企業と危機管理
国内外の従業員を守るために、人事が知るべき「テロ対策」基礎知識
2017.10.03
ロンドン、パリ、ブリュッセルなど、日本企業の現地支社が多い都市で、テロ事件が相次いでいる。海外・国内を問わず、いつ、どこでテロが発生するかは予測ができない。事前に被害を減らすための対策を取り、あわせて非常時の対応を決めておくことが大切だ。
今回の記事では、警視庁・外務省が公開している資料から、企業の人事・総務担当者が知っておきたい基礎知識を紹介する。
【警視庁】中小企業に向けたテロ対策マニュアル
警視庁警備第一課では、官民一体となったテロ対策を推進するために、「中小企業におけるテロ対策マニュアル」を作成している。共通事項として「通報連絡に関すること」「資器材に関すること」「人事管理、教育に関すること」など、7つの項目に分けてテロ対策に必要な心構え・行動を紹介している。
また、マニュアルでは「宿泊業」「食品取扱業」「運送業」「集客施設」「危険物、薬品当取扱業」など、テロに利用される、またはテロの標的になる可能性が高い業種について、それぞれに注意すべき点を記載している。
企業がテロ対策を行う意義について、警視庁は「経営を行っていく中で、テロ対策をはじめとするセキュリティ対策は、ややもすると後回しになりがちですが、セキュリティ対策を強化しておくことは、一般の犯罪予防にもつながります。また、そのことによって社会的な信頼度が向上し、取引先からの信用も高まり、さらに、BCP(業務継続計画)を作成した場合など、融資や保険の優遇を受けられる場合もあるなど、テロ対策を推進していくことは、企業にとって非常に大きなメリットがあります」と説明している。
マニュアルによれば、人事・総務担当者が行っている人材管理や教育研修などの業務も、テロ対策としての側面を持っているという。ここでは、同マニュアルから「人事、教育に関すること」の項を抜粋する。
第4 人事管理、教育に関すること
テロを防ぐには、従業員全員が同じ認識、危機意識を持って対応していくことが重要です。研修会等を通じてテロの脅威と対策に向けた社内の共通意識を高めていきましょう。
(1)従業員の管理の徹底
- 普段から従業員同士のコミュニケーションを図り、定期的に面接を実施するなど、お互いの変化にすぐ気づけるようにしましょう。
- 新規採用者を朝礼等で紹介するなど、働いている者同士の顔が見える職場づくりをし、従業員が見慣れない人間の存在に疑問を持つような習慣をつけましょう。
- 従業員の制服、名札、バッジ、鍵などの管理を適正にしましょう。
(2)セキュリティ部門の人材確保
- セキュリティ対策の担当者を指定し、テロ等の有事に対して誰が責任を持って対策に当たるのか、責任を明確化しましょう。また、担当者が不在の場合に備えて、予備の担当者も指定しましょう。
- 可能であれば、他の業務と兼任ではなく、セキュリティを専門業務とする担当者を確保しましょう。
(3)従業員に対する教育の徹底
- 従業員全員が不審物や不審者に対し注意するよう普段から教育を実施し、何か異変があればすぐに気付けるようにしましょう。
- 社員各自が有事の際にどのように行動するのか、それぞれの役割分担を明確にして、社員研修を実施するなど、緊急時も迅速に行動できるようにしましょう。
- 教育、研修は定期的に実施し、社員各自の認識が薄れないようにしましょう。)
テロに備えて実施しておくべき研修や訓練の内容は、マニュアルの「第5 訓練に関すること」で解説されている。
【外務省】海外進出する日本企業へ向けた爆弾テロ対策Q&A
外務省では「海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策Q&A」を公開しており、テロの中でも爆弾事件に関する対策を解説している。事件に巻き込まれないための心がけや、事件に遭遇した際の対応などについて、具体的なケースを想定して述べられている。
経営者や人事担当者としては、爆弾事件のリスクから、従業員をできるだけ遠ざける必要がある。資料では「爆弾事件に巻き込まれないための心がけ」として、以下の内容を紹介している。
8 爆弾事件に巻き込まれないためにはどうしたらよいのですか?
