コラム

城繁幸、ニュースを斬る


人手不足を解決したいなら「賃金制度改革」だ

2017.08.07

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大手製造業でも広がる「人手不足」の声

「とにかく人手が足りない。だがこれ以上採用のハードルは下げられない」といった声が、幅広い業種から聞こえてくるようになった。従来から慢性的な売り手市場の続いていたサービス業はもちろん、比較的人気の高い大手製造業からも同様の声は上がっている。

採用ハードルを下げるのではなく、採用対象の見直しを

そうした場合、筆者は採用ハードルを下げるのではなく、採用対象そのものを見直すことをおススメしている。恐らく、多くの日本企業は「20代、男性」を主要な採用ターゲットとしているはずだ。それを男女問わず30代以上、場合によっては高齢者も含めることで、母集団は大きく増やすことが可能となるだろう。特に、結婚や出産を機に労働市場から退出した女性の中には、学歴も職歴も申し分ないグループがいる。そうした人たちを振り向かせることが出来れば、相当な戦力となるに違いない。

多様な人材を採用するために、プラットフォームから変える

とはいえ、多様な人材を戦力として取り込む前に、まずやるべきことがある。ほとんどの日本企業の人事制度は終身雇用向けに組まれたものであり、それを多様な人材を労働市場からリクルート出来るようなプラットフォームにアップデートする必要があるのだ。

賃金制度を「属人給」から「職務給」に変える

 まずは、賃金制度改革が必須だろう。日本企業で一般的な職能給は初任給から勤続年数に応じて少しずつ昇給させていく属人給で、若手をじっくり育成するにはマッチしているが、年齢も属性も多様な人材の受け皿にはなり得ない。ではどういう賃金システムがいいかと言えば、担当する業務に値札をつける職務給がオススメだ。これなら、10代だろうが70代だろうが、同じ業務を担当すれば同じ賃金を支払えば済む話で、幅広く求人をかけることが可能となる。

 特に、一度退職した女性にとってはこの仕組みは魅力的だ。大企業では今でも勤続年数が処遇を決める上でとても重要な要素なので、キャリアに数年間のブランクの空いた女性を正社員として採用するのを敬遠する傾向が強い。だから、スキルはあるがやむを得ずパートや派遣などの非正規雇用として労働市場に復帰する人は少なくない。そうした高スキル女性にとって、現在のスキルを正当に評価し、相応しい処遇を保証してくれる企業は実に魅力的な職場だろう。

もちろん、新しく採用する人材だけに押し付けるのではなく、合わせて既存の社員の処遇も職務ベースのものに見直す必要はある。急激に実施すれば社内は混乱するだろうから、過渡期として3~5年ほどの猶予期間を置いてから、徐々に担当業務の線引きと処遇見直しを進めるといいだろう。

人事異動を見直し、本人の専門性を重視した配置を行う

人事異動についても大幅な見直しは必要だろう。職務ベースで処遇を決めるということは、本人の専門性を重視するということだ。ゼネラリスト型のローテーション人事や、本人の意向を度外視した会社主導の異動は見直すべきだ。

業務フローを見直し、中途採用者がすぐに適応可能な環境をつくる

そして、これは長期的な課題であるが、業務フローそのものも見直す余地があるだろう。終身雇用制度前提ではどうしても会社ごとに業務の進め方がガラパゴス化し、潰しの利きにくい人材が量産される傾向があった。同業他社でリーダーとしてスキルを積んできた人間を中途採用しても「うちのやり方は違う」と現場からクレームが来るなんてことは日常茶飯事だった。そうした“うちのやり方”なるものを見直し、労働市場の側に寄せる努力も必要だろう。

今の若者は「将来の出世」というあいまいな報酬を信用しない

もう一つ、人事制度を脱・終身雇用型にアップデートするメリットがある。筆者は先に「採用対象を若者以外に広げるため」と述べたが、実は上記のような改革自体、優秀で意欲のある若年層から見れば非常に魅力に富んだものだ。若く優秀な人材は、年功序列型のスローな人材育成方式に強い不満を持ち、将来の出世というあいまいな報酬をまったく信用していないことが理由である。

ファーウェイ日本法人が掲げた「新卒初任給40万」の意図

先日、中国企業のファーウェイ日本法人が「新卒の初任給40万円」という(日系大手初任給と比較して)破格の求人を出したことが話題となったが、同社は明らかにそうした「リスクをとりたがっている若年層」の囲い込みを意識しているとみていい。採用対象を広げるための改革をすることで、むしろ優秀な若年層が採用できるのなら、やらない手はないだろう。

中途採用のための賃金制度改革には、社会的な意義がある

最後に、社会全般という視点からも、中途採用の重要性に触れておきたい。政府の働き方改革の柱の一つとして「同一労働同一賃金の実現」が挙げられていることからも明らかなように、正規と非正規の格差是正は日本社会にとって喫緊の課題である。

だが、同一労働同一賃金は、単純に非正規の賃金を上げろと言えば済む話ではない。職能給の正社員と、既に職務給の非正規雇用労働者の間では、そもそも基準がまったく異なるため同一労働同一賃金の実現は不可能なのだ。

職務給への切り替えは、一足先に同一労働同一賃金の実現に向け道をひらくものだと言える。非正規雇用労働者のインセンティブを高めつつ、社会的に意義のある改革と言えるだろう。

執筆者紹介

城繁幸(じょう・しげゆき)(人事コンサルタント・作家) 1973年生まれ。東京大学法学部卒。富士通を経て2004年独立。06年よりJoe’sLabo代表を務める。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』(筑摩書房)、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』(PHP研究所)など。

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