キャリアセンターに聞いてみました
【前編】中小企業は大学キャリアセンターとの結びつきを強化せよ!
2015.10.26
「大手ナビに掲載してもまったくエントリーがない」「8月1日に内定辞退が相次いだ」など、採用担当者にとって16年卒採用は非常に苦戦を強いられている。内定解禁の10月以降の採用をいかに続けるか。その一つの解として、いま一度足元を見つめなおし「大学との連携」を強化するのはどうだろうか。
今回、大学キャリアセンターの活用法を探るため複数の大学に取材を行った中から、3つの大学の担当者の話を紹介する。
アポイント依頼があれば必ず会う(学習院大学)
「ノーアポだとあまり時間は取れませんが、電話やメールでアポイント依頼をいただいた方には企業規模や業種等によらず、必ずお会いします」と話すのは、学習院大学キャリアセンター担当事務長の淡野健氏【写真】だ。
学習院大学の15年卒学生就職率は97.8%。学生向けにキャリアセンター主導による面接対策セミナーや業界別セミナーなどのプログラムを多く実施する。特に注目したいのは例年10月からスタートしているマッチングの強化だ。
淡野氏は学生との個別面談で、その学生にマッチしそうな求人だけを何社か紹介する。実際に興味を持つようなら、学生がいるその場で企業に電話までする。
「どんな学生か、強みも弱みも含めて企業に紹介します。『よかったら一度会っていただけませんか?』と聞くと、公には説明会をクローズしているような企業でも、ほとんどの担当者はその場で面接の日時を取り付けてくれます。
付き合いが長ければある程度こちらが紹介する学生のレベルも分かってもらえているので、トントン拍子で話が進むケースもありますよ」(淡野氏)。
採用実績で協力体制を差別化
同校では「学習院の学生を積極的に採用する」という企業のうち、一定基準を満たす良企業には学校指定求人として「松・竹・梅」の3コースを用意している。「梅」コースが合同説明会、「竹」コースは学内説明会+同日の1次面接がセット。「松」コースでは、採用人数枠を設定し、1次面接までキャリアセンターで代行し、第一志望かつ内定辞退をしないことを前提に、志望度が高い学生のみを企業に紹介する。紹介会社も顔負けの手厚い支援をすべて、無料で行っている。
秋口以降も積極採用する企業には、学生からするとどうしても「ブラック企業」の疑いは常に向けられる。そこに「学校指定」が付いていれば、「ブラック企業ではない」という安心感があるのも利用者双方にとっての大きなメリットだ。
キャリアセンターを通じたマッチング採用は、いわばお見合い結婚のようなもの。第三者から客観的に「あなたとあなたは合うと思う」と背中を押される安心感もあるのだろう。その第三者への信頼があれば、なおさらだ。
淡野氏は企業と学生の関係について、以下のように話す。
「どこかで聞いた無理やり作ったような志望理由を聞かされても、企業担当者は辛いでしょう。お互い着飾った面接よりも、ある程度お互い『素』に近い状態で話してもらい、それを認め合うことができる関係が理想的です」
学内セミナーからの就職率は40%弱(中央大学)
学内セミナーへの参加も、企業にはかなり大きなメリットがある。中央大学キャリア支援課課長の池田浩二氏【写真】によると、「中央大学では40%弱の学生が、学内セミナーで出会った企業に就職を決めています」という。
中央大学では各教室を使った個別セミナーのほかにも、2千名が収容できる大ホール内に複数のブースを設けて、時間入れ替え制で会社セミナーを実施。今年は2月に開催し、1カ月間で計800社が訪れた。参加企業は3つの基準で選ばれる。「学生のニーズがある」「卒業生が活躍している」「何度も足を運んでくれる」――。「この多摩キャンパスは、都心から来ていただくには時間がかかります。地方から何時間もかけてお越しいただくケースもある。そういう方々の誠意は最大限に尊重します」と池田氏。
とはいえ、大学によっては「あまり何度も来られても……」と嫌がるケースもある。訪問だけでなく電話やメールなども活用し、情報交換を行うのもよいだろう。くれぐれもしつこくならないように、ご注意を。
