パラレルキャリアの行方
「パラレルキャリア」を認めた企業 その経緯とメリットとは
2015.07.17

リンダ・グラットンの著作『ワーク・シフト』を皮切りに、日本でも「新しい働き方」を求める動きが高まっている。今回紹介するテーマはパラレルキャリア。パラレルキャリアとは、本業を続けながら、それ以外の仕事やNPOへの参加、ボランティア活動にチャレンジすること。ピーター・ドラッカーが著書『明日を支配するもの』にて提唱している、新しい生き方の一つだ。
こうした生き方に注目が集まっている理由の一つは、終身雇用制が形骸化し、一社に縛られずに①好きなこと、②自分の強みを活かせること、③人の役に立つこと、④社会貢献をしたいという意識が多くの会社の従業員の中に広がっているためだといえる。また、内閣府男女共同参画局のウェブサイトのコラムでも、「パラレルキャリア」が仕事と生活の好循環を生み出すとして、この新しい働き方を推奨している。とはいえ実際には、本業以外の仕事を行う「副業」ですら認められないという会社も多いのが現状だ。
そのような中で、副業をOKとしている企業はどのようにそれを許可したのだろうか。「副業OK」とする企業の人事担当者に、副業を認めた経緯や、そのメリットについてお話を伺った。
副業を認めた経緯と導入のメリット
東京都内にあるA社。同社では、就業規則に「自社と競合関係にないこと」、「本業に支障をきたさないこと」、そして「自社のブランドイメージに傷をつけないこと」という副業の制限の文言があるが、社員の申し出の内容によってはケースバイケースで副業を認めている。そして、この数年で副業を希望する声が少しずつ増えてきたそうだ。
条件付きながらも副業を認めているのはなぜなのだろうか。人事担当者は次のように話す。「自社の業務でしっかり成果を出していれば、社員の自由を会社が縛る必要はないというのが正直なところです」。
その担当者によれば、ある時「NPOでのコピーライターの仕事をしたい」と、社員から相談を持ち掛けられたそうだ。人事担当者は、NPOの活動に社会的意義が感じられることや、「週末に2時間程度」という本業に差し障りのない内容だったことから、その社員に対して「直属の上長に副業を始める理由を書いた申請書」を提出するよう促した。申請書は上長と人事部長の許可が必要だったが、社会的意義などを考慮した結果、副業はすんなり認可された。
上長は、当初、本人にタイムマネジメントがきちんとできるのか、また実質的に働く時間が増えることになり健康面で問題がないかという点が気がかりだったそう。しかし、本人の普段の熱心な仕事ぶりや、記事の執筆への意欲から、許可を出すに至った。副業スタートから半年経った今も、順調に本業と副業を両立している。それどころか、副業で磨いたコピーライティング力を現業でも発揮しているという。
複数の収入源の確保という現実も
担当者は次のように語る。「社員のモチベーションが向上し、社員のスキルアップが現業にも還元されることを考えると、副業を認めることで企業側にもメリットが生まれます。また、今後は企業がこれまで提供してきた給与水準を保てなくなり、パラレルキャリアや副業で得た収入を得るようにしなければいけない時代になるのではないでしょうか。」
つまり、社員個人の生きがいや、本人の仕事効率化といった企業のメリットだけでなく、「複数の収入源の確保」が回避できない現実があるという点も、パラレルキャリアや副業の後押しになっているといえる。
就業規則に副業禁止規定を置き、働き方の例外を認めない企業はまだまだ存在する。そこには社員の帰属意識への懸念もあるのかもしれない。だが、収入を複数の柱で支えていくことこそ、成熟社会に合った働き方だともいえる。社員と企業が対等にWin-Winの関係を築く上でも、こうした柔軟な働き方を認める動きは、今後どんどん加速する可能性があるのだ。
執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。
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