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特集

「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414実務完全マニュアルvol.3


ISO 30414の重要論点~IPO等の場面での人事労務監査との同時実地&必須の組織調査や研修のまとめ~

2022.02.09

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「ISO 30414」を人事担当者や経営者が「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」として労務や人事企画で実践していくための方法論や活用方法を紹介する特集。第3回は、実践していくうえで重要な論点になる「人事労務監査」との関係性や、必須の組織調査・研修について紹介していく。
引き続き、社会保険労務士・ISO 30414リードコンサルタントの松井勇策氏の解説と、監修はSP総研代表でHRテクノロジーコンソーシアム理事の民岡良氏が務める。

参考:
vol.1「ISO 30414とは――日本企業が労務と人事企画で取り入れる価値」
vol.2「明日からISO 30414を「使う」ための最重要ポイント~使う目的と方法~」

目次
  1. ISO 30414と人事労務監査・組織調査や研修について
  2. 国内でIPO(株式上場)やその他の場面で行われる人事労務監査との関係
  3. ISO 30414と人事労務監査との関係性の結論
  4. 現状の労務監査、特にIPO時点における人事労務監査とISO 30414の関わり
  5. ISO 30414の「倫理とコンプライアンス」の監査項目における人事労務監査の位置づけ
  6. 人事労務監査の社会的な必要性・ISO 30414における意味
  7. ISO 30414の中で定められている定量的な指標・ナレッジの型化について

ISO 30414と人事労務監査・組織調査や研修について

特集のvol.1、2で、ISO 30414についてこう述べました。

  • その目的・内容を実質的に見るときに、企業規模を問わず使うことができる、多面的で完成度の高い、“人”の側面からの「経営判断ツール」である。
  • ISO 30414の観点で整備をして外部開示を行うことで企業価値に対する評価を飛躍的に高め、大きな信頼性向上や採用などにもメリットをもたらす「企業価値創出ツール」である。

そのため、重要な論点として、ISO 30414と実務上の類似点が多い既存の「人事労務監査」との関係性が重要であると考えられます。
また、ISO 30414には指標上、必須の内容として行うことになっている組織調査や、特定の内容が定められた研修があるため、vol.3はこれらについて解説します。画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

国内でIPO(株式上場)やその他の場面で行われる人事労務監査との関係

現在、IPOやM&Aの場面で人事労務監査が広く行われています。新規の株式上場、IPOにおいては、たとえば典型的なものとして、残業代未払いなどがあると、その分だけ企業側に債務が残っていることとなり、簿外債務となって企業価値が場合によっては大きく毀損してしまいます。他にもコンプライアンス関係のリスクは、万一トラブルになると損害賠償が高額になることがあり、継承会社へ法的責任が移行するためM&A時や事業承継時にも労基法や社会保険関係諸法の全面的な監査が行われています。
他にもこうした場面では、人事関係の効果性を計測するために従業員エンゲージメントが計測されたり企業文化の調査がされたりすることもあります。

社会的に人事・労務関係の事項が経営リスクとして重要度を増すに従い、人事労務監査の行われる場面はより拡大しています。人事労務監査は、ISO 30414が持っている人的資本の戦略決定や開示ということと機能が似ている点があります。

そこで、

  • IPO等でISO 30414はどのように扱うべきか
  • ISO 30414の指標の中の「倫理とコンプライアンス」の「監査」とは何を指すのか

の2点が重要な論点となります。

ISO 30414と人事労務監査との関係性の結論

結論として、特にIPO等の上場やM&Aで、ISO 30414基準での項目開示や経営方針の決定は、今後、必須度が高くなっていく可能性があり、対象企業は準備を行う必要性が出てくると考えられます。

また、ISO 30414の「1倫理とコンプライアンス」の領域における「監査」の内容は、労務コンプライアンス監査であると考えられます。方法論として全国社会保険労務士連合会が2021年に制定した「経営労務診断」が活用できると考えられます。

画像:経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414実務完全マニュアルvol.3 ISO 30414の重要論点~IPO等の場面での人事労務監査との同時実地&必須の組織調査や研修のまとめ~

