企画

人事制度改革から、企業理念、ビジョンづくりまで。「実録・働き方改革の現場」


働き方改革は1日にして成らず。ネクスウェイが6年かけた企業理念を実現するためのワークスタイル(後編)

2020.05.21

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働き方改革を推進する際に起きる現場の課題や対応方法を当事者に聞くインタビュー企画の後編。前編では、情報通信提供サービス事業を手掛けるネクスウェイの柳田彩佳さんに、人事制度改革によって起きた従業員の不満をきっかけに企業理念・ビジョンづくりに取り組む様子を語ってもらった。
後編は、作った制度の運用について語ってもらっている。人事評価の考え方や勤怠管理、有給休暇の付与・取得条件など、コロナウイルス対策でリモートワークを導入した企業にとっても参考になる情報が多い。【取材:@人事編集部】

記事の前編はこちら
働き方改革は1日にして成らず。ネクスウェイが6年かけた企業理念を実現するためのワークスタイル(前編)

柳田彩佳(やなぎだ・あやか)

株式会社ネクスウェイ 社長室。株式会社アイ・エム・ジェイへ新卒で入社。広告営業を経験した後、人事部へ異動。労務、中途採用、制度設計などを経験し、2014年株式会社ネクスウェイへ転職。人事組織ができて間もない時期に、中途採用の体制づくり、入社後のフォローなどを行う。当時会社設立10年目で会社を次のステージへあげるために人事制度などを刷新。その後、研修、新卒採用なども行い、現在は主に人事企画を担当。

目次
  1. 「SELECT TIME」「リモートワーク」をどのように運用していったのか
  2. 気になる質問をまとめてぶつけました
    ・WAV制度を企画・設計するにあたり参考にした制度や情報などがあれば教えてください。
    ・WAV制度の各働き方を選択した際の、具体的な勤怠管理の方法を教えてください。
    ・日短勤務を利用している場合、社員の有給発生条件は変わりますか。
    ・例えば、3時間勤務に午後休に追加するというようなことであれば管理が煩雑になるのでは。
    ・退職金も気になります。
    ・そこまでくると、辞める理由がなくなってきてしまうのでは。副業もできて他のやりたいことも自分で時間作ってできてしまう。
    ・副業としてネクスウェイの仕事をしている人はいますか。
    ・現時点での制度利用状況を教えてください
    ・リモートワークができない部署はどういう仕事をしているのですか
  3. キーワード解説とネクスウェイの「WAV制度」ができるまで

「SELECT TIME」「リモートワーク」をどのように運用していったのか

写真:インタビューに答える株式会社ネクスウェイの柳田彩佳さん

──社員が各働き方を選択する際にどのような流れで利用できるのかを教えてください。
SELECT TIMEについては基本的にどんな理由があっても認めているので、原則申請したものが通る運用になっています。従業員はマネジャーと人事に申請し、承認はマネジャーがします。リモートワークは「自律してひとりで業務遂行ができるか」という目安だけ提示し、マネジャーの許可制にしています。本人の業務遂行レベルが高くてもリモートワークできない業務を担当していることもあるので、すべてマネジャー判断としているのです。

副業は禁止事項を決め、申請も求めていません。会社は「ネクスウェイとまったく同じ業界で同じ業務を行う場合(いわゆる競業避止義務)、副業を行うことで健康を害している場合等」は副業を禁止させることがあるとは伝えています。

一度自分で申請した働き方をやめるのも個人の自由です。日短勤務をしていたけど、フルタイムで働きたいというのも可能です。仮に1月1日から働き方を変えたいのであれば前々月末の11月末までに申請をする必要があります。その1カ月で所属部署や関係部署などでの調整をします。
1点、大事なポイントが「体調不良での在宅勤務は絶対NGである」ことです。体調不良を理由に出社せず自宅で仕事をしがちなのですが、ここは禁止していて、有休をとって休んでもらうようにしています。

──そこまで自由度があるということは、社員自身がどのような勤怠ルールが適用されて、人事評価を受けるのかを把握しているということですよね。
そうです。評価もWAV制度を利用することを理由に低くなるということはありません。

考え方としては、働く時間が5分の3になるとすれば任せる業務量も5分の3にする、給与も5分の3にしますが、「仕事のレベルは変えない」ということです。正直、実際の現場は、そこまで割り切った形での運用はなかなか難しいですね。

ネクスウェイは半年の成果に対する評価が賞与に影響します。給与はグレードで決まるのですが、「発揮能力」というグレード毎の会社が求める能力を設定しており、その能力の発揮状況でグレードを決めています。自分の能力が上がれば給与は上がっていくので、週3勤務だからといって能力の発揮レベルが低いという捉え方もしないし、3日で発揮されている能力に対してちゃんと給与を払いますという考え方です。
これらがきちんと上手く評価できているのかは、今後も運用しながら見ていかないといけないと思っています。