企業関係者に加え旅行者も、直接爆弾テロの標的にされなくても、 爆弾テロ事件の巻き添えになるおそれがあります。 日ごろから次のことを心がけておきましょう。
(1) 所在地における爆弾テロ事件の発生状況、発生の可能性の有無等、爆弾テロ事件に巻き込まれるおそれがないかについて、 あらかじめできるだけ具体的に承知しておく。
(2)無差別爆弾事件が発生している地域への立入りや交通手段はできるだけ控える。
(3)やむを得ず立ち入る(利用する)場合にも、爆弾テロの標的となるおそれのある場所への立入りは避け(利用は最小限にとどめ)、 また無差別爆弾事件が多く発生している時間帯を避ける。
(4)出張等で空港を利用する場合、空港のチェックイン・カウンターはしばしばテロリストの襲撃のターゲットとなっていることを念頭に置き、不必要にチェックイン・カウンターのそばに近寄らない。その他にもホテルのフロント等不特定多数の人の立ち入りが容易なところへの滞在時間は最小限とするよう心がける。
(5)爆風によりガラスが飛散し、被害を受けることがあるので、ガラスを多く使用した高層建築の下等はなるべく通行しないようにする等、 日ごろから注意する。建物内にいるときには、窓や外に面した扉からはなるべく離れた場所 (柱などのしゃへい物があればなお良い)に身をおく。
(6)その場所にふさわしくない物体や時計のような音がする物体。電源らしき物と繋がっている物体等は爆発物である可能性もあり、絶対に触れない。 また周囲の人々がそれらの物体に近づかないよう周知する。
一方で、爆弾事件に巻き込まれた場合に備え、取るべき行動を理解しておくことも重要だ。海外で勤務する従業員には、以下の「実際に爆発事件に遭遇した際に取るべき行動」を伝えておくとよいだろう。
9 実際に爆発事件に遭遇した際はどのように対応したらよいのですか?
爆発事件に遭遇してしまっても、パニックにならずその被害をより小さく食い止めるよう努めることが重要です。爆発の規模、発生場所等によりその対応は様々ですが、基本的な対応要領は以下のとおりです。万一爆発事件に遭遇した際には、必ず現地の日本国大使館又は総領事館と連絡をとるようお願い致します。
(1)付近で爆発が発生した場合
最近では、第1の爆発をおとりにして、第2の爆発を発生させる事件も度々発生しています。そのため、爆発音を聞いたらまずはその場に伏せ、その後現場から速やかに離れることが重要です。この際、逃げる人々に押し倒されて下敷きにならないよう注意しましょう。もし倒れ込んでしまった場合は、混乱した人々の流れが収まるまで膝を抱えて丸くなり、 待つことで被害を最小限に抑えることができます。非常事態においては、周囲の喧嘩や騒乱に対して余計なアクションを取らないようにしましょう。
(2)爆弾等により瓦礫の下敷きになってしまった場合
基本的には以下のとおりですが、とにかくまず落ち着くことが大切です。事件発生場所によっては救難活動に時間が掛かることも予測されるので、 体力の温存にも心掛ける必要があります。 また、周囲の人々が瓦礫の下敷きとなってしまった場合は、 特別な訓練を受けていない限り、 崩壊した建物の中に閉じこめられた人を無理に助けようとせず、 救助隊の到着を待つことが賢明です。
(イ) 火を灯さない
(ロ) むやみに動き回らない
(ハ) 埃等有害物質を吸い込まないようにハンカチ等で口を覆う
(ニ) 救助隊に居場所が分かるように、パイプ等をたたく(瓦礫等がくずれないように注意する)。
(ホ) 叫ぶことは有害物質を吸い込む恐れがあるため、なるべく最後の手段とする。
海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策Q&A(PDF:外務省)
滞在先の安全情報が外務省から届けられるシステム「たびレジ」
人事・総務担当者と従業員がともにチェックしておきたいサービスに、外務省が提供する「たびレジ」がある。「たびレジ」は海外渡航する邦人が、旅行日程・滞在先・連絡先などを登録しておくと、 滞在先の最新の海外安全情報が外務省から携帯電話やスマホにメールで届けられるシステム。外務省のWebサイトから登録することができる。
(「たびレジ」トップページ)
事態が発生する前に、万全の情報収集を
警視庁の「中小企業におけるテロ対策マニュアル」、外務省の「海外進出する日本企業へ向けた爆弾テロ対策Q&A」でどちらも説明されているのが、「周囲の環境・情報を正確に把握しておくことの重要性」だ。社内や渡航先など、周囲の環境を万全に把握しておくことで、万が一異変があった際に、その異変にいち早く対応することができる。今回紹介したマニュアル、Q&Aなどを参考に、自社の対策を見直してみてはいかがだろうか。(@人事編集部)
【参考】
テロ対策東京パートナーシップ(警視庁)
海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策Q&A(外務省)
「たびレジ」外務省海外旅行登録(外務省)
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