コラム

城繁幸、ニュースを斬る


脱・終身雇用宣言は「“当たり前”な雇用関係」を見直すターニングポイント

2019.06.12

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先日、中西経団連会長がインタビューで「終身雇用はもはや限界」とコメントし、大きな波紋を呼んだ。そして日を置かずに、今度はトヨタと日商会のトップからも同趣旨の発言が続き、この問題が一個人や一企業にかかわるものではなく、日本企業全体にかかわる問題だということがもはやだれの目にも明らかとなった。

なぜこのタイミングなのか。いま日本企業の中で何が起こっているのか。そして、日本型雇用はこれからどこに向かうのか。良い機会なので整理しておこう。

目次
  1. 脱終身雇用宣言の背景
  2. 優秀層の大企業離れ
  3. 従来から存在した非終身雇用型の日本企業
  4. ポスト終身雇用の社会

脱終身雇用宣言の背景

なぜこのタイミングなのか。筆者は理由としては2つあると考えている。まずは、日本企業が現在直面する最大の試練「働かないオジサン問題」だ。

本来、終身雇用制度というのは55歳定年を想定して作られたものだった。それが年金財政の事情により90年代には60歳まで引き上げられ、さらに2012年には実質的に65歳までの雇用継続が義務化されている。

こうなると、企業は中高年社員のモチベーション維持が極めて困難な状況になる。一般的に言って企業の幹部候補選抜は35~40歳前後で終了し、管理職に昇格できなかった社員はそれ以降ずっと“消化試合”ということになるためだ。

定年が55歳で7割の社員が管理職になれた時代だったら問題なかったろうが、既に大卒者の7割がヒラ確定という低成長の時代に、そうした社員を65歳まで抱え込むのは企業にとって耐えがたい重荷だろう。

くわえて、多くの大企業で導入されている役職離任(定年)制度の存在も大きい。ポスト不足に対応するために50代半ばで管理職のポストを召し上げる企業は少なくないが、対象となった元管理職はかつての部下たちと机を並べて65歳まで10年ほど働くはめになる。本人も可哀そうだが、同僚もどう扱っていいか分からないというのが実際だろう。

こうした企業現場を知ってか知らずか、政府内では「70歳までの雇用延長」がすでに議論のテーブルに乗せられている。企業からすれば「これ以上低モチベーションの中高年の面倒を押し付けられてはたまらない」というのが本音だろう。

優秀層の大企業離れ

2点目の理由としては、上記のような実情が徐々に社会に知られるにつれ、新卒採用で優秀な人材から大企業が敬遠されるようになったことも大きい。従来は「就活ルールを無視して外資や新興企業が早期に内定を出しても、最終的には優秀層は我々のもとにやってくる」という盤石の自信が彼ら大企業にはあった。

だが、近年は外資や新興企業にインターン経由で早々に内定を獲得し、大企業の“新卒一括採用”には見向きもしない層が上位校を中心に拡大中だ。2021年卒予定の東大・京大生の就職人気ランキングを見ても、トップ10のうち実に7社を外資系企業が占める(株式会社ワンキャリア調査)。

これもまた大企業が(新卒一括採用から始まる)終身雇用の見直しに動いた大きな理由だと筆者はみている。

筆者は10年以上前から、いずれ経団連は脱・終身雇用に舵を切ると予測していた。昨年、経団連が就活ルール廃止宣言を出したとき、おそらく終身雇用見直しへの布石だろうと想像していたが、1年経たずに今回のような発言が飛び出したことには少々驚いている。それだけ大企業にも余裕がなくなっているということだろう。

従来から存在した非終身雇用型の日本企業

ただし、忘れてはいけないのは、経団連も日商会もべつに「今後はバンバン解雇する」とまでは言っていないという点だ(筆者自身はバンバン解雇できるようにすべきだと思うが)。

「終身雇用は見直す、でも首切り上等にはしない」と書くとなんだか矛盾するようにも見えるが、実は日本企業の中にも従来から非・終身雇用型の企業は存在した。業種でいえば外食や小売り、不動産といったサービス業がこれにあたる。

こうした業種は総じて離職率が高く、たとえば製造業9.4%に対し、飲食サービス業、宿泊業は30%に上る(平成 29 年雇用動向調査結果の概況より)。これはこうした業種が“職人”を育てる必要が無く、従業員を長く勤続させるような仕組みをあまり導入してこなかったためだ。

具体的に言えば、長く勤めれば勤めるほど昇給する年功賃金や、50歳以降に大きく加算される退職金制度などがそれにあたる。要するに「定年までいてもいいけれども、会社としてそれを促すような仕組みは作りませんよ」というスタンスになる。

意外に知られていないが、実は従来、終身雇用制度の最大の擁護者は経団連自身だった。鉄鋼や自動車、家電といった製造業の影響力が大きく、モノづくりの基本は長期安定雇用にこそあると考えてきたためだ。

だがそうしたメリットはすでに失われ、今後は「我々もサービス業にならいますよ」というのが経団連の意図だと、筆者は理解している。

ポスト終身雇用の社会

では、ポスト終身雇用の社会とはどのようなものだろうか。まず入り口段階である新卒採用は、インターン経由での配属約束付き職種別採用コースと、従来通りの一括採用に二極化することになる。

学生生活をフルに使い、複数のインターンを経験してよりよい条件の職に食い込もうとする優秀層と、従来通りのポテンシャル採用で満足する一般層という具合に、学生も二極化することになるはずだ。

「学生生活に余裕がなくなる」とか「就活が早期化する」と危惧する声もあるが、世界的に見れば学生が4年間ぶらぶらした挙句にポテンシャルだけで採用されてきた従来が異常なだけなので気にしなくてよい。

一方、勤続年数や年齢といった年功序列的要素が薄まることで、代わって「何が出来るのか」という職務が重要な評価軸となる。と言われてもよく分からないという人は、外食や小売り店舗をイメージすると分かりやすいだろう。レジを打つ、商品陳列を行うといった職務に値札がつき、高校生のバイトだろうが60代の再雇用者だろうが、同じ仕事をする人間には同じ時給が支払われる。

そうした企業には採用時に年齢制限がなく、非正規雇用であっても店長やエリアマネージャーといった管理職に昇格できる企業も多い。一言でいえば柔軟で再チャレンジしやすいカルチャーだ。政府は氷河期世代の正社員化の後押しを掲げているが、ただ正規雇用をゴリ押しするのではなく、こうした職務ベースでの人事制度の普及をセットで後押しすべきだろう。

そして、最も重要な変化として、長時間残業や全国転勤といった滅私奉公色も薄れていくだろう。従来、そうした滅私奉公は、企業が将来の出世とバーターで従業員に課してきた不利益だった。企業自身が長期雇用のメリットを否定するなら、従業員もまたそうした不利益を甘受する必要はない。

サービス残業はもちろん、私生活に影響するような残業には協力しない。同意のない転勤も受け入れない。プライベートを重視し、それがかなわないならいつでも転職する。経団連の脱・終身雇用宣言は、そういう「本来は労働者にとって“当たり前”な雇用関係」が日本においても確立する一つのターニングポイントとなるに違いない。

執筆者紹介

城繁幸(じょう・しげゆき)(人事コンサルタント・作家) 1973年生まれ。東京大学法学部卒。富士通を経て2004年独立。06年よりJoe’sLabo代表を務める。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社)、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』(筑摩書房)、『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』(PHP研究所)など。

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