@人事 ドイツ支部通信
「あなたを雇う理由は?」本音を引き出すドイツ式面接術
2018.05.07
わたしがドイツで就職活動をしたとき、面接準備として「よくある質問」をドイツ語で調べてみた。
長所や短所、趣味といった質問はドイツでもありがちだが、「こんな質問もあるのか」と驚くようなものもあった。
今回はそんな経験から、個人的に思う「ドイツで聞かれるが日本では聞かれなさそうな質問」をご紹介したい。「就活生にどんな質問をしようか」と悩んでいる方に参考にしていただけたらうれしい。
雨宮 紫苑(あまみや・しおん)
ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。
質問1.あなたを雇うべき理由はなんですか?
日本でも「あなたを雇うメリットを教えてください」といった質問はあるが、ドイツではもう少し率直に、「あなたを雇うべき理由はなんですか?」と聞くことがある。
「なぜあなたにそのポジションを与えるべきなのですか」といったパターンや、日本でもあるように、「あなたが他の人よりも優れた応募者である理由を教えてください」といったパターンもある。
日本では新卒には即戦力を求めないため、こういった質問に対しては、やる気や根性、リーダーシップといった内面をアピールすることが多いだろう。
だがドイツでは、「自分は使える人物である」ことを伝え、相手を説得する必要がある。もちろんそれには根拠が必要なので、インターンシップの経験や専門知識などを使って、自分が有能であることをアピールするのだ。
根拠つきで自分の有能さをアピールするのは、日本の学生にはなかなかむずかしいことかもしれない。
質問2.給料はどれくらいを想定していますか?
ドイツには、「初任給」という考えがない。学生でもそれまでの経歴や能力により「売値」は変わるし、ポストによって相場も変わるため、「初任給」が成り立たないのだ。そのため、採用担当者が面接時に「給料の希望」を聞くことが一般的である。
「学生は高く見積もるのでは」と思うかもしれないが、あまりふっかけすぎると「扱いづらい」「そこまでの給料を払う気はない」と思われる可能性がある。一方、低く見積もりすぎると、「自信がない」と思われるかもしれない。
だいたいの場合、「こういうことができるので平均にこれくらい上乗せしてほしい」「まだ勉強途中だから相場よりこれくらい少なくても働く意思はある」というように、希望する給料と根拠を伝えることになる。ここでも根拠が大事なのだ。
日本には給料交渉の風潮がないので、想定している質問リストに「給料について」は入っていないだろう。
だが、たとえば「5年後はどの程度の給料をもらっていたいですか」「ボーナスはいくらぐらいを望みますか」といった質問は、学生のキャリアビジョンを問うのにいいかもしれない。
質問3.5年後なにを達成していたいですか?
日本も働き方の価値観が変わってきてはいるが、職能給システムを採用している限り、根本的には年功序列である。年次を重ねれば自然と仕事の内容はランクアップするし、ある程度働けばなにかしらの肩書きを得る人も多いだろう。
だがドイツでは、そういったことがない。日本のような社内教育が根付いていないため、自分から資格を取ったり講座を受けたり学位を取ったりすることでスキルアップをしなければ、昇進や昇給はむずかしい。
そのため、「どういうキャリアビジョンを描いているのか」と聞くことは、「どうやって自分のスキルを磨いてキャリアアップする予定か」と聞くのと同じなのだ。
日本では企業が主体となりスキルアップ、キャリアアップを促していくことが多いが、やはり被雇用者となる学生の希望に沿っていたほうがいいことはまちがいない。
「5年後や10年後にどんなことをできるようになっていたいか」と聞くことで、学生の希望する仕事内容やモチベーションなどをチェックするのもいいだろう。
質問4.そのポジションに対しどんな能力がありますか?
ドイツでは募集の際に、仕事内容がはっきりしているため、そのポジションに対し「どんな知識があるのか」「どんな経験をしてきたのか」が重視される。
そのため、「あなたの経験や能力でとくにこの仕事に向いているものはなんですか」「このポジションのためになにをしましたか」といった質問は定番だ。
学生は、卒業論文でこういうことを書いただとか、インターンシップでこういうことを学んだからこの分野では即戦力であるとか、そういった具体的なことを伝えることになる。
日本は職種を限定しない採用方法をとっている企業も多いため、仕事内容を具体的にできないこともあるだろう。
だが、たとえば「どんな仕事をしたいか」という質問と合わせて、「その仕事に対しどんな能力や経験があるのか」「その仕事をしていくためにどんなスキルアップをする予定か」と聞いてみるのはどうだろう。
少し意地悪かもしれないが、具体的に答えられたのであれば現実的に考えているということだし、答えられなければそこまでしっかりと将来のビジョンをもっていないのだと判断できる。
質問5.同僚が衝突したとき、あなたはどうやって解決しますか?
実際に聞かれた質問のひとつが、「同僚が衝突したとき、あなたはどうやって解決しますか」だ。
ドイツは「個人主義」と言われるが、多くの求人条件で「チームワークができる人」と書かれているくらいには、チームワークを重視している。そのため、こういった質問も出てくる。
「苦手な人とどうやって仕事をしますか」であれば「適度に理解を示しつつ距離をとり……」といったテンプレート回答も可能だが、「人間関係のトラブルを解決する方法」となると、答えるのはなかなかむずかしい。
結局わたしは「第三者として両方の意見を聞く」という、毒にも薬にもならないありがちな答えしか出てこなかったのだが、いまだに「模範解答」がわからない難問だ。「チームワークが好き」「どんな人とでも合わせられる」といった人間性をアピールする学生には、このような質問で突っ込んでみるのもいいかもしれない。
ドイツの質問を参考に、充実した採用面接を
昨今、就活におけるミスマッチが取りざたされているが、それは採用側と学生側が本音を話していないからではないかと思っている。
面接というのは、お互いの知恵比べや水面下での駆け引きではなく、お互いの意見を伝え合って相性を確かめるためのものだ。本音を話さなければ意味がない。
しかし、売り手市場と呼ばれる現在、ドイツのように率直で突っ込んだ質問をするのはなかなかむずかしいかもしれない。
それならば、たとえばインターンから就職を望む学生や「自分は即戦力になる」と売り込みをかけてきた学生、特化型人材への求人に応募してきた学生などには、ドイツ流の質問でより踏み込んでみるのはどうだろう。
学生が想定していない、より具体的なことを引き出す質問をすることで、ちがう角度から就活生のことを知っていくことができるのではないだろうか。
執筆者紹介
雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
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