城繁幸、ニュースを斬る
「同一労働同一賃金」法案施行前に、企業が押さえておくべきポイント
2016.07.15
同一労働同一賃金実現のための法整備が進んでいる。与野党ともにマニフェストに掲げる政策なので、大きな抵抗もなく実現すると思われる。そこで、同一労働同一賃金が法制化された場合の人事のチェックポイントについて簡単にまとめておきたい。
同一労働同一賃金実現にあたって、問題になる3つのパターン
与党案では、既存の正社員の賃金水準にはメスを入れることなく“同一労働同一賃金”を実現すると明記されており、基本的には複数のガイドライン提示を通じて、問題のある賃金格差を是正するという。問題となりうるのは、特に以下の3つのパターンだろう。
- 非正規雇用ではあるが、賃金水準の高い正社員と同じ業務を担当し、正社員との責任の差も曖昧である
- 正社員であっても、グループ企業からの転籍者や企業統合の結果、異なる賃金テーブルのまま同じ業務を遂行している
- 中途採用や雇用形態の切り替えなどで、一人だけ賃金水準が同年代と異なっている
対策は「賃上げ」と「職責の違いの明確化」が基本
上記のような問題を解決するためには、非正社員の賃上げをして水準をそろえるか、正社員との職責の違いを明確化し、職場内で意識共有するなどの対策をとるべきだ。基本的に賃金制度自体を見直す必要は無く、あくまでもそこから外れた“漏れ”がないかどうかのチェックと考えてほしい。
同一労働同一賃金を実現する抜本的な対策は「賃金体系の見直し」
ただし、まだ若い会社やベテランの少ない企業なら、筆者はより長期的な視点に立って賃金体系自体を抜本的に見直すことをおススメしたい。通常の日本企業であれば、職能給と呼ばれる属人給を使っていると思われる。これは、初任給から一年ごとに少しずつ昇給し、実質的な年功賃金として機能している給与体系だ。
それを思い切って、担当する業務グレードによって賃金水準を決める職務給(役割給とも)に切り替えるのだ。これにより、理論上は(年齢、雇用形態、性別、学歴によらず)担当する業務によって賃金が決まるから、同じ業務なら同じ賃金という同一労働同一賃金が成立することになる。
「そういう職場はイメージ出来ない」という人は、近所のコンビニをイメージしてみてほしい。高校生のバイトから60代の団塊世代まで、それぞれが仕事に応じた時給を受け取り働いているはずだ。誰に言われなくとも、そうした職場には、地域ごとに「レジを打つ仕事は時給〇〇円」という市場価格が成立しているわけだ。これこそ、これから日本が目指すべき本物の同一労働・同一賃金である。
同一労働同一賃金の徹底は、多様な人材の採用に寄与する
筆者が後者のアプローチを推奨するのには、もう一つ理由がある。それは、賃金体系を見直すという、抜本的な対策の方が“流動性”というメリットを最大限に享受できるからだ。
これから日本はますます人口が減り、働き手の確保は難しくなる。20世紀の日本企業は競うように「まだ20代でポテンシャルのありそうな男子」を採用し、自社内でじっくり育てることで戦力としていたが、これからそんな贅沢が許されるのは、放っておいても若者が集まるごく一部の大手企業のみとなるだろう。
その他の企業は、年齢や性別にかかわらず、多様な人材を労働市場から柔軟に採用し、戦力とするしかない。十代の学生バイト、子育ての一段落した世代、そして定年後にまだまだ働きたいと願う高齢者。そうした人たちにクリアで偏りのない処遇を保証するには同一労働同一賃金を徹底する以外になく、そのプラットフォームとしては職務給しかありえないというのが筆者の結論である。
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執筆者紹介
城繁幸(じょう・しげゆき)(人事コンサルタント・作家) 1973年生まれ。東京大学法学部卒。富士通を経て2004年独立。06年よりJoe’sLabo代表を務める。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』(筑摩書房)、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』(PHP研究所)など。
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