副業解禁で人事が注意すべきポイントは? 就業規則・労務管理を解説
2018年1月、政府が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表し副業の推進を開始したことをきっかけに、「副業解禁」に対する注目が高まりました。副業解禁は働き方の多様化を推進するひとつの方法ではありますが、考慮すべき注意点やリスクも存在しています。副業解禁について、人事担当者が知っておくべきポイントを解説します。
※情報は2019年9月時点のものです。
副業に関する法的効力は?
政府は副業を推進し始めましたが、法的拘束力はなく、企業が社員の副業を容認しなかったとしても罰則は発生しません。なお、公務員を除いては元来より副業自体を禁止する法律も存在しておらず、禁止する場合に依拠するのは各企業の就業規則となります。
多くの企業は就業規則の参考として厚生労働省の発表する「モデル就業規則」を活用していますが、この「モデル就業規則」においても、2018年からは副業を推進する方向性へモデル文が変更されています。
副業解禁のメリット
副業解禁を行うことにより、企業が得られるメリットを解説します。
(1)従業員の自律性・自主性を促すことができる。
社内で割り振られる仕事だけではなく、従業員自身が興味のあることやチャレンジしてみたいことに挑戦できるようになります。従業員が自律的に判断し、積極的に動ける環境を用意することで、自主性が育まれます。
(2)従業員が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
副業を通して社外ではできない経験をすることができるため、結果的に従業員の多面的な成長を促進することが期待できます。
(3)優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
従業員が他の仕事にも興味を持った場合、これを禁止するだけでは離職以外の選択肢を絶たせることになります。副業として離職せずにチャレンジすることが可能となることで、人材流出の防止やビジネスに積極的な人材の確保が期待でき、企業全体の競争力向上につながります。
(4)従業員が社外から新たな知識・情報や人脈を得ることで、事業機会の拡大につながる。
従業員の副業を通して、思わぬ方面から有益な情報を入手することができるかもしれません。企業のコネクションの拡大や新規開拓を期待することもできるでしょう。
※引用:「厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン」より
副業解禁の注意点
副業解禁に関し、企業が抑えておくべき注意点を解説します。
(1)従業員の労働時間管理
労働基準法では、1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間の合計を40時間以内に収めることが定められています。労働基準法第38条においては「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。
残業代の請求は原則として後に雇用契約が結ばれた企業に対して行われることになっていますので、本業側として副業を許可する側の企業に支払いの必要は基本的に生じません。しかし、健康上のリスク管理の問題において、労働時間はトラブルの火種となりやすい部分です。従業員との協議の上で時間管理をしっかりと行いましょう。
(2)情報漏えい
社員が副業に従事する際、書類の持ち出しに限らず、機密情報や競合に有利になる情報を社外に漏えいさせないよう徹底しましょう。厳重に注意を行ったり、罰則を十全に整備しておいたりする必要があります。
(3)社会保険の適用範囲
副業を行った場合、その形態によっては副業先でも社会保険に入らなければならない可能性があります。有事の際の支給金に関するトラブルが起こらないよう、副業先で加入条件に該当しているかどうかを、従業員と共に確認しておきましょう。
副業解禁にあたって企業が行うこと
副業を解禁する際、企業が前もって準備しておくべきことを解説します。
副業解禁の条件を設定する。
従業員が副業を開始する前に、企業は副業を解禁する範囲を定める必要があります。トラブルを避けるため、副業を全面的に解禁するのか、業種・時間などに条件を設けた上で一部のみを解禁するかなどを明確に設定しておきましょう。副業解禁の基準を定めるにあたっては、以下のような項目について検討しておくと良いでしょう。
(1)業務内容(業種)を制限するか否か
副業先の業種によっては、本業に支障をきたす場合もあります。業務内容を制限せずに解禁した場合、同業他社などの競合企業はもちろん、独自のスキルを持ち出しての起業や、企業の信用・イメージに関わる業種での就業の可能性など様々なリスクが考えられます。従業員の副業が自社に悪影響を与えることがないよう、前もって規定を作成しておきましょう。
(2)雇用形態に制限を設けるか否か
副業による長時間労働の発生を防ぐため労働時間や雇用形態を制限する、副業先での学びを重んじるために時間を制限せず許可を行う、のように、企業それぞれの目的や運用方針に応じ、雇用形態の制限を調整していきましょう。
(3)副業申請の手続きフローを確立する
上記のような制限を一切なしに副業を解禁することは、自社にとって予期せぬトラブルの原因になる可能性があります。企業側としては副業を申請制にし、そのための申請フローを確立しておくと安全でしょう。
副業解禁の条件を就業規則に明記し、社員に周知する
前述の (1)~(3)で示した副業解禁の条件を全社員が確認できる就業規則として明記し、その内容を社員に周知することが必要です。
従業員に届出してもらう
副業解禁に際しては、企業側は円滑な運用やトラブル回避のために、従業員に届出を提出してもらう形にするとよいでしょう。
副業申請時に押さえておきたい事項(例)
検討項目 | 目的 |
---|---|
副業先情報 | 所在地、業務内容、雇用形態、就業時間、勤務日数など |
秘密保持に関する誓約 | 情報漏えいリスクに備える |
本業に支障をきたさないとする誓約 | 長時間労働による健康阻害のリスクに備える |
副業解禁は、社員に対する「働き方の多様性を認める」メッセージに
副業を解禁するかどうかの判断は各企業の方針によりますが、社会状況を鑑み政府が推し進める方針を許容しないという姿勢は、明確かつ合理的な理由がない限り「時代遅れ」だと捉えられてしまう可能性があります。
働き方の多様性を認めない態度だと解釈されてしまえば、企業イメージの低下に繋がる可能性もあるでしょう。企業・従業員の双方が納得して働ける環境をつくるためにも、副業に関する取り決めは十分に定めておくことが大切です。
編集部おすすめ! 副業解禁の対応に役立つ記事
副業解禁への対応に役立つ記事を紹介します。副業の規定を作成する際に一読をおすすめします。
→企業も従業員も得をする、新しい「副業規定」のあり方とは【弁護士が解説】
→副業の解禁で外せないポイントと企業での効果的な運用方法
→2019年度就業規則改訂で知っておくべき副業・兼業の法的リスクと回避
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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