早期離職を防ぐカウンセリングを実施
池田氏は「中央大学の就職率は98・2%と高い水準をキープしています。おそらく16年卒も同水準はキープできる。しかし、来年も再来年も同じ状況とは限りません。困ったときだけ頭を下げるような関係性は正しくありません」と話す。
景気がいい時代だからこそ、池田氏は企業とは襟を正して向かい合い、少しでも時間に空きができると都心に向かい企業回りを行っている。そうやって地道に積み上げてきた企業とのネットワークも最大限に活用し、学習院大学と同様に秋口以降はキャリアセンター経由での学生紹介を増やしていく。
そんな中央大学が現在、一番力を入れているのは「就職満足率の向上」である。「例年、『正社員だとどこでもいい』という学生が、やはり一定数出てきます。ただ、そんな考えでは万が一、就職できたとしても早期の離職にもつながる可能性が高い。そこは、価値観を変えるべく早めにとにかく就職活動をスタートさせるなど、さまざまなカウンセリングを行っています」。そう話す池田氏のカウンセリングは、予約が取れないほどの人気だという。面談が追い付かない学生には、メールなどでも個別に指導をしている。
ときには厳しく、時間をかけ大切に育成した学生たちには、同様に育成してくれそうな企業に入社してほしいと願うのは、至極当然の感情である。
「人事担当者には、離職率や年収など公表したくない数字も色々とあるでしょう。それでも、誠意を見せてくださる企業とは、我々も長いお付き合いをしたいです」(池田氏)。
理系学生に『全学部・全学科不問』はNG!(芝浦工業大学)
理系大学では「企業とキャリアセンター」よりも「企業と研究室」の結びつきが強いケースも多いが、求人票の送付や、訪問については、まずキャリアセンターに問い合わせれば問題ない。
ただし、このとき「特に気を付けるべきポイントがある」と芝浦工業大学の就職・キャリア支援部部長の西山淳氏【写真】は強調する。「文系求人でありがちな『全学部・全学科不問』の求人は、理系人材から見ると『誰でもいい』『人数だけが欲しい募集』としか見られない危険性があります。良かれと思い、対象学部を広げている場合も同様です」
一般的に理系学生は、自分が専門とする分野に相応の時間をかけて勉強している。なかには「長時間研究室にこもることもあるので、アルバイトをする時間もままならない」という学生もいるほど。
そんな学生たちに対する「全学部全学科対象」の求人は、いわば学生生活の全否定。就職活動初期には、まず見ないという。
求人票の記載にひと工夫を
「大手のナビサイトだけでなく学内イントラネットに掲載している、学校宛求人情報を活用している学生も数多い」と西山氏。学生がまず見ているのは、自分の研究に近い分野の求人だ。
「例えば、機械工学系の学生には、機械部品の専門メーカーなど、専門領域が重なっていると我々も学生に紹介しやすいです」と西山氏。
理系学生の求人票には、可能な限り「事業概要の領域・強み」「具体的な業務内容」「歓迎する知識」を記載しよう。そうでなければ特に有名理系大学では見向きもされないと思ってよい。
「学内セミナーの数は非常に限られているので、どうしても採用実績がある大手企業が優先になります。しかし実績はなくとも、求人票に会社の強みや具体的な業務が記載してあり、人事担当者がしっかり求める人材のポイントを話してくれる求人は、やはり学生との就職相談の際に紹介しやすいです」と西山氏は言う。「必須知識」「歓迎知識」などを分けて記載しておくと分かりやすいだろう。
- 【前編】中堅・中小企業は大学キャリアセンターとの結びつきを強化せよ!
- 【中編】対策編①「目に留まる求人票」のポイント
- 【後編】対策編②関係性持続のための「メール」
執筆者紹介
玉寄麻衣(たまよせ・まい) 1979年生まれ。立命館大学政策科学部卒業。外資系大手人材派遣・人材紹介会社で、営業として主に中小企業の人材採用をサポート。その後フリーランスのライターとなり、人材採用、人材育成、大学教育、広報・PR、企業経営等に関する取材・執筆を行う。
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