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jMatsuzakiの「自己啓発書評」


自衛隊メンタル教官が教える「折れないリーダー」の仕事術

2017.04.10

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私の愛しいアップルパイへ

こんな経験はありませんでしょうか?

とあるビッグ・プロジェクトを大成功させてひと段落がついた。仲間とプロジェクトの成功を祝福しあったのも束の間、翌日からは当たり前の業務が淡々と始まる。先のビッグ・プロジェクトに比べればなんの変哲もない日常業務にも関わらず、毎日の仕事がえらくしんどい。いつしか、慢性的に疲労を感じるようになり、仕事のパフォーマンスもモチベーションも大幅に低下。この仕事は自分に合ってないのではないかと転職を考え始める……。

現在出版されている多くの仕事術は”成功する方法”にフォーカスしています。しかし、上記のような状況というのは、具体的な成功の対象が存在しない状況です。ですから当然なにかを成功させようとか、目標に向かって頑張ろうという類のアプローチでは効果がありません。

それにも関わらず、このような状況を放置していると取り返しのつかない状況に陥ってしまうのは明らかです。もしもそれがチームであるならば、チーム崩壊の決定打になりかねません。ビッグ・プロジェクトを遂行している間であればメンバーはみんな興奮状態なので、「頑張って乗り切る」という戦略が通用します。

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しかし、問題はその後です。ビッグ・プロジェクト遂行中の疲労が事後になって顕在化してきたときです。この段階での対処の仕方を間違えると、個人だけでなくチームが崩壊します。 ビッグ・プロジェクトは期間が決まっているかもしれませんが、業務は会社が潰れるまでずっと続きます。ここで必要となるのは、既存の仕事術の本によくある「勝つための戦い方」ではなく、「負けないための戦い方」なのです。今回は、この意外にも今まで言及されていなかった方法を教えてくれるユニークな本をご紹介します。それが、自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事という一冊です。

本書の仕事術をユニークなものとしている2つのポイント

本書のユニークな点は2つあります。

・文字通り”命がけ”である自衛隊の教えに従っていること
・折れない、負けない戦い方にフォーカスしていること

文字通り”命がけ”である自衛隊の教えに従っていること

軍事系の思考法や方法論というのは”命がけ”で開発された手法ですから、どのような分野でも応用できる一級品であることが多いです

例えば、もはや現代の生活には欠かせないものの代名詞であり、この@人事を読むために使っている「インターネット」も、もともとは軍事目的で開発されたと言われているARPANETを土台としています。

他にも、軍事目的で開発された思考法や、方法論、技術が、今の民間生活には欠かせないものとなっている例が無数にあります。

軍事目的ということは人の命に関わっている、人の命を預かる責任を負っているということであり、ゆえにそこで考えられたメソッドは一級品であることが多いのです。

本書は著者が30年にわたって所属してきた陸上自衛隊の経験を土台として書かれています。ですから、書かれている内容はいずれも極限でも通用するような教えになっています。

折れない、負けない戦い方にフォーカスしていること

そんな本書の教える内容ですが、冒頭で必要性をお話したような「折れない、負けない戦い方」に徹頭徹尾フォーカスしています。

考えてみれば自衛隊というのは「負けない強さ」が最も求められる組織と言うことができます。というのも、自衛隊の基本的な役割は国を守ることだからです。

いつ攻め込んでくるか分からない仮想敵国を相手に、ずっと緊張状態を維持しながら待ち続けなければなりません。しかも国家が存在している間はずっと「負けない強さ」を無期限に発揮し続けなければなりません。

自衛隊が負けるということは日本がなくなるということですから、極限まで研ぎ澄まされた強さが必要になります。それを長期にわたって維持し続けるわけですから、普通のビジネスシーンでも応用できる一流の教えが眠っているのです。

ビジネスはゴールに到達して終わりではない

これは勘違いしやすいことですが、そもそもビジネスというのは1つのゴールに到達して終わりというものではありません。無数のプロジェクトが存在するとはいえ、それらのプロジェクトが完了したら仕事が終わるわけではありません。そのプロジェクトの成功を受けて、さらに次のプロジェクトが次から次に発足するものです。

例えば、売上をウン億円達成したらその会社は消滅するということはあり得ないのです。さらに売上を増やすためにさらに複雑で創造的なプロジェクトをこなしていく必要があります。

それにも関わらず、既存の仕事術の多くは「プロジェクトを成功に導くコツ」にフォーカスを当てていることが多いのです。しかし、実際にはプロジェクトを成功させた後も通常通りの業務が淡々と進んでいきます。この通常通りの業務を淡々とこなし続けられず、チームが崩壊してしまっては元も子もありません。

つまり、ビジネスシーンにおいても常に「折れない、負けない戦い方」が求められているのです。

敵の侵略や国家の存亡、命のやりとりなどを前提とする自衛隊とビジネスシーンでは求められるものがまったく違うとお思いかもしれませんが、負けない強さを発揮しなければならないという点にフォーカスして考えれば、多くの共通点が見いだせるのです。

そして、極限状態においても折れない、負けない戦い方ができる自衛隊からは多くの教訓が得られることでしょう。

第2段階のメンバーをどうケアしていくかがリーダーには求められる

では、具体的に「折れない、負けない戦い方」とはどのようなものなのでしょうか?

