人事のキャリア【第24回】
「人事の仕事は人と事業の架け橋」。1000人超の組織変革に挑んだ人事の視点(エイチーム・中久木健大さん)
2021.03.19
さまざまな業種の人事担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「人事のキャリア」。今回は、株式会社エイチームで人事を担当する中久木健大さんにお話を伺いました。
都内大手企業の人事として8年間のキャリアを積んだ中久木健大さんは、心機一転、2016年3月に愛知県にある株式会社エイチームに入社。採用や育成、人事制度や労務など幅広く任され、現在は人事部長を務めています。組織拡大によって企業規模が1,000人を超える中、人事組織の変革に携わった中久木さんのキャリアを紐解きます。【2021年2月26日オンライン取材:株式会社イーディアス・長谷川久美、杉本夏希】
中久木健大(なかくき・けんた)
2007年にSBヒューマンキャピタル株式会社へ新卒入社し、翌年にソフトバンク株式会社の人事部に転籍。2016年に人事担当としてエイチームに入社後は、2年ほど中途採用実務と新卒採用実務を行いながら、人事制度変更の推進、社内異動制度の構築と運用、福利厚生制度の刷新、社内表彰式の設立、研修制度の拡充などを推進。2018年に人事企画Gを立ち上げ、マネジャーに就任。同時に給与等の労務実務を行っている労務Gのマネジャーも兼務し、採用以外の人事領域を担当。兼業農家としての一面も。
中久木さんのキャリアアップのポイント
・意図せず人事になったものの、「必要とされる人材」を目指しキャリアを積む
・エイチームへ転職後、大きな組織を支える人事部を発足させる
・経営層とも積極的にコミュニケーションを取り、事業を深く理解する
「人事になりたい」と思ったことはなかった
──中久木さんが人事の仕事に就こうと思ったきっかけを教えてください。
実は、人事になりたいと思ったことはないんです。そもそも学生時代はバンド活動に夢中で就職するかすら悩んでいるくらいでした。単位を落として卒業できず、半年間留年したときに就職したくない理由を真剣に考えたんです。
「サラリーマン=面白くない」と自分がステレオタイプに捉えていることに気が付き、「それではいけない。きっと社会には面白い人もいるはずだ」と思い、就職することを決意しました。就職活動中に出会った企業がソフトバンクの子会社で転職サイト運営を行うSBヒューマンキャピタルでした。
人材業界は、当時とても勢いがあったものの、入社後1年ほど業界全体の市場が悪化してしまいました。その結果、ソフトバンクグループ内で人員の再配置が行われ、期せずしてソフトバンクの人事本部に出向となりました。こうした経緯で人事の仕事に就いたので、もともと人事になりたくてなったわけではないんです。
ただ、このとき、「会社から必要とされる人材でなければ自分のキャリアを選択することは難しいんだ」と感じました。自分で今後のキャリアを選択するためにも、ソフトバンクには「残ってほしい」と言われるように、SBヒューマンキャピタルからは「戻ってこい」と言われるように人事の仕事を頑張ろうと決意しましたね。
従業員が1,000名を超える中、機能別だった人事機能を統合し人事部を発足
──大企業の人事から、エイチームに転職を決意した理由は何だったんでしょうか。
ソフトバンクで働いて8年が経った頃、地元の三重県で子どもたちを育てたい、実家の田畑を受け継いで農業にも挑戦したいという思いがあり、いわゆるUターン就職を考えるようになりました。また仕事面では、会社が世の中に出しているサービスの規模感が分からなくなり、仕事の手触り感が薄くなっていると感じるようになっていました。「ベンチャー企業に挑戦したい」という思いが自分の中で強くなっていたのも同じ時期です。
そんな思いもあり、地元である三重県から通うことができるエイチームについて調べるようになりました。名前を聞いたことがある程度だったのですが、創業者である代表取締役社長の林(高生氏)の思いが書かれている記事を見たときに自分がこれまで大事にしてきた価値観や理念と近いことが書かれていて「転職するならここしかない!」と確信しました。なので、転職活動をしたのはエイチームだけでした。ここが駄目なら転職は諦めようと思っていましたね。
