企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第1回
シニア層への採用意欲――「シニア層の就業実態・意識調査2023」分析レポート
2023.08.10

労働人口減少が進む中、企業の人材不足感はますます強くなり、採用競争が激化しています。
こうした課題を解消する方法の一つとして、以前から「シニア層採用」が注目されています。
実際、シニア層の就労に対する意識や実態は変化しているのでしょうか。
リクルートの調査研究機関『ジョブズリサーチセンター』では、2016年から継続的に「シニア層の就業実態・意識調査(個人編・企業編)」を実施。シニア層の就業実態および意識を、シニア個人と企業双方の視点で捉えています。
そこで、最新の調査結果の分析から、シニア人材に活躍してもらえるヒントを3回にわたってお伝えします。第1回目は、調査データから見えてきた現状と課題にフォーカスします。
解説 株式会社リクルート ジョブズリサーチセンター長 宇佐川 邦子
リクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。2014年4月より現職。
さまざまな業界の特色を踏まえ、求人・採用活動、人材育成・定着、さらに活躍促進のための従業員満足メカニズムなど、「『働く』に関する課題とその解決に向けた新たな取組」をテーマに全国で講演・提言を行う。全国求人情報協会常任委員のほか、経済産業省、厚生労働省、東京商工会議所などにおいて委員も務める。
シニアの就労意欲は着実に上昇。しかし、仕事探しには苦戦
本レポートでは「シニア」の定義を60歳~74歳とします。
シニアの就労意欲は、2016年から少しずつではあるものの着実に高まっています。2016年時点では「全く就労したくない」という方が2割強いたのですが、その割合が急激に減少。60代以降も働くという選択肢がより身近になりつつある現状が見てとれます。
2023年の調査結果では、「専業主婦/主夫」の28.2%、「無職」の25.9%が「ぜひ就労したい」もしくは「やや就労したい」と回答。現在就業していないシニアのうち、約4人に 1人が働きたいと考えているのです。
ところが、現在働いておらず、かつ就労意欲がある方々を対象に、「ここ5年以内に仕事探しをしたかどうか」を聞いたところ、「仕事探しをして新しい仕事が決まった」のは 1 割程度。「仕事探しをしたものの仕事が見つかっていない」と回答した方が約半数(53.7%)に達しました。
また「仕事探しをしたが、見つからずにまだ探している」という割合も高く、「仕事探しをしたが、見つからずに仕事探しを辞めてしまった」という方も22%存在します。
このように、働きたくても働けないシニアが多数いる実態が浮き彫りとなりました。
7割弱の企業がシニア採用に積極的ではなく、その理由は不明瞭
人手不足に悩む企業は、このように就労意欲があるものの仕事を見つけられていないシニアの力を生かせるように取り組むべきなのではないでしょうか。
ところが、企業側のシニア採用意欲に目を向けると、2016年から大きく変わっていません。
2023年の調査結果では、「シニア採用に積極的ではない」企業が7割弱(66.5%)を占めました。人材が不足している企業であっても、正社員では61.6%、アルバイト・パートでは36.0%、「積極的ではない」と回答しています。
なお、比較的積極的な業種は、正社員では「フード、販売、サービス」「各種製造」「建設、土木、運輸、倉庫」、アルバイト・パートでは「フード、販売、サービス」「各種製造」で、「積極的・計」の割合が全体を上回りました。
では、シニア採用に積極的ではない理由はどこにあるのでしょうか。
正社員とアルバイト・パートいずれも、「健康状態、体力が不安なため」「能力、スキルが不安なため」が多くの回答を集めていますが、最も高かったのは「特に理由はない」でした。
つまり、シニアに対して明確な不安はないものの、「何となく」採用対象として検討していない実態が表れています。
また、「特に理由はない」「任せられる仕事内容が分からないため」「これまでも採用のターゲットとしていない、前例がないため」のいずれかを選んだ企業は、正社員で46.9%、アルバイト・パートで54.0%に上ります。約半数の企業が、「シニアとどのように働いたら良いか分からない」「一緒に働くイメージを持てない」などの不安から、シニア採用に積極的になれない様子が見てとれます。
一方、シニア採用に積極的な企業に理由を聞いたところ、最も高かったのは「求める人材像にあっていれば、年齢は関係ないから」でした。
シニアだから採用する・しないではなく、募集しているポジションに対して応募してきた人がマッチしているかどうかを、その人ごとに能力や個性を見極めて判断していることがうかがえます。
シニアに限ったことではありませんが、年齢などの属性だけで判断しないこと、「前例がなくて分からない・イメージが湧かないから」と採用対象をむやみに絞らないことが、人材不足解消につながるといえるでしょう。
シニアが求めている働き方を知ることで、ミスマッチを防げる
では、企業がシニア採用に取り組むにあたっては、どのような観点を意識すればよいのでしょうか。
重要なのは、シニアがどのような希望を持っているかを理解し、雇用におけるミスマッチを防ぐことです。
そこで、シニアがどのような働き方を望んでいるのかを、調査結果を踏まえてご紹介します。
シニアが今後希望する雇用形態
就業中の方は現在と同じ雇用形態を選ぶ傾向がありますが、全体としては「アルバイト・パート」を希望する割合が約 6 割と最も高く、女性では75.7 %、専業主婦/主夫は86.9 %、無職の方は74.1 %が希望しています。また、男女ともに、年齢が上がるにつれ「アルバイト・パート」を希望する割合が高くなっています。
シニアが今後希望する職種
正社員では「事務」を希望する方の割合が最も高くなっています(28.6%)。
