テレワークと地方創生
ネット環境さえあれば、どこでも仕事ができる―「テラスカイ」の挑戦
2016.09.12
ICTを活用し、自宅やサテライトオフィスなどで時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現するテレワーク。育児や介護に携わる社員の負荷軽減や、ワークライフバランスの実現など、さまざまな効果が期待されています。
政府も推進に力を入れており、2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍、会社に所属しながら週に1回以上テレワークで働く雇用型在宅型テレワーカーの数を全就業者数の10%以上にするという目標を掲げています。
クラウド事業を展開する株式会社テラスカイは、お笑いタレントの厚切りジェイソンさんが在籍していることでも有名ですが、地方都市でのテレワーク推進に力を入れている企業のひとつです。2016年7月に総務省の「ふるさとテレワーク事業」に採択され、新潟県上越市と連携して現地でのテレワークを開始します。今回は、佐藤秀哉社長にテレワーク事業を始めた経緯や狙いについてお話を伺いました。
地域格差の解消が目的
―「ふるさとテレワーク事業」の取り組みについて教えてください
テラスカイの佐藤秀哉社長
佐藤秀哉社長(以下佐藤):私たちテラスカイはIT企業で、クラウドというコンピュータの使い方をメインにしたビジネスを展開しています。クラウドを利用することで、インターネット環境さえあればどんな場所でも仕事をすることができます。
今回申請したテレワーク事業は、新潟県上越市にサテライトオフィスを開設し、社員たちがそこで東京本社とほぼ同等の仕事をする取り組みです。オフィスには我々の他にも、東京の企業が5社と現地の企業が1社共同で入所して、地方都市でも東京と変わらない仕事が可能なのかを検証します。
また、ただ東京と同じ仕事をするだけではなく、現地の上越教育大学との共同研究も進めています。教師を育成する大学ですので、そこでeラーニングの仕組みなど、教育現場のIT化に貢献できるようなサービスを研究する予定です。
学校は離島を含め、全国津々浦々にあります。場所によって情報量や伝達速度に差が出てしまうという現状の課題を解決できないかと考えています。サーバを用意して管理・運用する旧来型の使い方ではなく、クラウドをベースにすれば、物理的な障害がなくなりますので、情報伝達の均一化が実現できるはずです。この共同研究はNTTラーニングシステムズさんと一緒に進めていきます。
テレワークに適した部署のみ上越市に移行
―上越市でのテレワークはいつから開始されるのでしょうか?
佐藤:7月に総務省の補助金事業として採択されましたので、これからオフィスの契約を進め、2017年1月のスタートを目指しています。
オフィスの候補地は上越市の高田駅から徒歩5分くらいの場所で、現存する日本最古の映画館「高田世界館」があるなど歴史ある町の一角です。古い町並みと最先端のITという掛け合わせのギャップが面白いと感じています。
―上越市で働く社員の方は東京から異動されるのですか?
佐藤:東京本社から4人の社員が上越市に移住する予定です。趣旨を説明して、この取り組みに賛同してくれた社員たちです。
ただ、すべての仕事がテレワークに向いているわけではありません。経理や総務などのバックオフィス系の部署はペーパーレスが進んでいるとはいえ、まだ書類が残っているため、遠隔地で行うには非効率です。また、東京のお客様を担当している営業社員も、東京を離れるわけにはいきません。
今回、上越市で働くのは、製品開発チームのエンジニアです。製品開発チームは社内のコミュニケーションのみで完結する仕事ですので、テレワークに最も向いていると考えました。4人の他にも20人くらいの社員が短期で働く予定です。
地方の優秀な人材に期待
―「ふるさとテレワーク事業」に申請された経緯について教えてください
佐藤:当社は札幌に子会社を持ち、大阪や名古屋には事業所があります。離れた場所にいる社員たちが日々連携しながら仕事をしているわけですが、今は大きな都市にしか拠点がありません。もう少し小さな都市に拠点を開くことによって、クラウドを使えば、地方でも仕事ができること、それも東京で働くのと遜色なく働けることが実証できるのではないかと考えました。またクラウドを扱う我々だからこそ、そのことを実証する必要があると強く感じ、この事業に申請しました。
―なぜ新潟県上越市を選ばれたのでしょうか?
佐藤:私が新潟県の妙高市出身なんです。ただ、妙高市は人口3万人強の小さな町ですので、さすがにIT人材を輩出するのは難しい。隣接する上越市は人口約20万人の都市ですので、これくらいの規模であれば、人材も増えてくるだろう、と。食べ物もお酒もおいしくて、幼稚園には常に空きがある。生活環境の良さもバツグンです。
―上越市とこの取り組みを進めていかれるわけですが、企業が自治体と連携するメリットはどんなところでしょうか?
佐藤:現地のことを最も知っているのはそこで長く暮らす方々です。どんな人がいて、どんな仕事をしているのか、採用面での人に関する情報は自治体の方の協力に大きく期待しています。また、実際に4人の社員が移住しますので、新しい生活をスタートするための住居や暮らし面でサポートをしていただけることはありがたいと思っています。
―現地での採用も視野に入れていらっしゃるのでしょうか?
佐藤:もちろん、地方での優秀な人材の確保は大きな期待を寄せています。おかげさまで、私たちは毎年、売り上げ30%以上の成長を遂げています。グループ全体で約400人の社員がいて、毎月10人程度を採用しているのですが、追いつかないのが現状です。
地方には、親の要請でその土地を離れられなかったり、親の介護があったり、兼業で家業を手伝う必要があるなど、そこでしか仕事ができない優秀な方がたくさんいます。そういう方に先端の技術に触れながら地方で活躍できるような場をつくることができればと思っています。
―離れた社員とのコミュニケーションで気にかけていることはありますか?
佐藤:業務の報告や打ち合わせの際などに使用するコミュニケーションツールは自然と洗練されてきました。特に指示をしたわけではないのですが、離れた拠点との打ち合わせでは、動画でお互いの映像を映しながら行うことが多いですね。声だけでも会議はできますが、映像の方が相手の表情が分かるためコミュニケーションがとりやすくなります。上越市のオフィスでも、会議のためのカメラとモニターは設置する予定です。
ブームで終わらない、継続できる事業を目指す
―今後の展望を教えてください。
佐藤:今回の事業は、すぐに成果が出るものではありませんので、3年くらいの視野で検証していく予定です。結果次第では、次は自宅にいながら仕事ができるような、「ホームオフィス」という働き方にも挑戦していきたいですね。
地方創生を銘打って地方にオフィスを開設しても、半年、1年くらいで東京に戻ってきてしまう企業も多い。それは、1つは経済合理性に合わないからだと思います。我々も補助金事業ではありますが、ゆくゆくは補助金がなくても独自に事業を成り立たせていく予定です。
また、現地で働く社員のモチベーションが下がったり、社員たちが東京に戻りたいと希望したりしたら長く続けることはできません。そのためにも現地での採用と、東京から異動する社員たちがそこに住み続けられるような生活面のケアなどの工夫も大切です。ブームで終わらせず、継続できる事業を目指します。
―ありがとうございました
執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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