@人事 ドイツ支部通信
「働き方」の壁を越えて、外国人求職者を採用する方法
2017.11.27
現在日本では、労働力不足が指摘されている。厚生労働省の発表によると、2017年9月の有効求人倍率は1.52倍。思ったように人を集められずに悩んでいる中小企業も少なくないだろう。
そこで注目されるのが、外国人労働者だ。だが、「いざ外国人を採用するとなるとどうしたらいいかわからない」と悩んでいる方も多いかもしれない。
今回は、外国人としてドイツで就職活動したわたしの経験を踏まえ、外国人の採用について考えていきたい。
雨宮 紫苑(あまみや・しおん)
ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。
ターゲットは留学生やワーホリ中の外国人
外国人が日本で就職するとなると、いくつかのパターンがある。
1. 自国でキャリアを積み、高度人材として来日
2. 技能実習生などの制度を利用して来日
3. ワーキングホリデーや留学などで来日して就職
4. 日本の大学や大学院で学位を取得し就職
外国人採用となると、主に3か4のパターンを視野に入れることになるだろう。つまり、もともと日本が好きか日本に興味を持っている人で、さらに日本で就職したい外国人だ。
では、そういった外国人求職者を採用するにはどうするべきだろうか。
仕事内容が提示されない就職はリスクになる
日本はメンバーシップ型と呼ばれる働き方が一般的で、新卒一括採用、労働時間や仕事内容が限定されないこと、年功序列などが特徴として挙げられる。
一方、多くの国で一般的なジョブ型という働き方では、欠員募集が主流だ。採用されると、仕事内容や勤務時間、勤務地、求める能力、裁量権などを明記した「ジョブ・ディスクリプション」へのサインが求められる。そのため人事異動や転勤、自動的な昇進はあまりない。
そうすると、ジョブ型が「ふつう」だと思っている人からすれば、仕事内容がわからないのはとてもリスクが高い。自分の能力が活かせるかわからないし、自国に帰国したら、日本的なジェネラリストは通用しないからだ。
わたしが住んでいるドイツはジョブ型で、求職者は即戦力であることを求められる。若者は職業教育やインターンを通じて、就職前に「特化型の人材」になっておく。そのため、仕事内容は就職の際、一番重要になるのだ。
日本は仕事内容がはっきりしていないため、日本で就活したドイツ人のひとりは、「なんの仕事をするかよくわからないから目標やキャリアビジョンが持てない」と言って、結局イギリスへ渡ってしまった。
そういったことが起こらないように、仕事内容は明確にしておくといいだろう。
待遇は事前にしっかりと話し合っておく
また、待遇面でも、日本のやり方に違和感を持つ人がいるかもしれない。
ドイツには初任給という考えはなく、面接の際に希望給料を伝えて交渉することが一般的だ。同期でも能力によって最初から給料がちがうし、みんな足並みそろえて昇進することもない。
そのため、「初任給」として一律の給料を提示されたり、「○年働けば昇進」と聞くと、「能力をちゃんと評価されないんじゃないか」と不満を持つ人がいるかもしれない。
さらに、残念なことだが、日本の労働環境が悪いことは世界中で報道されて知れ渡っている。日本で就職するとなると、残業時間や有給休暇の取得率は気になるところだ。
外国人を採用するのであれば、どのようなキャリアアップが可能なのか、特に待遇に関してはしっかり腹を割ってお互いが話し合っておくと、トラブルになりづらいだろう。
日本語能力の高望みはハードルを上げる
日本で外国人を採用するとなると、高レベルの日本語能力を求めるか、「外国人採用枠」として特別枠を設けて公用語が英語の部署で採用するかのどちらかだ。人手不足で外国人採用を検討するのであれば、前者が多いだろう。
だが、日本語力への過度な期待は、求人者を遠ざけてしまう。「外国人に日本人と同じものを求めるのならば、日本人を採用すればいい」という話になるからだ。
また、学生やワーホリ中の外国人が、ビジネスで必要な日本語を習得できていないのは当然でもある。
わたしがドイツで就職活動をしたとき、ドイツ語能力はCEFRという基準でC1だった。TOEICに換算すると、945点以上になる。ネイティブというほどではないが、上級者といえるレベルではあった。
だが実際働いてみると、まったく通用しなかった。必要な語学力はクリアしていても、全然足りなかったのだ。
日本語力の条件をつけるのは仕方ないが、「仕事で支障のない日本語力」を持っている外国人なんて、本当に限られた一握りでしかない。人手不足で外国人採用を視野に入れるのであれば、「一握り」だけを対象にした採用活動はリスクが高い。
「基礎的な日本語力があり特定の分野に詳しい人材」を採用し、日本語力は仕事を通じて身につけてもらう、くらいの認識の方が、外国人は応募しやすいだろう。
外国人求職者の心配を取り除くために
とはいえ、企業としては言語の壁を含めて、「外国人を採用して大丈夫なのか」という不安があるだろうし、求職者側も「自分はやっていけるんだろうか」という心配があるだろう。
そういったとき、外国人求人者に「試し働き」してもらうのはどうだろう。
ドイツでは採用活動の一環で、1日から数日、無給で働く「試し働き」という慣習がある。実際に一緒に働いてみて、採用・就職の可否を決めるのだ。
試し働きをしてもらえば、企業は求職者の日本語能力やチームワーク力、コミュニケーション力などを測れるし、求職者は上司や同僚が自分をどう受け入れてくれるかを見極められる。
もしかしたら、求職者に問題はなくとも、現場の従業員が受け入れる心構えができていない……なんてこともあるかもしれない。
試し働きのあと、人事担当者と受け入れ予定の部署の人たちと話し合って、意見のすり合わせをしておくこともおすすめだ。
外国人求職者を採用するためには
外国人を採用するためには、外国人向けの就職・転職サイトがいくつもあるので、そういったサイトに登録して募集をかけたり、個人的にスカウトするのが手っ取り早い。
各大学にアピールしておくのも有効だ。就活センターではなく、国際センターとの協力体制を整えておくといいだろう。留学生向けのジョブメッセ、いわゆる就職説明会もあるので、そういう場所で日本で就職したい外国人と関わりを持つのもおすすめだ。
ほかにも、国際交流を兼ねたビジネスサークルなどとコンタクトを取り、サークルメンバーにワークショップを提供するなどしてコネクションを作るのもいいかもしれない。
外国人採用を検討している企業があり日本で就職したい外国人がいるのだから、うまく互いが出会うことができれば、採用はむずかしくないだろう。
「外国人として特別扱いはしないが、外国人であることを理解している」ことをうまく伝えられれば、外国人求人者に「魅力的な就職先」だと思ってもらえるのではないだろうか。
執筆者紹介
雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
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