現状の労務監査、特にIPO時点における人事労務監査とISO 30414の関わり

ISO 30414は、今後のIPOやM&A時の、現在の人事監査あるいは人事効果性の監査と言われるものの内容を代替するようなものになるものと考えられます。

労務監査あるいは労務デューデリジェンスは、人事労務領域において実施されるデューデリジェンス=企業等が行う自己確認のことです。一般的に人事労務監査は、M&AやIPO、事業承継などのタイミングに行われます。たとえばIPO時には、従業員の状況について有価証券報告書(Ⅱの部)の作成が必要です。以下が具体的な内容になります。

  1. 企業グループの人事政策
  2. 最近3年間における企業集団の従業員の異動の状況
  3. 出向者の状況
  4. 今後2年間における人員計画
  5. 時間外労働及び休日労働の管理方法並びに労使協定の締結状況
  6. 時間外労働の状況
  7. 最近3 年間及び申請事業年度における労働基準監督署からの調査の状況

具体的に内容を見ていくと、1~4は人事企画の中身についての内容で、5~7については労務コンプライアンス上の事項となります。また、この表以外にも網羅的な項目で洗い出しを行うことが一般的です。

労務法務上の問題がないかの洗い出しを労務監査、人事の効果性や計画等についての測定・確認を人事監査と呼ぶこともあります。これについては、エンゲージメントサーベイによる組織の状態についての情報や、人材の効率性や生産性指標などを取得する場合もありますが、現状、労務監査(労務コンプライアンスに関する監査)ほどにはっきりした体系がなく、その時々の必要性に基づいて取捨選択がされます。

ISO 30414は人事全体の関連性や効果性が捉えられるため、今後は従来の人事監査がISO 30414で代替され、広く行われるようになることが十分に考えられます。よって、特にIPOを目指す場合、早いうちから基準に基づいたモニタリングや経営方針決定を行い、いつでも内部・外部開示が可能な状態にしていく必要性や、準備を行うことの効果性が高いと言えるでしょう。

上記は有価証券報告書の項目をもとに説明をしましたが、上場企業において作成される統合報告書には、近年ESG報告なども行うこととされています。こうしたIRの一層の充実への要請や、無形資産の評価への市場ニーズの高まりもあり、上記の項目だけではない人的資本の開示が求められています。網羅性の高い基準として準拠するのに向くのがISO 30414であると言えるでしょう。

ISO 30414の「倫理とコンプライアンス」の監査項目における人事労務監査の位置づけ

ISO 30414の11領域のうちの「1 論理とコンプライアンス」内の公表する項目には、「外部監査で指摘された事項の数と種類」があります。ここでの「監査」について考えてみたいと思います。

一般的に、「監査」には、大きく公認会計士等の外部監査人による会社資本の会計監査が広く認識されていますが、今までに述べたように、それ以外にも社会保険労務士等によって行われる人事労務面の労務監査があります。改めて整理します。

会計監査

株式公開会社や大企業については、公正妥当とされる会計報告を行うために、会計監査人としておく必要があり、公認会計士や監査法人が会計監査を行っています。
財務諸表や資本について、会社を資本の側面から見て会計監査実施します。金融商品取引法で、「内部統制監査」も新たに追加されており、財務報告に関わる業務プロセス統制が監査されます。

人事労務監査

今までにも述べたように、労働に関する、主要な法令や制度に焦点をあて、労務のコンプライアンスを確認する労務監査がまずあります。また、人員数・人権費・労働時間・労働分配率・人材配置・意識調査などを含む、ISO 30414自体と近い人事の効果性からの企業経営を評価である人事監査の2側面があります。

=====
ISO 30414の内部の体系は人的資本についての項目です。よってほとんどが人事に関連するものですから、コンプライアンスの指標における「監査の指摘事項」というのは、第一義的には“人に関する法令上のコンプライアンスを確認する”という意味と解釈するのが筋が通っているのではないでしょうか(先行した事例でも、雇用や労働関係の法令違反について述べているものと見られます)。

よって、ISO 30414を行う場合には一定の労務監査を行う必要性があるものと言ってよいと考えられます。社会的にも人事労務監査の必要性が高まっていることから、2020年4月より全国社会保険労務士会連合会による「社労士診断認証制度」がはじまっています。労働社会保険諸法令の遵守や職場環境の改善に積極的に取り組んでいる企業を認証する制度です。制度全体としては「経営労務診断」と呼ばれるものです。
特に労務コンプライアンスについては、社労士制度における多年の知見も踏まえた網羅的な内容です。ISO 30414と連動した活用が望まれます。

