林修三先生のなるほど人事講座
面接で応募者の思考特性を明らかにする「STBアプローチ」とは?
2019.04.22
これまで引き出し型面接の技法についてさまざまにご紹介をしてまいりましたが、今回はその集大成技法として、応募者の思考特性がわかる「STBアプローチ」について解説をします。
STBアプローチの狙い
「STBアプローチ」とは応募者の本音や内面を明らかにしていくために筆者が開発した面接技法です。「STB」という語句は筆者の造語で、心理カウンセリング技術の「ABC理論」を基礎として組み立てています。
STBアプローチは、「応募者の思考特性」を明らかにすることを狙いとしています。面接応募者に限らず、個々の人間の言動の裏には、必ずその言動を取るだけの理由があります。
例えば、ある応募者が大学で野球部に所属していて、その野球を一生懸命頑張っていた、という場合。その応募者の中に野球を一生懸命頑張ったことについての本人特有の理由が何か必ずあるはずです。その理由こそが、応募者の「思考特性」と呼ぶべきものです。
この「思考特性」が自社の求める人物像に近ければ、採用すべき人物である可能性が高いと言えます。
STBアプローチの基本ステップ
STBアプローチの基本は、応募者の話を以下の3つの枠組みや流れに沿って理解・把握していくことです。
(1)状況(Situation)
Situation(以下「“S”」)は、「野球部に所属している」「○○のアルバイトをしていた」「△△に『□□』だと言われた」などの客観的な事実を示す内容です。ここでは、その状況で抱いた考えや感情は含めずに、あくまでも客観的な事実のみを対象として把握することを意識します。
この“S”の話を深める際は、原則として5W3H(但しWhyは除く)を用います。
(2)思考特性(Thought Characteristic)
Thought Characteristic(以下「“T”」)は、“S”をどのように認識しているか、という解釈の中身になります。例えば、「野球部に所属している」という“S”に対し、「小中高と野球一筋だった以上、大学でも野球をするのが当然」と受け止めている、あるいは「気になる野球部のマネージャーに近づくため」と自覚している、などを指します。同じ“S”の下でも、どのような“T”でそれを受け止めるかは人それぞれ異なりますので、この“T”こそがその人の本質だと言えます。
この“T”の話を深める際は、Whyを基軸にしつつ、5W3H全てを用います。
ここではとにかくWhy?をぶつけていくことがポイントになりますので、その取っ掛かりとなる話題を少しでも多く引き出せるよう、一般的な5W1Hだけではなく、「How many(much)」「How long」も駆使して問いかけを進めましょう。
(3)言動(Behavior)
Behavior(以下「“B”」)は、“S”に対して、実際に表出・表現された本人の言動です。例えば、「野球部に所属し(“S”)、レギュラー獲得に向けて頑張った(“B”)」「野球部に所属し(“S”)、マネージャーの気を引こうとした(“B”)」などが当てはまります。
この“B”の話を深める際は、原則として5W3H(但しWhyは除く)を用います。
頭の中でS→T→Bを構成する
実際の面接の場では、応募者が必ずしも(1)→(2)→(3)という順番通りに話してくれるわけではありません。面接官としては、応募者の話を頭の中で上記の枠組みや流れに構成しなおしながら理解・把握していくことが必要になります。
STBアプローチの実践法
応募者の話をS→T→Bの枠組みや流れに構成し直したとして、今度は応募者の本質をしっかりと捉えていく段に移っていきます。具体的な手順・ポイントは次のようになります。
“T”を重要視する
先の“S”、“T”、“B”、のうち、ほとんどの場合で応募者の話には“S”と“B”が含まれますが、“T”については、ブラックボックスになっているケースが多々あります。しかし、この“T”こそが応募者の本質的な部分(価値観や考え方など)を示すものです。従って、面接官としては応募者の話の中身のうち、この”T”を最も重要視していくことが求められます。
“S”→”B”の流れに常に疑問を抱く
では、”T”の部分はどのようにすれば掴めるのでしょうか?ポイントは、応募者の話に多く出てくる「”S”→”B”」という部分について、「なぜそうなるのか?」という疑問を常に抱くようにすることです。