──エイチームでのキャリアについて教えてください。
私が入社したとき、エイチームの従業員数は500人程度で、採用と労務の機能が分かれていました。入社してすぐは、中途採用と新卒採用の実務を任されていました。
その後は、会社の規模が大きくなり、従業員が1,000人を超えるほどになりました。人員増に伴い実態に合わなくなった人事制度を改定したり、社員が増える中、今どんな人が活躍しているのか社内で認知されるよう表彰の仕組みを作ったりと採用以外の部分の仕事を個人で請け負うようになりましたね。
2018年には、人事企画グループを立ち上げ、マネジャーに就任しました。同じく労務部門でもマネジャーも務め、制度系と労務系の改善を進めました。両方の現場を経験したことをきっかけに、「人事価値を一気通貫で提供したい」と考るようになり、2019年8月に人事部を立ち上げ、現在に至ります。
エイチームの現在の人事部構成
部長1人、新卒採用G2.5人、キャリア採用G2.5人、人事企画G4人、人事運用G4人、その他役割1人の計15人の組織
──具体的にどんな制度を作ったのですか。
例えば、労働市場をエイチームの中に作ろうと考えて「ジョブポスティング」「フリーエージェント」「ヘッドハンティング」の3つの制度を導入しました。
中でもジョブポスティングは、社員が実際に活用してくれ、人事として作って良かったと思えた制度です。
エイチームのジョブポスティング制度とは
人材を募集したいポジションを全社員に公募し、社員自らの意思で応募した後、社内選考を経て異動を決定する制度。社員のキャリアの選択肢を広げ、長期的なキャリア形成を支援する目的で設立された。
参考:
【社員インタビュー】ジョブポスティングで新たな挑戦を。コーポレート部門で全社の業務改善に取り組みたい|株式会社エイチーム
【キャリア支援・研修】個のパフォーマンスを高めながら長期的なキャリア形成を支援するエイチームのキャリア支援・研修をご紹介
──社員の反応はどうでしたか。
ある社員が「自分のキャリアとして別のところでチャレンジしてみたいが、今のチームが大好きなので悩んでいる」と相談してくれました。私が挑戦してみたらどうかと後押ししたこともあり、その社員は希望部署に異動し、今も活躍しています。事業は違えど、エイチームという共同体のなかで、チャレンジした人が活躍できているのは純粋に嬉しいと思っています。制度を作った瞬間は実感が湧きませんがこうやって制度を活用する社員がいると、本質的なものが作れたんだとやりがいを感じますね。
一方で、ヘッドハンティングの制度は文化的に合わず、廃止しました。エイチームは組織やチームで動くことを大事にしていて、お互いを認め合うという社風があります。どこどこの部署が困ってるなら、自分たちが頑張ってそこをカバーしようとか、そんな考え方があります。例えば、エンターテインメント事業の業績が芳しくないという時は、ライフスタイルサポート事業が頑張ってフォローしようという行動が当たり前に起こせる、という感じです。なので、事業責任者の思いだけで他のチームからメンバー引っ張ってくるという制度が文化的に合わず、実例も出ませんでしたね。文化に合わない制度は成立しないんだなと痛感した事例です。
単純に「人が好きです」というだけの人は人事に向いていない
──人事として働く上で特に意識していることを教えてください。
人事である以上、社員を一番知っていたいと思っているので、さまざまなレイヤーの人と話すように意識しています。従業員数が1,000人を超えると全員は難しいですが、可能な限り社員を知ろうとコミュニケーションを取るようにしています。今は在宅になってしまってできていませんが、気になった社員とランチに行ってコミュニケーションを取るようにしていました。エイチームでは毎週月曜日にテーマに沿って3分間スピーチしてもらうという「個人スピーチ」を行っています。
私がやっていたのは、個人スピーチをしてくれた社員に「ランチ行きましょう!」とお誘いすることです。初対面だったり、あまり喋ったことがなかったりする社員でも個人スピーチというフックがあるので会話にも困りません。さらにその人から「部署内で話をしておいたほうが良い人は誰か」を聞き、数珠つなぎ的に人脈を広げました。
