3月24日開催セミナー特別インタビュー企画
“適所適財”で多様なキャリア形成を目指す味の素の自律型人財育成
2022.03.17
VUCAの時代、さらにデジタル技術の飛躍的な進化によって、これまでの画一的な企業研修やキャリアサポートでは、その変化に対応しきれなくなってきていた。カギを握るのは、社員自らが自分に必要なスキルや知識を習得して業務に生かし、さらにはプロフェッショナルとしてキャリアを構築していくような「自律的な成長」を促すことだ。
来たる3月24日に開催されるオンラインセミナー「味の素株式会社の自律型人財の育成方法を公開 自律的キャリア開発支援に向けた10年の軌跡」(主催:株式会社Schoo)は、味の素株式会社人事部人財開発グループの宮川隆史氏が登壇し、自律型人財育成の先進事例を紐解いていただく。自律型人財の育成に取り組んでいる企業の人事や経営者が悩みがちな仕組みづくりや施策の企画、運営の具体例に加え、企業が施策を推進させるなかで直面する課題やその解決のヒントを提供する。
今回、宮川氏に事前インタビューを行い、自律型人財育成に取り組むきっかけや、自律型人財育成の方針、取り組み概要などを聞いた。【オンライン取材:2022年3月2日・@人事編集部】
セミナー情報
3月24日開催セミナー「味の素株式会社の自律型人財の育成方法を公開 自律的キャリア開発支援に向けた10年の軌跡」
https://malp.schoo.jp/220324.html?source=jinji
宮川隆史(みやがわ・たかし)
味の素株式会社 人事部人財開発グループ シニアマネージャー
1990年入社。海外勤務を含め、営業や広報、経営企画、総務などを経験。2018年から現在の人事部人財開発グループに在籍し、味の素(約3,800名/単体)全世代の自律的キャリア開発支援制度や仕組みづくり、施策の検討・実施を担当するキャリアサポートチーム(5名)のリーダーとして活躍中。
■解説:キャリアサポートチームの業務例
キャリアサポートチームの具体的な業務は、若手、ミドル、アッパーミドルの年代別キャリア研修やキャリアカウンセリング、60歳超と65歳超のシニア再雇用管理・転進支援などがある。チーム所属の5名はキャリアコンサルタントの国家資格保持だけでなく、コーポレート、営業・マーケティング、生産、研究開発など、それぞれ多様なバックグラウンドを持ち、その社内キャリアが社員とのキャリアカウンセリングにも生かされている。
経営層の危機感から人事制度改定を実施。“適財適所”から“適所適財”へ
──味の素株式会社(以下、味の素)が「自律型人財育成」に取り組んだ背景を教えてください。
宮川隆史氏(以下、宮川氏):大きく2つの理由があります。1つ目は経営の危機感です。この数年の業績は堅調でしたが、グローバル企業としてサステナブルに成長していく上での課題感がありました。規模は違いますが、ネスレさんやユニリーバさんのようなグローバルに認められる企業に近づいていくためには、事業を通じて社会的価値を創造していく必要があります。そのためには事業の重点化が不可避であり、生産性を高める仕組みの導入が求められていたのです。
そこでまず、2016年から働き方改革を進めていくのと同時に、マネージャー以上の基幹職の人事制度改定を行いました。いわゆるジョブ型にシフトし、“適財適所”から“適所適財”に変えました。翌年には、一般職の人事制度改定を行いました。それまで、「実力創出」を掲げ、社員一人ひとりが成果につながる行動を発揮し、自ら立てた目標を達成することで実力を発揮していこうとしていたものを、その段階は終わったとして「多様なキャリア形成」に理念を変えました。また、多様なキャリア形成を支援するための制度整備も走らせ、ある期間異動をせずに勤務地を希望できる「エリア申告制度」や、家族の海外赴任時などにあわせて休職できる「ワークライフバランス休職」、働く場所を限定しない「どこでもオフィス」などの制度拡充も行っています。なお、人事制度に関しては現在、一般職の改定を検討しており、23年4月には、より成果に見合った処遇を行う実力本位に根ざしたものに変えていく予定です。
