活力を生み出すダイバーシティ~りそなホールディングス編
【後半】経営戦略としてのダイバーシティをさらに浸透させ、現場での化学反応を起こしていく
2017.07.18
経営危機を乗り越え、銀行のイメージを刷新した新たなサービスを生み出した、りそなのダイバーシティを紐解くインタビュー。引き続き、ダイバーシティ推進の立役者となった、人材サービス部ダイバーシティ推進室長の杉本仁美氏【写真】に聞いた(2017年4月取材・佐々木多惠子)
※前編はこちら→【前編】ピンチをチャンスに変えた銀行の新しい試みが、「働く人にもやさしい」理由とは?
杉本仁美氏(すぎもと・ひとみ)
株式会社りそなホールディングス 人材サービス部 ダイバーシティ推進室長
大学卒業後、大和銀行(現りそな銀行)へ入社。営業店にて融資・法人渉外を経験し、人事部(現人材サービス部)へ異動、りそなショック時は改革プロジェクトにも携わる。本部審査部門、営業店のオフィサー(銀行の副支店長)を経て、2016年4月より現在の人材サービス部ダイバーシティ―推進室へ。女性活躍推進施策に加え、中高年層の従業員、障がい者、LGBTなど、多様な人材が活躍できる組織作りを担っている。
利用する人が年々増えているスマート社員制度
最新の取り組みでは、社員(正社員)とパートナー社員(パートタイマー)の中間的位置づけとなる新しい職種「スマート社員」(限定正社員)を2015年10月に導入しました。
スマート社員には、「業務範囲を限定するタイプ」と「勤務時間を限定するタイプ」の2種類があります。「業務範囲を限定するタイプ」は、原則として業務範囲の変更を伴う係替えを想定しない働き方を提案するもので、自分に合った業務で長く働きたいというニーズに対応しており、主にパートナー社員からの登用をイメージしています。
「勤務時間を限定するタイプ」は、原則として時間外勤務を想定しない働き方を提案するもので、育児や介護等のライフイベントに合わせた働き方ができるよう、利用可能な育児・介護関連制度が緩和されています。スマート社員の導入は、従来からありました「社員・パートナー社員間転換制度」の拡充にも繋がっています。
「スマート社員制度」は、りそなグループの特徴的な制度である同一労働同一賃金の仕組みによって支えられています。職務の難易度や職責の大きさを示す職務グレードという職務等級とそれを決定する仕組みである人事評価制度を、社員・スマート社員・パートナー社員で共通化しています。
そして、職種に関係なく同一の職務グレードであれば、フルタイム勤務が前提ですが、職務給(基本給)が同額になるという仕組みです。例えば、職務グレード②の社員と職務グレード②のパートナー社員の基本給は時間換算で同額となり、期待される仕事のレベル感も同じとなります。
一方で、働き方によって責任や負担感などの違い、例えば時間外勤務や休日出勤、トラブル対応などは、社員が率先して対応しますし、社員には転居を伴う転勤などもありますので、賞与・退職金・福利厚生などで給与に差を設けています。
なお、職務の難易度や職責の大きさに応じて職務グレードは変化していきます。年間の人事評価等によって上位グレードが担えると判断される場合は、職種に関係なく職務グレードが上がっていく。つまり、昇進していくことになります。
「スマート社員」は働き方の選択肢の1つ
パートナー社員は登用制度によって、社員やスマート社員になることができます。これまでは社員登用しかなく、従来携わってきた仕事よりも業務範囲が広がることも含めて求められる水準が高いという問題がありました。ここに業務範囲を限定している「スマート社員」ができたことでキャリアアップへのステップが低くなり、チャレンジしやすくなっています。
まずはスマート社員にチャレンジし、力がついてきたら次は社員にチャレンジするというステップを踏んで活躍している元パートナー社員もいます。もちろん、不合格になることもありますが、どういった点が足りてなかったのかをしっかりとフィードバックしており、翌年スキルアップをして再度チャレンジしているパートナー社員もいます。
育児や介護と仕事を両立させるため勤務時間を短縮したいという社員には、本人の希望により一時的にスマート社員やパートナー社員となる転換制度があります。賞与などが少なくなっても、一定期間、子育て時間を大切にしたいというニーズのある社員が利用しています。