また、経営層ともコミュニケーションを積極的に取るようにしています。彼らと話す際に意識しているのは、「経営陣が見ているものを、見る」ということです。そのためには、ビジネスモデルや事業について深く理解するように心掛けています。事前に調べるのはもちろん、話を聞いていると知らないワードが出てくるのでその都度聞いたり、調べたりしながら知見を深めています。
──社員と経営層、両方を理解することが人事として重要ということでしょうか。
そうですね。社員と経営層の両方と対話して、理解することが必要です。また、ただ「人」のこと考えていてもダメだし、「事業」のことだけ見ていてでもダメだな、と思っています。社員一人ひとりと向き合う必要もありますが、「人」を会社という組織の中のリソースの1つとしても見ないといけない。この行き来が大事だと思っています。
ちょっと過激な言い方にはなりますが、単純に「人が好きです」という人は人事に向いていないとも思います。もちろん人が好きなのは悪いことではありませんが、先ほどの通り、組織のリソースの1つであるという視点を持つことが必要です。優しいばかりではない考え方ですが、結果としてこの視点が社員のためになると考えています。
社員と会社、両方の幸せを生み出すにはどうしたらいいか。人事はここを考えて立ち回る必要があります。エイチームの人事には、「人事の役割は人と事業をつなぐ架け橋だ」という言葉を伝えています。
目標は、市場価値の高い人事パーソンを育て、増やしていくこと
──現在、人事として感じている課題と今後の目標を教えてください。
今の人事部は、先ほど説明したような成り立ちなので、未だに「採用」「研修制度設計」「労務」というように機能別に分かれています。それぞれの専門性と業務クオリティは高いものの、事業の問題を横断的に解決できる人事が不足していることが課題です。
現在一部の人事メンバーには、企画と労務、採用と企画など、部署横断での兼務をしてもらっています。どうしても職能分断で考えがちですが、架け橋になる人材を兼務という形で配置することで、部全体の情報連携が高まり、メンバー個人の人事スキルや知識もより汎用的になると考えています。
そうして、事業の中の人のことも、ビジネスについても理解した上でさまざまな組織の相談に乗れるような人事パーソン、いわゆるHRBP(HRビジネスパートナー)を増やしたいと考えています。人事の専門組織を構えられるのは大きな会社に限られているので、ほとんどの企業で必要とされるのはひとり人事のような立ち回りができる人事パーソンです。
市場価値の高い人事パーソンを育て、その方が広く社会で活躍すれば社会に価値還元できますし、そういった市場価値の高い人材が、エイチームに残ってくれればより強い組織になれると考えています。
──ありがとうございました。
中久木さんのある日のスケジュール
10:00 メンバーとのMTG複数。施策進捗確認や壁打ち等
13:00 昼食。冷蔵庫から適当に自炊
14:00 経営会議資料作成
14:30 経営会議参加
17:00 個人タスク進行(予算策定、経営陣との確認事項、部MTGの準備など)
18:30 日報を記入して退勤
18:30 子供たちとお風呂。今日の出来事などをお風呂で聞く
19:00 夕食。お酒は好きなので、晩酌も兼ねる
20:00 ひと通り子供たちと遊ぶ。一緒にゲームをしたりアニメを見たり
23:00 就寝
※スケジュールは取材時点。エイチームで全社的なテレワークを実施中の時のもの。
※情報はすべて取材時点
企業情報
株式会社エイチーム
■事業内容:インターネットやスマートデバイスを通じ、コンシューマー向けに「ライフスタイルサポート事業」「エンターテインメント事業」「EC事業」の3つの事業を展開
■本社所在地:愛知県名古屋市中村区名駅三丁目28番12号大名古屋ビルヂング 32F
■設立年:2000年2月29日
■代表取締役社長:林 高生
■従業員数:1,106人(アルバイトを除く)(2020年7月31日時点)
■HP:https://www.a-tm.co.jp/
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