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特集

「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414実務完全マニュアルvol.2


明日からISO 30414を「使う」ための最重要ポイント~使う目的と方法~

2022.02.07

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人事界隈でも関心の高い「ISO 30414」について、人事担当者や経営者が「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」として労務や人事企画で実践していくための方法論や活用方法を紹介する特集。第2回は、活用していくうえで必要なISO 30414の体系理解と活用法の全体像について紹介していく。
解説は第1回に引き続き、社会保険労務士・ISO 30414リードコンサルタントの松井勇策氏、監修はSP総研代表でHRテクノロジーコンソーシアム理事の民岡良氏。

参考:vol.1「ISO 30414とは――日本企業が労務と人事企画で取り入れる価値」

目次
  1. ISO 30414を活用する場合の体系の理解と活用方法の全体像
  2. 経営:マネジメント、後継者育成
  3. 組織のあり方:コンプライアンス、ダイバーシティ、組織文化、健康・安全・幸福
  4. 人事効果:コスト、生産性
  5. 人材管理:採用・異動・離職、スキルと能力、労働力確保
  6. ISO 30414を構成する11の領域と58の指標(一覧表)

ISO 30414を活用する場合の体系の理解と活用方法の全体像

ISO 30414は11の領域と58の指標で構成されています。これらは全て、定められた計算方法や開示すべき事実として定められた体系がありますが、個別の計算や事実の表示だけを行うということにはなっていません。

全体の体系の中で人的資本を理解し、領域や指標内部の内的な関連性、また経営戦略を俯瞰した場合の課題設定を行い、そうした場合の全体のストーリーに従って活用と開示を行うことが必要であることはガイドラインにも明記されています。

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

ISO 30414の基準策定で11の領域が設定されるまでには、人的資本に関しての基準としてたさまざまな検討も含めた曲折があり、完全に体系だったものとして提示はされていません。しかし、領域と指標の意味を解釈して、全体を体系化して理解することは可能です。
図のような4つの領域に分けることができ、それぞれのカテゴリにある基準やカテゴリの意味合いを理解しなが全体を解釈していくことが可能です。4つのカテゴリごとに各論で軸となると思われる考え方を述べます。

経営:リーダーシップ、後継者育成

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

「経営」に位置づけられる基準については、日本におけるローカライズされた現状を良く踏まえて捉えていくべきでしょう。
リーダーシップについては、エンゲージメントサーベイ・リーダーシップに関するアセスメント・360度評価などが事例として出てきていますが、日本ではある程度導入されている企業もあるとはいえ、そこまでなじみはないものでしょう。
既存の制度ですと、ストレスチェックの指標の中で、組織の上下間のエンゲージメントを測る指標が設定されており、上司や部下などに対する信頼性を測ることができます。こうした項目の集団分析は労働安全衛生法上の努力義務とされており、既存のデータを分析することは可能です。

リーダーシップに関する研修の参加率なども測定する項目となっていますが、日本でもマネジメントのあり方や、企業ごとのマネジメント研修は非常に工夫されて行われています。

リーダーシップは組織管理という意味が濃厚であるため、いわゆる管理職とリーダーの区分としてのリーダーシップというよりは、マネジメント手法や技術、組織的位置づけなどとして解釈することも可能です。

組織のあり方:コンプライアンス、ダイバーシティ、組織文化、健康・安全・幸福

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

「組織のあり方」としてカテゴライズした部分については、日本でも人的資本経営的な取り組みを求める法制度や既存の仕組みが多く、労務・法務との接続性の意識が必ず必要な部分であると考えられます。

コンプライアンスにおいては懲戒件数等の報告が求められています。日本では近年、セクハラ・パワハラ・マタハラ等の禁止と措置義務を定めた法令群が制定され、各企業での取り組みが行われていることと思います。こうした取り組みがまず開示事項となるでしょう。
また、内部監査報告については主に雇用法制上の法違反等についての客観報告が求められていると考えられます。最近設定された、全国社会保険労務士連合会の「経営労務診断」等が使いやすい仕組みであると考えられ、結果を活用していくことが考えられます。

