しかも人事担当者を交えて「働く」などをテーマにディスカッションをすれば、どうしても説教臭くなってしまいがちです。でも、哲学的なテーマなら、人事担当者も普段から考えることはないはず。あくまでも、対等な「人間 対 人間」として会話をしてもらいたい。決して冗談ではなく、その場はかなり真剣な雰囲気です。
その企業セッションの最後に、各人事担当者から、短いプレゼン形式で会社の事業紹介を行ってもらいます。そこで、お互いに興味を持ったら、次の選考ステップに進んでいく形です。
それ以降の選考スタイルについては、各企業に任せていますが、これだけ面倒くさい取り組みに参加してくださる企業なので、人の良さをしっかり引き出してくれる企業が多いですね。
会社規模や業種に関係なく、これまで外資系コンサルティング会社から、設立間もないベンチャー企業まで、多くの企業に参加いただいています。
――企業の人事担当者にも、相当な熱意と人間性が求められそうです。
その通りです。主語が「弊社は〜」としか言えない担当者は、苦労すると思います。事前にコンセプトを説明しても、いざイベントに参加すると「生意気だ」とたまに怒って帰られる人事担当者もいます。ときには、我々と価値観が合わずに、こちらから参加をお断りするケースもあります。
「就活アウトロー採用」は、企業にとっても完成された使い勝手の良いサービスではないかもしれませんが、入社前の段階で、相当深い信頼関係を築くことができるサービスです。まだまだ発展途上の部分も多いので、ぜひ、我々と一緒にサービスを作り上げてくれるような企業に参加してもらいたいです。【後編に続く】
執筆者紹介
玉寄麻衣(たまよせ・まい) 1979年生まれ。立命館大学政策科学部卒業。外資系大手人材派遣・人材紹介会社で、営業として主に中小企業の人材採用をサポート。その後フリーランスのライターとなり、人材採用、人材育成、大学教育、広報・PR、企業経営等に関する取材・執筆を行う。
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