もう1つ大きな出来事が、2020年に実施した「特別転進支援施策」です。創業以来初めての試みで、社外で新たなキャリアのスタートを希望する基幹職を支援する施策です。50代の基幹職全員にあたる約800名に対して実施し、最終的に144名が応募しました。ここには支社長クラスの人財も入っています。業績が悪くなかったのに、これだけの人数が外部転進したことで、現場社員が「キャリア自律」を考えざるを得ない状況になったと思います。
──基幹職の想定以上の退職は、1つの要因としてキャリア開発の課題があったのでしょうか。
宮川氏:これは取り組むきっかけの2つ目の理由にもなりますが、40代ぐらいの「ミドルのプロフェッショナル化の遅れ」がありました。
味の素は生え抜きの社員が非常に多い会社です。30代後半~40代ぐらいの非常に専門性の高い外部人財をキャリア採用するケースはありますが、施策対象者の50代はそういった人財が少なくほとんどが生え抜きです。
新卒一括採用を行い、社員を時間をかけて育成してきた歴史があるものの、グローバル企業と伍して戦うには専門性の強化とスピードが不可欠だという経営の意識がありました。そこで、年代別キャリア研修の開始年齢の早期化や対象範囲を拡大し、新規施策も実施していきました。
ジョブ型へのシフトでポジションマネジメントからタレントマネジメントへ
──基幹職人事制度の改定はスムーズに受け入れられたのですか。
宮川氏:制度改定は2016年でしたが、2010年ぐらいの段階で人事部が現場に考え方を説明し、意見交換する場を持っていました。ジョブ型へのシフトというのは、世界中の基幹ポジションがジョブグレードで見える化することで責任と権限が明確化し、そのポジションに相応しい人財を当てていこうという「適所適財」の考え方です。法人間同士の人事異動もスムーズになります。海外現地法人の部長クラスと味の素本社の部長クラスとで、どういう違いがあるのかを明確にしていこうという動きが2011年ごろからありました。
制度改定前の2013年ごろ、現場でこんなことが起きました。当時の基幹職の昇進は、まず課長昇格、課長の実績が認められていくと部長昇格になるというもの。ところが、ある課長職がグループ長になった時に、部下に部長職がいて立場の逆転が起こりました。いままでは適財適所でしたが、それを適所適財にしていこうとジョブ型の運用が始まったのです。ジョブグレードを見える化し、グループ長はこういう役割が求められ、そこにフィットする人財を配置しますときちんと説明できるようにする。ポジションマネジメントがあり、その次にタレントマネジメントがあるのです。
──貴社の場合、自律型人財育成を促進させるうえで、ジョブ型の考え方がひとつのポイントになっていますね。
宮川氏:おっしゃる通りです。学生から社会人になったとき、最初はこういうふうになりたいという思いはありつつも、実際にキャリアがどうなるかは分からない。キャリアを考えるとは、何のプロフェッショナルになっていくのかを考えることだと思います。一人ひとりの強みを伸ばす多様なキャリア形成を目指して一般職人事制度の理念を変えましたが、その心は「何の道で生きていくのか」です。その道を極めていこうとすれば、自分の強いところを発揮できるし、仕事にのめりこんでいけて、いろんなことを吸収できる。ジョブ型の考え方と自律型人財育成には親和性があると感じます。
──自律型人財育成に取り組んだ成果を教えてください。
宮川氏:2016年の基幹職の人事制度改定により、いわゆる年功序列型からの脱却ができました。
また、定年後に社外へ転進していく比率が40%になり、2019年以降は50%以上になっています。日本の大企業では、おおよそ8割以上がシニア再雇用としてそのまま所属企業で勤めていると思いますが、味の素は半分以上が外に出るのです。これは、この数年間の大きな環境変化と多様なキャリア形成を支援するための施策が影響していると考えています。
一方で、「自分のキャリアは自分で描く」というキャリアオーナーシップの浸透はまだ道半ばと感じています。
全従業員3,800人分の育成計画がある会社
──自律型人財育成の取り組みを開始するにあたり、どのような準備や調査などを行いましたか。
宮川氏:働き方改革まで含めると、総実労働時間の実態把握に始まり、事業本部や社内人事部門とのすり合わせ、組合と一般職に関する制度導入に関して労使協議を何度となく行いました。