ダイバーシティは重要な項目ですが、単に性別や国籍などの変えられない属性についてのデモグラフィック・ダイバーシティだけでなく、考え方やスキル特性などについてのコグニティブ・ダイバーシティまで多く包含された概念です。コーポレートガバナンスコードの2021年6月の改定で、経営陣のスキルマップの開示などが求められていますが、重要な参考情報になると思われます。
ほか、コグニティブな側面についてはスキルの可視化などとつながるため「人材管理」などで言及します。
デモグラフィックな性別についての女性活躍や、育児・高齢者・病気治療との両立支援などについては、それぞれ法改正や政策立案がさまざまに行われています。特に、女性活躍や育児についての一般事業主行動計画や法令上の制度活用については重要な項目であり、対象者数と背景の考え方の基軸となるものとして重要な内容です。

組織文化についてはエンゲージメントを測ることを中心とした基準の記載があります。日本でも、特徴的な自社の制度や文化について、一定の方法でエンゲージメントを測ったり結果について分析している企業はあると思います。一定の「定量性・計測性・可能な限り第三者を交えた客観性」は必要であり、計測方法が普遍性や一般性を持つのかという観点で見直した上で適用すべきものです。

健康・安全・幸福(ウェルビーイング)については、労災件数などの計算が求められています。安全に向けての取り組みを背景として記載すべきものであり、労働安全衛生法上の衛生管理体制は直接に関係する項目でしょう。
また、日本でも広がりを見せている「健康経営」は、健康診断の100%実施や健康安全向上のための運動・食・メンタルヘルスマネジメントに関する事項も直接関係してくる項目と考えられます。こうした取り組みは、個人の積極的な仕事への姿勢やキャリア構築にもつながるものであり、他のカテゴリにも通ずるものです。

健康経営で重視されている項目でもありますが、ストレスチェックをはじめとした法制化もされているメンタルヘルス施策やその集団分析は直接的な労災の予防策です(メンタル問題の労災が日本においても最も増加率が高い内容であることからもそのことが言えます)
またそれらを基盤として、働く方のキャリアへの希望・志向や、働き方への希望も踏まえた、全人生的なウェルビーイング支援への姿勢が人的資本経営のあり方として目指されるものと言えるでしょう。

人事効果:コスト、生産性

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

「人事効果」としてまとめた項目は、日本の「働き方改革」でも中心的な指標とされた生産性に非常に近い考え方で、人的資本の活用と成果についての項目が定められています。

これを、他のカテゴリの各領域・各指標との関係性のもとに見ていくことが重要です。このことが人的資本経営全体の最重要事項のひとつでもあります。人的資本ROI自体は、物的な資本を除いた人的資本に対する投資がいくらのリターンになり得るか、という効果性を把握する指標です。人的資本の結果とも言えるものであり、事業全体の中でどのような動きが生産性やコストの動きとつながっているのかを把握するということです。
国内では、助成金や補助金などでよく使われる「生産性指標」や「付加価値」とも似た概念です。

人材管理:採用・異動・離職、スキルと能力、労働力確保

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

「人材管理」カテゴリは、スキルやコンピテンシーの整理と、組織規模・採用・異動等についての定量的な把握が重要です。

職務の定義を育成的な観点を踏まえて整理していくことが必要です。この情報は「組織のあり方」のダイバーシティなど、他のさまざまな個所に影響する重要な内容です。

また、人事業務に関する情報をデータ化をはじめとしたHRテクノロジーのツールの活用が大きなポイントです。特に採用管理システムによる採用の定量データの取得、人材管理システムによる人材のスキルやコンピテンシーの把握、教育・育成管理システムによって、スキルマッチした育成機会を提供することなどは、ISO 30414の体系に内包されている考え方だと言え、特に「人材管理」カテゴリ全体と親和性が高いものです。