具体的な方法論については本書の中身を読んでいただきたいのですが、全体を通して私が本書の最もハッとしたのは疲労を抱えてパフォーマンスが落ちた人でも、必要とされる生産性が発揮できる方法に言及している点です。

本書では疲労の蓄積レベルを3つに分類しています。

・第1段階=ぐっすり一晩眠れば、疲れがとれる
・第2段階=イライラし、不安になりやすい。同じ出来事でも疲れやすさが2倍になる(通称「2倍モード」)
・第3段階=心身に「病気」の症状が表れる。元気なときより3倍傷つきやすく、疲れやすい(通称「3倍モード」)

多くの仕事術の本では、疲労していない元気な状態か第1段階の人を想定して書かれています。疲労がない元気な状態か、ぐっすり眠れば疲れが取れる状態です。

しかし、実際にはビジネスシーンには第2段階~第3段階のまま仕事に従事している人がたくさんいるのです。疲労が第2段階以降に差し掛かっているにも関わらず、それを上司や同僚に打ち明けることもできないまま、体に鞭打って働いている状態です。

そんな第2段階以降に突入した人に対しては、新しい知識や技術を積極的に身につけようとか、本来のやる気を引き出そうとか、仕事のやり方を整理して徹底的に効率化しようとか、事細かなプランニングをして全体を俯瞰しようとか、体を動かして脳も活性化させようとかいうような攻めの仕事術を勧めても意味がないどころか逆効果になりかねません。

第2段階以降のメンバーがいることを前提としたとき、仕事の進め方や考え方は全く異なったものとなります。それが折れない、負けない戦い方の核となるものです。

自衛隊というのは、衣食住もままならないような極限状態で働かなければならないことも当然のように想定して任務を遂行しています。しかも自衛隊で実際に取り入れられていることですから、超実践的です。彼らは第2段階に差し掛かったメンバーのケアに長けた一流なのです。

疲労をどうコントロールするかが一番の鍵である

第2段階に差し掛かった人や、そういったメンバーを抱えるチームのリーダーがどのように対処していくのか。それは疲労を前提として、疲労をコントロールしながら働くことです

これは日本人の特性なのかもしれませんが、どうしても「頑張ればなんとかなる」という妄想にすがりがちな気がします。しかし、第2段階の疲労を無視して突き進めば、確実に人は蝕まれ、いずれチームごと崩壊してしまうでしょう。

大切なのは第2段階の疲労蓄積を少しでも早く解消するか、せめて第2段階のメンバーでも業務の遂行に必要とされる生産性を発揮できる方法を使うことなのです。

本書では、その方法として休憩の取り方や休暇の取得のタイミング、休暇中の過ごし方。仕事の切り捨て方や疲労状態でのコミュニケーションや情報伝達の方法などを自衛隊式の実践的な方法として教えてくれます。

これら1つ1つは当たり前のことなので、普通ならついおざなりにしてしまいがちです。しかし、第2段階の人を前提としたときには、このような当たり前のことも効果的なやり方がまったく異なってきます。しかも、結果的にそれがチームの存続を左右する重要ポイントになってくるのです。

本書には「ここまでやるのか!」と思えるような方法論が数多く出てくるのですが、そのなかでも私が一番印象に残ったのが、上司が昼食の準備を部下に指示するときの言い回しの例です。

10名ほどを指揮する班長が一人ひとりに任務を付与する場合、「A2曹、(と呼びかけると、A2曹が「A2曹」と復唱する。点呼みたいなもの)、A2曹(上位者)は、C2士(下位者)を指揮し、0730に本部から招待の昼食を受領し、現在地(ここ)に集積(もって来い)せよ」という具合だ。

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このような指示を、チーム全員を集めて一人ひとりに命令するそうです。普通のビジネスシーンなら上司が担当者を個別に呼び出して「AさんAさん別件なんだけど、みんなの昼食の件、午前のうちにいい感じによろしく」などと言ってすませてしまいがちなところです。しかしそれはメンバーがみんな元気なときか、みんなの疲労が第1段階のときにだけに通用する考え方なのです。

第2段階以降では指示を正しく理解することが難しくなり、他人への不安や不満が溜まりやすくなります。ですから、このような一見回りくどいやりとりを個別に、みんなの前でやる必要があるのです。

上記のような言い回しは軍事ものの映画などではおなじみのものですが、私は今まで戦場では1つのミスが人の生死に直結するため、情報伝達も慎重にやっているのだろうくらいの認識しかありませんでした。実際には第2段階以降のメンバーにも確実に情報伝達するためのノウハウが詰まった言い回しだったわけです。

第2段階以降の疲労を抱えたことのあるすべてのビジネスパーソン(つまりすべての人)にオススメの一冊

本書は元気な人が100%以上の力を発揮するための本ではありません。疲労を抱えた人を前提として長期戦を戦い抜く方法を記した、一風変わった仕事術の本です

ここまで読んでいただいて分かったと思いますが、第2段階以降の疲労というのは、決して珍しいものではありません。

あなた自身も大きなプロジェクトに参画しているときやその直後に第2段階に陥ることがあるでしょうし、慢性的に第2段階以降の疲労を抱えているかもしれません。そして、あなたの率いるチームのなかには第2段階以降のメンバーが恐らく一人はいるはずです。

本書は第2段階以降の疲労を抱えたことのある人、ないしはそのような人をメンバーとして抱えるリーダーにとって必読の書といえます。つまり、すべてのビジネスパーソンにとって必読の書といえるでしょう。

私自身、一大プロジェクトが終わった直後にこの本を手にとって救われました。あなたもぜひ手にとってみてください。

貴下の従順なる下僕 松崎より

執筆者紹介

松崎純一(jMatsuzaki) IT系専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。 ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生の頃からの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。 2015年からはjMatsuzaki名義でバンド活動を開始。 ブログ:jMatsuzaki(http://jmatsuzaki.com/

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