労働基準法の基本知識をおさらいしよう
24時間テレビの水卜アナの激走は感動より「かわいそう」。法律違反疑惑を解説
2019.08.27
夏の終わりの風物詩、日本テレビの「24時間テレビ」が8月24、25日に放送されました。総合司会の日テレ社員の水卜麻美アナウンサーが「24時間駅伝」の第三走者として42.195キロを走った後に司会に復帰し、翌朝も午前8時から生放送に出演したことで、SNS上では「パワハラか」「休ませてあげて」の声が相次いでいます。
昨今、高校野球でもエース完投から継投スタイルが推奨され、今春から始まった働き方改革の下、今の世の中では「がんばりすぎ」が称賛される時代ではなくなっています。この機会に、人事担当者だけでなく一般のビジネスパーソンも知っておくべき、労働時間に関する基礎知識や最新情報をおさらいしたいと思います。【2019年8月27日 @人事編集部】
猛暑の中マラソン→司会という過酷さに世間の反応は
「ミトちゃん」の愛称でおなじみの水卜アナウンサーが前走者のガンバレルーヤ・よしこさんから「24時間駅伝」のタスキを受け継いだのは、25日の午前8時8分。報道によると「前日は早めに休みをいただいた」とのことでしたが、最高気温30度を超える中、フルマラソンと同じ42.195キロを6時間以上かけて走破し、午後2時18分にアンカーのいとうあさこさんへバトンタッチしました。
その後、約3時間後に24時間テレビの総合司会に復帰。番組終了後も午後9時から「行列ができる法律相談所」に生出演し、SNS上では水卜アナウンサーの体力を心配する声であふれました。
明らかなオーバーワーク。今の高校野球ですらエース1人で勝てる時代じゃないというのにね。
明日のスッキリは、休んでほしい。
とんでもないパワハラだと思う。フルマラソンを真夏に走らせるんでしょ? 翌日も朝から生放送?
テレビの画面に映っていたのは少なくとも午前8時~午後10時。途中3時間ほど休憩を挟んでいたとはいえ、翌日の午前8時には「スッキリ」に出演。足をひきずるようなしぐさでも笑顔の水卜アナウンサーの様子に「すごい体力」「プロ根性」と驚く声もありつつ、「かわいそう」「感動して褒めちゃダメなやつ」「ブラック企業じゃあるまいし」と、雇用主である日本テレビへ向けた批判コメントが圧倒的でした。
労働時間は原則1日8時間。それ以上働かせるときは?
アナウンサーはタレントではなく一人の「社員」です。会社が規定する労働時間内で勤務しているはず。「好きな女性アナウンサーランキング」で殿堂入りした絶対的エースに過度な負担がかかっているのではないかと視聴者は感じたのではないでしょうか。
※「エースと心中」をテーマにした記事はこちら吉令和初の甲子園は履正社が優勝! 星稜と大船渡に学ぶ人材活用の心得とは
ここで、労働基準法の定める労働時間について基本知識をおさらいしましょう。労働基準法では1日で働ける労働時間が決まっており、原則として、1日8時間、週40時間を超えた労働は禁止されています。
CHECK①
企業は従業員に対して原則1日8時間、1週間に40時間を超える労働をさせてはならない
①だけ見ると、水卜アナウンサーの働き方は違反ですが、一般の企業の社員でも大幅に超えていることがありますよね。可能にしているのは、1日8時間以上労働させる必要がある場合に必要な36協定を締結しているから。36協定とは時間外・休日労働の取り決めに関する労使協定のことで、締結後の残業時間の上限を1週間15時間、1カ月45時間、1年360時間などと行政基準として決められています。
CHECK②
36協定を締結後に課せられる残業時間は、1週間15時間/1カ月45時間など上限がある
さらに、残業を可能にしてしまう「奥の手」が「特別条項」です。
時間外労働の上限時間に収まらない場合には、特別な事情があるときに限り、「特別条項」を付与すれば最大で年6回まで限度時間を延長できます。特別な事情とは、例えばボーナス商戦に伴う業務の繁忙や大規模なクレームへの対応、機械トラブルへの対応など、一時的もしくは突発的な理由がある場合に限られます。日テレの「24時間番組」への業務はこの特別条項付きの締結がされている可能性が高いと言えるでしょう。
CHECK③
