「日本一オーラがない監督」中竹竜二氏に聞く
中竹竜二氏が解説 やる気のない社員のモチベーションを上げる方法とは
2016.01.15
日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターであり、株式会社TEAMBOX代表を務める中竹竜二氏に、人事の悩みを答えてもらうシリーズ。今回も中竹さんに質問をぶつけてみました。
部下のやる気をあげたいのですが、方法がわかりません。厳しく指導するのが良いのか、褒めながら指導するのが良いのか。部下によって性格がマチマチなので、どのように接すれば良いのか悩んでいます。また部下が多いので、部下全員を褒める際のコツなどがあれば教えて下さい。
やる気をあげる方法に正解はない
中竹です。多くの上司が「部下のやる気」について悩んでいると思います。まず大前提として言えるのは、部下のやる気をあげる方法に唯一正解はないということ。ですから、今回僕が紹介するのは、具体的な例というよりは、考え方についての話です。部下のモチベーションをあげるための考え方について、2つのポイントをお話ししたいと思います。
部下のタイプを見極める
1つは、個としての自分(上司)が、個としての部下のモチベーションをどうやってあげるか。つまり1対1で向き合ったときの話です。
やる気というものにもしスイッチがあるとしたら、その「やる気スイッチ」は、人それぞれ違います。ですから1対1で向き合ったときには、声かけや対応をカスタマイズする必要があります。そのためには、まず部下のタイプを見極めることが重要な鍵となります。
大きく分類分けすると、部下には以下の3つのパターンがあります。
- ①褒められると喜んで伸びる部下。
- ②逆に叱咤してプレッシャーをかけると頑張る部下。
- ③そのどちらにも当てはまらない、放っておくと頑張る部下。
それぞれ場面によっても変わると思いますが、この3つをおさえて自分の部下を観察してみてください。ある時には怒ってみたり、厳しく言ってみたり、またある時には過剰に褒めてみたりして反応を見ながら、その人のタイプを見極めていきます。
ここでリーダーの多くが陥りやすい失敗に、過去に自分がどう育てられ、どうやってやる気を出してきたかという“自分のパターン”にとらわれてしまっているケースがあります。たとえば、厳しい上司にプレッシャーをかけられ、ダメ出しされながらも歯をくいしばって頑張ってきたリーダーは、8割方同じことを部下にしてしまいます。
けれども本質的に人はまったく違うものです。その部下は自分と同じタイプなのか、真逆のタイプなのかをしっかり観察してください。自分の価値観の問題ではなく、必ず相手方に立って考えるということが重要です。
タイプ別「やる気スイッチ」
まず、①褒めると伸びる部下に対しては、褒め方をコントロールするといいでしょう。
たとえば、普通にできたことに対して褒めるのもいいですが、なにかできなかったときにもダメ出しするのではなく、「いつものあなたはできたよね。でも今回できなかったのは、何かがおかしいんだよね。だけど、前回のがすごく良かったから、次もいけるよね」といった言い方をすると効果的です。褒められて伸びるタイプは、うまくいかなかったときは上司以上に本人が傷ついていたりします。自身のベストな状態を思い出させてあげることも大事です。
逆に、②怒られても歯を食いしばって頑張るタイプには、その部下の現状に対して叱るというよりは、他者と比較または過去と比較して、「どうしたんだ、もっといけるはずだ」というように競争心に火をつけるのも有効でしょう。
そして③どちらにもあてはまらないタイプ、何も反応しないタイプの部下には、あえてコメントせずに、「見ているよ」という暗黙のうなずきや視線だけで十分。あとは「お疲れさま」のひと言だけでいいと思います。過剰なアドバイスは必要としません。上司が見ていることがモチベーションになります。
環境を整える
このようにやる気スイッチのカスタマイズが大事ですが、たとえば部下が100人いたら100のやる気スイッチがあり、そのすべてを毎日押すことはなかなかできません。
そこで、部下のやる気をあげるためにリーダーとしてできることの2つ目のポイントとして、“環境を整える”ことをあげておきます。
たとえば、互いに切磋琢磨する競争環境を作ること。同僚同士のなかでも、ある同僚の努力をちゃんと評価し、みんなの前で褒める。それによって周りの人に「自分ももっと頑張らないと」という意識をもたせ、ポジティブな競争関係をつくることができれば理想的です。
また、逆に、みんながなあなあにしている部分を、あえて全員の前で注意するというのもひとつの方法です。組織のリーダーとして、いい加減になっている部分を警告する。それによって、「自分たちは見られている」と気づかせ、「ここは自分自身が頑張らなくちゃ」「気をつけなきゃ」と意識するように促すのも環境を整えることにつながります。
組織としての基準を明確に
そのときに重要なのは、何がこの組織で喜ばれ、何が評価を下げるのかを明確にすること。個別対応ではなく組織のメッセージとして、人を褒める基準、注意する基準をしっかりと示して共有することです。
環境作りと個別の声かけのカスタマイズのバランスがうまくとれれば、社員のやる気があがる確率が高くなります。ぜひ実践してみてください。
執筆者紹介
中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)(株式会社TEAMBOX代表取締役) 1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育くむ」という自律支援型の指導法でとして多くの実績を残す。日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開したひとり。早稲田大を2年連続で全国大学選手権優勝に導きながらも、自らを「日本一オーラがない監督」と称する。
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