以上のようなカテゴリについて、さらに具体的に活用方法を見ていくとともに、ISO 30414の戦略活用と開示についても詳しく見ていきます。

ISO 30414を構成する11の領域と58の指標(一覧表)

1 倫理とコンプライアンス

※①提起された苦情の種類と件数 ※②懲戒処分の種類と件数 ★③倫理・コンプライアンス研修を 受けた従業員の割合) ④第三者に解決を委ねられた紛争 ⑤外部監査で指摘された事項の数 と種類

2 コスト

★①総労働力コスト ②外部労働力コスト ③総給与に対する特定職の報酬割合 ④総雇用コスト ⑤1人当たり採用コスト ⑥採用コスト ⑦離職に伴うコスト

3 ダイバーシティ

※①年齢 ※②性別 ※③障害 ※④その他 ※⑤経営陣のダイバーシティ

4 リーダーシップ

※①リーダーシップに対する信頼 ②管理職1人当たりの部下数 ③リーダーシップ開発

5 組織風土

①エンゲージメント/ 満足度/コミットメント ②従業員の定着率

6 健康・安全・幸福

※①労災により失われた時間 ★②労災の件数(発生率) ★③労災による死亡者数(死亡率) ④健康・安全研修の受講割合

7 生産性

★①従業員1人当たりEBIT/売上/利益 ★②人的資本ROI

8 採用・異動・離職

①募集ポスト当たりの書類選考通過者 ②採用社員の質 ③採用にかかる平均日数 ④重要ポストが埋まるまでの時間 ⑤将来必要となる人材の能力 ⑥内部登用率 ⑦重要ポストの内部登用率 ⑧重要ポストの割合 ⑨全空席中の重要ポストの空席率 ⑩内部異動数 ⑪幹部候補の準備度 ⑫離職率 ⑬自発的離職率 ⑭痛手となる自発的離職率 ⑮離職の理由

9 スキルと能力

★①人材開発・研修の総費用 ②研修への参加率 ③従業員1人当たりの研修受講時間 ④カテゴリー別の研修受講率 ⑤従業員のコンピテンシーレート

10 後継者計画

①内部継承率 ②後継者候補準備率 ③後継者の継承準備度( 即時) ④後継者の継承準備度(1-3年,4-5年)

11 労働力

★①総従業員数 ★②総従業員数(フル/パートタイム) ★③フルタイム当量(FTE) ④臨時の労働力(独立事業主) ⑤臨時の労働力(派遣労働者) ⑥欠勤

※★は必須の外部開示項目、※は大企業のみの開示項目とされている

【vol.3「ISO 30414の重要論点~IPO等の場面での人事労務監査との同時実地&必須の組織調査や研修のまとめ~」につづく】

※情報は記事公開時点

この記事の執筆と監修

執筆:松井勇策

画像:松井勇作(社会保険労務士・公認心理師・ISO30414リードコンサルタント、WEBエンジニア。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 議長・責任者。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。)社会保険労務士・公認心理師 (人的資本の国際資格)GRIスタンダード公式講座修了認証ISO30414リードコンサルタント
東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。㈳人間能力開発機構 評議員。人的資本については国際情報から関連する国内の制度までを2020年当時から研究・先行した実務に着手。ほか関連するIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査を研究機関で研究中。
著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。
https://forestconsulting1.jpn.org

監修:民岡良

画像:民岡良(株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事)株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事。慶應義塾大学 経済学部を卒業後、日本オラクル、SAPジャパン、日本IBM、ウイングアーク1stを経て2021年5月より現職。日本企業の人事部におけるデータ活用ならびにジョブ定義、スキル・コンピテンシー定義を促進させるための啓蒙活動にも従事。「人的資本の情報開示」(ISO  30414)に関する取り組みについても造詣が深い。著書に「HRテクノロジーで人事が変わる」(2018年労務行政、共著)等がある。労政時報セミナー、HRテクノロジーカンファレンス等、登壇実績多数。
https://www.sp-inst.com/
https://hr-technology.or.jp/

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