──「働き方改革」をきっかけに人事評価制度は変えましたか。
6年前に変えた評価制度とは大きく変えてはいないです。運用ベースでは改善させてきていますが、働き方を変えたから評価を変えるという順番にはしていません。
ただ、将来的に評価制度を見直したいとは思っています。6年間の変化を通して、会社が、社員の何を促したいのか、それに評価制度をどう使っていくか、の方向性も変わってきたからです。

写真:インタビューに答える株式会社ネクスウェイの柳田彩佳さん

──時短勤務を導入している企業でよくあるケースとして、時短勤務をしている社員の業務をカバーする社員が結局残業しなければいけないという負担から不満が生まれやすくなります。基本的に申請すれば自由に認められるという中でこうした業務のカバーはどのように行われているのですか。
ワークスタイルで掲げている「自分らしく働く×互いに補い合う」に込めている「互いに補い合う」のメッセージです。もちろんフルタイム勤務の社員がカバーしている事実は否めません。ですがすべてはお互い様だという考え方です。時短勤務の社員はカバーしてくれることを当たり前だとは思わず、勤務時間の中で相手が困っていることはカバーする、そういうお互いの想いの部分が大きいです。まだ時短、日短ともに利用人数がそこまで多くないこともありますが、今のところは運用ができています。

実は「SELECT TIME」制度ができる前に、ママさん社員と、どうやったら働きやすくなるのかについて相談をしたのですが、「ママ向けの施策は十分やってもらっているので、もう大丈夫です」って言われたんです。「私たちは育児という制限があるだけで、例えば大学に行きたい、資格をとりたいとなれば、育児と同じように制限がかかる。趣味ややりたいことも同じで、仕事以外に制限がある人がどうやったら働きやすくなるのかということに着目してもらった方が、みんなが幸せになると思います。」という話をしてくれて、感動しました。

こういう考え方をベースに、みんながお互いどういう状況にあるのかを知り合うことでカバーし合える雰囲気はこれからも作っていきたいです。とはいえ会社として仕組みでの解決も進めていかなければと考えています。実質的にリソースが足りないところは補う責任があるので、そこは採用などでカバーしようとは思っていますが、足りないから人を入れるということではなくまずは、お互いでカバーし合うことを目指そうというのがあります。

──こうした働き方改革の制度は残業削減や生産性向上を目的に導入するケースが多い中、ネクスウェイさんは導入目的が違いますよね。
もともとネクスウェイは残業時間が多い会社ではありません。残業時間を減らそう、有休を取ろうということがあまり課題ではありませんでした。
しかし、世の中の“働き方”が変わろうとしているタイミングは間違いないので、そんな中で自分たちは理念ビジョンの実現に向けて時間をどうやって使うかが大事だよねというところからスタートしました。その結論が生産性を上げるということです。生産性が上がれば自分の成長にも繋がるし、余った時間でもっとチャレンジできるので、そういう会社をみんなで作っていこうというものです。

そのための「ワークスタイル」であって、これがしっかりと機能すればみんなが成長して幸せになると考えています。運用をはじめとして、まだまだ未熟ですので、半年に一度は状況をチェックし、適宜改善、見直しを行っていく予定です。

──残業時間や有給取得で法律違反にならないようにするためではなく、「多様な働き方を選択でき、働く一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにする」という本来の働き方改革を実践しているのだと理解できました。

気になる質問をまとめてぶつけました

写真:インタビューに答える株式会社ネクスウェイの柳田彩佳さん

──WAV制度を企画・設計するにあたり参考にした制度や情報などがあれば教えてください。
セミナーを含めて他社さんの話は結構聞きに行きました。あとは、事業部長以上全員で、コクヨさんのオフィスを見学させていただきました。人事やトップだけでなく、上の人たちにも意識を変えていただく働きかけは大事だと思います。。

 ──WAV制度の各働き方を選択した際の、具体的な勤怠管理の方法を教えてください。
「チームスピリット」というツールを使っています。出社するときは入・退館で時間を入れる仕組みになっていますが、リモートの時には自分で時間を入れてもらいます。基本は本人の申請時間を正としますが、パソコンのログイン時間で稼働時間は把握しています。

──日短勤務を利用している場合、社員の有給発生条件は変わりますか。
4月1日時点がネクスウェイの有給休暇付与日で、その時の働き方に応じて付与日数を決めています。週5勤務は何日、週4勤務であれば何日、週3日だったら何日というふうに調整して付与しています。途中でフルタイム勤務に戻ったとしても付与日数を増やしていません。
逆に、4月1日時点では週5日勤務だったのが、5月から週3勤務になったとしてもすでに付与しているものを減らしていません。

──例えば、3時間勤務に午後休に追加するというようなことであれば管理が煩雑になるのでは。
もともとネクスウェイはコアタイム無しのフレックスタイム制度ということもあり、半休は設けていません。これは時短や日短勤務に限らず全員です。ただ、フレックスなので、月の時間内で補填すれば事実上の半休のような勤務は可能です。