人事労務監査の社会的な必要性・ISO 30414における意味

近年は、個別労働紛争が増加傾向にあります。これはインターネットの発達等により労働者自身でも労働法等を簡単に収集できる機会が増えたことにより、労働法を遵守できていない企業は、労働者から訴えられる機会が増えてきているからといえます。

労務監査の指摘事項があることは、こうしたトラブルに直結する問題でもあり、また働く方の企業への信頼性を著しく下げるものです。こういう側面で、エンゲージメントなどの組織風土とも大きな関りがあります。人事労務上の係争があることは、採用ブランディングにも大きく関わります。労務管理に問題がある職場、例えば未払い賃金や長時間労働による過労死、労働災害発生率が高い企業には人は定着せず、優秀な人材確保につながりません。

労務監査の項目の中には一般的に「健康診断およびストレスチェック」の項目もあります。
根拠規定は、安全衛生法となり、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする法律です。

近年は、メンタルヘルスも増加傾向にあり、法令で義務付けられている健康診断やストレスチェックを行えていない、または結果を保存できていないとなると、コンプライアンス上、危険な状態といえます。
このように、労務監査は網羅的な人事・労務上の項目を含んでおり、監査内容含めてISO 30414の倫理とコンプライアンスの項目で開示していくことが望ましいものであると言えるでしょう。

ISO 30414の中で定められている定量的な指標・ナレッジの型化について

「経営」「組織のあり方」関係で特に多いのですが、ISO 30414の指標で一定の定量的な調査と、型化された研修等のナレッジの共有を行うことが前提となっているものが多くあります。これらは必須の内容となるため、位置づけや内容を検討したうえで実施することが前提になります。
この章では整理をする趣旨でまとめて提示をしますが、本特集のこれ以降の章で、4つの便宜的なカテゴリごとの解説をしますので、そちらで詳しく説明します。

調査と言えるものでは

  • エンゲージメントの把握
  • リーダーシップとマネジメントの信頼性の把握
  • 採用社員の質の把握
  • スキルの把握

等が定められています。また、型化された研修等の受講として定められているものとして下記のようなものがあります。

  • 倫理・コンプライアンスに関する研修
  • リーダーシップ開発に関する研修(マネジメント研修と解釈可能)
  • 健康・安全研修
  • その他の人材開発の研修、カテゴリー別の研修を定義する

調査・把握については、定量的・持続的・第三者を極力交えて判断され得るような客観的な信頼性が必要だとされているのですが、そういった点に留意する必要があります。

エンゲージメントサーベイはある程度広まっていますが、組織風土の把握やリーダーシップサーベイは一般的でなく、人事制度におけるスキルの棚卸も系統的に行われることは少ないと思います。かつばらばらに行われることが多く、こうしたものに一定の位置づけを与えていくことになり得ると思われ、自組織にとって何が良いのかを考えていく必要があると思います。スキルの計測については特に本特集の④で解説します。

【vol.4:ISO 30414の『経営』『組織のあり方』の捉え方、重視すべき日本の労働環境・法令と制度 につづく】

※情報は記事公開時点

この記事の執筆と監修

執筆:松井勇策

画像:松井勇作(社会保険労務士・公認心理師・ISO30414リードコンサルタント、WEBエンジニア。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 議長・責任者。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。)社会保険労務士・公認心理師 (人的資本の国際資格)GRIスタンダード公式講座修了認証ISO30414リードコンサルタント
東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。㈳人間能力開発機構 評議員。人的資本については国際情報から関連する国内の制度までを2020年当時から研究・先行した実務に着手。ほか関連するIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査を研究機関で研究中。
著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。
https://forestconsulting1.jpn.org

監修:民岡良

画像:民岡良(株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事)株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事。慶應義塾大学 経済学部を卒業後、日本オラクル、SAPジャパン、日本IBM、ウイングアーク1stを経て2021年5月より現職。日本企業の人事部におけるデータ活用ならびにジョブ定義、スキル・コンピテンシー定義を促進させるための啓蒙活動にも従事。「人的資本の情報開示」(ISO  30414)に関する取り組みについても造詣が深い。著書に「HRテクノロジーで人事が変わる」(2018年労務行政、共著)等がある。労政時報セミナー、HRテクノロジーカンファレンス等、登壇実績多数。
https://www.sp-inst.com/
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