スマート社員は働き方のバリエーションのひとつであり、パートナー社員からの登用や社員からの転換により増加しています。職種、つまり働き方を変えていくことになりますが、共通化している職務グレードはそのまま同じものが適用され、時給換算の職務給と同額となります。同一労働同一賃金の仕組みによって、職務間の移動がスムーズにできるようになっています。
「妊娠したから辞めなくちゃ」と思う人はもういない
傘下行のワーキングマザー比率(上)と産休・育休取得者数【りそなホールディングス提供】
2005年にももちろん産育休制度はありましたが、グラフを見てみると、制度利用者は100人以下でした。ところが2016年の3月では500人以上が利用しています。(2017年3月末時点では650人近くが利用)。
「妊娠したから会社を辞めなくちゃ」と思う人がほとんどいなくなっています。産育休制度を利用して、復職後時短勤務で働くのが当たり前になっていますし、ワーキングマザーも約10年前と比較して倍以上の人数になっています(右図)。
女性社員の結婚・出産・育児を理由とした退職率も2005年には4%だったものが、現在は1.1%になっており、妊娠が退職理由になることは少なくなってきています。
結婚や育児等で円満退職した人の再雇用制度として、2006年に「JOBリターン制度」が導入されました。
2015年10月にはスマート社員制度の導入により「スマート社員復帰コース」(退職後5年以内であればスマート社員として復帰可能な権利を付与)が利用できるようにもなっています。
育児期間制度が整ってきており、最近では退職する人が少なくなってきていますが、配偶者の転勤などどうしても働き続けることができない場合のセーフティネットと考えています。
※「傘下行産休・育休取得者数」の図にある折れ線グラフは「全女性社員における育休・産休取得者の割合」です。【2017年9月14日追記】
力を入れている復職サポートと、育児と仕事の両立支援
産育休取得者が多いことから、様々な育児と仕事の両立支援策を行っています。まずは、妊娠されて出産予定の届出をした従業員を対象として「プレママセミナー」を実施しています。これは出産前に行う必要な手続きの説明や、復職した後の働き方を先輩ママ社員にアドバイスしてもらい、妊娠中の不安払しょくを目的としたセミナーです。
「復職支援セミナー」というのは、育休中の人を対象に実施しており、復職後に携わる予定の業務における直近1年間の変更点についての説明と、復職後の仕事の進め方などを先輩ママにアドバイスしてもらうというセミナーです。
従来は「パパママセミナー」という形で開催しており、仕事と子育ての両立のために夫婦一緒にセミナーに参加してもらっていました。当然、ほかの会社に勤めている配偶者の方も来ますので、ディスカッションなどでは様々な情報交換も行われていましたが、配偶者の方の理解を得ることよりも、「職場に戻ってちゃんと仕事ができるのかしら」という不安の声が多かったことから、3年前から業務や仕事との両立へのヒントを基軸とした内容に変更しています。
また、今年の1月にはりそなWomen’s Council※のメンバー主催で、時短勤務で働いている社員を対象に「働くママ応援セミナー」を開催しました。このセミナーは、育児と仕事を両立させながらキャリアアップを意識してもらうことを目的としており、今後のキャリアについて考えてもらったり、先輩のママ社員が新米ママ社員へ仕事との両立やキャリアアップについてアドバイスする時間も設けています。
参加者同士のディスカッションも実施しており、同じ環境で頑張っている仲間と知り合う場として好評を得ています。今後も継続的に実施していく予定です。
Women’s Council:りそなグループ各社の所属部署や役職の異なる女性社員約20名で構成されており、女性の視点を活かして様々なテーマで議論し合い、経営者に直接提言する組織。任期は1年。詳細は「前編」を参照。
この他、「自宅学習システム」という、パソコンやスマートフォンを利用して自宅にいながら学習ができるシステムも導入し、セミナーに来られない人にも先輩ママ社員のアドバイスをビデオ配信するという工夫をしています。
一部制限はありますが、業務連絡なども確認ができるようになっており、業務面のサポートに加え、産育休中も不安を抱えることなく復職できるよう、心のケアも意識したサポートを行っています。
人事から発信する環境整備
新任の管理職の方にはダイバーシティ・マネジメントの研修を受けていただいています。時短勤務者、スマート社員、パートナー社員等、多様な働き方をしている人材が職場にはいますし、いまは男性の育児参画もあり、ワーク・ライフ・バランスを意識した社員も多くなってきました。多様な人材が多様な働き方をしている現在の環境をまずは理解してもらう必要があります。