特別条項付きの締結で、さらに残業を延長することができる
ただし、労働基準法の改正によって、特別条項がある場合でも年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満などと残業時間を上限規制する項目が新たに盛り込まれ、大企業では2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用となっています。水卜アナウンサーの場合、一定期間を通してこれらの上限をオーバーしていなければ、法的には問題がないと言えるでしょう。
※「現行」は2019年4月以前、「改正後」は2019年4月以降
→人事が必ずおさえておきたい 労働時間の上限規制と時間管理方法
→業務ガイド【記入例付き】36協定とは? 新様式や罰則、上限についても解説
勤務間インターバル制度の休息時間の目安は
今年春には、勤務間インターバル制度が定められましたが、多くの人が心配になってしまった点は、水卜アナウンサーが夜遅くまで連続して番組に出演した後、早朝番組に生出演した点ではないでしょうか。つまり、休息時間が短すぎる。多めに見積もってもインターバルは8時間程度です。
勤務間インターバル制度とは、勤務の終業時間と翌日の始業時間との間を一定時間空けて、休息時間を確保し、実質的に労働時間を短縮させること。企業に導入を強制するものではないですが、「努力義務」とされています。
→勤務間インターバル制度とは? フレックスタイム制の改正点も紹介
インターバル(=休息時間)を何時間に設定するかは企業次第ですが、すでに導入されているEU諸国のEU労働時間指令では24時間につき最低連続11時間の休息が定められ、過労死の遺族からも「11時間必要」との声があります。8~9時間など設定を短くすると意味がないと言われています。
社会保険労務士の松井勇策さんは「労働者は休息時間を確保できるため、過重労働による健康被害を防ぐことができます。新しい労働観を体現する法改正の一つでしょう」と解説します。
CHECK④
勤務間インターバル制度は企業の努力義務。健康被害を防ぐもので、インターバルは11時間程度あるのが望ましい
駅伝にしたのに「パワハラ」と非難されるポイント
ここ数年、「24時間テレビ」のマラソン企画は批判の声が高まりつつありました。そういった声も受けてか今回は、一人に24時間マラソンを課すのではなく、芸人3人と自社の社員を加えた4人で”分担”する駅伝という形で実施。それでもSNS上で感動の声よりも「かわいそう」というコメントが多かったのは、いくつかのポイントがありそうです。
「パワハラ」「ブラック」の批判が噴出したワケ
①一企業の社員に「過酷な企画」をさせたこと
②働き方改革の浸透で、過重労働や残業過多について世間が敏感になっていること
③「無理をしてがんばる」姿に世間が感動しなくなっていること
タレントや芸人がパフォーマンスを発揮する場としての「過酷な企画」とは違って、一企業の社員が行ったことで違和感を感じる視聴者が多かったのではないでしょうか。タレントと違って給与は一般水準かそれより少し高いくらいでしょうから、「手当はもらっているのか」などといったコメントもありました。報酬に見合わない労働に見えるだけに、それを断れない立場などから「ブラック」「パワハラ」という声につながってしまいました。
また、今年春から大企業中心に始まった働き方改革が世間に浸透し、労働時間に対してシビアな視線を向ける人が増えたようにも思います。真夜中にぶっ続けで放送する、ということ自体への是非も問われています。
最後に。今夏の高校野球でエースの球数制限問題が話題になったように、一部に過度な負担を強いて成り立つストーリーに、いよいよ世間が「不愉快」に感じるようになっていることを感じさせました。「無理をしてがんばること」の価値は、若い世代を中心に大きく揺らいでいるようです。企業は改めて自社の働かせ方を見直し、働き手側はどのような場所で自身のスキルを生かしていくか、考える機会にしてはどうでしょうか。
【編集部より】
長時間労働の改善に関する記事はこちら
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