例えば、「野球部に所属していた(“S”)→ 部活動を頑張った(“B”)」というケースでいうと、(良い悪いは別として)世の中に存在する野球部員のうち、必ずしも全ての人がその活動を頑張っているわけではありません。つまり、「所属していた→頑張った」という流れが成り立つためには、論理上、頑張る方向への”T”が必要となるわけで、その”T”が一体どういうものなのか?という疑問を、常に抱けるようにするのが、STBアプローチの一番の肝になります。
自身の“T”を封印することで疑問を抱きやすい状態にする
実際には面接官が“S”→”B”という話をそのまま受け入れてしまい、疑問を抱かないことが多々あります。これは「”S” →<ブラックボックス>→”B”」という流れに対して、面接官自身の”T”(上記の例であれば「所属しているからには頑張るのが当たり前だ」というような思考)を勝手にブラックボックスに当てはめ、勝手に納得してしまうために発生する事象です。
そのため、面接官には自身の“T”を一旦封印し、目の前の応募者の“T”がどのようなものなのかについて疑問を抱きながら話を聞いていくことが求められます。少々極論ですが、5歳児が「なんで空は青いの?」とまっさらな疑問を抱くように、面接官も応募者の話のありとあらゆる部分に「なんでそういう話になるんだろうか?」と素直に疑問を抱けるようになるのが理想です。
語られた”T”に対し、さらに話を深めていく
この部分は、これまで数回にわたり「引出し型面接技法の基礎」としてご紹介してきたやり方を、そのまま踏襲して頂くことになります。「なぜ?」「具体的には?」を基軸にして話を深めていきましょう。
ここで気を付けて頂きたいのは、応募者が語る“T”の中に、また新たな「“S”→”B”」という構造の話が登場して来ることです。
隠れた“T”を聞き出すことは応募者の本当の内面を引き出すことになる
例えば、「野球部に所属していた(“S”)→ 部活動を頑張った(“B”)」に対する最初の“T”が「「小中高と野球一筋だった以上、大学でも野球をするのが当然だと考えているから」というものだったとします。これが、また新たな「“S”→”B”」であることにお気付きでしょうか?
よく考えてみると、小中高と野球をやってきた人間が、必ずしも大学でも野球を続けなければならないわけではありません。本人が野球を続けるのが当然と考える裏には、さらなる“T”が隠れていることになります。場合によっては、さらにその先に別の“T”が隠れているケースもあります。この隠れた“T”を聞き出せるようになれば、引出し型面接をマスターしたものと言って良いでしょう。
引き出し型面接の5つのポイント
空前の売り手市場かつ大学等での面接指導が高度化している現在、企業は選考過程全体を通じて、応募学生を惹きつけながら本音を引き出していくという、旧来とは全く異なるスタンスでの対応が求められます。それを実現する切り札となるのが引出し型面接です。
これまでの記事でご紹介してきた引き出し型面接の5つのポイントを改めて整理します。
(1)面接の場を応募者が話をしやすいように整える
「応募者の本音を引き出し、志望度を上げる「引出し型面接」のポイント」
(2)質問の基本は「なぜ?」「具体的には?」
「「引出し型面接」における質問の基礎技術 応募者の本音を引出す2つのキーワード
(3)受け止め表現を忘れない
「応募者の本音を引出す面接テクニック 「話の受け止め表現」とは」)
(4)質問効果を高めるための言い回し
「応募者の本音を引き出す質問の効果を、より高めるための工夫2点)
(5)応募者が話しやすい流れを作る(ヒストリーテイキング法)
「応募者の志望動機が高まるキャリアコンサルのヒアリング法活用術!」)
5つのポイントに共通する目的は、物理的な空間設定から会話の展開まで、面接の全ての段階において、応募学生が心を開き自ら語りたくなるのを阻害する要素を丹念に取り払っていくということです。
ぜひ、現代の学生気質に合わせた面接技法を取り入れていってみてください。それが結果的に、採用側・応募側双方に満足をもたらすことになると信じています。
【編集部より】
欲しい人材を獲得するための面接術に関する記事はこちら
執筆者紹介
林修三(はやし・しゅうぞう)(株式会社ヒュームコンサルティング代表取締役) 1975年生まれ。仙台市在住。東北大学法学部を卒業後、大手自動車部品メーカーの経営企画職~IT企業の人事・採用職を経て現職。現在は東北地方の複数の大学でキャリア系科目講師として学生の就職指導に努めるほか、人事・採用コンサルタントとしても活動中。
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