コラム

@人事 ドイツ支部通信


ドイツの職場に、出産・育児休暇への不公平感がない理由

2017.12.27

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妊娠・出産した人への嫌がらせを意味する「マタハラ」という言葉が浸透している。その一方で、「逆マタハラ」なる言葉もある。妊娠・出産した人の行動によって、まわりが迷惑したり嫌な気持ちになることを指す。

働き方の見直しが進む中で、子育てと仕事の両立が急務であることは事実だ。だが、子持ち従業員が働きやすい環境=それ以外の人が働きづらい環境になってしまうのは、それはそれで問題である。

子どもがいる人もいない人も働きやすくするためには、どうすればいいのだろうか。

雨宮紫苑雨宮 紫苑(あまみや・しおん)

ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。

子育てしやすい労働環境が生むひずみ

共働き世帯が増加し、少子化が進む現代。仕事と子育てをどう両立するかは、大きな社会的テーマとなっている。

だが子持ち従業員が働きやすいように制度を整えても、子どもがいない従業員の不満に繋がり、双方の間に溝ができてしまうこともある。それが逆マタハラの一例だ。

不満を抱く理由は、主に2パターンが考えられる。

ひとつめは、子持ち従業員が時短ワークを希望したり残業ができなくなったことで、ほかの従業員の負担が大きくなることだ。繁忙期に同僚がいきなり産休に入って困った……なんて経験をした人もいるかもしれない。

もうひとつは、子持ち従業員が「子どもがいる」という理由で、働く時間に融通が利いたり休暇が取りやすくなることによる不公平感だ。「なぜわたしだけ我慢しなくてはいけないのか」という気持ちはよく理解できる。

子持ち従業員が子どもを優先させるのは当然だし、会社もそれを認める社会にならなくてはいけない。だがそういった風潮が、子どもがいない従業員を追い詰めてしまっていないだろうか。

ドイツはどのように対応しているか

わたしが住んでいるドイツは、「仕事と子育ての両立」という点では、正直進んでいるとはいえない。先進的なほかのヨーロッパ諸国の現状を考えると、むしろ課題が山積みと言ってもいいだろう。

しかしそれはどちらかというと、依然として女性の子育ての負担が大きいことや、育児を優先することによってキャリアに悪影響を及ぼすことへの懸念だ。

職場をはじめ、社会全体としては、「育児に積極的なのはいいこと」と認識される空気になっている。子どもがいない従業員がその風潮に不満を持っている、という話はあまり聞かない。では、なにがちがうのだろうか。

マネージメントによる仕事のコントロール

子どもがいない従業員が抱く「なぜわたしがフォローしなくてはいけないのか」という不満は、一見子育てに理解のない人の言い分に聞こえるかもしれない。だがこれは、単純にマネージメントの問題だ。

3人のチームで1人が産休に入ってしまったら、残りのふたりは1日で1.5人分の仕事をしなくてはいけなくなる。それでは不満を持つのは当然だ。

子育て中の従業員をフォローするのは同僚の仕事、という姿勢では、ほかの人の不満につながる。1人欠いた状態でもどうまわすのかをしっかりと検討し、現場に負担がかからない環境を整える必要がある。

ドイツはジョブ型という働き方で、個人の仕事が明確になっている。1人抜けたのであれば、その人の仕事をしてもらうため、臨時で人を雇うことが多い。期間限定社員はもちろん、対処しきれない雑務を、学生インターンや職業教育を受けている見習いを雇うことでカバーすることもある。

もちろん、同僚がフォローすることもある。だがそれは、1日で1.5人分の仕事をするのではなく、1.5日で1.5人分の仕事をすればいいように、上司が仕事量をちゃんと加減するのだ。そうでなくては、従業員側が「それはムリです」と拒否するだろう。

現場で摩擦が起こらないために、仕事の配分はよく考えなくてはならない。派遣社員やフリーランスに仕事を頼んだり、インターンシップ生の採用などを検討してみるのはどうだろうか。

特に最近はインターンシップに積極的な学生も多いので、新卒採用でなかなか学生を確保できない企業としては、いい機会になるかもしれない。

office

子持ち従業員だけの特権ではない

育児中の従業員が「ズルい」と思われるのであれば、それは労働環境に問題がある。

残業しないなんてズルい。わたしだってデートがしたいのに。
授業参観で休み? 俺だって好きなアーティストのコンサートに行きたいのに。

こういった不公平感が漂ってしまうのは、子持ち従業員「だけ」に認められている特権があるからだ。ドイツでこういった不公平感がないのは、子育て支援があくまで福利厚生の一部である、という認識だからだろう。

有給休暇が取りやすく、病欠を有給休暇扱いすることはないし、病欠でも6週間までは給料が保障されているうえ事情を話せば遅刻や早退なども比較的容易にできる。(もちろんどこかで帳尻を合わせることになるが)

子育て中の従業員だけでなく、大学に通いながら働く人やフリーランスとしても活動している人などは、時短ワークを希望できる。

つまり、子持ち従業員だけが優遇されている、という考えにならないのだ。

みんなが働きやすい環境が育児しやすい企業にする

多くの企業が子育てと仕事の両立をしやすいように、と腐心してはいるが、その改革に現場が追いついていない印象を受ける。

「子持ち従業員が働きやすい環境」を考えると、やはり子持ち従業員のことを第一にしがちだ。だがそれでは、子持ち従業員「だけ」が働きやすい環境になってしまうかもしれない。

いろんな人が働きやすい環境を作り、結果的に子持ち従業員が働きやすくなる……という流れがベストではないだろうか。

そのためには、理由が育児であるかどうかはひとまず置いておいて、「急に人が減った時の対処」や「さまざまなライフスタイルに合わせられる労働環境」を目指す必要がある。

ドイツでは、書類などはすべてキレイにファイルに整理されている。社内のデータベースも使いやすいようにデータ分けされているので、すぐに共有できることが多い。ちゃんとした引継ぎがなくともファイル名を見れば一目瞭然、アクセスすればいままでの流れがすべてわかる、という状況になっているのだ。

日本でも、人手不足に対応できるように常日頃から担当の仕事を明確にして情報を整理しておき、適宜インターンの学生や期間契約社員を受け入れられる体制を整えておくといいだろう。

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また、休暇を取得しやすい雰囲気にしたり、希望者には時短ワークやさらに柔軟なフレックスタイムを可能にするのもひとつの手段だ。

「子育てしやすい企業」を目指して子持ち従業員だけに特化するのではなく、「子持ち従業員を含む従業員すべてが働きやすい企業」という目線で考えれば、またちがった対応になるのではないだろうか。

子持ち従業員が働きやすい環境を整えることをきっかけにし、多くの人が働きやすい環境が整ってほしいと思う。

執筆者紹介

雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。

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