組合は毎年、「Aープログラム」という組合員対象のアンケートを実施しており、人事施策や働く環境などに対する生の声を集めています。そのアンケート結果は、人事施策を走らせるうえでも参考にしています。味の素社員約3,800名のうち、約2,300名が一般職で、その人たちを対象にしたアンケートですので大きな存在です。
弊社においては、新しい制度を入れる際、「会社のメッセージ」として社員は重く受け止めます。一般職社員は全員が組合員であり、弊社は労働組合が機能している会社です。労働組合のトップは社長のカウンターパートでもあります。労使協議で侃々諤々(かんかんがくがく)、実務者を中心に時間をかけて話し合う。協議の節目節目では役員も入りながら詰めていき、お互いに制度を握りあってスタートさせます。
例えば2020年4月1日から一般職の人事制度の運用がスタートする際は、事前に主要な関係組織や人事部門、組合とは、すり合わせが完了しています。組合は早い段階で職場討議を行い、制度の考え方を説明して組合員から意見を収集し会社側に提案してきます。そうやってお互い齟齬がないように発信文書の文言まで確認して、ようやく社内オープンとなるのです。社内掲示板での発信があると、社員はダウンロードして、一言一句何が変わったのかを理解しようとします。制度改定時には人事部が説明会を必ず行い、改定目的や内容を丁寧に説明しますが、社員一人ひとりが、情報収集に熱心で、理解に努めようという姿勢があります。
──取り組んだ内容を教えてください。
宮川氏:2019年度から年代別キャリア研修の早期化や対象者の拡大などを行っていますが、まず、味の素の人財開発の特徴として、キャリア開発プログラムはずっと前からあります。「キャリアデザインシート」に自ら将来のキャリアを描き、異動したい組織を書き込みます。その内容をもとに本人は上司とキャリア開発面談を行います。これは、個人目標に対して行う面談とは別のものです。
上司は部下の個人目標シートとキャリアデザインシートの両方を持っています。足元の目標に対する進捗や成果がどうなのか、中長期の本人のキャリア志向はどうなのか、強みは何なのか。それらの情報を元に上司は「個人別育成計画」を作成します。要するに味の素には、約3,800名分の個人別育成計画があるということです。
キャリア開発面談は、「この人はこういう志向がある、将来開発マーケターをやりたいと言っているが、上司としては、この人の目指すキャリアを実現していくには、この部署をその前に経験させたほうが長い目で見ると成長につながるな」と考えて、個人別育成計画を立てる。これは本人が直接見ることはできません。このキャリアデザインシートをもとにした個人別育成計画がもとになって、異動や昇格を検討する。長い歴史のなかで、浸透してきている考え方です。
──自律型人財育成の施策を実際に取り組んでみて、課題に感じたことやハードルになったことを教えてください。
宮川氏:課題になったのは、対象者へのリーチですね。キャリア研修のほとんどが手挙げ式のため参加者は高い意欲でキャリア自律していきますが、対象者の1割~2割程度の参加にとどまっており、キャリアに悩む全員の支援にはなっていません。また、社外の中堅企業の経営に対してアドバイスを行う「プロボノ実践」は、「大企業だからできる提案」をしがちであったり、受け入れ先企業とのマッチングも容易ではありません。
そうした課題の解消のため、実施レポートを社内掲示板に掲載したり、参加者の感想を翌年度の案内文書に盛り込んだりしています。また研修当日のオブザーブ(受講者の集中を妨げないようZoomの設定して議論確認)を行い、終了直後には研修会社・講師・チームメンバーでのレビューを行います。部内でも共有し、全て終了した後に研修会社と正式なレビュー会を実施して中身の見直しやブラッシュアップを図っています。
※自律型人財育成の具体的な施策の企画や運営、キャリアサポートの仕組み、それらを実施する上での課題とその解決の詳細については、3月24日開催のセミナーで詳しくご紹介いただきます。
人事部だけでなく社内組織の包括的なキャリアカウンセリング体制構築を目指す
──自律型人財育成の取り組みについて今後の展望を教えてください。