──退職金も気になります。
退職金は勤続年数とグレードに応じて払います。日短勤務だから勤続年数減らすことはしていません。

──副業としてネクスウェイの仕事をしている人はいますか。
いないです。個人的には出てきてほしいですね。現状は、「主の仕事はネクスウェイであってほしい」という経営陣の思いがあります。

──現時点での制度利用状況を教えてください。
日短勤務が2人、時短はママ社員が2人使っています。リモートワークはいつでも実施できるので、利用経験で言うと、7割程度の社員が一度以上は使っていると思います。ママさん社員の中には、リモートワークとフルタイムを組み合わせて勤務している人がいますし、ついこの前まで男性社員で、一定期間育児をメインにしたいということで、リモートワークを週2日、有休を2日、出社が1日、という働き方している人もいました。

──リモートワークができない部署はどういう仕事をしているのですか。
「お客様サポート」が代表的で、お客様が安心してサービスを利用していただけるよう保守や質問対応を行っている部門ですね。
ただ、仕事内容ではなく、自分には向く・向かないで働き方を考える社員も一定数いて、会社に来ることが「自分たちの業務スイッチオン」になるからと、「会社に来たい」っていう人もいます。(終わり)

──長時間にわたりありがとうございました。

キーワード解説とネクスウェイの「WAV制度」ができるまで

WAV制度

「FOR MOVIN’ 想いを情報でつなぎ、躍動する社会をつくる。」という企業理念を実現するために推進しているワークスタイル。「自分らしく働く」「互いに補い合う」をテーマに掲げ、成長を促進するために多様な働き方を認めることで、個人や組織の能力の最大化を目指す『Workstyle to Achieve the Vision制度(以下WAV制度)』を推進している。

「SELECT TIME」

育児や介護以外にも、通学や副業、学びや趣味など様々な理由での時短勤務や日短勤務を選択できるようにした制度。2019年10月の施行から既に複数名が利用している。
<勤務体系>
1.時短勤務(1日あたりの勤務時間を短縮※)
(6時間、5時間、4時間、3時間)/日より選択可能
※1日当たり7.5時間を所定労働時間(フレックスタイム制)としているため、その時間を短縮する働き方となる
2.日短勤務(勤務日数を短縮)
週3日勤務/週4日勤務より選択可能。1日あたりの標準勤務時間は7.5時間
事前に設定した出勤数に応じて勤務しない曜日を設定する
<利用例>
■エンジニア職(40代)週4日勤務
利用理由:プライベートで進めている、システムの開発作業に集中する時間を確保するため
■スタッフ職社員(20代)週4日勤務
利用理由:自身で経営している会社の運営に充てる時間を確保するため

ネクスウェイの「リモートワーク」

2016年10月から試験運用を開始し、2年半で約半数以上の社員が経験。それ以前は介護や育児を理由とする場合など、限られた条件下でのみ在宅勤務を適用していたが、試験運用開始以降は、半期ごとに振り返りやルール・運用方法などを試行錯誤しながら徐々に利用制限を更新し、2019年10月より理由に制限なく選択することができるようになった。

ネクスウェイの「副業」

ネクスウェイではこれまでも「副業」は可能だったが、WAV制度導入にあたり、人事規定に「副業」を許可することを明示した。他企業に直接雇用される場合を除く企業経営者や個人事業主として、勤務時間外において他業務に従事することを許可している。また「SELECT TIME」と掛け合わせることで、「複業*」も可能とし、個人の成長及びビジョンの実現を促進している。
*複業:本業での収入を補うために行う補助的な仕事である「副業」ではなく、複数の仕事を横並びに位置付ける働き方

■参考「ネクスウェイ、時短勤務に加えて、週5日未満の日短勤務を可能にする「SELECT TIME」を実施~育児や介護、副業や複業に対応できる多様な働き方を推進~」(ネクスウェイのニュースリリース)

図:ネクスウェイの働き方改革と「WAV制度」がデキるまでの変遷「各施策後は必ず振り返りを行っていました。特にリモートワークは利用者とマネジャーからアンケートとヒアリングを行いました」(柳田さん)

※情報はすべて2020年1月16日取材時点

写真:エントランスのロゴ前に立つ株式会社ネクスウェイの柳田彩佳さん

企業情報

株式会社ネクスウェイ
本社:〒105-0001 東京都港区虎ノ門4-3-13 ヒューリック神谷町ビル
代表:松森正彦
設立:2004年10月1日(※株式会社リクルートより分社独立)
社員数:291名 うち従業員:149名(男:96名、女:53名)※2020年4月1日現在
事業内容:情報通信提供サービス事業
■HP:https://www.nexway.co.jp/


【編集部より】
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