活力を生み出すダイバーシティ
社員が納得しなければ、女性活躍は進まない(丸井グループ)
2016.08.01

いまや多くの企業が取り組んでいる女性活躍推進。中でも女性管理職の登用は急務だ。年齢や性別の垣根を越え、多様な価値観を意思決定の場に取り入れることで、事業のイノベーションや成長が期待できる。
しかし、女性活躍推進は一朝一夕に実現できるものではない。関東を中心に小売店舗を展開する丸井グループでは、3年前から目の前の課題を1つひとつ解決しながら、女性活躍推進に取り組んできた。どんな施策に成果が上がったのか、推進する上で何がカベとなったのか、株式会社丸井グループの人事部多様性推進課長の廣松あゆみ氏に話を聞いた。(取材・尾越まり恵)
「管理職になりたい」と答えた女性社員は41%

人事部多様性推進課長の廣松あゆみ氏
丸井グループは正社員約6000人のうち、約3000人が女性だ。女性が半数を占めるこの会社で女性活躍推進の取り組みが本格的に始まったのは、2013年のことだった。
「たくさんの女性が活躍している会社だとみんなが思っていたのですが、課長以上の女性管理職は6%しかいませんでした。グループ執行役員は0人です。買い物に訪れるお客様の9割は女性なのに、このままで本当に多様化するお客様のニーズに対応できるのだろうか、という課題認識が経営陣にありました」と廣松氏は当時の会社の状況を振り返る。
「小売業界も日々激しく変化している。意思決定の場に多様な価値観がなければ、イノベーションは起こせない」と、青井浩社長は強い意志を持って、今後女性活躍推進に力を入れることを社員たちに表明した。これが丸井グループのダイバーシティ推進の原点だ。
廣松氏をはじめとする5人の女性管理職が集められ、「2030(にいまるさんまる)委員会」が発足した。これは安倍政権が掲げる「2020年までに女性管理職の比率を30%にする」という目標にちなんだものだ。
委員会発足から半年間、社員たちにアンケートをとったり、座談会をしたりするなどして、皆が何に悩んでいるのか、どこに課題があるのかを調べた。
その結果、見えた課題は「女性がそもそも管理職への昇進を望んでいない」ということだった。アンケートで管理職を目指したいと答えた女性は、全体の41%にとどまった。「男性はどの年代でも、当たり前のように9割が上を目指したいと答えているのに対して、圧倒的に女性の方が、上位職志向が低いことに驚きました」と廣松氏は話す。
特に、30代女性の「(管理職になりたいかどうか)分からない」と答える比率が高かった。30代は仕事の面白さややりがいを感じる一方で、結婚・出産というライフイベントが目の前に迫ってくる。すると途端に「結婚後に家事と仕事を両立できるだろうか」「出産して短時間勤務で働いたら管理職を目指すのは難しいのではないか」と不安になるのだ。店舗の営業時間によってシフトが組まれるため、遅番の場合は帰宅が22時を過ぎる場合もあるという小売店舗ならではの難しさもあった。
女性たちは、まだ結婚・出産を経験していないのに、先のことが不安でキャリアに向かうスピードが落ちていた。
働き方にさらなる柔軟性をプラス
アンケートや座談会の内容を踏まえ、女性が結婚・出産後も安心して働き続けられる制度の改革と、社員たちの意識改革の両軸でプロジェクトを進めることになった。
制度面では、子どもが小学校3年生までは育児短時間勤務を利用できるなど、すでに法定を上回るほど充実していた。そのため、出産を機に辞める女性はほとんどおらず、9割が復帰するという。
しかし、子どもが成長して短時間勤務を終えた後、フルタイム勤務に復帰せずに退職する人が多かった。廣松氏たちはこの「小4の壁」に注目した。
15年4月に「時間帯限定フルタイム制度」を新設し、子どもが小学校6年生までは19時までの就業時間で帰れる仕組みを作った。この制度では、総労働時間はフルタイム勤務と同じだが、シフトを常に早番に設定できる。いわば、短時間勤務とフルタイム勤務の中間のような働き方だ。「この制度がなければフルタイムへの復帰をためらったかもしれない」という声もある。いま、約30人がこの制度を利用している。
さらに、短時間勤務の人が月に4日までフルタイム勤務を選択できる制度も導入した。以前は短時間勤務の人は大事な会議やプロジェクトがあっても、途中で抜けなければならなかった。この制度の導入により、大事な仕事がある日だけ子どもを預けるなどしてフルタイムで働けるようになった。また、土日に夫が休みの場合、子どもを預けて働く女性も多いという。
この制度のメリットは2つある。1つはシフトの不公平感の是正だ。短時間勤務の女性が多ければ、どうしても他の社員が遅番を担うことになり、そこから負の声が生まれ、お互いの理解の溝になっていた。短時間勤務の人がフルタイムで働ける日は、いつもは遅番の人が早番をとることができる。
2つ目はフルタイム勤務に復帰した後の自分の働き方をイメージできることだ。フルタイムでの働き方を事前に経験することで、店舗勤務であれば閉店時間帯の業務を体感しておくことができるし、家庭においては準備にもなる。
管理職を目指す女性の足かせを取り除く

社外取締役・岡島悦子氏によるワークショップ風景
制度改革よりも難しかったのが意識改革だ。プロジェクトが始まった当初は「2030」という数字だけが独り歩きし、「男性である自分はもう出世できないんだね」「女性、女性と言われることに違和感がある」などの声が寄せられた。
さまざまな企業で経営戦略のコンサルティングを担っている社外取締役の岡島悦子氏のサポートを受けながら、女性職責別にワークショップを実施。1人1人が自分は何ができるのか、何をすべきなのかを考える機会をつくり続けてきた。制度や意義を説明した社内冊子の配布など、手を替え品を替え、さまざまな方法で浸透に努め、3年たってようやく社員たちの理解が進みつつある。
これまでの活動を振り返り廣松氏は、「社員全員が頭で理解するだけでなく、完全に納得して腹落ちしないと、行動までは変わらない。なぜ多様性推進が必要なのかという真の目的を理解してもらうことが難しかった」と話す。
3年前は0人だった女性執行役員は、現在は3人。管理職を望む女性の割合も、41%から64%まで上昇した。女性管理職を増やすためには、係長や主任クラスなど、管理職の手前の層の女性も増やしていかなければならない。主要なポストを積極的に任せるとともに、日々の業務だけでなく部署横断のプロジェクトなどを通して、できるだけたくさんバッターボックスに立てる機会を作ることを心掛けている。
「どうしても上位職は考えられないという女性もいます。全員が管理職を目指ことがダイバーシティではない。様々な価値観があっていいと思います。ただ、管理職になりたいのになれない要因になっている足かせは取り除きたい。なぜ女性のマインドが途中から変わるのか、就業継続できない理由は何なのか、女性の昇進の障壁となっているものを見極めて、みんながイキイキと働くにはどうしたらいいかを、今後も真剣に考えていきます」
3年間で女性活躍推進の土壌はできた。目指すは多様な価値観が集まり市場の変化に柔軟に対応できる強い組織だ。今後、新たなステージへと取り組みを展開していく。
執筆者紹介

尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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