宮川氏:いろいろな施策を打ってきていますが、実際に若手に個別インタビューをしてみると、正しく理解されていなかったり、誤解されたりしていて驚きました。またいろんな事情があって施策に手を出せていないことも分かりました。広報面での課題もあるとして、人事部のHP(イントラネット)を見やすくするなど、正確に届けることをまずは注力したいです。さらには人事部門全体の課題も見えており、解決に向けてこれから手を打っていきます。
また、2022年度からはキャリアカウンセリング体制の強化を図ります。私を含めて5名のチーム全員がキャリアコンサルタントの資格を持っているので、社員がチームメンバーの経歴などを参考にしながら、カウンセラーを自分で選択してキャリアカウンセリングを実施できる体制を整備します。
さらに、「ななメンター」の継続です。まったく違う分野の先輩がメンターになる制度で、メンター、メンティー共に手挙げ式で、人事部が双方のマッチングを行います。メンターに選ばれた人には人事部がコーチングのトレーニングを実施したうえで、3カ月間メンターの役割を担ってもらっています。2021年度からスタートしており、次年度も継続していく予定です。ただ、ななメンターは、実施時期が決まっているので、これをいつでも、どこでもできるようにしたい。我々のようにキャリアコンサルタントの資格を取得している人が社内に少なくとも30名以上はいますので、これを人事部として組織化して、キャリアカウンセリングを「いつでも、誰でも、どこからでも」、もっと気軽にできる体制に整備したいと考えています。
──ありがとうございました。
【おわり】
※情報は取材時点
セミナー開催情報
「味の素株式会社の自律型人財の育成方法を公開 自律的キャリア開発支援に向けた10年の軌跡」
開催概要:
味の素株式会社が取り組んでいる自律的キャリア開発支援について、取り組みの背景から実施している施策の成果まで紐解く
開催日:2022年3月24日(木)18:00~19:00
開催形式:Zoom
詳細および申し込み:https://malp.schoo.jp/220324.html?source=jinji
【企画・制作:@人事編集部広告制作部】
編集部おすすめサービス
■「学び続ける」にこだわるオンライン研修サービス
Schoo for Businessは、「オンライン研修」と「自己啓発学習」の掛け算で学び続ける組織を作る、オンライン学習サービスです。定額制のサービスとなっており、6,000本以上の授業が見放題です。階層別研修や業種別研修としての利用はもちろんのこと、社員が自発的に学ぶようになるためのサポートが充実しています。
【おすすめポイント】
・オンラインで階層別・テーマ別・業種別研修に対応
・6,000本以上の授業が定額制で見放題
・各社員の受講履歴や興味・関心も把握でき1on1に役立てられる
【株式会社Schoo】
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
PR企画
サービスピックアップ
あらゆる企業の採用成果実現へ。応募者と企業をつなぐプラットフォーム 採用管理システム【i-web】
Webセミナーやオンライン面接、ペーパーレス面接など、オンライン上での施策が次々と登場し、主流となった採用市場。株式会社ヒューマネージ(東京・千代田)が提供する『i-web』は、そ...
2024.09.19
-
PR企画
エントリー数前年比1.6倍、内定承諾率が大幅改善 。「note pro」がいま採用担当者に選ばれる理由とは?
採用市場では応募者数の確保や内定者のフォローが大きな課題の1つになっている。そうしたなか、採用サイトではないメディアプラットフォーム「note」の法人向け高機能プラン「note p...
2024.02.05
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
コロナ禍によって多くの社員食堂が閉鎖になるなど、社食を取り巻く状況は大きく変化してきた。健康や美味しさを意識した「社食2.0」を経て、現在はコミュニケーションやイノベーション創出の...
2023.12.28
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?