働きやすい環境作りのために、お互いにコミュニケーションをしっかりと図りながら仕事を進めていくことが大切であり、特に管理職の方には、それぞれの立場に応じたきめ細やかな人事運営が必要である旨を伝えるようにしています。
例えば、育児関連制度の利用者と利用していない人の間で、お互いにやらされ感が出ないように、「おたがいさまの精神でやっていきましょう」という意識醸成もそのひとつです。
従業員にとってダイバーシティは「全社で取り組んでいる重要な課題」という認識をしてもらっていると思います。もともとは経営戦略として取り組んでいることであり、全従業員がイキイキと働き、実力が最大限に発揮できる職場作りを推進していますが、もっと現場で化学反応が起こってもよいのでは、と思っています。
多様な人材の多様な価値観が存在しており、新たな価値創造に繋がるような仕掛け作りが必要だと感じています。
自ら気付き、考え、行動する
ひとりでも多くのお客様に「満足を超える感動」をお届けすること、そして社内で褒める文化を恒常化することを目的に、従業員の気付きや工夫、自発的な取り組みなどの好事例を横展開していく仕組みを社内で構築しています。
「りそなブランド表彰」と言って、実施してよかったサービスや取り組み等をグループ各社より推進してもらい、良いアイディアには金・銀・銅の賞を月間で発表しています。
半期に一度、従業員の投票により「りそなブランド大賞」を決定しています。例えば、長い行列に並ぶのがつらいであろう高齢者のお客様専用のATMコーナーを作る等、良いアイディアはみんなで実施していきます。
ダイバーシティとは若干視点が異なりますが、日常業務の中での自発的な取り組みをボトムアップし、横展開を図っていくことで、従業員の意識向上につながっています。
これからダイバーシティを推進しようという会社にとって、トップの理解とコミットはとても重要です。社内外へしっかりとトップの考えを発信してもらうことが大きな推進力となります。会社全体の改革として進めていくためには、トップダウンと合わせてボトムアップの仕組みを作り、従業員の意識も高めていくと良いのではないかと思います。
【終わり】
マスコットキャラクター(りそにゃ)
杉本さんと一緒に映っているポスターのキャラクターは、「りそにゃ」というマスコットで「ゆるキャラ®グランプリ」というコンテストの企業・その他ゆるキャラ部門で3年連続入賞している。ちなみに2016年は579体中3位の人気者。
「りそにゃ」の公式サイト http://www.resona-gr.co.jp/resonya/
*「ゆるキャラ®グランプリ」とは、地域や会社や日本を元気にするために貢献しているゆるキャラのコンテストで一年に一度開催している。
企業プロフィール
会社名:「株式会社りそなホールディングス」(英文名称「Resona Holdings, Inc.」)
事業目的:銀行持株会社として、次の業務を営むことを目的とする。1.銀行その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理。 2.その他前号の業務に付帯する業務。
所在地:【東京本社】東京都江東区木場1丁目5番65号 深川ギャザリア W2棟、【大阪本社】大阪市中央区備後町2丁目2番1号
設立:2001年(平成13年)12月12日
従業員数:997人(2017年3月末現在)。なお、同社および連結子会社の従業員数は、16,860人(海外の現地採用者を含み、嘱託及び臨時従業員を含まず)。
URL:http://www.resona-gr.co.jp/index.html【編集部より】
特集企画「活力を生み出すダイバーシティ」では、企業のダイバーシティを推進するさまざまな取り組みを紹介しています。これまでの記事はこちら。
人事総務業務の基本や注意点がわかる「業務ガイド」
執筆者紹介
佐々木多惠子(ささき・たえこ)(フリーライター) 広告会社からフリーランスになり、広告のコピーライター・プランナー・クリエイティブディレクター等、キノコ・野菜のコンサルライター、ペット関連、企業関連の取材を得意としている。
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
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