城繁幸、ニュースを斬る
「継続雇用」が生み出す3つの歪みと、企業が行うべき対策とは
2018.10.31

政府が、現在65歳までとされている定年後の継続雇用の義務化について、70歳までの引き上げを検討中だと報じられている。人手不足への対策と年金支給開始年齢のさらなる引き上げを視野に入れてのものだろうが、現在でも65歳までの継続雇用は評判の悪い仕組みであり、さらなる引き上げは企業活動にいっそうの悪影響を与えることが大いに想像できる。
そこで、継続雇用の何が問題なのか、そして企業に求められる対策とは何かをまとめておこう。
継続雇用が生み出す歪み
継続雇用が引き起こす歪みは、大きく分けて以下の3点だ。
1.労働市場を硬直化させる
従業員数が10万人の大企業であっても、1社内だけですべての人材を適材適所に配置できるわけではない。その意味では、労働市場を流動化した上で、社会全体で適材適所の実現を図ることが本来あるべき「高齢者の活躍できる社会」と言えるだろう。
言うまでもないが、継続雇用は、それと真逆のアプローチをしている。たとえ今の会社に居場所が無くても、その人材を必要とする会社はきっとどこかにあるだろう。今の会社ではもう第一線で活躍することが難しくても、彼の往年のスキルを歓迎してくれる会社は、他にもあるかもしれない。
1社内でキャリアを完結させるということは、そういう可能性をすべて捨て去り、往々にして飼い殺しにするということだ。
2.賃金を抑制させる
65歳への継続雇用義務化の際にも幅広い業種で見られたことだが、強制的に雇用期間を引き延ばせば、多くの企業は、あらかじめ昇給を抑制する。そうすることで、トータルで人件費の帳尻を合わせようとするのだ。まるで“生涯賃金”という名のお餅を、薄く延ばして支給するように。
総理は毎年のように労使に賃上げを要請し続けているが、継続雇用はその動きに完全に逆行するものだ。
3.本人の意欲の減少
個人的に一番問題だと考えるのが、継続雇用される本人のモチベーションへの悪影響だ。個人差があるので一概には言えないが、たとえば53歳で役職定年させられ、それから元部下である年下の上司の下で、70歳まで働きつつ、前向きなモチベーションを維持できる人間がどれほどいるだろうか。
また、そうした人間がこれから多数出現する中、組織全体の士気は維持できるのか。筆者は大いに疑問を持っている。はっきり言えば、現在の65歳雇用であっても、持て余している職場は少なくないというのが筆者の実感だ。
抜本的な人事制度改革の必要性
そもそも、現在の日本型雇用制度というのは、55歳定年を想定してデザインされたものだ。初任給という組織内で最も低い賃金からスタートし、20~30代のうちは生産性に見合わない賃金水準に抑制されるものの40代から生産性以上に報われるようになり、55歳でキャリアを終えるというシステムだ。
役職定年制度のような工夫をしつつ、60歳定年なら辛うじて機能させることもできたが、65歳まで引き延ばされると、キャリアの後半が完全に間延びしてしまい、本人にも職場にも大きな負担となっている。政府が本当に70歳まで雇用義務を引き上げるというのなら、企業は思い切って人事制度そのものを再設計するべきだ。
年功序列制度を廃止し、「職務給」へとシフト
では、どうすべきか。まずは、年功序列を廃し、担当する役割に応じて処遇を決める職務給へのシフトが急務だろう。労働組合との調整に時間がかかるなら、シフトする対象を、まずは40代以上や管理職の社員に限定しても構わない。
たとえば社内の業務をいくつかのグレードに分け、主任級以上は担当する業務に応じて格付けし、基本給は勤続年数ではなくグレードで決定するという具合だ。見直しは毎年行い、抜擢も降格もセットで実施する。
合わせて、役職定年制度のような、年齢で一律の処遇を講じる制度も見直すべきだろう。これにより、30代も60代も年齢にかかわらず能力のある人材がボーナスやポストで報われることが可能となる。何歳からでもリターンマッチが可能だから、50歳以降に「消化試合モード」に陥ることを防ぐことができる。
何より、勤続年数を気にしなくてよくなるから、経営者も人事部も肩の荷が下りるはず。あと10年もすれば組織内で最大のボリュームゾーンを誇るバブル世代が継続雇用の対象になるが、年齢が関係無くなればそうした世代問題はきれいさっぱり片付くためだ。
また、役割に応じた賃金を支給すれば良いわけで、若いうちに賃金抑制をする必要もなくなる。これで先述の問題のうち2,3番は改善されるはずだ。以上が企業側が打つべき対策となる。
労働力不足を解消するためにも、職務給の導入が求められる
その上で理想を言えば、政府は解雇規制を緩和し、併せて定年制度そのものを無くすのがベストだろう。一定の金銭を支払うことで解雇が可能となれば、わざわざ定年のように一律の年齢で辞めさせられる年齢イベントなど必要ない。何歳でも働ける限り働けば良いだけの話だ。
また、解雇コストが下がることで、雇用の流動性が高まり、企業の採用意欲は大いに刺激されることになる。「この60代の求職者、なかなか面白い職歴だから一つ採用してみよう」という具合に、これまで日の当たらなかった層にも、企業は積極的に門戸を開くことになる。
高齢者の雇用継続だけでは日本の労働力不足は解消には程遠い状況だ。高齢者に加え、女性や氷河期世代、外国人も戦力として取り込めるプラットフォームの構築が急務と言っていい。そのためには、勤続年数ではなく、役割で処遇を決める世界標準の職務給の導入が不可欠だというのが筆者の変わらぬスタンスである。
※情報は記事公開時点のものです。
【編集部より】
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- 人事担当者が知っておきたい「障害者雇用」の基礎知識と企業事例
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執筆者紹介

城繁幸(じょう・しげゆき)(人事コンサルタント・作家) 1973年生まれ。東京大学法学部卒。富士通を経て2004年独立。06年よりJoe’sLabo代表を務める。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』(筑摩書房)、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』(PHP研究所)など。
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