企業コンサルタント大関暁夫の「組織と人事」
解散は回避できた!? 企業コンサルタントが語る「SMAP騒動」
2016.12.08
年の瀬を迎え、また1年の出来事を振り返る時期になりました。今年もいろいろなことがあったのですが、「組織と人事」的観点からぜひとも取り上げておきたいのは人気アイドルグループSMAPの解散騒動です。それはなぜか。この一件、組織と人事の管理がしっかりしていたなら、確実に防げた問題であったと思われるからなのです。
まずは状況の整理を。事の発端は昨年の正月。週刊文春の取材を受けたジャニーズ事務所の実質経営者である女性副社長が、記者から社内派閥の存在を質問されます。副社長はオーナー家と対立するような派閥は絶対に許さない、と激怒。その場で対立派閥の長とされたSMAPの女性マネジャーI氏を糾弾したことから、事態は急転したと言います。
自己否定されたI氏はSMAPを連れての事務所移籍を画策し、昨秋一度は話がまとまりかけたものの、メンバー木村拓哉(以下キムタク)の寝返りを契機として事務所サイドが猛反撃。結局、SMAPは事務所に残留、I氏一人が辞職することで決着、テレビ謝罪します。しかし、この一件でヒビが入ったメンバー間の信頼関係は修復し難く、惜しまれながらも今年8月に解散発表という、ファンにとって最悪の結末を選択せざるを得なくなったのです。
マスコミ報道やネット上の書き込みでは、キムタクを「裏切者」としてSMAP解散の主犯的に糾弾するトーンが目立っているのですが、私はキムタクも含めメンバーたちは、内紛の間接的被害者に過ぎないと思っています。SMAPを連れて事務所移籍を画策したI氏とていち被害者ではないのかと。事の顛末を過去に遡って知れば知るほど、全ての原因、責任はジャニーズ事務所の人と組織の管理にこそあったと思われるのです。
I氏はこの道30年超の大ベテランで、何よりSMAPを国民的アイドルに育てた功労者です。また、彼女が考えたアイドルのバラエティー番組やドラマへの起用という当時の常識を打ち破る奇策は、やや陰りを見せていたアイドル人気を復活させました。下降線にあったジャニーズ事務所を確固たる王位につかせた、事務所にとっての大功労者でもあったのです。問題は、その後の彼女に対する事務所の処遇にありました。
ジャニーズ事務所は、SMAPのブレイクに貢献し新しいアイドル戦略のあり方を確立させたI氏を、05年にSMAPの版権を管理する子会社設立に伴い、その株を持たせ実質経営者として同社取締役に就任させるという特別扱いを講じました。事実上の分社です。週刊文春の取材によれば、これはI氏の功績に対するご褒美という意味合いとは別に、後継となる副社長長女の社内でのリーダー的地位を確立するために、仕事に秀でかつタレントからの人望も厚いI氏を社外の実質治外法権下に隔離するという狙いがあったのだと言います。
しかし事務所の稼ぎ頭を抱えたまま治外法権下に隔離されたI氏は、当然の帰結として一国一城の主的な振る舞いをするようになります。この流れは如何ともしがたく、同一事務所内に2つの会社が存在するかのような事態を招き、テレビ局の番組編成などを巡ってオーナー家長女とI氏のテレビ局を挟んだ軋轢は次第に大きくなります。こうして「派閥対決」のような事態に陥り、冒頭の文春の取材発言に至ったわけなのです。
すべての原因は、オーナー家がとった功労者社員に対する処遇の誤りにありました。実力者で功労者のI氏に対して、実質治外法権、隔離という組織管理の外に置くような特別扱いをしたことがむしろI氏を組織から孤立させ独立心を煽り、同時にI氏を恩師と仰ぐSMAPのメンバーたちもまたオーナー経営の管理から孤立させる結果になってしまったのです。
この失敗は、オーナー企業における番頭さん社員、今様に言うなら参謀役をいかに処遇するべきか、という問題と相通じるものがあります。オーナー経営者は、経営権をオーナー家以外に委ねる気がないのであれば、いかにできる人物であっても管理の外に置くなど組織統制ルールを無視した特別な処遇をしてはいけないのです。組織内分裂、社員や取引先をごっそり連れての独立などは、こういった特別処遇が招くケースが多くあるのです。
人間の権力欲や野心というものは、ちょっとした力を手にすることからいとも簡単に火がつくものです。組織を任せる気がない者には、どんな事態においてもしっかりと統制のグリップをし続けなくてはいけません。その人物の功績が大きく、また人望が厚ければ厚いほど、野心に火をつけその気にさせないことが重要なのです。
組織管理とは人の管理そのものです。基本ルールを決め、分担を決め、決裁権限を決め、組織の統制をはかるのは、組織内の上下関係を表すピラミッドを明確にして、トップに連なる階層のヒエラルキーを徹底させるために他なりません。たとえ功績や人望がどれだけあろうとも特定の人物に統制から外れる例外的特権を与えたなら、例外的扱いを受けた者とその支持者たちは、既存のヒエラルキーとは別の権力構成を作り上げてしまうのです。
戦国時代の下克上がまさにそれであり、徳川幕府はこの教訓に立って将軍を頂点とした例外を許さないヒエラルキーを確立させることで、長期政権を実現できました。どんなに大きな功績があろうとも、権力の管理下を外れたと錯覚を生むような例外処遇が、組織管理を外れた派閥を生み反乱や動乱の芽となる。これは、歴史が教えてくれているのです。
I氏とて、SMAPを管轄する別会社を任されメンバーからの信頼を一手に受けていなければ、事務所移籍などという大胆な発想は決して出てこなかったでしょう。彼女の悲劇は確実に、事務所の例外処遇にあったのです。いちマネジャーの悲劇に留まらず国民的アイドルグループの解散という世間的にも大きな禍根を生んだこの愚策から、オーナー企業経営者が学ぶ点は多々あろうかと思います。
※参考書籍:週刊文春記者が見た「SMAP解散」の瞬間(文春e-book)
執筆者紹介
大関暁夫(おおぜき・あけお)(株式会社スタジオ02 社長) 東北大学卒。横浜銀行に22年勤務。経営企画、マーケティング、営業部門を歴任した。06年に独立し、コンサルタントとして「必ず実績が上がる営業チームづくり」をはじめ、企画、人事、営業面で数多くの企業を支援。若手時代には “リクルーターの神様”と呼ばれたこともある。採用に関する持論は「リクルーティングは自社を買わせる営業である」。
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