「70歳定年」時代に上司は「シニア社員」のキャリアをどう活かせるか
第1回 さまざまな企業が直面しているシニア社員問題
2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会を確保することが企業の努力義務になりました。
一方で、70歳まで就業できる制度を用意している企業は全体の3割程度※にとどまっており、70歳まで働きたい人はいるものの、企業の対応が進んでいない実態があります。
そこで、年間16,400社以上の企業に対して、働き方のコンサルティングや企業の人材育成を支援しているリクルートマネジメントソリューションズの専門家・星野翔次氏が、「シニア社員のキャリアを生かすためのポイント」や「シニア社員の上司が直面する壁と乗り越え方」などのノウハウや実践法を4回にわたり解説します。
第1回は、「さまざまな企業が直面しているシニア社員問題」です。高年齢者雇用安定法の改正や求められる企業の対応についてあらためて解説するとともに、実際に現場で起きているシニア社員の問題にクローズアップします。【編集部より】
※令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果(厚生労働省・2021年1月8日)より
目次
日本のシニア社員は「頼もしい存在?」
2021年4月1日、高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今後も、労働力人口総数に占めるシニア社員の割合は、上昇することが予想され、シニア社員の活躍は欠かせません。しかし、現状では、多くの企業から、シニア社員の活躍をどのように実現すればよいか分からないとのご相談が寄せられます。
シニア社員とは
では、そもそもシニア社員とは、どのような方を指すのでしょうか。シニア社員に明確な定義はありませんが、本稿では、一般的にシニア社員と考えられる「55〜70歳で、管理職ではないビジネスパーソンと、管理職ではあるものの部下がいないビジネスパーソン」と定義します。以下が、55〜70歳と定義した理由です。
・高年齢者雇用安定法において、高年齢者を55歳以上の者と定めていること
・高年齢者雇用安定法の改正により、努力義務として70歳までの就業機会の確保が求められていること
シニア社員の就業意欲
上記シニア社員の就業意欲は、どのような状態なのでしょうか。2018年の人口推計※1を見ると、高齢者の総人口に占める割合は、日本(28.1%)が世界で最も高いことが分かります。
※1出典:「人口推計」(総務省統計局)2018年
まさに世界一の高齢社会ですが、その日本の高齢者は、他国と比較して極めて高い就業意欲をもっている様子が、令和3年版高齢社会白書※2から伺えます。日本のシニア社員は、就業意欲が高く、企業の生かし方によっては、高い成果や良い影響を発揮する可能性がある、頼もしい存在なのです。
※2出典:令和3年版高齢社会白書(全体版)[内閣府]
→「第3節 国際比較調査に見る日本の高齢者の生活と意識の特徴」2 経済的な暮らし及び就労意識について(P58)より
高年齢者雇用安定法の改正と求められる企業の対応
シニア社員が、高い就業意欲を持っている状況で、今後、企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。この点を明らかにするために、まずは高年齢者雇用安定法の改正についてみていきましょう。高年齢者雇用安定法の改正では、70歳までの就業確保が規定されており、
具体的には、次の5つのいずれかを講ずることが企業の努力義務とされました。
1. 70歳までの定年の引き上げ
2. 定年廃止
3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
4. 継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5. 継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
1,2,3は、あくまで就業先における雇用を前提とした措置で、4,5は、創業支援等措置と呼ばれ、就業先における雇用によらない措置になります。
高年齢者雇用安定法の改正で求められる企業対応
高年齢者雇用安定法の改正に対応する上で、企業は、以下3つの対応が必要になります。
①対応方針の決定
継続雇用を前提とした制度(1~3)にするか、創業等支援措置を前提とした制度(4~5)にするか、対応方針の決定をする必要があります。
②方針に照らした、人事制度・人事施策の見直し
継続雇用を前提とした制度(1~3)であれば、評価制度・等級制度・報酬制度の見直しが必要になります。創業等支援措置を前提とした制度(4~5)であれば、労使で同意した上で、業務委託契約の検討や、計画独立支援金や準備休暇の計画等が必要になります。
③20代から、自律性を高める機会の提供
①②は、直近の対応としては必要ですが、最も大切なことは、20代から、キャリア形成に対する自律性を高める機会を企業が提供をすることでしょう。
企業の人事部の方のお話を伺うと、社員に対して、シニアの年齢に差し掛かる直前で、今後の人生をどのように歩むか選択することを要望する傾向にあります。これまでの労働や仕事に関する法律・慣習・文化などを鑑みれば自然なことではありますが、これからはキャリアを自身で選択する力や、自社以外でも生かせる能力が必要となります。そのため、現在のままでは要望するタイミングが遅いと言わざるを得ません。企業の対応として、最も重要なことは、社員が人生において大切なことを見つけ、それに照らして人生を選択し、歩むことができる、自律性を高める機会を、20代から提供することです。
上記のような対応策が挙げられる中で、コロナ禍で働き方変革の大きな転換点にある今、対応すべきさまざまな人事施策の対応に追われ、シニア社員に対する人事制度・人事施策の見直しに踏み切る企業は、まだまだ少ないのが現状です。
シニア社員問題とは
では、シニア社員に対する人事制度・人事施策の見直しをしないことで何が生じるのでしょうか。さまざまな企業の経営層や人事、管理職の方が口を揃えておっしゃるのが、「シニア社員の意欲低下」という問題です。実際にインタビューした際におっしゃっていた声が以下の通りです。
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役職定年でポストオフになったシニア社員の方は、意欲が低く、上司として関わりに困る
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シニア社員の方の意欲の低さについて、特に若手社員が不満を募らせており、少なからず組織全体に影響を及ぼしていると感じる
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シニア社員の方が、意欲高く仕事に向き合うイメージが、持てない
シニア社員に対して、会社として何も支援策を打たないでいると、シニア社員の意欲低下という問題が生じ、組織に悪影響を及ぼすことが分かると思います。では、この意欲低下という問題は、何が原因なのでしょうか。この原因は、報酬・処遇に対する不満もさることながら、「周囲との関わりが原因」で起きていることが、シニア社員のインタビューで分かってきました。
次回に向けて
次回以降は、シニア社員の意欲低下という問題はなぜ起こり、どのような構造になっているのか。そして、どのような解決策を講じると変化していくかについて、実際の企業様の事例を交えて、ご紹介いたします。
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