事務職志向の方々にヒアリングをすると、積極的ではなく消極的に事務を選択している印象を受けます。「屋内での座り仕事であれば身体への負担が少ない」というイメージを持っていらっしゃるのです。
次いで希望が高いのは、「販売・サービス」(12.2%)。アルバイト・パートでは、「販売・サービス」が最も高く(34.5%)、特に非就業者の4割強が希望しています。
先ほど、企業へのシニア採用意欲の調査においても、アルバイト・パートでは「フード、販売、サービス」が比較的シニア採用に積極的な業種であることが分かっていますが、シニアにとっても「働けそう」というイメージがあるのかもしれません。
実際、ファストフード店や居酒屋などでシニアの方々が元気よく働く姿を目にする機会が増えました。同年齢の方々にとって「私にもできるかもしれない」と、可能性を感じられるようになっているのではないでしょうか。
シニアが今後希望する勤務条件:勤務日数
ここでは、企業が雇用しているシニア従業員の就業実態と、シニアが今後希望する条件を照らし合わせてみましょう。
勤務日数については、正社員では実態と就業希望にあまり違いはありませんが、アルバイト・パートでは大きな乖離(かいり)が見られます。実態では、最も高かったのは「週5日勤務」(36.0%)である一方、「週5日勤務」を希望するシニアは2割を下回りました。シニアの希望では、「週3日程度」が42.2%で最も高く、「週4日程度」が27.2%と続きます。
●シニアが今後希望する勤務条件:勤務時間数
1日の勤務時間数についても、日数と同様の傾向が見られます。アルバイト・パートでフルタイムのような働き方を希望するシニアは多くはありません。実態では、アルバイト・パートの2割が「8時間以上」勤務していますが、希望では「8時間以上」は4.9%と低く、3~5時間程度の比較的短い時間へのニーズが高い状況です。
アルバイト・パートでは、週3~4日、1日3~5時間勤務といった働き方が望まれていることが分かります。フルタイムよりも緩やかなペースで働きたいという希望が見てとれます。
このような条件の仕事を作り出すことで、シニアの方々に長く活躍し続けてもらえたり、新たな仲間として参入してもらえたりする可能性が高まっていくでしょう。
●シニアが今後希望する勤務条件:年収
現在企業に雇用されているシニアアルバイト・パートの年収は「200万円~300万円未満」が29.1%、「100万円~200万円未満」が27.4%であるのに対し、シニアの希望は「50万円~100万円未満」が41.2%、「50万円未満」が31.0%で、100万円未満が7割強を占めています。
つまり、それほど高い報酬を求めていないのです。この年齢になると、収入よりも「働きがい」――ありがとうと言われたり、社会とのつながりを感じたりしたいと望む方々が非常に多くなることも特徴の一つといえます。
「企業が求めること」と「本人の状態」のギャップへの理解が重要
企業がシニア採用で求めることと、シニアが今後の就労において重要だと思うことのうち、現在の状態であてはまると答えたものをそれぞれ見てみましょう。
企業が求めることの上位にある「判断力」「理解力」については、シニア自身もあてはまると考える割合が比較的高くなっています。一方、企業が最も求めている「体力」では、正社員を希望するシニアで7位、アルバイト・パートで5位という結果に。「自分には体力がある」と考えているシニアは多くはないようです。
加齢に伴い、どうしても体力は落ちていくものです。シニアに長く働いてもらうためには、シニアの体力を考慮した仕事の割り振りや働き方を取り入れることが必要不可欠だといえそうです。
次回は、シニアならではの専門性やスキルを生かしてもらうなどの工夫により、シニア人材の活躍を後押ししている職場の事例をご紹介します。
>>>第2回 シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす
<調査概要>
関連記事:
これまでのスキルや経験を生かして新たなチャレンジをするシニア求職者 シニア層の得意を生かす働き方を提供する企業も(プレスリリース)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20230703_hr_01.pdf
「シニア層の就業実態・意識調査2023」分析レポート
https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20230630_2760.html
編集部注:この記事はリクルート社から提供の寄稿です。2023年7月時点の情報をもとに作成しています。
企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく(全3回)
第1回 シニア層への採用意欲――「シニア層の就業実態・意識調査2023」分析レポート
第2回 シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす
第3回 シニア人材の活躍事例――これまでの人生経験を生かす
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■さまざまな企業が直面しているシニア社員問題
年間16,400社以上の企業に対して、働き方のコンサルティングや企業の人材育成を支援しているリクルートマネジメントソリューションズの専門家・星野翔次氏が、高年齢者雇用安定法の改正や求められる企業の対応についてあらためて解説するとともに、実際に現場で起きているシニア社員の問題にクローズアップします。
【おすすめポイント】
・日本のシニア社員は「頼もしい存在?」
・高年齢者雇用安定法の改正と求められる企業の対応
・シニア社員問題とは
【解説:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ・星野 翔次】
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